第8話 不審船

 このために海上や砂浜での訓練があったのかと、ガードリアスの納得できる事件があった。シュヴァーベン兵団長からの任務は、近ごろ海に出没する外国船を拿捕すること。

 見張りから外国船出没の報を受け、ガードリアスの所属する警備団は急いで海岸へ馬を走らせた。

 海の上に一艘の船が波にもまれて揺れていた。

 団長シュヴァーベンの指示で、ガードリアスとモンペレ、他の数名の団員らとともに泊めてあった船に乗り込み、急行した。

 反転して逃げようとする船に向かって、シュヴァーベンが叫んだ。

「おいそこの船ッ! 止まれ! 止まらないと射撃するぞッ!」

 なんの応答もない。

「ガードリアス、モンペレ。撃て。ただし、警告射撃に止めろ。まだ当てるな」

 ガードリアスとモンペレは、弓を持ち、火矢をつがえると弦を引き絞り、放った。火矢は、船の一歩手前の海面に突き刺さり、海の藻くずとなった。

 それでも逃げようとする船に向かって、シュヴァーベンは、漕ぎ手にもっと急ぐよう檄を飛ばした。

「急げ! 逃げられるぞ! モンペレ、ぼーっとしてんな! 漕げッ!」

 四人一組で櫂を漕ぐ。その甲斐あってか、徐々に不審船との距離を縮めていった。近づくにつれて、乗組員が赤毛の外国人であることがはっきりわかった。

「ガードリアス、モンペレ。漕ぎ手以外の者たちも皆、臨戦態勢に入れ。目標も武装してるかもしれん。気をつけろ。そして、アイツらの目的がなんなのか調べるため、できるだけ殺さず捕縛せよ。その意味はわかるな? できるだけ殺さず、だ。任務中は命令通りにいかないことは多々ある。身の危険を感じたら、すかさず斬れ。自分が殺されないようにな」

「了解しました!」

「では、作戦を告げる。まず俺とガードリアスが船に乗り込み、ヤツらに反撃する余地を与えず制圧する。もし俺たちが返り討ちに遭ったら、俺とガードリアスは海に飛び込むから、他の者たちは全員で目標に射撃しろ。制圧が成功したら、目標を海に突き落とすから、オマエらも海に飛び込み、捕縛しろ」

 ここにいる兵士たちの中ではもっとも優秀と認められたからこその団長とのペアだったが、ガードリアスは少し自信がない。まだまだ完璧に克服したとは言いがたい、船上での作戦である。モンペレの方が向いている気がしたが、彼には武力に欠けるところがあるとの判断だろう。

「ガードリアス。準備はいいか? 行くぞッ!」

 目標は、全部で五人だった。

 漕ぎ手たちが外国船にギリギリまで寄せると、二人は飛び移った。船が大きく揺れる。その揺れで、目標のひとりが体勢を崩し海に落ちた。

 シュヴァーベンは、片手ナイフを逆手に握りしめて、相手を威圧した。

「動くな。動けば、斬る。両手を挙げろ」

 ガードリアスも同様に片手ナイフを構えて、団長と二人で目標を囲むようにする。

「動くな。動いたら斬るぞ。動くなよーマジで」

 乗組員の一人が横かガードリアスにタックルをかました。吹っ飛ばされ、船から落ちた。

 それを合図にしたように、団員全員が船に乗り移った。ナイフを喉元に突きつけながら、片手で両手を縛ってゆく。

 モンペレだけが、まだ乗組員の一人と対峙していた。彼の額から冷や汗が浮き出ている。相手の手にも同じようにナイフ。

 シュヴァーベンが、目標にタックルをした。男はナイフを手放し、海に落ちた。

「モンペレ! ぼさっとするなッ! 任務中だぞ!」

 彼はハッと我に返ると、ガードリアスを探した。彼は海に落ちたままだが、訓練の甲斐あってか、溺れてはおらず、頭だけを海面に出していた。

「ガードリアス! 目標が一人、海から落ちたッ 追えッ!」

 シュヴァーベンが吹っ飛ばした男が一人、泳いで浜とは別の岸壁の方へ泳いでいた。

 ガードリアスは、必死になって泳いだ。しかし、クロールの訓練もしたはずなのに、追いつけなかった。自分は海上の任務には向いていないのだろうか。

 だからといって諦めるわけにはいかない。がむしゃらに泳いだ。これでは、追いついても男を確保できるまでの体力がない、と頭の片隅で思いつつ。

 突然、大きな波がきた。

 ガードリアスは波をかぶり、自分の泳ぎも見失った。

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