第9話 鉄鋼の町ウェルテス

 街を歩いていると、あちこちから鉄を鍛えるカンカンという音が聞こえた。煙突から煙が出ているところもあった。

 コルテスは、カヤクグリ部隊のトビムシという女から聞いた情報を元に、モズ、という女を探した。

 そこは遊郭で女が身を隠すにはかっこうの場所だった。そこで、最近、見たことのない女がこの界隈で目撃したものがいないか聞いて回ったところ、『うつろ』という界隈で一番繁盛している店の近くで見慣れない女がいた、という遊女の証言があった。

 非常に美しかったので、店が新しく雇った女かと思ったが、その店にいる知り合いに聞いてみたところ、そんな女は店にはいないという。

 しかも、誰かが来るのを待っているような、そわそわした様子だったため、よく覚えていたらしい。

 コルテスはフードを目深にかぶり、その界隈へ行ってみた。

 いた。

 コルテスと同じようにフードで正体を隠している印象だった。おそらく次の運び手を待っているのだろう。

 ゆっくりと近づいた。遊びたい、という設定で話しかける。

「よお、ねえちゃん。客待ちかい? なんなら俺と遊んでくれないか?」

「すまないねぇ。私は、遊女じゃないんだよ」

「じゃ、なんでこんなところにいるんだ」

 コルテスは、壁にドンッと左手を突いた。右手でローブの中に隠したナイフを抜く。それを素早く女の喉笛にかけた。

「おい、オマエ。持ち物全部出せや」

 脅した瞬間、ナイフが弾かれ、天地がひっくり返った。

 投げられたと気付いたときには、女の背中が遠くなっていた。部下が追いかけようとしたが、制止した。

「やめろ。オマエらの手に負える相手じゃねえ。トビムシが忠告していた以上のとんでもねぇ手練れだ」

 仕切り直そうと立ち上がったら、けたたましい足音が近づいてきた。

 仙ノ国の兵団長シュヴァーベンと、その兵士たちだった。あいかわらず同じ人間とは思えないほどの巨躯。腕力だけかと思ったら、頭も切れる実力者。

 この男の下には、だいぶ年上の警護団長のシュメルもいるから、その実力のほどはわかるというものだ。

 なぜコイツがここにいるのか。

「おい、オマエ。そこにいた女がどこへ行ったかわかるか?」

 コルテスは無言で界隈の奥を指差す。

「おい! 追うぞッ!」

 シュヴァーベンが巨躯に似合わないダッシュを見せたと同時に、コルテスは言った。

「…もう人混みに紛れちまった」

「この街のすべての出入り口はすでに封鎖してある。袋の中のネズミよ。決して逃げられん」

 ネズミではなく、ネコだぜ、とコルテスは内心呟いた。

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