第2話
女性の逃げた先に行くと、そこは行き止まりになっていた。
「あらら、行き止まりだね」
それでも女性は楽しそうに笑っていた。うつむき加減で俺を向いているから、未だに顔の全体がわからない。本当に知り合いなのか?
「あなたなら、どう考える?」
「は、え? 何が?」
急に話しかけられたから声が口ごもってしまった。
「この状況だよ。この状況」
「そ、そうだな……」
何を、俺は挙動不審になってるんだ。俺は。
特別何か悪いことしてるわけでもないのに、女性と二人でいるだけで何故か緊張していた。
「いたぞ!こっちだ!」
後方から鬼たちの声が聞こえた。
「ヤバイ!鬼たちがもうきたよ!どうする?」
「どうするって言われてもなぁ……」
正直、俺はこの赤鬼祭はどうでもいいと思っていた。親の代わりに出ただけであって、たまたま年甲斐もなく逃げ回っていたら、こうして生き残ってしまっただけなのだから。
女性の人は、この赤鬼祭を心から楽しんでるようだし、ここは譲った方がいいな。
「俺が囮にいくから、その間にあんただけ逃げたらいいさ。……じゃあな」
鬼の声がする方へと、俺は向かおうとする。
「待って!」
女性に後ろから服を引っ張られ呼び止められた。ほかに、何の用なんだ。
「……終わったら、私一人じゃん」
「だから、どうした? 生き残りたいんだろ?」
俺はそのまま女性の方へと振り返ろうとする。
「それは……」
「急げ!いたぞ!」
女性は俺に何かを言おうとしていたが、その前に鬼たちが来てしまった。
「……ほら、言わんこちゃない」
鬼の方に振りかえると3人いた。二人とも逃げるのは絶望的だな。
「悪いなぁ、生存者のお二人さん。これも祭りなんでな、生き残ってないと後でかみさんに怒られちまう。今夜の酒ぬきもあり得るかもしれん」
必死の形相でこちらに向かってくる鬼A……どうやら、鬼Aの嫁さんも鬼のようだ。俺たちには関係ないが。
「そんなこと言ったってぇ、僕もこの彼女のために頑張らないといけないですし。ここは恨みっこなしということで」
メガネで胸ポケットに人形を入れてる鬼B……もしかして、彼女ってその胸元の? 足までしか入ってないから今にも落ちそうだけど。
「へへっ、ここは俺がいただくでやんす!MVPになって町中の女性からモテモテでやんす!」
金髪モヒカンで奇抜な格好をした鬼C……モテモテになりたいなら、まずその髪型を変えた方がいいと思う。世紀末かっ。
「はぁ……」
女性の方を見ると、慌てたように自分の拳を口元に持っていって落ち着こうとしていた。この人、何がしたいんだ。
「お、観念したか」
俺が鬼たちの方に歩き始めると、鬼Aを筆頭に鬼たちが俺に寄ってきた。
「観念するでやんす!」
……今だな。
「む、むごー!僕に何をするんですかー!暴力は反対ですよー!」
「お、おい! にいちゃん! 俺にはそっちの気はないぞ!」
「く、くるしーでやんす!」
俺は、3人の鬼を両手で捕まえた。しかし……おい、鬼A!オレもそっちの気はねぇよ!
早く行け、キャップ帽の人よ。俺がここは食い止める!
「い、いけ……!」
ムサイ鬼たちを押さえている俺は、女性に向かって指示を出す。女性は、どうしようかたじろいでいた。
「え、えっとー……」
何をしているんだ、早くしろ。
「やったでやんす!こいつがこっちに触れたおかげで、俺が生存者になったでやんす!いちぬけでやんす!」
元鬼Cは隙をみて、この場から去った。
「くそ離せ! にいちゃん! もう、にいちゃんは鬼だろ!」
鬼Aが騒ぎ始める。なにやってるんだ、あいつは。
「え、えい!」
ピコン。俺のチョッキが赤から青に変わる。
「は?」
ピコン。
「や、やったぜ!なんだか知らねぇけど、俺もこれでいちぬけだぜぇ!……あぁ今日の酒もまた旨い!」
元鬼Aは、帰ったあとのことを想像したのか。嬉しそうにその場から去っていた。
「そ、そんなぁ~僕だって彼女のために頑張りですよ~!」
鬼Bは、元鬼Aと元鬼Cを追いかけようとする。
「ぬわー、僕のリトルマイハニーが!!」
いきなり急いで走り出したためか、鬼Bの胸ポケットから人形が飛び出た。
「僕は君を離さないよぉ~」
鬼Bは、飛び込むようにして人形を拾い上げて、踊るようにしてその場を去っていった。
「……なんだ、あれ」
とても変なものを見た気がする。もしくは、見てはならないものを見た。
「やっぱり、君は何も変わってないね」
女性の言葉を聞いて女性の方を見ると、どこか嬉しそうに帽子のつばで目元が見えないように微笑んでいた。
「あの、あんたさ」
町中からイベント終了を知らせるブザーがなり響いた。
「……いやー呆気なく鬼に捕まっちゃたね」
わざとらしく女性は俺の言葉をきった。
「来年もまたやれるといいなー」
女性は俺に背を向けて夕焼けとなった空を眺めていた。
「あ、あのさ!」
俺は勇気を振り絞って、もう一度女性のこと聞こうと思った。しかし。
「……もう帰るね、バイバイ」
女性は俺に背中を向けたままその場から走って去っていってしまった。女性の背中をどこか寂しそうだった。
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