第3話

 けれど魚たちは、誰も何も言いませんでした。

 誰に教えられなくても、どの魚にも自然に備わっている温かいものを、どうやら生まれつき持ち合わせていないらしいユイに、何を言っても決して伝わらないことはわかりきっていたからです。


 ですからユイは、自分を普通の良い娘だと思って、それ以上のことは何も考えたことがありませんでした。

 自分が元気で毎日面白おかしく暮らせるのも、自分の考えが正しく行いがよいからだと思っていました。

 悩んだり考えたりするのは馬鹿げたことで、そんなことをしても何にもならない、おいしいものを食べて、きれいなもので身を飾って、難しいことなど何一つ考えず、楽しく遊んで暮らすのが賢いことと信じて疑いませんでした。

 むしろ、ややこしいしがらみに捕らわれて悩んでいるほかの魚たちのことを、無駄なことに時間を費やしていると思って、蔑み、陰で笑っていました。


「あたしはあんなふうにはならないわ。

 自分から厄介ごとに首を突っ込むなんて愚かなことよ。

 まったく何だってわざわざ七面倒臭いことをあれこれ考えるのかしら」


 ユイは心からそう思っていました。

 たまに優しい魚が、

「あんた、若いうちはいいが、怠けて遊んでばかりいては、そのうち困ることになるよ」

「そうやって楽で楽しいことばかりに流れていると、将来は寂しいもんだよ」

と言ってくれても、その言葉はいつも、ユイの白い貝殻のような耳を素通りして、心に留まることはありませんでした。


 ユイには遊び友達がたくさんいました。

 美しいユイを見た誰もが、ユイと親しくなりたさに近づいていきました。

 けれどじきに、やってきたのと同じくらいたくさんの魚がユイの許を去っていきました。

 それでも魚はたくさんいましたし、人気者のユイと親しくなりたい新しい魚は次から次へと後を絶ちませんでしたので、ユイはいつも色とりどりの魚たちの群がる中心に女王さまのように座っては、空っぽの愛想笑いを振りまいていたのです。


 ユイがそんな風に育ってしまったのも、あるいは仕方のないことだったかもしれません。

 人魚の一家は子だくさんで、ユイには弟妹が三人もおりました。

 母人魚は家族の世話に一日中追いまくられて何を考える余裕もなく、またそういった習慣もなかったので、一家はただ暮らすだけの毎日でした。

 父人魚は、自分は働いて家族を養えばいいのだから、家のことは母親がするものだと思って、一切を任せて安心しきっていました。


 母人魚は、家族が何事もなく生きていければいい、自分は家事さえしていればいいのだと思うばかりで、子供たちのしつけや性格にまでは心が及ばなかったのです。

 ユイが年相応に考えるべきことを考えず、すべきこともせず、やりたいことだけして怠けて遊んでばかりいることにも気づいていませんでした。

 病気でないのだから何の心配もいらない、うちの子たちはみな丈夫で、なんて親孝行なんだろうと思っていました。

 ユイに生き物としてあるべきものが欠けていることにも無頓着でした。

 自分は六人もの家族の掃除と洗濯と食べ物の支度をしているのだから、十分よくやっていると満足していました。


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