第47話 無難な道と苦難の道
アクロテスは体を小さくして、魔導協会内の巨人族専用の部屋にいた。
周りには20人の魔導士、一人、犬型の獣人はアクロテスと向かい合い座っている。
「俺はアス=ラーオン、今から質問することに答えるんだ」
「すまないけど、仮面をつけても?僕は素顔を晒すのはあまり好きではな――」
アクロテスは左手でペストマスクを被ろうとしたが、男にはたかれマスクを地面に落とす。
「仮面をつけるな!......おい、左腕も拘束しておけと言っただろう!」」
「すっすみません!」
周りの魔導士がアクロテスの左腕を縛る、これによりアクロテスの身体の自由はなくなり、ついにしゃべる事しかできなくなる。
「ふむ......わかった」
「しかし、無様だな、醜い単眼を晒して、右腕はない、これが魔導士アクロテス=ヘスペーの晩年か......」
アクロテスは単眼でラスで笑う。
「晩年......ハハハハッ、君は未来でも見えるのか?未来が見えるのなら、ぜひともその技法を教えていただきたい」
ラスは苛立ちながらアクロテスに聞く。
「今こうやって向かい合っているのは、お前に聞いておきたい事があるからだ、無ければお前など斬首だ」
「聞きたい事か......何かね」
「禁忌魔法院から持ち出した、魔法、道具、全て、洗いざらい話せ、そしてそれらをその後どうしたのかもだ」
獣人は顔を迫らせ、時折牙を見せてアクロテスを圧迫しようとするがアクロテスには効果がない。
「確かに、機密情報、禁忌魔法、色々と手を付けた、しかしその数は膨大だよ、いちいち言っていくというのは苦痛だ」
「ならば、お前が隠れ潜んでいたであろう隠れ家は何処だ、そこに全てあるだろう」
「教えてあげても良い」
アクロテスは笑う。
「しかしだぁ、もう無いかもしれないね」
「それは......どういう事だ?」
「私は諸組織、諸個人といくつか契約を交わした、そしてそれらすべての契約に私はあることを記した」
「......それは?」
アクロテスは歯を見せて笑う。
「私が死ぬか捕まる事があった時、私の工房の中身は自由にしても良いと......ね」
「――っ!」
ラスは思わず立ち上がる。
「正気か貴様!国家一つ壊せる魔法だってあるんだぞ!」
「正気?正気さ私は、君たちこそどうする?」
「貴様ぁ!」
ラスは拳を机に叩き、アクロテスに襲い掛かろうとするが他の魔導士抑えられた。
「闇ギルド、秘密結社、カルト宗教団体、もう奴らは手に入れているだろう、
わかるかね、君たちは私を捕まえて嬉しい気持ちでいっぱいだっただろうが、実際は私の掌で踊っていたに過ぎないのだよ!ハハハハハハッ!」
「な......なぜだ......」
「ん?」
ラスは机を叩いて立ち上がると大きな声で問う。
「なぜ貴様はこんなことをする!?出来る!?意味が分からない!この殺人鬼が、貴様は人類の敵だ!この大悪党が!貴様など生かしたネレイアイの気持ちなど全く、全く持って理解できないっ!!」
ラスの激昂にアクロテスは一部の言葉に反応したのか、顔つきが変わる。
「人類の......敵か......」
「――体を巨大化せても意味はない」
「ハハハハッ、なるほど私が人類の敵か......」
アクロテスは拘束具を巨人化して引き破ろうする。
「そっそれは巨人族専用の拘束具、大きくなろうとも動けることはないんだぞ!」
アクロテスは巨大化するが拘束具は壊れず、縛り続ける。
「人類の敵......それは貴様らの事だっっ!」
「――っ!」
アクロテスの大声に他の魔導士は耳を塞ぐ。
「私はいつだって人類の未来を考えている、貴様らはただ現在の安寧を守っているに過ぎないっっ!」
アクロテスは拘束具を引きちぎろうとする。
「おおおおっ!」
「なっなぜだ、アクロテスは巨人というだけで特別に力があるわけではない、そういう話ではなかったのかっ!」
「その想像力が貴様らの限界だ!」
バンッ
「こっ壊された......だと......」
アクロテスは落ちていたペストマスクを拾う。
「何案ずるな、君たち曰く私は戦闘タイプではないらしい......なぁ?」
「――っ」
アクロテスは魔力を溜め始め、他の魔導士が戸惑っている中――
「これはどういうことだ?」
焦げ茶色のロングコートをなびかせながら、真っ赤な髪の男が入室してきた。
「敵陣地で攻撃魔法とか正気かよ、頭に血上りすぎだな」
「アストリオンか......『サンダーボルト』」
アストリオンを見るとアクロテスは魔法の対象をアストリオンに変え、雷を放つ。
男は雷を避けるとコートの内側から鎖を取り出す。
「魔道具『魔封じの鎖』......今は戦う気ねぇんだよ」
鎖はアクロテスの左腕を縛り付ける。
「ここでの殺しはやめろ」
「やれやれ......」
アクロテスも戦う気を失ったのか体を小さくしていく。
「ネレイアイちゃんの顔を立ててやれ、お前がここで殺しをしたら悲しむぞ」
アクロテスは渋々椅子に座る。
「おめえらもおめえらだ、何をしてやがる」
「しかし、拘束具はきちんと......」
アストリオンは拘束具の残骸を手で触る。
「はぁ、おいおめえらよく覚えとけ」
アストリオンは立ち上がり、ラスを中心に忠告をする。
「いいか、相手の力を過小評価するな、それで死んだ奴を多く見てきた、ラス、お前はアクロテスの近くにいた、あのままだったら真っ先に殺されてたからな」
「......っ、心得ます......」
「仕方ない、新しい拘束具を持ってくる」
「そっそんな雑用我々が......」
「大丈夫だ」
そして、新しく、より強固な拘束具をラスに渡すとどこかへ行ってしまう。
「さぁ、続きを始めよう、知りたい事......山ほどあるんだろう?」
アクロテスは尋問されている側にも関わらず堂々と余裕に構え、ラスと再度対面するのだった。
◆◇◆◇
「もうすぐか......」
アクロテス戦から2か月が経過し、もうすぐ退院する事が決まっていたクラトスは嬉しい気持ちもあったが「......絶対弱くなっている......」魔導士として戦えるのだろうかという不安が生まれていた。
「貴方は強いから平気でしょ?」
「2か月は長い、退院したらウォーミングアップしたいな......ナシア手伝って」
「ゼオスかガルフに頼みなさい」
実際ナシアーデに頼るつもりはなく、冗談だ、だがクラトスにとって非正規魔導士の練習に公認魔導士を付き合わせるのはどうなのだろうか
「......そうだな」
複雑だ、寝てばっかりで変な考えをしてしまう。
「そうだ、クラトス、貴方に面会が来るらしいわ、魔導協会から」
「誰だ?」
「それが私も知らないのよねぇ」
クラトスは深く考えずに横になる。
トントンッ
「あっ来たのかもっ」
ナシアーデが開けると。
「いやぁ、久しぶりだねぇ、クラトス君、ナシアーデ君」
ゲライトは笑みを浮かべながら病室に入ってくる。
「君たちが試験を受けたのは4年前か、もうそんなに経つか」
「ゲライトさん、来るのなら私に言ってくれれば......」
「サプライズだよ、言ったらつまらないだろう?」
ゲライト=ダダス、4年前の試験の時には試験管をしていた男。
戦闘は見たことはないものの、動きの隙の無さから、相当な実力者であると、
当時クラトスは考えていた。
「ゲライトはどうしてここに?」
「あぁ、そうだった、さぁて」
ゲライトはにこやかにクラトスを見る。
「君は魔導協会の魔導士となる為の例外的救済処置が行われる」
「っ!、それは!」
「だが、条件がある、そして今からそれに答えてもらいたい」
ゲライトは二本指を立てる。
「君には二つの道がある、一つ目の道、これはおすすめだ次回の魔導士試験まで我慢する、これは一番安全で無難な道だ、おそらく君は次回も勝ち残るだろう、リスクを回避するというのも時として必要なのだよ、これ人生の先輩としてのアドバイス」
ゲライトは続けて言う。
「二つ目の道、これはおすすめしない、船に乗り、急ぎ指定されたギルドに向かう、そしてそこで君はとある依頼を受ける、それは危険で当然死ぬ事もある......」
ゲライトは一瞬言葉を止める、そして
「......いや断言しよう、君は死ぬ、依頼内容はここでは言えないが、この依頼は協会内部の誰かによる君への嫌がらせだ、これは苦難の道だ」
「......」
「......さぁ、どうする、無難な道と苦難の道、私なら一つ目の無難な道を選ぶだろう、それを選んでも誰も責めない、私が責めさせないさ」
「ク......クラトス......」
クラトスは考える、ゲライトの言う通り次回にするというのも手ではある、いやそれこそが一番安全であり、無難、わざわざ、今の段階でリスクを取る必要もないのだ。
「......俺は......」
だが、最高の魔導士とはリスクを取らない魔導士の事なのだろうか、そもそもその答えを見つけてはいない。
「最高な魔導士になりたい」
「?」
「――っクラトス!」
しかし、わからなくともわかる、少なくとも無難な道を選ぶ事は最高ではない!
「俺は二つ目の......苦難の道を選ぶ」
「......良いのだね?」
「俺は......決めた」
ゲライトは笑う。
「はっはっはっ、いやぁ、全く、とんだアホだよ君は!」
「でっでもゲライトさん、よく救済なんて許されましたね?」
「俺も気になってた」
ナシアーデ......そしてクラトスは疑問に思っていた、なぜ例外的救済処置が行われたのか。
「アクロテスの捕縛協力の功績だ」
ゲライトは本当の事を全ては言わなかった、いやネレイアイにより言われていた、自分が救済の為にしたことは言うなと、全てはエルマ達が陳情書を送ったために許されたのだと......、そのためゲライトは言わない。
「......エルマ=イアン君含む試験管達はクラトス君や町の防衛線で負傷した魔導士を救済するよう陳情書を提出していたんだよ、他の魔導士はだめだったが......
君ぃ、エルマ君たちに感謝しておくことだ、今回は良い試験官に当たったのだから」
クラトスのエルマに対する評価は逆転していた、最初は嫌なひねくれ者のような評価だった
「必ず、言う......すぐには出来なくても......」
エルマ=イアン、カバム=ウロン、アンサ=イーア、オルイア=ゲル、ユエルス=ミステイン、ネレイアイ=ナイナイア......ユノ=ノエア......
みんな良い人だった、何もわからない、個人的な面識のない、人の為に別に陳情する必要もなかった、どの魔導士もそんなの考えた事もなかったはず。なのに......
「俺は今回......本当に運が良かったんだな......」
ボソッとつぶやいてしまう。
ゲライトは笑顔のまま別れのあいさつをする。
「では、私はこれで、退院の日には私か......他の誰かを使わせるから、ゆっくり休む事だ、休み飽きてるだろうけどネ、バイバーイ」
ゲライトはそのままクラトス達の別れの挨拶を聞かずに帰ってしまった。
「クラトス、やったわね!」
「あぁ、本当に......よかった!」
こうしてクラトスは魔導協会の魔導士として認められる為の依頼を受ける事となった、この事はガルフ達にも伝えられ、退院の日には退院祝いと重ねその事も祝いにしたパーティを開く事となる――
クラトス=ドラレウスはわかっていた。きっとこのパーティで皆とそろって会う機会はほとんどなくなるのだろう、そんな気持ちを持ちながら――
祝いのパーティが行われる――
続く――
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