第43話 決着
ネレイアイとアクロテスが戦っていたのと同じころ、クラトスはユノ=ノエアを探していた。
「――っ、カッコつけたはいいが、ダメージがきついな......」
クラトスはアクロテスから受けたダメージが思ったより大きく、歩く足も重くなっていた。
「早く......早く......」
急ぎ足で山を移動する
そして。
「ユノ=ノエア......とグラデルか」
ユノとグラデルは対峙する形で立っていた。
「貴方も来たんですか」
「くっクラトス大丈夫だったか?」
「ギリギリだったけど、どうにかな」
ユノは槍を持ち身構える。
「そういえば......貴方は言っていましたね、イオブの恐ろしさを教えて見ろって......」
「確かに言ったな」
「魔道具『ザーンデント』はイオブの国宝、イオブの恐ろしさを教えるのはピッタリです」
「だが、その魔道具はグラデルが使おうとして失敗した」
ユノは静かに笑う。
「確かに危険みたいね、だけど、このままじゃ終われない......!」
ユノは一心に魔力を込める。
「『石化封印解除』......魔道具『ザーンデント』お前はイオブの国宝、ならば、イオブの悲しみ、怒りが分かるはず!」
槍を上空に掲げる。
「――っ!(すっ吸われる!)」
「『ザーンデント』お前が求めるのなら我が魔力すべて与えよう」
ユノは見るからに『ザーンデント』に浸食されていく。
「うっううっ!」
「ユノ!それ以上は......」
「できる、私はイオブの民よ!!」
どうにも言う事を聞く気はないようだ。
「グラデル」
「わかっている、あの槍を彼女の手より離させるぞ!」
クラトスとグラデルはユノに向かって走り出す。
「くっこいつ、前は吸っていた癖に今回ははじき出そうとしている」
「何をしようとしているのかをわかっているのかもしれないな!」
「――『波動』」
『ザーンデント』そのものが魔法を行使してきた。
「「ぐわぁぁ!」」
クラトスとグラデルは吹き飛ばされる。
「もう一度!」
「まずい、体力が持たない」
「魔法も意味ないな、逆に吸われてしまう」
ユノは明らかに体力がなくなっていく。
「はぁ......はぁ......諦めなさい......これでイオブの民は......」
「ユノ!イオブの恐ろしさを教えてる割には随分と苦しそうだな」
「うる......さい......ですね」
「だったら恐ろしさを教えて見ろ」
クラトスは一人で走り。
『――『波動』』
「グワァ!」
吹き飛ばされる。
「グラデル、俺は今から『ドラゴンスケイル』を使う、そしたら魔力はもうない、グラデル頼みになるぞ」
「わかった!」
「『ドラゴンスケイル』」
クラトスとグラデルは共にユノに向けて突撃する。
「っ......」
一歩――
また一歩――
近づいてくる。
『ザーンデント』の波動の力は強いはずなのに
「なんで、どうして!?」
彼らは近づいてきて。
「「捕まえた」」
「後はこの槍をどうするかだ」
「いっいやよ、ここで放したら私は!」
『ザーンデント』の力は増していく、このままいけば被害は広がるだろう。
「放すんだユノ!」
グラデルとクラトスは槍を掴み続ける。
「――っ!」
「ユノこれは命令だ!」
「――何様よっ」
グラデルは大声で話す。
「イオブ国、第14代国王グラントル=トロイオブ、我はイオブ国王として国民に問いかけている!ユノ、槍から手を放せ!これは命令である!」
「――っ!?」
ユノは動揺して、杖を持つ力が弱まる。
「うっ嘘よ......陛下は......20年前」
「そうだな、先王であるパリア国王陛下は20年前に王宮で殺されている、そして私は14代国王として即位した」
「――っ!(もう少しだ......ユノの力は弱まっている......)」
ユノは信じ切れずにグラデルに問いかけ続ける。
「嘘よ、そんなの覚えてないわ!」
「君はその時5歳くらいだろう、覚えてなくて当然だ、それにイオブ戦争真っ只中だったからな!」
「......今更......何よ、国王とか言われても......」
ユノはそれでも拒否をする、今更国王と言われても、放浪の旅の時、助けてくれなかった、自身を鼓舞してくれなかった国王なんぞ、ユノはそう思ってしまった。
「今更国王とか関係ない!」
「ユノ=ノエア!『ザーンデント』はイオブの国宝だ。親愛なるイオブ国民よ!
その道具の正統なる持ち主は誰だ、答えよ!」
「......っ」
ユノは答えない、そもそもそんなのは自分自身が一番わかっている、だが止める訳には行かないのだ。
「......私は嬉しかったぞ、例えその方向性が間違えていたとしても、イオブ国を大切にし誇りに思っていた、不甲斐ない国王であったことを許してくれ、
ユノ=ノエア、私は本当にうれしく思う。本当にありがとう
イオブの誇りを捨てないでくれて......ユノ=ノエア、君はイオブの誇りだ」
その言葉を聞いた瞬間、ユノは『ザーンデント』から手を放す。
「――あ」
「よしっ――っ!」
クラトスはユノから『ザーンデント』を奪い取る。
「――」
「ユノ......」
ユノはただ茫然と立ち尽くす。
「グラデル......イオブの王ってのは......」
「本当だ、在位一か月の短い期間だったがな!」
ユノは両膝を付く。
「君の20年もの執念、本当ならば王である、私が持つべきだったのかもしれない......」
「いえ......違います......陛下......」
ユノは泣き出す。
「私は......イオブの為ではなかった、魔導協会への復讐なんてイオブ復興には関係ない......私はただ、あの時の無念を晴らしたかっただけです......父の仇を取りたかっただけです......イオブの誇りなんて父から言われたことを守ったに過ぎない!」
ユノは泣きながらそれを両手で抑える。
「陛下......私は私怨で動いていたに過ぎないのです、称賛されるに価しないのです......私は私怨でイオブの民を犠牲にしたのです、国王陛下、グラントル=トロイオブ国王陛下、お許しください、お許しください......」
グラデルに頭を突いて許しを乞う。
「ユノ=ノエア、頭を上げなさい」
「はっはい......」
「私は君の行いの全てを肯定はしない、君は魔導協会への復讐の為、多くの者を殺そうとした、私はその事を許さない」
「っ......」
「だがさっきも言っただろう、20年間イオブの事を思っていてくれていたことを感謝していると」
「それは......」
「ありがとう、私はその事を本当に感謝している」
ユノはそのまま沈黙し
「あっありがとうございます......国王陛下......!」
その様子を静かに見ていたクラトス。
「グラデル、威厳あったなぁ」
「はっはっはっ!そうだろう!、しかしクラトス私がグラントル国王であることは皆に伏せていただきたい」
「なんでだ?」
「色々と面倒が起きると嫌だからだ、頼む」
「あぁ、わかったよ、代わりに飯奢ってくれよぉ?」
「はっはっはっはっ!仕方ないなぁ!」
この後どうするかを相談する。
「とにかく、ユノを連れて......」
「っクラトス、大丈夫か?」
クラトスはふらつく。
「ユノはグラデルが連れて行ってくれ......俺はそんな体力なさそうだ......」
「そのほうが良さそうだな!よしユノ、森を降るぞ!」
ユノを連れて森を降ろうとした時だった――
「――ユノ=ノエア......だな?」
森の中から異様な存在感の赤いマントと黒い鎧を装着した騎士が現れた。
「......陛下......どうやら、私はダメ見たいです」
「なっ何を言っている!」
黒騎士は魔法陣より大剣出す。
「話が早い、ユノ=ノエア、お前は魔導協会を裏切り、アーシア町でイオブの民と共同で禁忌魔法行使の幇助他にもまだまだある......闇ギルドの関わりもあるな?」
「待ってくれ、罪は認めた、もう殺す必要はないだろ!?」
クラトスは無理やり走って黒騎士を止める。
「どけ、クラトス」
「グァァ!」
黒騎士はクラトスを振り払いグラデルとユノに近づいていく。
「名前くらい名乗ったらどうだ、黒騎士!」
グラデルは魔力を絞り魔法を行使しようとする。
「ほう、威勢がいいな、だが負傷の身で私には勝てないぞ?」
「だろう!だがここで退く訳にもいかないのでな!」
グラデルは右手から光の剣『シャイニング・ソード』を出す。
「ちょうどいい、A級魔導士の力を見せてやろう」
「はぁ――!」
グラデルは光の剣を空振りし、光の刃を黒騎士に放つ。
「まずは遠距離攻撃、妥当だな『闇食い』」
黒騎士の体から蛇のようないくつもの黒い影がグラデルの光の刃を食らう。
「......これではだめだな、ユノ、お前も戦え、クラトス、お前もだ」
クラトスとユノにも戦う事を要求する黒騎士、クラトスは現在魔法を使う体力は残っていないが、それでも戦う策を考える。
「勘違いしてもらっては困るが、ユノを殺すのは決定事項だ、必死に抵抗して見せるがいい」
「――『アイス・トルネイド』」
黒騎士の周囲を氷の竜巻が覆う。
「クラトスと陛......グラデルって呼んでも......いいですか?」
「昔のように扱ってくれ、そっちの方が気が楽だ」
「はい......私は貴方達を回復させます――」
「――」
簡易的な作戦を決めた。
「しかし......これがC級......下らん」
ユノの魔法を大剣で叩き切った。
すると周囲にはグラデル、クラトス、ユノ、クラトスはユノの回復のおかげで魔法
少し使うことができるようになった。
「なるほど、包囲して戦うか、戦力で負けている以上そういう結論になる」
黒騎士は大剣を勢いよく地面に突き刺す。
「しかし甘い――『グランド・インパクト』」
地面を大きく揺らされて体制が崩れてしまった3人は計画していた行動通りに動けなくなってしまった。
「はっ!『シャイニングアロー』」
グラデルは光の剣を投擲し、光の矢を撃つ。
「『ダーク・ブラスト』」
右手で放たれたのは巨大な闇の魔弾、グラデルの光の剣と光の矢は容易に飲み込まれ――
「グワアアアッ!」
魔弾は爆発を起こしグラデルはやられてしまう。
「『竜激斬』――」
「――ふん!」
「グヴァッ!?」
クラトスの剣が当たる前に膝蹴りを腹に食わらせ
「はぁ!」
さらに横蹴りを食らわせ吹き飛ばされる。
「......」
「どうした、抵抗しないのか?」
「グラデル!クラトス!聞いて!」
ユノは察していた、これが最後の言葉になることを、精いっぱい悔いが残らぬように叫ぶ。
「――こんな事を託す私は最低です、だけどどうしても言っておきたい!セルミダ、この魔導士はイオブ戦争の時、逃げ惑うイオブの民を虐殺し父を殺した、セルミダ、この魔導士を私の代わりに殺してほしい!」
ユノは大声で叫ぶ。
「グラデル、私がいなくなった後、いつになってもいい!イオブ国を復興して!そこに私の墓を建てて......お願いします!」
ユノは魔法の準備をする。
「『氷結乱舞』」
ユノの体に氷の結晶が守るように舞う。
「『アイス・トルネイド』」
「『大切断』」
黒騎士の大剣はユノの魔法、結晶を無情にも貫通。
ズバッ――
ユノの胴体は真っ二つに切断された――
「......」
「待てえぇぇ!」
グラデルは黒騎士にとびかかろうとする。
「貴様ぁぁ!『シャイニング・ランス』」
「『ダークバン』」
「グァァァァ!」
黒騎士は容易くグラデルをねじ伏せる。
「ゲホ......ゲホ......」
クラトスはどうにか立ち上がる。
「お前は一体誰なんだよ!『サンダーボルト』!」
クラトスの雷も黒騎士の大剣が防ぐ。
激しい戦闘の場に現れたのはネレイアイだった。
「あぁ......ユノ様......」
ネレイアイは体を両断されたユノの死体に駆け寄る。
「......かわいそう......かわいそう......せっかく仲良くなれたのに......」
「ネレイアイ、そいつは裏切り者だ」
「......アテラズ様......かわいそうなアテラズ様......」
ネレイアイが黒騎士に言った、その名......それはクラトスにとって到底許容できることでなかった。
「――」
この黒騎士はユノを両断した、ありえない、ありえてはならない。
「おい!」
クラトス立ち上がり、黒騎士に近づく。
「お前、アテラズ=ドラレウスか」
否定してほしかった、記憶の中の父親、優しかった記憶もある、帰る頻度がすくなくなり、冷血な雰囲気を感じた時もあった。
「......なんとか言ったらどうだ?」
黒騎士は兜を取り、自らの顔を晒す。髪の毛はクラトスの深く渋い赤髪をより暗くした色、久しぶりの息子との再会で表情は何一つ変えていなかった。
「そうだ、クラトス=ドラレウス、私の名前はアテラズ=ドラレウスだ」
「――っ」
「ふん」
思わず殴りかかるがアテラズの手に拳を止められる、剣を使わなかったのはクラトスにも理性が残っていたということだ。
「おい、どういうつもりだ、何家に帰らず、殺し屋の真似事見たいな事やってるんだよ」
「仕事だ」
「じいちゃんの葬式来なかっただろ?なんでだ」
「......どうでもよかったからだ」
「――」
クラトスだってわかっている、身内で許されるのは拳までだ、剣を使えば殺し合いになってしまう。
「......お前母さんはどうしたんだよ、同じくらいの時期にいなくなったよな、今どこにいるんだよ」
「......」
「......」
「......ステンニアの事は知らない」
「――」
クラトスは剣を持とうとする。
「知らない......お前、自分の家族の何を把握してるんだ?」
「ネレイアイ、私は忙しい、こいつをどうにか黙らせろ」
「なんなんだよ、あんた......A級魔導士なんだろうが、力尽くで黙らせて見せろよ」
「......手加減すると思うか?」
「しないだろうな」
「『有象無象・刃の雨』」
「――クラトス様!」
アテラズはいきなりクラトスの上空に剣やナイフといった刃物など様々な武器が雨のように落とされる。
「うっ......」
クラトスは突如の事で両手で頭を抑える事しかできなかった。
両手は刃物が突き刺さり血が滴る。
「あっアテラズ様!謝って......」
「あぁ、お前は弱いな」
「――っ」
時間が経過し刃物は落ちてこなくなった。
「......ふっ......だいぶ静かになったな」
「よかっ......たな......」
「......クラトス様、動いてはいけないわ......」
クラトスは両膝を付く、刃物が体に刺さったまま動けなくなっていた。
「アテラズ様も......お待ちになって......」
「いや待たない、次に会えるのを期待しろ」
「――」
このままでは終われない、アテラズ、この男の態度が気に入らない。
「......」
歩いたり走ったりはもうできない。
「――っ!」
魔導の剣を投げる、先に刃を向けたのはそっちだ、当たらなくても構わないとにかく何かしたかった。
シュン!
「愚かな、その程度――っ!?」
クラトスにも予想外な事が起きた、クラトスは魔導の剣を投擲しようと、振りかぶり、勢いよく投げようとしたところ中間のひび割れていたところが分離、刃先を含んでアテラズに飛んでいく。
バキッ!
アテラズもクラトスが投擲してくることは読んでいた、だが剣が割れ、分離して飛んでくることは予想外であった。
「――くっ!」
アテラズは頭から血が流れる。
「――」
クラトスは静かに笑う。
「――っ!!!」
アテラズはクラトスに怒りの顔を見せると、その場を後にするのだった。
続く――
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