第45話 ガルフとアリスの最終試験&毒


ゲライトは魔法陣の準備が整い最後にアクロテスに聞く。


「さて、アクロテス、君を魔導協会本部に送るわけだが、何か言う事あるかね?」

「なんだ?謝罪でも?懺悔の言葉でも言うか?ハハハハッ」


アクロテスは『水の揺り籠』に浮きながら笑う。


「ネレイアイとかには、生かしてもらった恩があるだろうに」

「ない、ネレイアイが勝手に私を生かせたのだ」

「そうか......では、始めるとしよう」


ゲライトは地面に両手をつける、他の魔導士も同じようにし

「では、巨人族を魔導協会に送る、『転移』っ!」

「「はあぁ!」」


アクロテスを中心に魔法陣が現れ光りだす。

激しい光はアクロテスを包み込み消えていく。


「......アクロテス」


ゲライトは静かにアクロテスがいた場所を見つめていると魔導士が話をかけてきた。


「ゲライト様、ネレイアイ様がお待ちしております」

「あーあ、アテラズめ、面倒な仕事を任してくれたよねー、全く」


ゲライトは溜息を出しながらネレイアイのもとに向かうのだった。




ネレイアイは魔導士達が作業しているのを眺めていた。


「......ネレイアイ、君、彼らにも『水の揺り籠』を使ったらしいね、使いすぎでは?」

「......ふふふ......大丈夫よ......わたくしは強いもの......」


ネレイアイは相変わらず静かに笑みを浮かべる。


「アクロテスは今さっき魔導協会に送った」

「そうなのね......」

「彼はすぐには殺されないだろう、彼がどのような禁忌魔法をどこに流したか、まぁ色々あるから、いやーしぶとい」


ゲライトはそう語り。


「ユノの遺体を回収してくる」

「大切に扱ってね?......」

「しかし、彼女は――」

「ゲライト様......」

「......ふむ、わかった」


ゲライトがユノの死体を回収しようとした時ネレイアイはグラデルの方を見ながら語る。


「ゲライト様......グラデル様が今持っているのが『ザーンデント』......」

「ふむ......『ザーンデント』の扱いについてはグラデルと話し合うとしよう」

「えぇ......良いと思うわ......」


ネレイアイはクラトス達の所へ飛んでいこうとする。


「何をする気だ?」

「......クラトス様とグラデル様の魔力の流れのチェックよ?」

「......正直に言おう、君はね、働きすぎ」

「ふふふ......そんなことないわ......」


ネレイアイはいつも通り静かに笑みを浮かべる。


「......魔力の流れの感知は人間には少し難しいもの......わたくしはそういうの人間よりは出来るから......」

「あぁこれ以上は引き留められんね、全くどんだけ仕事好きなんだか、私には理解に苦しむね!」

「ふふふ......」


ネレイアイは静かに笑いクラトス達の元に飛んでいき、魔導士はせわしなく動いている中、邪魔にならぬよう魔力の感知を行う。

それぞれの首元に手を当てて魔力を感知する。

グラデルを確認し

「......元気」

クラトスの元に行き、

「血だらけね......」

同じようにする――

「......っ!誰か!」


ネレイアイの呼び声に近くの魔導士は走っていく。


「どっどうされましたか!?」

「魔力の流れがおかしいわ......急いで精密な検査を!」

「検査!?」

「毒かも......急がないと......解毒魔法を使える方は......」


ネレイアイは辺りを見るが使える魔導士はいない。


「『水の揺り籠』......これで毒の浸食は止められるわ......皆さま......解毒魔法を扱える魔導士を急ぎ呼んで来てください......」

「はっはい!すみませんご苦労を......」

「......気にしないで......命より高いモノはないですもの......」


そんな様子を見ていたゲライトは歩いてくる。


「魔力の流れに異常......ネレイアイ心辺りは......?」

「......」

「ふむ、あるようだ、毒......と言っていたね」


ゲライトはネレイアイに時折、質問しながら考える。


「アクロテス......ユノ、アテラズ......これはぁ......

アテラズ=ドラレウス君の仕業だね、君ぃ」


アクロテスはない、もしそうならネレイアイは言うだろう、彼には誇るべき地位はもうない。ネレイアイが言わないのはその者に立場があると言う事だ、

ユノも既に裏切り者で犯罪者であり、謂れ無きそしりでもない限り認めるはず。ならば最後に残ったのはアテラズのみである。


「どうだろう、違うなら、違うとはっきり言っていただきたい」

「......確定した訳では......」

「もし彼が毒を使った可能性があるのなら、見過ごすわけにはいかないねぇ、それは喧嘩の範疇を超えている」


ゲライトは場合によっては魔導協会に報告しなければならない、同じ協会での魔導士の殺し合いは一応禁止されているものの、起きても行き過ぎた喧嘩ということで終わることが多い。しかし毒を利用しての殺しは魔導協会内でも念入りに調べられ、

除名処分等の重い処分が下される。



「......アテラズ君とクラトス君の関係を私は理解している、ここまで悪化していたとは思わなかったが、毒ねぇ、除名処分覚悟カナ?」

「あぁ......お願いゲライト様......アテラズ様を苦しめないで......」

「......」


ゲライトは考える、そもそもアテラズが毒を利用したという確たる証拠はない、報告したところで信用されず、アクロテス、ユノが毒を使用したという結果に終わるだろう。


「......まぁ、これは報告しないでおく」

「......!」

「多分アクロテス、ユノの所為にされて終わりだ、しかしだネレイアイ、アテラズが彼に使用した魔法、知っている限り教えてくれるかな?それが条件だ」

「......えぇ」


ネレイアイは自身が見た魔法『有象無象・刃の雨』の事をゲライトに話す。


「......おそらく、その魔法に出てきた刃のどれかが毒だった」

「......猛毒よ......魔力を乱す毒だなんて......あぁ......クラトス様......」


ネレイアイは悲しそうに語る。


「......う~ん、この先どうなるのかねぇ......」




その後ゲライトはユノの遺体を回収、ネレイアイは解毒魔法の扱える魔導士に経緯を

説明、その後グラデル、クラトスと共に森を降った。



◆◇◆◇



町にいたガルフ達や魔導士達はエルマに森で何が起きていたのか知らされた。


「では......クラトス達は皆アクロテスと戦っていたと......」

「クラトス......大丈夫かしら.......」


エルマは淡々と説明する。


「今は治療を受けている所だ、今回の戦いで、ナシアーデ=パナケ、ゼオス=マルウォルス、グラデル=トロンダ、クラトス=ドラレウスは負傷、首謀者アクロテス=ヘスペーは捕縛、ユノ=ノエアは死亡した。」


ガルフは悔しさに拳を強く握る。


「くっ......我は何もできなかった......!」

「ガルフ......」

悔しがるガルフを心配そうに見るアリス。


「......怪我の具合はどうなのだ?」


ガルフはエルマに聞く、重症なのか、軽症なのか気になっていた。


「ゼオス、ナシアーデは長い入院は必要ないだろう、グラデル、特にクラトスは少し長くなる可能性がある」

「......試験は続行するのか?」

「1週間ほど延期するけど......続行を予定している」


その言葉に他の魔導士達はヤジを飛ばす、ケガがひどく試験など行えない魔導士もいるからだ。


「危機的状況がいきなり降りかかるのが普通なんだ、それに上手く対処するのが大切なんだ、よかったじゃないか!魔導士としてその事が学べて!


もう話すことはないよ、以上!」


エルマは面倒になり、話をさっさと切り上げてしまう。


「とっとにかく、クラトスの所へ行こうではないか、アリス」

「えぇ......」


ガルフ達はクラトスが入院している病院に向かうことにした。



しかし。



「クラトス様は面会できる状態ではありません」

医者に止められてしまう。


「そっそんなに危険な状態なのか?」


ガルフは困惑する、まさかそこまでの重症だとは思ってもみなかった。


「怪我もそうですが、毒の所為ですね」

「毒......」

「ネレイアイ様の『水の揺り籠』のおかげで毒が体中に回る事を遅らせる事ができましたが、それでも危険な状態なのです」


その言葉にアリスは動揺し始める。


「くっクラトスは......死んじゃうの?」

「あっアリス大丈夫だ......」

「全身全霊で我々も治しますので......それでは」



こうしてクラトスとの面会は叶わなかった。




そして




「先週の奮闘については僕は評価している、だから今日の試験ではその戦いに恥じないようにお願いしたい」



クラトスは間に合う事はなかった。



「......」


ガルフは複雑だった、クラトスに誘われて試験を受けたにも関わらず、クラトスは出場できないことに。



「では試合の順番を決める」



「1番最初か......」

「私2番......」


ガルフは1番最初、アリスは2番目だった。



「アリスよ、観客席にいるんだ、離れてはいけないぞ?」

「うん、わかったわ、気を付けてね?」


アリスの心配をガルフは笑う。


「心配する出ない、何せ、我はクラトスと共に非正規魔導士として働いていたからな」

「ガルフ......」





「ガルフ=アトラである、よろしく」

「僕はケス=レイです」



エルマはお互いの間に立って簡潔にルールを話す。


ガルフはクラトス、ナシアーデ、グラデル、面識はあまりなくともゼオス、彼らが命がけで戦っていた時に自分はただただ、町の魔物と戦っただけだった。


「(禁忌魔法は不完全であった、あんなのは我がいなくてもどうにかなったのだ......)」




「お互い禁止行為は意図的な殺害行為のみだ、負けの判定は試験官がする。リタイアをする場合は叫ぶ、制限時間60分、まぁもう知ってるか......」


質問がない事を確認したエルマは


「ふむ、では双方、魔導師として誇り高く戦うように」


「(恨みはない、八つ当たり......というつもりはないが――)」


そう発すると大声で――


「はじめ!」


この号令の瞬間――


「――(全てをぶつける――)」

「へ?」


ガルフは間合いを詰め――


「――!『サンダーボ――」


相手が魔法を撃とうとする隙に――


バンッ!


右腕で――


「ぐあっ!」


腹を殴り吹き飛ばし――


「『オルトルバスル』」


吹っ飛んでいくケスにガルフは光の光線を撃ち放つ。


「ぎぁあああ!」


ケスは光に吹き飛ばされ、壁に当たる。


「――」


ケスは立ち上がらない。



エルマは急ぎケスの様子を見る。


「......気絶している、驚いた、僕の知る中でも一位、二位を争う早さだ」


エルマはケスが意識がないのを確認し。


「勝者はガルフ!ガルフ=アトラだっ!!一瞬の戦い、見事だった!」


そのままガルフは試験会場を後にするのだった。





◆◇◆◇




―――

――


「......」


誰かが話かける。


「クラトス、お前は強いなぁ、将来有望な魔導士だ!」

「あんた、まだクラトスが魔導士になると決まっているわけじゃないのに......」

「何を言うんだ、こいつはすごいぞ、将来はS級だ」

「やれやれ、孫をおだてるのはいいけど、これでこの子が傲慢になったらどうするのかねぇ」



じいさん、ばあさん



「クラトス、欲しい物はあるか?今日は好きなものを買ってあげよう」

「ねぇ、クラトス、今日の夜ご飯は何を食べたい?」



父さん、母さん



「――で、――にあった!すごかったよ!」

「ほう!あ奴め、俺の孫に対して、ったく、生意気だな」


記憶が錯綜する。


「――で妖精に――」

「ふっふっふっ、驚いたようだな――」



記憶のが錯綜する中



一度だけ、父が激怒し、言い合う声を聴いたことがあった。真夜中の家の来客室で、その時俺は怒鳴り声にビビり耳を塞いでしまったから、誰がいたのか、内容もわからない。


「どうしてですか!」

「――貴様では――」

「子供に――」

「――わかるだろう――」

「だからって」

「どっどうか落ち着いてください」


言い争う声はドンドンとエスカレートしていく。


「とにかく貴方では――」

「――許さんぞ――」

「――」

「貴様どうする気だ――」


激しい騒音が来客室から家全体に響いてくる、怒号からすすり泣く声まで、耳を塞いでも聞こえて来て、俺は部屋に逃げて行った。

外でも怒声は響いてきた、おそらく戦闘をしたんだと思う。

俺は怖くてずっとベッドに隠れていた。


その日から父は家を空けるようになっていった。

母親に言い争いの事を聞いてみたが

「何のこと?」

無理がある、だけれど、どう問い詰めたって話す気はなさそうだった。


「あぁ、どうして、なんで......」




―――

――



「――っ!」


クラトスは飛び起きる


「いったっ......」


全身に包帯が巻かれていた。


「俺は......あぁそうか、ネレイアイの魔法で包まれた後、眠ってしまったのか」


クラトスはまた横になる。


「......」


外からは日光が当たり心地よい暖かさでウトウトとし始める。


「いっいや待て、試験は!いやっ禁忌魔法は!?」


クラトスがパニックになっているとドアを開ける音が聞こえてきた。


「クラトス!起きたか!ラナ達が時折見舞いに来てたのだぞ!」

「クラトス起きてる!」

「あっガルフとアリス!聞きたいことが!」


クラトスは自身がいない間に何があったか、禁忌魔法はどうなったのか、試験はどうなったのか、ガルフに聞いた。


「そうか......大丈夫だったか......」


みんなが無事でホッとする。


「だがなぁ、試験については......」


ガルフが言うには既に3週間たっていること。


「......仕方ないな、今回が最後ってわけでもない」

「クラトス......」

「ねぇ、クラトス、ガルフったら一発で相手を吹っ飛ばしたのよ、すごかったわ」

「マジかよ......」


アリスが自慢気に語るとガルフは目を瞑りながらピースサインをする。


「......2発だ、パンチと魔法である」

「だって!」


少し談笑していると。


「アリスも試験は通過だろう?」

「あっ......」


ガルフは困ったようにする。


「俺は試験に出られなかったから、不戦勝だろ?」

「それがだな――」





―――

――




3週間前

アリスの試合が始まろうとしている頃



「......クラトスは出られない、アリスの勝ちで終わりか」


エルマは腕を組みながらつぶやく。


「ネレイアイめ......」


本当ならばネレイアイも審判であったはずだった、だがクラトスを病院に送った後すぐに

『エルマ様......わたくしは魔導協会の本部に行くわ......ごめんなさいね......

でもわたくしが何をしようとしているか......貴方もわかってるはず......ね?』

と言ってきた、エルマは仕方なしと承認しネレイアイは本部に行った。


「君が何をしようとしているかはわかるがね......」


エルマは隣にいり審判の代役を見て。

「なぜテケトを代役に当てた!」

「そんな事、言われましてもテケトは困りますね、エルマ」

眼鏡をかけ黒髪のショートヘアーに白いポンチョを来た少女は耳が長かった、その少女はエルフ、テケトと言われたエルフは本を読みながら答える。


「君は何か文句ないのか」

「外に出る口実があるのは良いことなので、ありがたいくらいです、テケトは」


本を閉じてエルマを見る。


「ネレイアイとゲライトから大体聞きましたよ、大変だったらしいですね」

「大変なのは、いつものことだ」


エルマは時折腕時計を気にしながら答える。


「エルマも頑張ったらしいですねぇ、えらい」

「僕の母親か!」

「エルマなんて子供みたいなもんです」

「僕は子供じゃない、そのふざけた扱いをやめるんだ」


テケトは静かに笑う。


「今回出てくる魔導士、アリス=オネロ......そして、クラトス=ドラレウスですか」

「そうだ、クラトスは今も意識が戻っていないから、アリスの勝ちで終わりだろうが」

「オネロ......と言えばエルマ、君とも縁がありますよねぇ」


その言葉にエルマはにらみつける。


「......もう関係ないさ」

「元はオネロ家の養子に入ってたのに関係ないことはないですよね?」

「僕はオネロ家が嫌いだったよ、陰湿で......残酷な所を見てきた、僕は6年前に捨ててやったのさ、オネロの名を、没落貴族なんて虚しいだけだ、もう僕はオネロ家の人間を名乗る事はない」


エルマは昔を思い出すように空を見上げる。


「その選択は正解でしたよ、あのまま居たら、君、死んでましたから」

「......」

「......エルマは知ってましたか?アリスがどうなっていたのか」

「それは......ゲライトから聞いたよ......僕にも一応伝えておくとね」

「おや、ゲライトも甘くなりましたね、人に言って良い内容ではないですよ」


テケトは本を読みながら話す。


「アリスは殺しまくりだったらしいですね、昔からそうでしたか?」

「......残酷ではあった......魔法の才もあったな、ただ病弱で寝込んでるのがほとんどだった、僕は一応オネロ家では年上だったから、まぁ色々世話をしたものさ」

「......まぁアリスに行った儀式が悪化させたのでしょう。......オネロ家はアリスで最後です、エイタ=オネロは見つかっていませんが時間の問題でしょうね」

「......そうだな」


エルマは沈黙する。


「......そろそろ時間だ」

「ん?あぁもうこんな時間ですか」


試験会場の金髪の少女がトコトコと歩いてくる。


「僕が行く」

「ではテケトも行きましょうか、どうせ試合は行われませんし」


エルマとテケトは中央に歩いていく。


「これがアリスですか、アリス今のお体はどうです?」

「?貴方は?」


テケトはアリスの周りをグルグルと回りながら観察する。


「私はテケト=トーティ、テケトは今、君を観察しています」

「私はアリス=オネロ、よろしくね、テケト!」


アリスは笑顔でカーテシーをする。


「話に聞いていたのと状態が違いますね、彼女は魔道具に飲まれ、心は壊れ、兵器としてしか扱えないとゲライトは教えてくれました、しかし今の彼女は......

極めて乙女チックな少女です、エルマどういうことですか」

「それを調べるのが君の役目だろう」


エルマは時計を見ながら時間を確認し、テケトはアリスの周りをグルグルと回り観察する。


「......ルールだからな、時間が来たら、アリスの勝ちとなる」


アリスは何かを考えている様子を見せ、そして


「テケト、少し良い?」

「良いですよ?」

「――」


アリスが話すとテケトは驚きの表情をする。


「......良いんです?」


笑顔で肯定する。


「あー、エルマ」


テケトは困り顔でエルマに話す。


「アリス、リタイアすると」

「はっ?」


エルマは驚き急いでアリスの所に向かう。


「アリス、一体どういうことだい」

「何よ、エルマ、私はリタイアするって言ったのよ」


テケトもアリスを説得する。


「言っておきます、リタイアしてもクラトスが勝つ事はありません、この場合引き分けとなりますが引き分けは負けと判定され、敗者復活戦となりますが......」

「敗者復活戦は今から約1か月後、クラトスは危険域を脱していないしおそらく出場は無理だ、君は無駄な足掻きをしているだけだ、やめておけ」

「いいの、私が納得しないだけ、私のわがままなのよ」


アリスはエルマの説得を拒否する。


「......ダメそうだ」

「仕方ないですねえ、ではアリスはリタイアで?」

「うん!」


エルマは仕方なしと観客席に声をかける。


「アリスはリタイアを宣言した、クラトスは試合に来なかった、よってこの試合は引き分けだっ!」


その宣言に観客席どよめいていく中、エルマは気にせず戻っていく。


「罵詈雑言すごいですねぇアリス、すごい文句ですよ、まぁ当たり前です、皆が望であろう楽に正規魔導士になれるチャンス、君、放棄したんですから」

「ふーん......」


アリスは全く気にする素振りなく平然としている。


「アリス、もう試合は終わりだ、早く戻りなさい」

「貴方に言われなくてもわかってるわ」


アリスのエルマに対する素っ気ない態度にテケトは疑問に感じる。


「アリス、なぜにエルマには冷たいのですかね、時期的に見れば幼少の頃は一緒に過ごしていたはずです」

「......」

「もしかして、エルマ、アリスの事いじめてたのでは?」

「言いがかりはやめてくれ、風邪の時も看病してやったのに」


エルマは時折腕時計を見ていた、次の試合の時間を気にしていた。


「アリスは早く戻るんだ、僕も忙しいんでね」


エセルは逃げるように立ち去ろうとする――



「また、私を置いていくの?」



――その言葉にエセルは焦り振り向く。


「――っ!?」


アリスはエセルをまっすぐに見る。


「まさか、約束を......」


エルマは困惑しながら言う。


「......私、覚えてたから」


アリスはエルマにそれを告げて。


「じゃあ私は帰るわ!クラトスのお見舞いしなくちゃ!テケト、そしてエルマ、ごきげんよう」


そういってアリスは試合会場から離れていった。


「エルマ、彼女の言っていた事とはなんです?」

「......」


エルマは質問に答えない。


「......」

「......まぁテケト的には答えなくてもいいですが、テケトこう見えて大忙しなので、次の試合に行ってきます」


テケトは走っていく。


「あんな約束を覚えていたのか......」




エルマはただ一人茫然と立ち尽くしていた。




―――

――




「アリスは試合をリタイアしたのだ」

「そう、私、試合リタイアしたわ!」


アリスは自慢気に言う。


「なっなんでだ、アリス!リタイアなんてしなければお前正規になれただろ!?」

「だって、クラトスがいないなんてつまらないわ」

「敗者復活戦だかがあるんだろ?俺はそれに参加して――」


クラトスが言おうとした時だった――


バン


ドアを開ける音が聞こえ。


「いやぁ、それは難しいですね」


眼鏡をかけ黒髪のショートヘアーに白いポンチョのエルフが現れた。


「だっ誰?」

「私はテケト=トーティ、君が起きると予感して、来てみたら、どうやら当たったようです」

「テケト?」

「君の名前は知ってますよ、クラトス=ドラレウス」


テケトにアリスが近寄る。


「この人、審判なのよ」

「アリスも元気そうですね、問題なしと......」


テケトはクラトスに近づく。


「君の体では敗者復活戦は不可能ですね」

「なっなんでっ痛......」


クラトスは思わず動かそうとするがやはり動かない。


「敗者復活は来週です、しかし君はあと一月は安静にしている必要がある」

「いや、なんでだよ、怪我は痛いが別に動けないほどでは......」

「クラトス、君は毒の所為でここまで入院していたのです」

「えっ!」


クラトスは驚いているがアリス、ガルフはあまり驚いていない、どうやらその事実を知らないのはクラトスだけのようだった。


「毒......そんなに長期的に休む必要があると?」

「ある......と断言しますよ、テケトは」


テケトの言葉にアリスは文句を言う。


「でも、あんなに元気よ!」

「それは毒が非活性化してるからですよ、クラトス少し魔力を出してみてください」

「......?」


クラトスは言われた通り魔力を出そうとすると

「グッ......?」

全身に痛みに包まれ途中でやめてしまう。


「はぁ......はぁ......」

「はい、これが、クラトスを蝕む毒ですね、魔力に反応して活性化するんですねぇ」

「......クラトスは一月あれば治せると?」


ガルフの問いにテケトは笑いながら答える。


「もちろん、この毒の原液は回収されていて、魔導協会が過去に分析済み、解毒薬も既にあります、さすが魔導協会っ!」


テケトはクラトスに投与されている点滴の液体に指を指す。


「クラトスの毒は本来のより薄いですがそれでも強力、2か月間薬を投与し続けて、治せるレベルなので、我慢してほしいです」


「しかしクラトス......」

「いいだろ、治せるのなら!」


ガルフは心配そうだが、クラトスは元気だった、空元気というわけではなく、

治せると分かった以上、気持ちが楽だったからだ。


「アリス、お前は敗者復活戦に出るんだ」

「えー......」

「俺も次は合格してみせるから、気にするな」


アリスは一緒にクラトスと公認魔導士になりたかった。


「俺の所為でお前が公認魔導士になれないのはいやだ」

「うーん......」

力弱く返事をするアリス、そんな中でテケトも帰ろうとしていた。


「さて、ではテケト帰ります、友達の友達だけしかいない部屋とか苦痛でしかないので、お元気でぇ」



テケトはクラトスの病室から出て、病院から出る。

歩きながら白い猿の使い魔を召喚する。



「ホワイトヒヒ、ゲライトに伝言をお願いします、アリスとクラトス、異常なし」

「わかった」

「後、毒の入手場所についてのテケトの書いた手紙も送ってくださいね」

「わかった、キーッ」

「今腕に結びますからね......」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ゲライト=ダダス  へ


クラトス=ドラレウスに使用されたヒュドラの毒について


ヒュドラの毒の入手方法として考えられるのは

1.ヒュドラからの入手

2.保管してある魔導協会からの入手

3.ヒュドラの毒を独自に保管していた者からの入手

の3つです。


1.での獲得は難しいです、ヒュドラは出現が確認された時点で魔導協会は複数人の

A級魔導士の派遣が決まっています。隠れながらの採取は現実的に難しく困難です。


2.確率は一番高いです。魔導協会で厳重に保管されていて、手に入れるのは困難ではあるものの、それ相応の権限持つ者であれば可能性としてはありえます。


3.可能性を否定できませんが、挙げて行けばキリがありません、これを完全否定するのはリスキーですが、考慮しすぎる事はやめておいた方が良いかと。


テケト=トーティ  より

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「......よし結べました」

「キっありがと」

「それではゲライト=ダダスのところへ」


ホワイトヒヒはすごい速さで駆け抜けていく。


「早い早い、足が速いのは羨ましいですね、テケト足が遅いので青空で日光浴味わいながら、のんびりしようと思います」


テケトは晴天の中歩いていくのだった。



続く――

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