第26話 誰が、ジ・エンド?
一方その頃、エンドーと配下たちが、ウマシカに招かれて風の谷を訪れていた。
ウマシカはナウマン教の本拠地から離れた所に宴の席を設けていた。野外の広い場所にだ。大きなテーブルに、たくさんの酒と豪勢な料理が並んでいる。数名の信者らが接待の作業をしている。ウマシカとドクター、それにクソ猿が席についてエンドーたちを出迎えた。
「ウマシカよ、来てやったぞ」エンドー。
「ようこそ、風の谷へ」
エンドーは兜も脱がずにウマシカの向かいに着席した。配下たちも皆、兜、鎧、盾で身を固めている戦士だ。いざという時すぐに動けるように、エンドーの後ろに立ったまま一列に並んでいる。
「兜を取らぬのか、無礼な奴だ」ウマシカ。
「俺は常に戦闘態勢だ」
「そのほうがお前のキモい顔を見ずに済む」ウマシカ。
「無礼なのは貴様のほうだ。さあ、話し合おうぜ。お前たちが世界征服した後の共同統治についてな。領地分割協議だぜ、はっはっは」偉そうなエンドー。
「ゴホッ、ゴホッ」配下たちが咳き込んでいる。
「どうした、体調悪いのか?」クソ猿が尋ねた。
「ウマシカ、人工悪魔の製造はどうなってる? 先日の人工悪魔は失敗作だったよな。それから、ナウマン象の復活は?」
「ちょうど新しい人工悪魔が誕生したところだ。それと、ナウマン象の復活にはもう少し時間が必要だ、まだ皮膚が完全な状態ではないのだ」ドクター。
「ゴホッ、ゴホッ」配下たちの咳が止まらない。
「ウー、ゲホッ」エンドーもだ。
「体調悪そうだな」クソ猿が心配そうに言った。
「そうみたいだな。熱を測ってやろうか?」
ドクターが体温計を持ってエンドーたちの方へ近づく。突然、エンドーの配下がドクターを人質に取った。
「おい! 何だ!」驚くドクター。
「ははははっ、ゲホッ……ウマシカよ、ここでお前を殺してしまえば、俺が世界を征服することができる。この男がいれば、ナウマン象を復活させられるからな」
エンドーは椅子から立ち上がりウマシカを凝視する。これはもう戦闘開始か。
「クソ猿!」ウマシカは命令した。
「あいよ!」
クソ猿はブーメランを両手に持ちながら、テーブルを飛び越えてエンドーたちの背後に回り込んだ。しかしなぜか、エンドーたちは微動だにしない。エンドーの配下たちの間を通り抜けて、クソ猿がゆっくりとドクターの横へ来る。
「どういうことだ?」ウマシカ。
「おいら、エンドーに買収されちゃったんだな。悪いね、ナウマン教を裏切っちゃうよん」
「何だと! バカ犬! アホ雉!」ウマシカは二人を呼んだ。
「バカ犬もアホ雉も、今頃どこかでケンカしてるんじゃないか。ゲホッ、ゲホッ」エンドー。
「ハエの悪魔よ!」ウマシカ。
「ハエの悪魔も来ないぜ。ウー、ゲホッ。風の谷の入口にバナナの山を置いてきたからな、今頃おいしそうに食べてるぜ」エンドー。
「ウッキッキッキー」
「何だと!」
「俺をただの戦士だと思ったら大間違いだ。戦士だけど、頭はいいぜ。何事も用意周到にしておかないとな、ゲホッ」
「くそっ!」
「じゃあ、死んでもらおうか、ウマシカよ」エンドーは剣を抜いた。
すぐにでも攻撃できる間合いだ。ウマシカが魔法を唱えるよりも早くエンドーの剣が届く。仮にウマシカの魔法のほうが早かったとしても、エンドーの持つ大陸一の魔法の盾にはじかれてしまう。
「エンドー様、どうせなら、両手で思いっきり剣を振り下ろして下さい。この盾、おいらが持っておきます」
クソ猿はエンドーの持つ魔法の盾を預かった。エンドーは両手で剣を握り、構える。
「ウマシカ! 死ねー!」
エンドーが剣で突こうとしたその瞬間、唸るような声が上がる。
「ぐああああああ!」
「エンドー様!」慌てる配下たち。
クソ猿がブーメランで鎧の隙間からエンドーを刺していたのだ。脇の下と腰の二ヵ所にブーメランが刺さっている。
「バーカめ! 鎧の隙間から、おらっ!」クソ猿は膝の後ろを刺した。
「ぐあああ!」膝をつくエンドー。
配下たちがエンドーを助けるために、クソ猿に斬りかかろうとする。このままではクソ猿は一斉攻撃を受けてしまうことになる。だがすでに、ウマシカが魔法を唱え終えていた。
「風魔法!」
ドクターはすぐさまクソ猿の持つ魔法の盾に隠れる。強風は重装備の配下たち全員を数十メートル向こうへ吹き飛ばした。エンドーは剣を地面に突き刺して踏ん張ったが、すぐに吹き飛ばされた。
「風魔法!」
「どああああああ!」叫ぶ配下たち。
空中に巻き上げられて地面に叩きつけられたり、小さな岩に激突したりして、エンドーたちは体力をかなり削られた。形勢逆転だ。
「ぐあああ! ゲホッ、ゲホッ、クソ猿、貴様!」よろめくエンドー。
「悪いね、エンドー。おいらがウマシカ様を裏切るわけないだろうよ」
立ち上がってクソ猿を睨むエンドー。魔法の盾に隠れていて無傷だったクソ猿は笑っている。ドクターは全て知っていたような顔で笑いだし、手に持ったコントローラーを操作している。
「はーっはっはっはっ! さあ、来い、ハクビシンの悪魔よ!」
ウマシカの背後から女が飛び出してきた。白い縦線の入った仮面をつけたその女は、ドクターの前まで駆けてきた。ハクビシンのように素早い身のこなしで。
「悪魔だと!」驚きと怒りのエンドー。
「いかづちを落とすのだ!」命令するドクター。
ハクビシンの悪魔はゆっくりと左手を上げた。空が急に曇り始める。その間、わずか数秒。そして左手をエンドーたちの方へ向けて下ろす。
「んぅーーーっ!」
轟音が響き渡る。咳き込んでおり、しかも重装備のため、エンドーたちは素早く散らばることができない。稲光がエンドーと配下たちに命中する。
「どあああああ!」
配下たちは一人残らず倒れた。戦闘不能状態である。
「おのれー! ゲホッ、ゲホッ」立ち上がるエンドー。ハクビシンの悪魔に向かって走り出す。
「いかづちを落とせー!」
「んぅーーーーーー!」
再び轟音。ダガーを投げようとするエンドーに稲光が直撃した。
「ぐあぁぁぁぁぁ!」
エンドーは立ったまま動かなくなった。そして後ろに倒れこんだ。絶命しているようだ。戦闘終了だ。
「私はお前よりも頭が良い。何事も用意周到にしておかないとな」冷静なウマシカ。
「やったか……はっはっはっはっ、ひゃっひゃっひゃっ、エンドーを倒したぞ」はしゃぐドクター。
「ウッキッキッキー!」
「ウマシカ様、ハクビシンの悪魔は成功ですぞ。このコントローラーで操れますから。はっはっはっはっ」
「モミアゲも、エンドーも死んだ。後は、マゲ髪、マジョリンヌ、ジャポニカン王国を滅ぼせば、ナウマン教が世界を支配することになる」不気味な笑みを浮かべるウマシカ。
ハクビシンの悪魔は、うつむいて自分のこめかみの辺りを手で押さえながら、ガタガタと震えている。
ナウマン教を裏切ったと思われたクソ猿が実は裏切ってなかったというトリッキーな策略で、エンドーを倒したウマシカたち。サンドロ大臣が言ったように、エンドーは強い武器と防具で身を固めて自分が最強だと過信していた。そのことが身を亡ぼすことにつながった。
着実に4Kを始末していくナウマン教団、さあこの先どうなる。
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