第6話 コルテス

 コルテスは部下を引き連れ、遼ノ国との国境付近の峠の茶屋で、非常に美しい女と出会った。部下たちが冷やかし始めたが、この女には、どこか、近寄りがたい雰囲気があり、部下たちもそのことを察したのか、冷やかしも尻すぼみに消えていった。

 彼女は、小声でコルテスに話しかけた。

「…洞ノ国は頭領ドゥーガル様及びカヤクグリ部隊アシュラ隊長からの直々の伝令だ。まず、前回、黄金のタネを逃したことは不問に処すとのこと。その代わり、黄金のイネが見つかったのでそちらを手に入れろとのご命令だ。イネは遼ノ国の鉄鋼の街ウェルテスにあるらしい。ノスリ部隊のモズ、という女の手にあるようだ。非常に美しい女で色街にいるらしい。手練れだそうだ」

「…了解した。ちなみに、アンタの名は?」

「私は、トビムシ」

「そうか、わかった」

 カヤクグリ部隊というのは、おもに洞ノ国の諜報や破壊工作、要人暗殺などを行う隠密部隊で、だいたい似たような組織はどこの国にもあり、その存在を正式な兵団などにも伏されていることも多い。

 コルテスは正式にはこの部隊の一員ではないが、間者として報酬をもらい、暗殺以外のいくつか仕事を請け負っている。こうした間者は、各地に散りばめられていた。

 トビムシ、というのはもちろん偽名だろう。女は、串団子をほおばりながら、峠を登っていった。コルテスは後を追った。

 一瞬の出来事だった。

 トビムシの両脇から刀を手にした覆面の人物が飛び出したのと、コルテスが二本の小刀を投げたのと。覆面の人物は、二人ともその場に倒れ伏した。トビムシの手から串団子がこぼれ落ちた。

 コルテスは駆けつけ、覆面を剥ぎ取った。

 男だった。もちろん知らない顔だ。トビムシを始末しようとしたのだろう。

 カヤクグリ部隊というのは、非常に冷酷かつ非道な部隊で、一度仕事をした間者を、情報漏洩防止のため始末する決まりがある。だいたい間者には卑賎民や罪人などが選ばれることが多かった。

 トビムシは今起こったことにひどく怯えてガタガタ震えていた。

「もう少しで殺されるところだったな」

「ど、どうして、ですか?」

「カヤクグリ部隊の掟が気に食わないからだ」

「あ、ありがとう、ございます」

「アンタ、本当の名前は?」

「ムラサキです」

「なにやってカヤクグリに入れられた?」

「夫を殺しました。商人です」

 もう二度と会わないだろう。コルテスはきびすを返し、峠の茶屋に戻った。

「おい野郎どもッ! そろそろ出発だッ!」

 馬に乗った盗賊団は、怒涛の勢いで峠を下っていった。

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