最終話 浜辺
海面落下から数分後。
崖から離れた海岸に、オルヴィスとフリーダの姿があった。
二人とも濡れた服を流木に引っかけて、乾くのを待っていた。乾くまでのあいだ、二人はじっと打ち寄せる波を見つめていた。
「…ヤバい賭けだったな」とオルヴィスが呟く。
「まさか飛び降りるとは思わなかったよ」とフリーダ。「でもやればできるもんだね」
「もうやりたくねーけどな。自分で誘っといてなんだけど、マジ、死ぬかと思った。溺れるっつーより、岩礁にぶち当たってな」
「たまたまね。だって、海中で目を開けたとき、すぐそばに岩礁があったからね。あいかわらずオルヴィスは悪運が強いよ。なんだかんだで今回も危機から逃れた」
「悪運ってゆーより、ただムチャクチャなだけだろ」
「ふうん…自分のこと、少しはよくわかってるんだ」
「多少はな」
「でも、オルヴィスがいたら、なんでも乗り越えられる気がする」
「バカ、夢見んな。そして、オレに期待すんな。ただの人間だぞ。死ぬときゃ死ぬ。次はねーぞ」
フリーダは、ふふっと小さく笑っている。
「でも、これで、アムゼン村には戻れなくなったね」
「アホ。笑ってんじゃねーぞ。オレ、木こり道具、全部、山小屋に置いてきてんだぞ」
「ああ、そっちの心配?」
「そうだよ。当たり前だろ。…あーもうひとつある」
「なに?」
「また次に受け入れてくれそうな村を探すのがメンドくせー」
「それもそうだけどさ、せっかく名前のわかる知り合いもできて馴染んできた村だったのに、もったいないとかさみしいとか思わないの?」
「そいつはあまり思わねーな。人間、いつだって一期一会だぜ。きのう会ったヤツとは、もう二度と会えねーかもしんねえ。すれ違うだけのヤツらなんか山ほどいる。そんなんでいちいち心を動かされるなんざ軟弱者だろ」
ただ一人、カンバに別れの言葉を告げられなかったことが、心残りではあった。それでさえしかし、最終的には、オルヴィスにとって軟弱なことで完結する。
「じゃあ、もし…」フリーダはオルヴィスの目をじっと見つめた。「二度と私と会えなくないことになっても、オルヴィスは心を動かされないの?」
「やめろ、バカ。そうゆうこと言うヤツ、オレは嫌いなんだ。ウンザリするぜ。てか、そろそろ服乾いてんじゃね? 服着て、さっさとここから離れるぞ」
「また一から出発だね」
「そろそろ二か三から出発したいもんだねえ」
「あまのじゃく。ひねくれモン」
二人は立ち上がり、登れそうな岩にしがみついた。
(了)
不戦の誓い2 早起ハヤネ @hayaoki-hayane
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