第24話 仲間割れ?

 一行はヨドガワの街に到着し、宿に泊まった。


 コッケコッコーー!

「あー、よく寝た」

 すぺるんは、あくびしながら寝室から食堂へ出てきた。すでに皆そろっている。

「永遠に寝とけ」ハリー。

「何だと!」

「お前が一番遅くまで寝ていた。私たちが色々と支度をしていたのにも気づかずにだ。緊張感がないのか」

「コニタンさんでさえ起きてるんですよ」かおりん。

「お、おう、すまんな」謝るすぺるん。

 すぺるんはコニタンを見た。目を真っ赤に腫らしながらしてるコニタンを。

「お前は恐怖で眠れなかっただけじゃねえのか! こら!」

「ケンカはやめて下さい!」

「ええ、師匠の言う通りです」

「ハリーさん、私の肩を持つのはやめて下さい」

「はい、師匠」

 ハリーには冷たい態度のかおりん。すぺるんが怪しむ。

「何だ、何を怒ってんだ」

「何でもありません」

「そう、何でもない」言い切ったハリー。

「何でもないわけねえだろうがよ。なんかこっちもしてくるぜ」短気なすぺるん。

 パーティーの中にまた妙な空気が広がる。それを何とかしようと金が言う。

「みんな昨日はレベルアップのためにがんばって協力し合って戦ったじゃねえですかい。それなのに、こんなんじゃ、お天道様てんとさまが笑ってますぜい」

 でも、気まずい空気は変わらず。すぺるんが皆の気持ちを代弁する。

「やっぱり、みんな考えてるんだろ。この中の誰か一人が本来いるはずのない五人目だってな。そいつはナウマン教のスパイかもしれない。倒したはずのアホ雉が生きていた、何でだ?」

「いや、スパイとは限らないぞ。ジャポニカン王国からの監視役かもしれない」棒読みのハリー。

「それは私の役目です。ハリーさん、なぜアホ雉が生きているのか説明して下さい。私は、あなたとアホ雉が話しているのを見たと、みんなの前で言いましたよね。ちゃんと説明して下さい」かおりんの厳しい追及。

「師匠、それは誤解です」

「眠たいいいいいいいいい!」

「黙れ!」殴るすぺるん。

 ぎこちない、ぎこちない空気。

「俺とコニタンがマジョリンヌとモミアゲに襲われそうになった時、マゲ髪が来て助けてくれた。何で俺とコニタンを助けてくれたんだ? その時マゲ髪が、『とうとう見つけた』と言ったんだ。そうしたらマジョリンヌもモミアゲも退きやがったんだ」すぺるん。

「いやー、いい人だな、マゲ髪は」わざとらしいハリー。

「いや、そんな単純なもんじゃねえ。マゲ髪は、コニタンを助けたかったのかもな……いや、そんなわけないか」すぺるんはコニタンをチラッと見て否定した。

「一応、疑って考えてみる必要はあるわね。なぜ、マゲ髪が現れたのか」

「おう、そうだよな」うなずくすぺるん。

「偶然だろ」ハリー。

 そう言ったハリーを睨んで、かおりんがまたく。

「ハリーさん、さっきの話の続きです。アホ雉の件、話して下さい」

「いやだから、師匠、誤解なんですよ。それよりも、たまに単独行動する金さんのほうが怪しくないですか」

「ふん、こちとら、江戸っ子でえ」

「おい、コニタン。やっぱ、怯えてばかりのお前、怪しいな。そういえば、ビクターたちはお前の名前を知ってたよな。おい、何か知ってんだろ、吐け、こら!」詰め寄るすぺるん。

「アホ雉を倒した本人がアホ雉と話をしていたことの方が重大です!」かおりん。

「助けてえええええ!」

 ほとんどケンカ状態である。

「いいかげんにしねえか!」金が怒りの声を上げた。

「……」みんな。

「前にも似たようなことで言い争ってやしたぜ。何度同じことを繰り返すんですかい?」金。

「……」みんな。

「仲間割れしてる場合じゃねえですぜ! あっしらは、ナウマン教と戦わなきゃなんねえんだ! できるのかい?」

「その通りですね」普通に言ったハリー。

「ああ、そうだな。だがよ、俺らの実力で本当にナウマン教に勝てると思ってるのか?」すぺるん。

「厳しいでしょうね」かおりん。

「やっぱそうだよな。マゲ髪たちがナウマン教を倒せなかったと言ってたんだ。あんな強い奴らがだぞ。俺ら程度では所詮かなわないんだろうよ」

「いえ、決してそこまで……」

 少し言い過ぎたかなと思ったかおりんに、すぺるんが怒る。

「おい、魔法が使えるからっていつの間にかパーティーを仕切りやがってよ。ふん!」

「いえ、私は別に仕切ってなんかいません」かおりん。

「その通りです、師匠」

 前にも似たような言い争いをしたことがある一行、懲りない奴らだ。

「あーあ、命がけでナウマン教と戦うのがアホらしく思えてきたぜ、ふん」すぺるんは宿から出て行った。

「嫌あああああああ!」コニタンも宿から出て行った。

「へっ、みんな頭冷やしやがれ」金も宿から出て行った。

「はあーっ。初めからずっとギスギスしたままだったわね」

「その通りです、師匠」

 かおりんは宿代を払って出て行った。その後をハリーが追いかける。

「ハリーさん、ついて来ないで下さい!」

「えっ……」

 困ったハリー、とりあえず、街の中を散歩でもしようと立ち去る。


 街の外れのさびれた広場で、かおりんは考え事をしている。

「はーあ、どうすればいいのかしら」

 そこへすぺるんがやって来る。

「おい、さっきは悪かったな。少し言い過ぎた」

「いえ、私もついみんなに当たってしまって――」

「お前の気がすまねえなら、俺を殴ってくれ」

「え?」

「さあ、殴ってくれ」

「いえ、もう気はすみましたから」

「さあ、殴れ!」

「……」

「素手で殴れ! グーで思いっきり殴れ!」

「本当にバカになったんですか?」

「俺の気がすまねえんだ。さあ、殴れ。魔法でにされるよりは殴られたほうがましだ。殴れ、こんなもの持ってないで」すぺるんはかおりんから杖を取り上げた。

「じゃあ、殴ってみようかしら」

 かおりんは自分の拳を握って、すぺるんを殴ろうとする。その瞬間、すぺるんは自分の顔から変装用マスクをぎ取った。

「あっはっはっはっ! ウソだぜ! 人を騙すのは面白いなあ。はっはっはっ!」

「クソ猿!」

 そう、クソ猿がすぺるんに変装していたのだ。

「杖がなけりゃ、魔法を使えない。妖精なんて魔法が使えなきゃ、赤ん坊と一緒だぜ。ドクターに頼まれてよ、どうしても妖精が必要なんだとよ。人工悪魔が二体とも失敗したからよ、今度は人工の妖精をつくりたいんだってよ。命が惜しけりゃ、ナウマン教のアジトまで来てもらうぜ」

「私としたことが……不覚……」

 かおりんはブーメランを突き付けられながら、クソ猿に連れて行かれる。

 それを物陰からこっそりと目撃していた背が低くて髪の薄い不細工な男がいる。


 コニタンが街の中を走り回る。速い速い。コニタンはすぐに、すぺるん、ハリー、金の三人が宿に戻っているのを見つけた。そして叫ぶ。

「大変だああああああ! 妖精があああああ! ナウマン教にいいいいい! 連れて行かれたあああああ!」

「何だって!」ハリー。

「何だ、お前、冗談か?」すぺるん。

「杖ええええええ!」コニタンはかおりんの杖を拾って持ってきていた。

「この杖、お前さん、本当かい?」金。

「おい、マジかよ」すぺるん。

「師匠が……」ハリー。

「ナウマン教の奴が、妖精のDNAが欲しいとか言ってたよな。それで連れて行かれたのかもしれんな」すぺるん。

 コニタンはうんうんと首を前後に振りまくっている。

「どうする?」すぺるん。

「かおりんさんがいねえと、あっしらは肉弾戦しかできねえ。助けに行くのは厳しいですぜ」金。

 ハリーはマントを羽織って、手品の道具を確認して、宿から出て行こうとする。

「おい、ハリー、どこ行くんだ?」すぺるん。

「無論、師匠を助けに行く」ハリー。

「おい、待てよ、話聞いてたのか? 俺らだけで助けに行けんのかよ?」すぺるん。

「私は一人でも行くつもりだ」ハリー。

「嫌だあああ!」

「やかましい!」

「死ぬかもしれやせんぜ」金。

「そんなことは冒険に出たときから覚悟している」ハリー。

「……そうだな、どのみちナウマン教団のアジトへは行かなきゃならねえ。俺も付き合ってやるぜ」すぺるん。

「へっ、あっしも行きやすぜ」金。

「コニタン、お前はどうするんだ? ここに一人で置き去りにされるよりは、俺たちと一緒にいたほうがいいんじゃねえか」すぺるん。

「嫌だあああ!」

「どうすんだ?」

「置いてかないでえええ!」

「決まりだな」すぺるん。

「これでこそ、パーティーだ」ハリー。

「敵は、風の谷にありー!」拳を高く上げて血気盛んなすぺるん。

「……」みんな。

「おい、こら、お前らもやれよ!」すぺるん。

 勢いは大事だが、ひとまず、もう一泊してから出発することに決めたコニタン一行。さあ、そろそろこの物語も佳境を迎えるのか。

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