とりあえず、鬼ごっこ始めました!

猫のまんま

第1話

 俺はずっと地元暮らしの男性だ。県外とかはほとんど出たことはない。歳はマッハで年々加速的にとってしまうお年頃だ。自分ではお兄さんと思いたいが……いやまだお兄さんと思っておこう。


 俺は去年からあるイベントに参加している。最初はダルいだけのイベントだと思っていたんだ。わざわざ休みを返上してまで参加する必要があるものかと。


 実際そのイベントに参加してみて気持ちがすぐに変わった。年甲斐もなく面白いと思ってしまっていた。

 去年の参加理由としては、腰を痛めてしまった親父の代わりにイベントに参加しなければならないものだった。


 この町おこしのイベント――赤鬼祭に。


 参加当初は何をするお祭りかわからなかった。話を聞いてみると町全体で老若男女問わず、鬼ごっこをするだけのイベントだった。


 なんだそれ。


 率直な感想が俺から出たが参加であった親たちはニコニコとして詳しくは話そうとはしなかった。


 ただやってみろ、の一言である。


 イベントの詳細記事を検索するが、載っている情報としては鬼ごっこをするとだけしか書いてなかった。


 手抜きか? 思わずそう思いたくなる。


 しかしイベントも今年で5回目となる。こんな単純な同じイベントが2年以上も続いていることに驚きである。


 大きな賞金や豪華賞品などはない。貰えて参加者に飲み物と軽食。それと一様、イベント参加のMVPには地元特産品などと野菜が貰える。……とても田舎くさい。


 だけど、イベントが開始してしまうとそんなものどうでもよくなる。

 参加者は赤や青に光る黒のベストを着てイベントに参加する。赤に光っているベストを来ている方が鬼、青く光っている方が生存者だ。


 鬼が生存者のベストに触れると謎技術でライトが青から赤に変わる。どうやっているのかは知らないが地元の有名な企業や大学などがスポンサーなのでそこから謎技術は来ているだと思う……知らないけど。


 ちなみに棄権者は自分の胸を二回以上叩くか、心臓の部分を押さえるとランプが黄色になりイベントスタッフがかけよってくる。主に、体調が悪くなった人や用事ができてしまった人用だ。そこはちゃんとしている。


 足が遅い人用に鬼の金棒、豆まきという飛び道具がある。鬼の金棒なのに飛び道具ってとこに若干の無理があるが地域イベントのご愛嬌ってやつだろう。


 鬼の金棒は銃の形をしている。玉は出ない、なのになぜか生存者のベストに向けて撃つと赤に変わる。また謎技術である。


 豆まきは空の枡を利用する。本物豆を使うわけにはいかない。いろいろ大変だからだと思う。

 生存者は空の枡を持った状態で鬼に向かって、豆があると思って空の枡から豆を取って投げたフリをする。

 もし、その豆がベストらへんにあった場合は鬼のベストが赤く点滅してアラートがなる。これでルール上、鬼は動けなくなる。これまた謎技術である。


 豆まきも鬼の金棒は、イベント開催内の各場所に隠されていたり普通に置いてあったりする。

 使用制限は一個の鬼の金棒につき、一回。豆まきは、1~5回と使ってみないとわからないランダムな使用となっている。


 両アイテムはベストやそれ以外の当たった場所にズレはない。不正もほぼ無理というスポンサーからのお墨付き。まったくもって謎技術である。


 常備アイテムとしてはトランシーバーが支給されるが範囲が意外と狭かったりする。無駄に本格的だ。


 アイテムすべてにGPSなどがついているのかわからないが、イベント終了後にはすべてしっかりと回収される。


 説明が長くなってしまったが、赤鬼祭の内容はこんなものだ。大人がマジになった鬼ごっこだと思えばいい。


 老若男女どんな人でも参加の可能だが、運営からは一つだけ参加する条件がもうけられていた。


 それは、心からこの鬼ごっこを楽しむこと。それだけ。






 俺の目的は、実は他にある。


 初めて去年参加した赤鬼祭の時、俺は最後の方まで鬼にならずに、生存者として生き残っていた。


 ……あと数分で赤鬼祭は終わる。そう思っていた。


「やぁ、久しぶり元気にしてた?」


 唐突に、後ろからキャップ帽を被った髪の長い女性から声をかけられた。


 ……誰だ。


 俺が女性の顔をよく見ようとすると、女性はキャップ帽のつばを片手の指で掴んで少し下に下げた。よく見えない。


「誰ですか?」

「ふふ、誰だろうね」


 女性は俺がわかるまで答える気はないらしい。女性の知り合いなんて俺にはほとんどいない。


「親戚の誰かか?」

「……さぁね」


 女性はそのまま後ろを向いてしまった。


「わかる前に、捕まるかも」


 女性は楽しそうに俺に聞こえるようにそう呟くと、俺と女性の次第に周りが騒がしくなる。


「いたぞ!生存者だぞ!二人だ!」


 どうやら鬼の団体さんのようだ。女性はそのことに俺より早く気づいていたようだ。


「あと数分……昔みたいに、私たち二人で逃げまわろ? 二人で」


俺は、女性の言われるがまま女性のあとを追った。

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