第13話 クソ猿、現る
かおりんはハリーの後を追いかけていたのだが、途中で見失ってしまった。自分がどこにいるのかわからなくなったり、あるいは同じ丘を何度も越えている錯覚に囚われてしまったりするくらい、小高い丘がいくつも続いている奇妙な地帯をかおりんは歩いている。正確に言えば、地面から少し上を飛んで移動している。
「あれ、ここさっきも通ったような気が……」
だんだん不安になってきたかおりん。
「よう! 姉ちゃん」
突然声を掛けられてドキッとするかおりん。
「誰?」
「ちょっと道に迷っちまってよ。バナナ食う?」
怪しい男だ。背が低いが、がっしりとした体つきの男がバナナを食っている。戦士であろうか、皮製の鎧と鉄製の盾を装備して、大きなブーメランを背負っている。
「おいら、人探しに来たんだけど、おいらが道に迷っちまった。関西弁しゃべる、寒いギャグを言う男なんだけど、知ってる?」
「……さあ……」
「国外れの村に派遣した部下たちがやられたんだよね。で、伝令からの情報では、ジャポニカン王国から冒険に出た新しいパーティーにやられたんだって。そのパーティーに一匹、妖精がいるってことなんだけど、お前じゃね?」
「その巨大なブーメラン、3バカトリオのクソ猿!」
「バレた? ウッキッキッキー!」
正体がバレたこの男、クソ猿はバナナを一本ずつ小型のブーメランのようにかおりんに投げつける。戦闘開始だ。
「水流魔法!」
「ウキッ!」
クソ猿はすばやく回避した。
「くそー、水流魔法!」
「ウキキキッ」
クソ猿は余裕で魔法を回避した。決して水流魔法が遅いのではなく、クソ猿の動きが
「すばしっこい奴め。魔法が命中しない」
「ジャポニカン王国なんてすぐに滅びるぜ。裏切っちまいなよ、そんな国。大魔法使いの大臣が死んじまった今、モンスターどもに攻め込まれたらどうする? バナナ食うか?」
「水流魔法!」
「ウッキッ!」
ひらりと避けるクソ猿。
「ナウマン教にもお前みたいに変わった奴がいるのよ、ハエみたいなキモイ奴が。知ってる? そいつ悪魔なんだってよ。全てのモンスターを束ねる奴でさ、そもそも別の世界から来たんだってよ。だから普通の攻撃が効かないんだってよ、物理攻撃全般が。魔法に対する耐性も超すごいからよ、ほとんど無敵だよな」
「水流魔法!」
またしても軽々と魔法を回避したクソ猿。
「ウキッ! そんな遅い魔法じゃ、おいらに当てられないぜ。妖精ってさあ、世界中で三匹しか確認されてないじゃん、すげえ珍しいのよ。ナウマン教にもさあ一匹もいないのよ。うちに来たらさあ、幹部になれるぜ。ハエみたいな男は気まぐれだからよ、たまに教祖の言うこと無視しやがるのよ。だからお前がうちに来たら、教祖の次くらいに偉くなれるかもよ」
「うーーっ! 水流魔法!」
「ウキッ! おー、危ねえ。おいらに当てたいなら、鉄砲か何か持ってこないとな。もうすぐマジックパワーが無くなるんじゃない?」
かおりんに焦りが見えてきた。魔法が当たらない以上、妖精が戦士相手に勝てる見込みは無いに等しい。が、グッドタイミングで救援が来る。
バキューン!
「師匠ーーーー!」
ハリーが拳銃を撃ちながら走って来る。
バキューン!
弾がクソ猿の足元の草を吹っ飛ばした。
「ウソッ! 鉄砲? やべえ、逃げろー!」
クソ猿は慌てて逃げだした。戦闘終了だ。
「師匠、大丈夫ですか!」
「ええ、ケガはありません」
「よかった」
「……」
ハリーとアホ雉の密談を見てしまったかおりんは、自分を助けるためにいきなり現れたハリーにどう接するのか戸惑っていた。
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