第11話 マゲ髪たちの回想
マゲ髪は昔のことを思い出していた。いや、マゲ髪だけではなく、モミアゲもマジョリンヌも同じく。
遡ること約3年、あるパーティーが、冒険の途中で仲違いして分裂した。そのパーティーこそが、ナウマン教団を倒すことのできる最強のパーティーであると、大陸中の誰もが考えていた。ジャポニカン王国とその他の四王国からも本命だと思われていたそのパーティーに何があったのか。
ある時、勇者マゲ髪の一行は、火の丘王国に属するカザンの街をモンスターの襲撃から救った。止め処なく押し寄せてくるモンスター軍団の前に、街の守備隊は壊滅的な状態だった。他のパーティーと共に、マゲ髪一行は数千匹のモンスターたちを倒しきった。ただ、ゴータマ神殿から来た大神官と聖騎士の活躍がなければ街を救うことは難しかったかもしれないと、他のパーティーの者たちの多くが語っている。
その日の夜、一行は街の酒場にいた。
「何だと! 俺らじゃナウマン教団を倒せないだと!」
エンドーが声を張り上げた。マゲ髪が落ち着かせようと冷静に応対する。
「エンドー、まあ落ち着けよ」
「何が落ち着けだ! 俺らパーティの冒険は何だったんだよ!」
「そりゃそうだね。ここまで来てナウマン教をぶっ潰せないなんて、アホらしい」
マジョリンヌもエンドーに同調している。
「国王や大臣はこのことを始めから知っていたのか?」
モミアゲがマゲ髪に尋ねる。マゲ髪は、自分が責められていることに違和感を感じながらも冷静に言う。
「いや、それはない。国王様も大臣様も知らなかったはずだ」
「馬鹿らしい! やめだ! 俺はもうやめるぞ! 俺らの冒険は終わりだ!」
「待て、エンドー」
「じゃあな!」
「おい、エンドー!」
マゲ髪が止めるが、エンドーは酒場から出て行った。
「まあ、しょうがないわな」とマジョリンヌ。
モミアゲは、エンドーが去ったことに関しては仕方がないという感じでいる。だが、彼は戦意を失っていない。闘志がみなぎっている。
「ただ、ナウマン象の復活を止めるくらいのことは俺たちでやるべきだ」と力強く言うモミアゲ。
「確かに、ナウマン象が復活する前に、研究施設を破壊しちまえば、ある程度世界の秩序は保たれるかもね。でも、もうエンドーは行っちまったよ」とマジョリンヌ。
「去った奴のことはもういい。俺たち三人でやろう」
一人抜けたとはいえ、皆強さには自信がある。だからマゲ髪は、モミアゲもマジョリンヌもOKするだろうと提案してみたのだ。だが、一人は乗り気ではない。
「すまねえが、あたしもやめるわ。あたしは魔法使いだ。戦士の後ろで魔法を使ってなんぼだからね。マジックパワーが無くなったら、盾になってくれる戦士が必要だ。戦士のエンドーがいないんじゃ、真っ先にあたしは死んじまうよ」
「お前、そこら辺の戦士よりよっぽど強いだろうが」とモミアゲ。
「ふん! 悔しいけどね、100%勝つ見込みがないのなら、自殺行為さ。じゃあね」
「おい、マジョリンヌ。冗談だろ?」とマゲ髪。
「いや、冗談なんかじゃねえよ。あたしもパーティーを脱退する」
「おい! 100%勝つ見込みがないとしても、負ける見込みはないだろ」
「じゃあね」
マゲ髪の説得も聞かずに、マジョリンヌも酒場から出て行った。
モミアゲは静かに考えている。マゲ髪も同じく。しばらく静寂が続く。モミアゲが口を開く。
「俺は100%勝つ気でいた。だが、今回の件で、俺には100%勝つ自信がなくなった。エンドーもマジョリンヌもいなくなった。だから、俺もパーティーを抜ける」
「……そんな……」
「残念だ、マゲ髪。俺とお前だけじゃ、やっていけない」
「……」
「ゴータマ神殿の大神官が言っていたことがもし本当なら、今俺たちが
「……」
マゲ髪は言い返すことができなかった。モミアゲも酒場から出て行った。
正しい決断だったのかどうか、それはこれから先わかることだ。だが、マゲ髪、モミアゲ、マジョリンヌの三人は心の中にもやもやを抱えることになった。今でも、それぞれが葛藤に苦しんでいる。
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