第4話

 人魚の一家の誰もが、今、自分たちが特に困っていないように、これからも困ることなく上手にやっていけるはずだとのんきに思っていました。

 親たちも、ユイが働かず、家のこともせず遊び歩いていても、どうせ女の子は結婚して子供を産めば、自然に何でもできるようになって、あとはどうとでもなると、そのままにさせておきました。

 こんなに美しいのだから、嫁入り先は降るようにあるだろうと思っていました。


 そうしてユイの欲しがるものは何でも買い与えてやりました。

 サンゴの指輪を欲しがれば、そのしなやかな細い指によく似合うだろうと、貝のかけらをつなげた首飾りをねだれば、その輝く白い胸元によく映えるだろうと、どうせすぐに飽きてユイほどではないけれどやはり美しい妹たちのものになってしまうとしても、美しい娘たちが美しく着飾っていることが人魚の親たちの自慢であり幸せであったからです。


 ほかの魚たちだけが、ユイの危うさに気がついていました。

 ユイの心ない言葉や行いが、どんなにほかの魚を傷つけているか、不快にさせているかも、人魚の一家は知りませんでした。


「今にあの娘は大変なことになるよ」


と、魚たちは噂しました。


「あんなにほかの魚の心を思いやらない娘はいないよ」


 カサゴの父親が言えば、


「ほかのもののことを考えるだけの知恵がないんだよ。

 自分のことだけでいっぱいなんだよ」


 イワシの母親も答えました。


「あの娘は美しくて愛想もいいが、ただそれだけだ。

 頭の中身は空っぽだし、心は冷たくて薄情だ。

 きれいな格好をしてはしゃいで過ごすことしか考えていない」


 それが魚たちみんなの共通した意見でした。


 人魚の一家だけが気づいていませんでした。


 たまに心配して忠告する魚がいても、ユイに通じなかったように父人魚にも母人魚にもけっしてそれは伝わりませんでした。

 ふたりの親は互いに、自分の連れ合いは良くやっている、子供たちも丈夫でいい子たちだ、大きな病気も厄介もない、なのになぜこんなことを言われるのだろう、といぶかしく思うばかりでした。

 魚たちはたくさんの卵を産むが大人に育つのはわずかなのに、自分たちには苦労なく人魚としてはたくさんの子ができて、しかもひとりも欠けずに大きくなったので、大方妬んでいるのだろう、だとしたら、そんなことは少しも気にすることはない、と思っていました。

 魚たちが何を言っているのか、なぜそんなことを言うのかわからず、訊いてみようとも深く考えようともせず、ほったらかしにしたままでした。


 ひそかに心配していた魚たちも、いつしか誰も何も言わなくなりました。

 そしてなるだけ人魚たちに関わらないように、気づかぬふりをして通り過ぎたり、当たり障りのない挨拶しかせぬようになりました。

 人魚の一家はそれを、やっと自分たちにどこも悪いところがないことがみなに分かったのだと思いました。

 自分たちはよくやっているし、周りの魚たちともうまくいっている、これからも、これまでのようにうまくいくだろう、幸せな日々がずっと続いていくのだろうと。

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