第46話 陳情


クラトスはテケト、医者から安静にしているよう言われていた。


「数日ならともかく......あと一か月は長い......体もだいぶ鈍ってきたんじゃないのか」


どうにか外出したかったが、許されず、病院の中をクラトスは右手で点滴スタンドを移動していた。


「取らなければ平気だろうに、ったく、めんどくさい......」


真夜中トイレに向かっていたクラトスは内心不満に思いながら歩いていると――


「ギャァァ!」

「――っ!」


男の叫び声が聞こえる、当然ながら魔法は使えず、体の怪我も治っていない。


しかし


「――っ」


クラトスは当たり前のように点滴スタンドを持ち、現場に向かう。


「はぁ......はぁ......体力が落ちてやがる......」


走る。


「大丈夫かぁ!」


「――っ」


男が倒れ、返り血を浴びた少年が立つ。


「何をしている!」


思わず駆け寄るが男は腹の臓器が見えるほどに切り抉られ、絶命していた。


「お兄さん、その人、僕を襲おうとしたんですよ」


茶色の髪の少年、月明かりでもわかるほどの美少年だった。


「もしかして、助けに?」


返り血を浴びながら平然と語る。


「......お前殺し慣れてるだろ、こんな殺し方を普通の人はしない」

「お兄さんも慣れてますね、こんな光景見て動揺していない」


クラトスは自らの状態から、相手との戦闘は不利であると悟る。


「......お兄さん入院してるの?点滴スタンドを持ってここまでくるなんて正義感強いね」

「......」


少年は近づいてくる。


「お兄さんは良い身体してるね、魔力も多そうだ」

「男に言われると複雑だ――なっ!」

「――っ」


近づいてくる相手に横蹴りをした後すぐに逃げる。


「あ、逃げるんだ」


相手は追いかけてくる。


「クソ、点滴スタンドが邪魔だし、魔法も使えない!」


クラトスは急いで逃げる、病院に戻ろうとも考えたが、相手が病院で暴れたら取り返しがつかない。


「とにかく、誰か魔導士に相手してもらわねぇと!」


誰もいない街中を真夜中で一人駆け抜ける。


「逃げても無駄だ、僕の糧になれ!」

「病人相手に本気になるなよ!」

「関係ないよ、病人なのに生き生きしてるねぇ!」


点滴スタンドはガタンガタンと鈍い音を立てていく。


「まずいな......壊れそうだ......こうなったら......」


クラトス振り返り――


「――っ!」


走ってくる相手に対して


「おらぁ!」

「ッッ!」


左手でアッパーを顔面に食らわせた。


「ぐっ!」


少し吹っ飛び倒れる。


「......形勢逆転だ......お前、名前なんだ?」

「ちっ......」


クラトスは少年の近くに立つ。

騒ぎを聞きつけたのか人も集まってきた。


「何かありましたか!」


魔導士と思わしき者はクラトスに近寄っていく。


「実はこいつが――」


バキッ!


「――っ!?」

「ナード、しくじったな」


クラトスはその魔導士に腹を殴られ吐血する。


「では戻ろう」


体制を崩し、倒れたクラトスを無視しナードと言われた少年はその魔導士に抱えられて何処かに消えて行ってしまった。


「まっ......待て......」


クラトスはそのまま意識を失ってしまった。







「......はっ!」


気が付くと病院にいた。


クラトスのベットの周りにはガルフ達がいた。


「あっ......ばあさん、ガルフ、ナシアにラナまで......みんな......」



しかし



「あれ......」



その表情は



「クラトス、お前は私の心臓を止める気かね?」

「ばあさん、これには理由が」

「クラトスさん、死ぬほど心配したのよ......」

「ラナ、仕方のない事だったんだ」

「クラトス、あんたが今日病院に運ばれた時、どんだけみんなが心配してたかわかる!?」

「ナシア、人の叫び声が聞こえたのだから、行くだろう普通」

「クラトス、お前は入院しているにもかかわらず、病院を抜け出し、そしてこの様だ、みんな夜眠れていないのだぞっ!!」



クラトスを覆い囲み怒りの表情が向けられる。



「いっいや......悪かったって......」



顔が近づく。



「ごっごめんって......」





「「「クラトスっっっ!!!」」」



◆◇◆◇



???


とある場所にて


魔導士二人が隠れて会話をしていた、ナードともう一人の男


「もうあまり長居できないぞ、ナード、この国を出る」

「僕は大丈夫だ、逃した獲物が心残りだけど」


ナードはリンゴを食べながら語る。


「気にするな」

「僕にとっては死活問題だよ、生きのいい魔力は定期的に補充したい」

「定期的にか」

「仕事はするけど、そこらへんは意識してほしい」

「わかった、ボスに伝えておく、お前が使えなくなるのは困る」


ナードは思い出したかのように語る。


「しかし、ボスもわざわざここまで来て、殺すなんて手間をよくとったよね」

「あの男はボスに関する情報を魔導協会に売ろうとしていた、幸い防げたが」

「僕がいただいたものね、その後に来たあの男もいただきたかったよ」

「そんなに、魅力的な魔力だったのか、俺にはわからないな」


ナードは腰につけていた瓶を開ける。


「そうだ、同じ魔力でも良いのと悪いのがある」


瓶は赤い液体。


「これなんて良い魔力だよ」

「それは一般人が飲むと人体も維持できない代物だ、そんなのが良い魔力と?」

「これは特別、僕も気を付けて飲んでる」

「よくわからないよ、常人にはね」


男は時々外を見る。


「もうすぐ仲間が来るはずだ、ナード準備しておけ」

「もう準備はしてる」


ナードがクラトスに執着しているのは魔力が魅力的だから、というのもある、しかし

「僕に魔法を使わずアッパー、こんなの初めてだったよ」

クラトスに借りを返したいという気持ちがあった。



クラトスが入院している間にも時間は動く、ナードという者は何者なのか、

クラトスは知る由もない。



◆◇◆◇



豪華な内装の部屋で一人はオールバックの紫色の髪をした男、もう一人はネレイアイ、お互い対面して話し合っていた。


「さて、ネレイアイ、君はなぜ私に会いに来た」

「ふふふ......今回の試験の件はご存じで?」

「大体把握している、アクロテスが捕まり、捕まえたのは君だ」

「いいえ、わたくしは......弱っていたアクロテスを捕まえたにすぎないわ」


ネレイアイは否定する、あくまで弱っていたアクロテスを自分が捕まえたに過ぎないと

「......」

男は書類を見ながら確認する。


「クラトス=ドラレウス、ナシアーデ=パナケ、、ゼオス=マルウォルス、グラデル=トロンダ、彼らがアクロテス戦を行った、だな?」

「大変健闘したのよ......?」

「アクロテスはボロボロで単眼を晒し、右手を欠損していた、随分激しい戦闘だったらしい」

「えぇ......」


アクロテスは現在魔導協会内で厳重に検査されている。


「ネレイアイ=ナイナイア、アクロテス=ヘスペー捕縛の手柄は君にあり、ユノ=ノエア殺害の手柄はアテラズ=ドラレウス、これが結果だが......」

「これを見てほしいの......」


ネレイアイは書類を男に渡す。


「陳情書......ほうエルマ=イアンの名もある」

「わたくし達のお願いというのは......クラトス=ドラレウス様......それに町の防衛線において負傷して......公認試験を受ける事の叶わなかった魔導士様全員の救済」

「......」

「......貴方の沈黙は最もだわ......今までの魔導士と違うようにすれば......不公平が生まれるものね......」


ネレイアイと男は深刻そうな顔をする。


「......そうだ、君は救済を......と言うが、他の魔導士の不満を取り除く為、

より危険な事をさせる事になる」

「えぇ......」

「誰にも文句を言わせぬ依頼を受けさせるわけだ......未熟ならば死ぬ」

「......」


ネレイアイの哀しい顔を気にせずに話を進める。


「......話に聞くと、町の魔物は大した事はなかったようだ......そんな魔物で怪我をするような魔導士では無理だ、死ぬことがわかっていて送ることはできない」


ネレイアイは残念そうな顔をするが

「だが、クラトス=ドラレウスこの魔導士はアクロテスの右手、『デモンゲート』の妨害......アクロテス相手にも相当奮闘していたと、ナシアーデなどから聞いている」

「それでは......」

ネレイアイは笑顔になる。


「クラトス=ドラレウスの救済を認める......ただし」


男は人差し指を立てる。

「一つ条件がある」

「何かしら......」

「今回君はクラトスを推薦したという体でいく、そして......そこまで推薦するのなら意思を見せてほしい」

「......」


ネレイアイは困ったような顔をするが男は笑いながら言う。


「わかってて来たんだろう?陳情書を渡すのにわざわざ君が来る必要もなかった、

だが、君は私の性格を知っている、最後は戦いで決める事をな」

「えぇ......戦いはあまり好きではないけれど......今回は喧嘩ではないし......クラトス様の為だから......ふふふ......頑張れるわ......」


男はギザギザな歯を見せて笑う。


「ネレイアイ、君と戦うのは初めてだ、正直わくわくしてる、アクロテスとの戦闘は書面でしか知らないし、......クククっ私もアストリオンに感化されたか」

「ふふふ......かもしれないわね......」


男は立ち上がると

「ついてくるんだ」

ネレイアイについてくるよう言い、屋敷の廊下を歩いていく。


「......アクロテスは元々戦闘タイプではなかったのだろう?巨人族故の物理的な強さは有っても、魔法では遠隔操作が得意だったと聞く」

「そうね......アクロテス様は現場で戦うお人ではなかったわ......」


屋敷の外出て森に囲まれた広い広場まで案内する。


「さぁ、ここだ」


ネレイアイ地面に手を付き目を瞑って笑う。


「ふふふ......良い場所ね」

「君が言うのなら、良いのだろう」



「ルールはどうする」

「ふふふ......触った方が勝ち......というのは?」

「流石にそれは......」

「でもパヌン様が本気を出してしまうと......」


パヌンと言われた男は右手を後頭部につけ「あぁそうだ」と困ったようにする。


「そうだ、私が本気で戦い出すと迷惑がかかる」

「そうね......ふふふ......」

「だがやはり、鬼ごっこでは面白みがない、魔法を3発当てたら勝ちというゲームは?」


ネレイアイは少し困った表情をする。


「でも魔法によっては危険よ......?」

「そこはお互いプロだ、お互いに気を付けよう」

「......」


ネレイアイは困ったようにしながら渋々承諾する。


「私が3、2、1、スタートと言ったら初める」

「えぇ、敗北条件は3回魔法を受けるか......リタイアを言う......ね?」

「そうだ」


お互い一定の距離を離れる。


「3、2、1――」


「スタート――」


途端パヌンは右に移動するがネレイアイは動かず、パヌンの動きに合わせて体を動かす。


「『レイ』」

「『レイ』」


パヌンと合わせるように『レイ』を放ち相殺させる。


「(『レイ』を相殺させるか......遠くから棒と棒を合わせるような難儀をこうもあっさりと......すごい、すごいぞ、ネレイアイ!)」


「さぁ、続きだ!――」


パヌンは両手に巨大な炎の玉を持ち。


「パヌン様......早速熱くなってるわ......」

「『炎の小星』っっ!」


ネレイアイに投げるがネレイアイは両手で構え

「『水面写し』」

同じ技を撃つ。


バァァンっ!



お互い魔法を相手に当てられない。



「......ネレイアイ、これは長引きそうだ」

「ふふふ......そうね......」



ネレイアイとパヌンのクラトスの救済を巡っての戦いはこうして始まった。



続く――

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