第20話 ジャポニカン王国にウシの悪魔が攻めてくる
ジャポニカン王国内のいくつもの街や村でナウマン教団の派遣したモンスター軍団との小競り合いが発生している。
ここ王宮には、モンスター軍団の主力部隊が攻め込んできた。
「手負いの者は下がれー!」
「救護隊早く!」
王宮の城壁の外で、王国の兵士たちがモンスター軍団と激しい戦闘を繰り広げている。
正門の小さな戸が開き、鉄の鎧と兜を装備した男が出てくる。男は最前線へと走っていき、モンスターを二十匹ほど簡単に斬り伏せていき、魔法を唱える。
「光魔法!」
数本の光の矢が現れて、モンスターども目掛けて飛んでいく。光の矢は一撃でモンスターを仕留めていく。それを見て兵士たちが
「おおっ、国王様だ!」
「国王様が戦うのを初めて見た」
「こんなに強いのか」
「当たり前だ。30年前のモンスター大戦の時の英雄だぞ」
国王ノダオブナガは剣を高く掲げて兵士たちを鼓舞する。
「皆の者! 国を守るぞ!」
「うおおおおーーー!」
兵士たちの士気が上昇した。
少し西側では、また別の戦闘が行われている。
「モーーーウ」
「来たぞ! ウシの鳴き声の男が来たぞ!」
「取り囲め!」
ウシのような鳴き声を上げて、大きな木の棒を持つ男が兵士たちに向かって歩いて来る。この男、顔にウシの覆面を着けているとはいえ、外見が人間なのだ。
「おりゃーっ!」兵士が斬りかかる。
「モーウ」
ウシの男の棒の一振りで兵士がはじき飛ばされる。
「ぐわーー!」
ビクターたちが後方から見ている。
「回復魔法!」アインとカベルが唱えた。
「何という力だ。人間の出せる力ではないな」ビクター。
「ビクター、あの男、何かに取り憑かれています」カベル。
「取り憑かれているだって?」
「ええ、おそらくナウマン教が研究している人工悪魔ではないでしょうか」カベル。
「人工の悪魔だと、それはまた厄介だな」
ビクターは剣を抜いて前に進み出る。
「モーウ」
「とりゃー!」ビクターが斬りかかる。
「モーウ」
その一瞬、ビクターは男の目をじっと見つめていた。覆面をしているが、ビクターには、この男が涙を流して泣いているのがはっきりとわかった。
「泣いているのか?」
「モーウ」
男が棒を振りビクターをはじき飛ばした。
「うがっ!」
「回復魔法!」アイン。
「大丈夫ですか」カベル。
「力だけじゃなく、攻撃の速度もすごい」
「あの悪魔はどうやら、ハエの悪魔みたいにモンスターどもを召喚できないのではないですか?」アイン。
「そういえば、一度もモンスターを召喚していないな」カベル。
「言われてみれば、そうだな。みんな、まず雑魚モンスターどもを片付けるぞ!」ビクター。
「おーう!」と兵士たち。
動きの遅いウシの男を後回しにして、皆が周りのモンスターを倒しにかかる。
少し離れた所から、二人の男がビクターたちのやり取りを見ている。
「ナウマン教団は人工的に悪魔をつくり出すことに成功したのか」と国王。
もう一人の男はウシの男をまじまじと見ている。国王は兵士たちに援軍を送る指示を出してから、男に言う。
「任せるぞ、大臣よ」
「はい、国王様」
ビクターたちはウシの男の攻撃に注意しながら、周囲のモンスターをほぼ片付けた。ビクターたちはウシの男を取り囲む。一斉攻撃になるかと思われた時、土が集まってきてウシの男の足を地面に固定した。土は徐々に高くなって、腰の辺りまでをすっぽりと覆った。だがしかし、男はもがいて土を押しのけて少しずつ前へ進んでいく。
「モーウ、モーウ、モーウ」
「何だ、土が出現したのか」カベル。
「これは、魔法だ。大臣様が得意としていた土魔法では」アイン。
「ビクター、早く聖剣でとどめを」カベル。
「……ああ……」
「モーウ……」
「……泣いている……」
「ビクター?」アイン。
「泣いている」
「えっ?」カベル。
「この男は、自分の心とは裏腹に行動している。何か呪いがかけられているのかもしれない。お前たちの聖なる魔法で何とかならないか?」
「やってみましょう」アイン。
「呪い解除魔法!」二人は唱えた。
「モーウゥゥゥゥ!」苦しそうな声を上げるウシの男。
「なかなか呪いが解けない、それに、呪いだけではありませんね」カベル。
「呪いとそれ以外の何かが彼を支配しています」アイン。
「科学の力か?」
「……う、ううう……ろしてくれ……罪のない人を傷つけてしまった……殺してくれ……」悲痛な声を出す男。
「この男はナウマン教の信者ではなさそうだ」ビクター。
そこへ、まさかの人物が現れる。
「うむ、科学的な処置が施されているようなら、わしらではどうにもできんな」
その声を聞いてビクターたちだけでなく、兵士たちも驚いた。
「大臣様! 一体、どうして!」ビクター。
「死んだことになっておったみたいで、すまぬのう。敵を騙すにはまず味方からじゃよ」
「……ううう、殺して……くれ……」
「どれ、呪い解除魔法!」
「う、う、う……聞いてくれ……私の他にもう一人悪魔に改造された者がいて……モミアゲの国に攻めることに……なっている……」
「モミアゲの支配する土の里へか?」ビクター。
「……モミアゲが……ナウマン教と戦う……だがモミアゲは負ける……早く……モミアゲの元へ……」
「モミアゲの国にナウマン教のモンスター軍団が侵攻中なのか?」と大臣。
「……ううう……」
「この男の呪いは、ゴータマの神殿に運んでメイジに解いてもらうしかないのう」大臣。
「われわれが神殿までこの男を連れて行きましょう」ビクター。
「いや、わが国の兵士に連れて行かせよう。それよりもお主らにはやってもらわねばならないことがある」
「しかし、大臣様、一体どうして死んだふりを?」アイン。
「うむ、実はな、勇者コニタンのパーティーに入る予定だった戦士マモルが、先だって風の谷まで攻め込んだんじゃ。そしてマモルが伝書バトに託した手紙が届いた。そこにはナウマン教の内情が書かれておってな。教祖ウマシカが悪魔と契約していること、そしてわがジャポニカン王国の三種の神器の存在を知って、奪おうとしていることが書かれておったのじゃ。コニタンのパーティーの出発式の日に、その悪魔が現れてのう、何も奪わずに帰って行きおったのじゃがの、わしが死んだことにしておけば、ナウマン教も油断するかもしれないと考えたわけじゃ。それに、わしが死んでいると思われてた間に、三種の神器に聖なる祈りを捧げることができたわい」
「何と、そのような事情が」ビクター。
国王が来る。
「ビクターよ、三種の神器を用意した。数百年の間、わが国に眠っていた宝じゃ。大臣の祈りによって、永い眠りから覚め、最高の輝きを取り戻した。さあ、そなたらに託すぞ」
「はっ、責任をもってお預かりします」
死んだはずの大臣が生きていたという驚きの展開。三種の神器なるものが聖騎士たちに渡された。その中身は? それが明らかになるのはまだ先のこと。
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