第12話
「ユイ…、あたし、今、とても忙しいのよ。
あなたと違って、あたしはひとりきりなのよ。
ひとりで何でもやらなくちゃけないの。
…だから、ごめんなさい。
今日のところは帰って」
ユイは甲高く叫びました。
「あたしだって、ひとりぼっちだわ!
家ではみんな自分のことに忙しくて、あたしのことなんて構ってくれないし。
それに、ほかの家族は、母さんの死に目を看取ったのよ!
だから、あたしの気持ちなんて、わかってくれやしないのよ!
話を聞いてくれるまで、あたし、ここを動かないから!
ずっと、待つから!
ずっと、ここにいるから!」
……ああ、この娘はどこまで自分勝手なのだろう……。
自分のことしか考えていないのだわ。
自分以外の誰かがいるなんて、ちっとも気がついちゃいないんだわ。
こんなに身勝手だから、お母さんの看病も家のこともせず遊び歩くなんてことができたのね…。
ユイには何も通じないのだわ。
この娘から自分を護る唯一の方法は、この娘をどうにか満足させて、早く帰ってもらうことしかないんだわ…。
疲れ切っていたので、ルカはほかの良い方法を思いつけず、あきらめて観念して、ユイの話を聞くことにしました。
けれど、ユイの本当の姿------自分のことしか考えずに遊んでいたために、大事な母親の死に目に会えなかったこと------を喋ってしまったら、ユイの心は壊れてしまって二度と元へは戻らなくなってしまうかもしれないことを怖れて、それは決して口にすまいと、硬く決心しました。
自分の考えを見つめたこともなく、それを言葉にする習慣を持たないユイの話はとりとめがなく、言おうとしていることを推し量るのはとても困難でした。
その上、たびたび逆上しては泣き叫ぶので、ルカはとても疲れました。
けれど、早くこの災難を乗り切りたい一心で、ルカは自分の感情を心の奥にしまって、淡々とその聞き苦しい話を聞きました。
時折、あなたの言いたいことはこういうことなんじゃないの、と助けながら。
「みんな、友達だと思っていたのに、『大変ね』とか、『お気の毒ね』とかしかいってくれないの。ひどいわよね。ねえ、そう思わない?」
と愚痴られれば、
それは、あなたが今までほかの魚にしてきたことよ、と思いながら
「みんな、まだ若くて、身近な方を亡くしたことがないから、何と言っていいかわからないだけよ。
心の中では心配してくれているのよ」
と宥め、
「家族はみんな、やることがあって忙しくて、家にはあたしの居場所がないの」
と言われれば、
あなたもちゃんと、今やらなきゃいけないことがあるのよ、とは言わず
「みんな、辛い気持ちをそうしてやり過ごしているだけよ。
悲しみは一緒よ。
安心して、お家にお帰りなさいな」
と諭しました。
ですが、
「あたしたち兄弟は、母さんは好きだったけれど、父さんは働くだけなんだから、今は弟も働いているんだから、死んだのが父さんだったらよかったのに」
とユイがつぶやいたとき、ルカは言葉を失くしてしまいました。
お父さんは、家族を守るために一生懸命働いていらしたのだろうに、あんまりだわ、と思いました。
口に出さなかった分、その傷ついた気持ちはルカの心を深く刺しました。
そして、こういう考えでは、この娘はきっと、そういう家庭しか築けないだろう、とユイの将来を案じました。
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