第7話 アホ雉、現る
かおりんを先頭に、国外れの村で宿を探す一行。といっても、ハリー、すぺるん、コニタンが後に続き、金はいない。荒廃した村を見てショックを受け、一行は金がいないことに気が回らないのだ。手分けして宿を探せば効率がいいのだが、再び敵が現れるかもしれないのでそうもいかずに固まって歩いていると、前方に宿の看板が見えてきた。
「宿がなくなってる」
かおりんはがっくり肩を落とす。宿は壁も屋根もほとんど破壊され、看板だけがきれいに残っている。宿の向かいの崩れた建物には
「
「大臣に使ってしまったので、もうない」と素っ気ないハリー。
「使えねえな」
「ひどい、村が壊滅している」
かおりんは悲痛な表情で辺りを見渡す。所々から煙がうっすらと上がっている。ハリーは表情が強張っている。
「村人たちは逃げたのでしょうかね?」
「……だといいですが……」
「ナウマン教の連中に、連れて行かれたんじゃねえか?」とすぺるん。
「それが一番ありえるんじゃねえですかい」いつの間にか側にいる金が答えた。
「おい、こら、金さん。さっきからいたか? 何してたんだよ?」
「ええ、あっしは、さっきのナウマン教の奴らを村の牢屋にぶち込んでやしたので、ちょいと手間がかかりやしてね、それからみんなを追って来やした」
「おお、そうか」
すぐに納得したすぺるんは、かおりんと同じく悲痛な顔をしている。ハリーは顔が引きつり、強く握った拳が震えている。そして、まるで何かを思い出したかのようにつぶやく。
「ナウマン教の連中は人間なのか……。赤い血が流れているとは到底思えないな……」
「で、どうする? 宿は燃えちまったけど、まだ泊まれそうな家ならあっちにあるぜ」
「そうですね、今日はあの家で休んで、明日の朝出発しましょう。いいですね、皆さん」
「ひいいいいいいいいい!」
一行は、壊されてない家に入り、厳重に戸締りをしてから夜を過ごした。
コケコッコーーーーー!
一夜明け、ニワトリの鳴き声が聞こえてきた。その声で目覚めたすぺるんが慌ててみんなを探す。すぐ隣の部屋でみんなは朝食を取っている最中だった。
「筋肉バカ、お前寝すぎじゃないか? 敵が襲ってきたらどうするんだ。すぐに起きられるようにしておけ、軟弱だな」とハリー。
「お、うっ」言い返せないすぺるん。
「どうです、傷は癒えました?」
「師匠のおかげで、回復しました」しんどそうに言うハリー。
「おい、ハリー、お前まだ、すげえ顔色悪いぞ」
よく見ると頭から血が流れている。
「痛そううううううう! ひいいいいい!」
みんな、だんだん仲良くなってきている。うんやらかんやらあって、一行は朝食を終えて建物から出た。
「さあ、出発しますよ」
まるでピクニック気分のかおりんの後にみんなが続いて行こうとすると、どこからか石が飛んできた。あれ? とみんなが不思議がっていると上の方で声がする。
「おーう、ここや」
みんなが見上げると、となりの建物の屋根の上に男が見えた。その男はそこから飛び降りようとしているのだが、飛び降りあぐねているように見える。1分ほどして、どうやら飛び降りるのをあきらめたらしく、男は建物の中に戻って、玄関から外へ出てきた。かなりカッコ悪い。
「悪いな、時間かかってもうたわ」
男は革製の鎧を装備して、腰に剣を帯びている。長剣ではあるが、兜も盾も装備してないので、戦士にしては軽装すぎる。左手には短い杖を持っている。
「たまたま様子を見に来たら、何や、わが教団の兵士が全滅したんか」
「何だ、てめえ」とすぺるん。
「新しいパーティーがジャポニカン王国から出発したことは聞いとったが、まさか、あんさんらがそのパーティーちゃうやろな?」
「何だって聞いてんだがよ。返事できねえのか! おう!」
「待って、その男は!」
かおりんが叫ぶが、すでにすぺるんが男に殴りかかっていた。戦闘開始だ。すぺるんはひたすらパンチを繰り出し続ける。男に攻撃は命中しない。男は軽快なフットワークですぺるんの攻撃をかわし続ける。すぺるんは急に攻撃の速度を上げ、右ストレートを男の顔に向けて繰り出した。男はかわせないと判断したのか、剣を抜いてすぺるんの拳を受け止めた。
ガキーーン!
鋼鉄のガントレットと剣がぶつかる音が響く。この男は余裕の表情だが、すぺるんは若干息を切らしている。
「ハアハア、お前何者だ!」
「この男、3バカトリオの一人、アホ雉。魔法戦士よ」
かおりんが身構えながら言うと、パーティーの間に緊張が走った。コニタンはぶるぶると震えだした。すぺるんは体勢を整える。
「何だって! こいつがアホ雉か。いきなりナウマン教の幹部の一人がお出ましとは、強いはずだぜ。おらっ!」
すぺるんはさっきよりも速くパンチを連発する。しかしアホ雉には当たらない。アホ雉は剣で攻撃してくる。すぺるんはガントレットで受け止めながら攻撃のチャンスをうかがっているが、アホ雉の巧みな剣さばきの前になかなか反撃に転じることができない。
「くそっ! 強い! それに、キモい!」
すぺるんが言うと、アホ雉は攻撃を止めた。
「何やて? あんさん、一番言うたらあかんこと言うてしもたな。ところで、あんさんら、どこから来たんや? わては、北から来た」
「何だって?」とすぺるん。
「そやから、北から来た……」
アホ雉のおやじギャグのせいで、その場が凍りついたようにシーンとなった。
「寒っ……ええい、水流魔法!」
かおりんは魔法を唱えた。向かって来る水流に向けて、アホ雉は左手に持った杖を振り上げて魔法を唱える。
「氷結魔法!」
アホ雉に向かう水流は見る見るうちに凍り始める。
「えっ! そんな! 水流魔法!」
「ふん、氷結魔法!」
かおりんの水流は、アホ雉の魔法でまたもや凍りつく。
「ふん、わての寒いギャグはどないや? はっはっはっ、あんさんが使う攻撃魔法は水の属性やな。わてが使う氷結魔法の前では、あんさんの魔法は凍ってしまうで」
「何だと、かおりんの魔法が効かないだと!」驚くすぺるん。
「属性がたまたま合わなかっただけよ」
「んふふふふ。わが教団に歯向かった罪は重いで。命で償ってもらわなあかんな」
そう言ってアホ雉は剣術の型を披露し始めた。剣と杖でお手玉をしたり、剣をヌンチャクのように体の周りを這わせるように扱っている。そして、不細工な顔を皆の方に向け、中国雑技団のようにキメのポーズを取る。その瞬間――
バキューーン!
突然大きな音がして、それにみんなが驚いた。コニタンはぶったまげ、金はおったまげ、かおりんは鳩が豆鉄砲を食ったようになった。すぺるんも目玉が飛び出るくらい仰天した。
「うあっ!」アホ雉から血しぶきが飛ぶ。
みんなが「えっ!」と思った瞬間、再び大きな音がする。
バキューーン! バキューーン!
「んぐわ! んな、アホな……拳銃って、ここ、剣と魔法の世界なんやけど……ガクッ」
アホ雉はその場に前屈みに倒れこんだ。すぺるんは振り返り、爆音を出したハリーに気づき、尋ねる。
「お前、何した?」
「愛用のコルト・パイソンをぶっ放しただけだ」銃口から出る煙をフッと吹いて、カッコ良く答えるハリー。
「えっ、飛び道具? せめて剣か魔法で戦えよ」
「そういうお前も、剣も魔法も使っておらんではないか」
「俺はいいんだよ、元ボクサーだから」
「私は、ハリー・◯ッターと名乗りたかったが、魔法を使えない。モンスターと戦うときにはたまにこいつを使う。だから、私は自分のことをこう呼んできた、◯ーティー・ハリー・◯ッターとな」
「わけわからんわ。いや、それより、卑怯な勝ち方だが、3バカトリオの一人アホ雉を倒したのか」とすぺるん。
「またうれしい誤算だわ。まさかこんなに早く幹部の一人を倒すことができるなんて」
「ひいいいいいいい! 死んだあああああああ!」
みんな、まだ興奮覚めやらぬ感じでいる。すぺるんも金も驚きを隠せない様子だ。
「皆さん、先を急ぎましょう」
かおりんが言うや否や、コニタンが自分の頭を押さえながら絶叫する。
「嫌だあああああああああああああ!」
コニタンは叫びながら、狂ったように逃げ出した。
「えっ? コニタンさん、ちょっとどこへ!」
かおりんが慌てて追いかけようとするのを、すぺるんが止めた。
「おい、待て! 俺が連れ戻してくる。先に行っといてくれ!」
「え? ちょっと!」
かおりんの静止もきかずに、すぺるんはコニタンを追いかけて行った。かおりんはすぺるんを止めるか、それとも自分もコニタンを探しに行くか一瞬迷い、そしてハリーに止められた。
「師匠、変な奴らは放っておいて、先に行きましょう」
「でも、先に行ったら、あの二人はどうやって私たちと合流するんですか? それに、冒険するのに少しでも人数は多いほうがいいでしょう?」
「そもそもコニタンは、勇者なのにビビって叫ぶだけで何の役にも立ちませんし、あの筋肉バカを見てると、なぜだか無性にムカつくんですよね」
「たしかにコニタンさんはパーティに必要ないかもしれませんが、すぺるんさんのことをムカつくのは単なるあなたの個人的な感情でしょう。冒険に私情を挟んではいけません」
「さすが師匠、一理あります。しかし、人数が多いほうがいいのなら、お城から何百人も兵士を連れて冒険に出ればいいだけのことでは――」
「ストーップ! それ、タブー! それ言ったら、RPGが成立しません! 勇者一行は四人がベストなんです!」
「これは失礼を。ではこうしましょうか。われわれはここから、所々パンの切れ端を道に落としていくのです。あの二人は一旦この村まで戻って来ることができれば、われわれを追って来ることができます」
「えっ、そんな古典的な……」
「金さんもいますし、少しでも先を急ぎましょう、師匠。ここに留まっていたら、アホ雉の部下たちが来るかもしれません。そのほうが危険だと思いますが」
ハリーの理詰めに閉口するかおりん、いつものように腕を組んで睨みながら突っ立っている金を見て、しばらく考える。
「うん、そうですね。先に行きましょう」
「はっ、師匠」
かおりん、ハリー、金の三人は先を急ぐことにし、国外れの村を後にした。
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