第4話 いざ冒険へ
大臣が安置された
「皆の者、大臣のことは残念であった。
コニタンは「ひいいいいいい! 怖いいいいいい!」と悲鳴をあげている。そのわきで、パーティーの他のメンバーはやる気なさそうな感じ。
「おい、やる気あるのか」心配そうな国王。
「やる気も何も、何か臭うんだがよ。何で五人なんだ? 四人のはずが、五人……五人いる……」疑うすぺるん。
「正確に言えば今いるのは四人だろ。もうすでに、一人いないんだからよ。これだからバカは」一言多いハリー。
「そういう問題じゃないだろ。おい、ハリー、お前、昨日とマントが替わってるな。昨日は大臣と同じ色のマントを着ていただろ?」詰め寄るすぺるん。
「ああ昨日は別のマントを着ていた。私はお前みたいなタンクトップが似合う筋肉バカじゃないからな。私はおしゃれなんだ、マントは20着持っている」自慢するハリー。
「大臣はお前と間違えられて殺されたんじゃねえのか?」
「同じ色のマントだったのは、偶然だ」
「怪しいなあ、おいこら」ガラの悪いすぺるん。
「何だと、他人を疑う奴が一番怪しいと思うがな。大臣にとどめを刺したのは誰だ? お前のビンタが致命傷になったんだろうが。大臣を口封じに殺したのはお前じゃないのか? おう、こら」ハリーもガラが悪い。
「おい、やんのかこら!」
「ひいいいいいいいい!」ビビるコニタン。
国王が両者の間に割って入り「やめい!」と止めた。
「この四人の中の誰か一人がナウマン教のスパイか? こんなんで冒険に出たら寝首を掻かれちまうだけだ」怪しむすぺるん。
「それはこっちのセリフでもあるな」負けじと言い返すハリー。
大臣の棺の前で二人はケンカしそうな勢いだ。二人は場違いなキャラであり、場違いな行動を起こしかねないので、兵士たちは二人に困りながらもどうしていいのかわからない様子でいる。すると突然場の空気を一変させるように、先ほどから何やら考え事をしていた妖精のかおりんが国王に進言する。
「国王様、私も今回のパーティーに同行してみとうございます。私は、何が何でも大臣様の仇を討たないと気が済みません。どうか、お許しを!」
「……ふむ、しかしのう。大臣亡き今、この国で一番魔法が得意なのはお前だからのう」国王は少々困り気味に言った。
「私も今回のパーティーがなぜ五人選ばれたのか気になりますし、それに私が一緒にいれば、あなたたちも安心できるんじゃない?」とおバカな二人に言う妖精。
「どういう意味だ。俺が弱いとでも言うのか? 姉ちゃんよー」
「ひょっとしたら、あなたがスパイかもしれないでしょ。私が一番疑わしくないから、あなたたちを監視していれば、みんなが少しでも安心できるかもって意味ですよ」
「よし、わかった。妖精かおりんよ、行ってまいれ。ていうか、そなたら、冒険に行く気があるのか?」困惑する国王。
すぺるんは一人でシャドーボクシングをし始めているし、ハリーは右手でトランプを切りながら左手でお手玉をしている。袖に突っ込んで腕組みしている金は事の成り行きをただ見ているだけで何をしているわけでもないし、コニタンはビクビクしながら周りの人間の顔をキョロキョロ見ている。
「俺は、自分の力を試してみたくてよ、今回のキャンペーンに応募したんだ。俺はやる気あるぜ」パンチを繰り出すすぺるん。
「私は、弟子にしてもらえるのであれば、全然かまわないですよ」ハリー。
「おう、こちとら江戸っ子でえ」質問に対する答えが変な金。
「決まりだな」すぺるん。
「おい、筋肉バカ、一人忘れてるぞ」
コニタンは顔を左右に激しく振りながらまるで極寒の地にいるかのように全身をブルブルと震わせて叫び出す。
「ひいいいいいい! 行きたくないい! 行きたくないいいいい!」
すぺるんがコニタンに近づいてビンタする。
「やかましい、お前勇者だろ! 無理にでも連れて行くぞ!」
「暴力反対いいいいいい!」
国王と妖精を含め、王宮関係者全員が唖然としながら勇者一行を見ている。かおりんがぼそっとつぶやく。
「ああ、先が思いやられる……」
国王もかおりんと同じ思いであったが、皆の手前、立場上こう言うしかない。
「では、勇敢な者たちよ、武運を祈る!」
兵士たちに見送られながら、ジャポニカン王国の王都を取り囲む防御壁を抜けて街の外へ出た勇者一行は、城の者たちの心配とは裏腹にかなり楽観的なノリでウキウキしている、コニタン一人を除いてではあるが。
「国王様ーーーーー! 行ってまいりまーーーーす!」テンション高めのかおりん。
すぺるんはシャドーボクシングしながらパーティーを見回し、疑いの目を向けている。
「それで、臆病な勇者に、魔法の使えない魔法使い――」
「ふん、手品は得意だ。回復魔法の使えない僧侶に言われたくはないな」言い返すハリー。
「何だとこら!」
「ひいいいいいい!」ビビるコニタン。
「こらこら、仲間割れをしないで」仲裁に入るかおりん。
すぺるんは妖精に言い返してやろうかと思ったが、魔法を使われて太刀打ちできなかったことが頭をよぎり、思い
「で、あっちにいる奴、金だったか? 遊び人か何だか知らないが、役に立つのか?」
金は寡黙なのか、聞こえているのに何も言い返さない。代わりにハリーが言い返す。
「回復魔法を使えない僧侶よりはマシなんじゃないか」
「お前、ケンカ売ってんのか!」怒るすぺるん。
「だから、やめなさい! 魔法だったら、私が使えます。ある程度の攻撃魔法と一番簡単な回復魔法くらいならね。だから心配しないで下さい」呆れ気味のかおりん。
「おい、姉ちゃん、攻撃魔法と回復魔法の両方を使えるのか?」すぺるん。
「ええ、妖精ですから」
「どうか弟子入りのほど、よろしくお願いします」頭を下げるハリー。
それを見て今度はすぺるんが呆れて言う。
「こんなパーティーで本当にやっていけんのか? よく考えたら、五人いるじゃねえか」
「私を数に入れないで下さい」とかおりん。
すぺるんはまたシャドーボクシングしながら能天気に言う。
「さっさとナウマン教をぶっ潰しに行こうぜ。どっちだ、どっち行く?」
それを見て今度はハリーが呆れて言う。
「お前、本当にバカだな。そんなに簡単に行けねえよ」
「良かったああああ!」安心するコニタン。
すぺるんが「お前、殴るぞこら!」と凄むと、コニタンは「ひいいいいいい!」と叫ぶ。最早お決まりのパターンである。
「バカなの、こいつら」とかおりん。
「ごもっとも」ご機嫌取りのハリー。
「あのねえ、何も知らないんですね」
「ごもっとも」
妖精のかおりんは、すぺるんとコニタンのやり取りはもちろん、ハリーのことも含めてバカなのかと心配している。
「じゃあ、ハリーさん、私の代わりに説明してあげて」
「はい、師匠。いいか、よく聞けよ、筋肉バカ。ナウマン教のアジトの場所は、風の谷にあること以外はっきりしておらんのだ」
「そうなのか」とすぺるん。
かおりんは、ハッと気づいた、自分がハリーから師匠と呼ばれたことに。
「って、なぜ私が師匠なんですか。どうせナウマン教について何も知らないんでしょうから、ハリーさん、ついでにナウマン教のことを教えてあげて下さる?」
「はい。ナウマン教とは、ナウマン象を科学技術によって復活させようとしている悪の宗教組織。もしも、ナウマン象が復活してしまえば、世界は大変なことに――」
他人の話を最後まで聞かないで「この俺が倒せばいいんだろ?」とシャドーボクシングしながらすぺるんが言う。
ハリーはすぺるんを見下しながら「ナウマン象は全長20メートル、体重おそよ30トンあると考えられている。そんな巨大な生物をどうやって倒すというんだ、筋肉バカめ」と言う。
「この俺様の拳でぶっ倒すんだよ」自信満々に言うすぺるん。
「はいはい、人間の拳なんかでナウマン象は倒せません。ナウマン象が復活してしまう前に、ナウマン教団を滅ぼす必要があるんです。ハリーさん、ナウマン教の内情を教えてあげて下さい」かおりんは子どもをたしなめるような感じで言った。
「いえ、それは師匠が直々にお伝えした方がよろしいかと」丁重に言うハリー。
「何だ、知らねえんじゃねえか」
「バカは黙っておれ」一言多いハリー。
「何だと!」
「ひいいいいいい!」
「静まれ!」と苛立ちを隠せないかおりん。
「あなたたち、冒険の目的からしてわかってないんじゃないの?」
「モンスターどもをよ、この俺の拳でぶっ倒してやんのよ、それが冒険の目的だろ?」すぺるんは堂々と返答する。
「私は
「おかしいでしょ!」かおりんは呆れて即座に「目的は、ナウマン教を滅ぼすこと。モンスターを倒すのはその過程で必然的に起こることで、お
「さすが師匠、明瞭なお答えです」
「まあ、俺の言ったことと大まかには合ってるだろ」
「合ってません!」とかおりんが否定する。
「いいですか、耳の穴かっぽじってよく聞きなさいよ。ナウマン教とは、教祖ウマシカが約10年前に風の谷で始めた新興宗教のことよ。ナウマン教は、はるか昔に絶滅したナウマン象をこの世に
「3バカトリオ?」とすぺるん。
「ええ。3バカトリオとは、バカ犬、クソ猿、アホ雉の三人のことよ。この三人の強さは常識をはるかに超えている。西の大国火の丘や、わが隣国水の森も3バカトリオによって滅ぼされたといっても過言ではないのです」と説明するかおりん。
すぺるんは「ふーん」と聞いているが、内心興味津々のようである。
「ナウマン教団によって滅ぼされたそれらの国を奪い返して、ナウマン教団と対峙している勢力があります。4Kと呼ばれている勢力です」
「テレビですか?」とハリー。
「4K?」とすぺるん。
「そう、4K。時代はもはや3Kではない。きつい、汚い、危険はもう昔の話。今は、4Kの時代。きつい、汚い、危険、そして、キモい。この四つを兼ね備えた四人の超強い奴らによって、かつての四つの王国が支配されているのです。虹の都に君臨しているのが、マゲ髪。土の里を支配しているのが、モミアゲ。水の森を支配するのが、マジョリンヌ。そして、火の丘は、最もキモい男エンドーによって支配されています」
「その4Kっていうのは、ナウマン教とはどういう関係なんだ?」まともな質問をするすぺるん。
「4Kは、元々ナウマン教団を倒すために集められた、あるパーティーの者たちなんです。個々人の強さは半端じゃないです。彼らはかつてジャポニカン王国からナウマン教を倒すための冒険の旅に出たのですが、どういうわけか途中で仲間割れを起こし、ナウマン教によって滅ぼされた四王国をナウマン教から奪い返して、そこに君臨しています。4Kは今や手下を集めて一国一城の主となり、中には世界を支配しようと企んでいる者までいます」
「さすが師匠。明瞭な説明です」
「元の四王国とわがジャポニカン王国は、共同でナウマン教団を倒すべく多くのパーティーを送り出したのですが、みんな全滅しました。四王国が滅びた後も、わが国はパーティーを送り続けてきたのです。しかし、4Kの邪魔もあって、うまくいってません。なんとしてもナウマン象が復活する前に教団を倒さなければならないのに……」テンション下降のかおりん。
すぺるんは自分のパンチの速さと威力を見せつけながら軽いノリで言う。
「ふーん。なら、4Kもろとも、ぶっ倒したらいいんだろう?」
呆れるかおりんの横でハリーも呆れている。
「おい、筋肉バカ、そんな簡単なもんじゃないだろ」
すぺるんはシュシュッ、シュシュッと小声を出しながらシャドーボクシングを続けつつ、かおりんに質問する。
「で、その4Kって奴ら、もっと詳しく教えてくれよ、姉ちゃん」
「ええ、ていうか、姉ちゃんて呼ばないで下さい。えー、そうね、まずはマゲ髪。彼は勇者としてパーティーを率いていましたが、パーティー解散後は、彼はナウマン教団から人々を守るために、ナウマン教から虹の都を奪い返して統治しています。マゲ髪はわがジャポニカン王国の国王様とも
「ふーん。モミアゲって奴は俺と同じで僧侶にして肉体を鍛えてるのか」
「お前は僧侶じゃないだろ、バカが」ケンカを売るハリー。
言い合いになる前にかおりんが「はい、ケンカしないで!」と事前に防ぐ。
「で、師匠、悪魔とは何なのですか?」
「ああ、お城で大臣様を襲った巨大なハエみたいな奴のことですね」
「ええ、国王様がそう呼んでましたよね」
「うーん、私もくわしくは知らないのですが、以前に大臣様から教わったことがあります。私たちがいるこの世界の他に、魔界というのが存在します。モンスターは、ごくまれに魔界とこの世界の入口とがつながったときに魔界からやって来ます。その魔界で頂点に君臨しているのが悪魔です。だから悪魔は、モンスターを操ったり、魔界からモンスターを召喚したり、いろいろできるはずです。国王様が言ってたように悪魔は自然現象を操るみたいですね」
「自然現象は、魔法とは違うのですか?」
「ええ、魔法とは、自然界に存在する、火や水や風などを魔力によって具現化したものに過ぎません。だから、本物の自然現象には到底及ばないのです。例えば、どんなに魔力が高い魔法使いの風魔法よりも、実際に起きる嵐の方がすごいということです」
「師匠の魔法よりも、実際の水流のほうが強力なんですか?」
「ええ、もちろんですよ。津波や洪水の勢いの方が私の魔法よりもはるかに上回ります」
「ふむふむ、なるほど」
「ふーん。じゃ、先を急ごうぜ!」と軽いノリのすぺるん。
「ナウマン教本部のある風の谷は、ここらかずっと西にあります。火の丘、土の里、水の森のかつての三つの王国に囲まれています。だから、とりあえずは、西を目指しましょうか。異論のある人はいます?」
「俺、嫌だあああああああああ!」地団太を踏むコニタン。
「お前、やかましいんだよ。勇者だろ。キャンペーンに応募したんだから、その時点で腹くくっとけよな」凄むすぺるん。
「俺、アイドル事務所に写真送るからって言われて、名前と写真貸しただけだああああ! まさか、こんなことになるなんてええええええええ!」
全員が「はあ?」とあんぐりしている、さすがの金も顔が歪むくらいに。
「アイドル事務所だあ? おい、おっさん、お前鏡見たことあんのか? えー、こら!」怒りのすぺるん。
「ひいいいいいいいい!」
「お前、勇者アカデミー退学だったよな。勇者じゃねえだろうが! 経歴詐称だぞ!」堂々と言うすぺるん。
「あなたもでしょ!」とかおりん。
「さすが、師匠」
「あなたもです!」
「心得ております」
「で、話の流れで聞くが、金、お前は?」尋ねるすぺるん。
「前にも言いやしたが、あっしは、ケチな遊び人ですわ」
「お前、経歴言ってみろよ」
「へっ、べらんめえ」と江戸っ子調子の金。
「お前、ハエの悪魔が来て大臣が攻撃されたとき、部屋の出口の陰に逃げてコソコソ何かしてただろう」
「べらんめえ」
すぺるんは金のことをまじまじと見るが、何も話すつもりはないという固い意志が金の表情に出ているのを見て、それ以上追及しようとはしなかった。
「亡くなった戦士か、あるいはこの中の誰かが、ナウマン教のスパイかもしれない。忘れんな!」念を押すすぺるん。
その場の全員にとって、誰かがスパイである可能性を否定できないことを再度肝に
「ほら、皆さん、行きますよ」
さあ、というかやっと勇者一行の冒険開始!
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