第41話 クラトスVSアクロテス 

ガルフ達はゲライトに連れらえて町の端についていた。


「魔界の門が開いたらこの町の住人は生贄になると......」


ガルフはゲライトに聞く。


「厳密にいえば、町と町にすむ人を使って魔物を召喚する話だねぇ」

「ゲライトはどうやってそんな事を知ったの?」

「アリスよ、聞いても教えてはくれぬだろう......」

「君が......アリスか......」

「?」


ゲライトはアリスを見つめると、今度は辺りの魔導士に話す。


「だがね、それはアクロテスの思惑通りに事が進んだ場合だ、別の魔導士がアクロテスが行おうとしていた魔法を妨害する、君たちは妨害した後に現れる魔物の討伐が仕事だ、いいね?」


ゲライトは端的に話すと何処かへと移動する。


「私のような老人も頑張ってるから、頼むよー!」


そういって走り去って行った。


「......とにかくやるべきことはわかった」


今この場にはガルフ、アリス、カベイア、オルイアその他魔導士がこれから現れる魔物の討伐にあたることになる。



◆◇◆◇



赤いマントと黒い鎧を装着した騎士は大剣を地面に突き刺す。


「魔法陣はお粗末だな、アクロテス自ら魔法陣を構築していたら危うかったが.......、魔界の門と町をリンクさせるという高度な技を無知な素人に頼まざる得なかったのは失敗だったなアクロテス」


黒騎士は大剣に魔力を込める。


「奴は魔法陣の中にはいないはず、ならば物理的に一番近い私が有利だ、魔界を強制的に繋げる禁忌魔法『デモンゲート』、妨害してやろう――『ジャミング・マギ』」


黒騎士の体から大剣に沿うように黒い魔力がアーシア町全体に浸透していく。


「――」


『ジャミング・マギ』でどうにか『デモンゲート』の発動を防ぎ、魔法の失敗を狙う。


「奴は......魔法陣の中心にいるわけにはいかない」


『デモンゲート』は魔法陣の内側にいるものを媒体にして召喚する魔法。

アクロテスは魔法の犠牲ではなく見る側で在りたいためだ。


「......魔界の門と町とを繋げる存在を見つける......そして――」


黒騎士は集中する、一体、一体、魔界を繋げる魔物を見つけていく。


「――っ!」


魔界の門を繋げようとするリンクを破壊し、魔物を町に出現させる。


「やはり、粗い......」


順調にリンクを破壊していく。


「っ......」


繋ぐ魔物がいなくなり、リンクが途切れる、途切れる瞬間に膨大な魔力が流れ出し、魔界の門と町のリンクが維持されていく。


「これは......アクロテスか......」


リンクを破壊して、すぐ修復されてしまう、これではキリがない。


「アクロテス......『ジャミング・マギ』に抵抗しながら壊したリンクを......修復しているのか......」

「ねぇ、大丈夫?」


ヒューシィが質問する。


「奴が本気をだしてきたらそれは魔力と肉体の開放を意味する、ならば奴の居場所はすぐにわかるはずだ。私はリンクを企む魔物を這いずりださせる事に集中する、ヒューシィお前は待機だ、私が言った事、使い魔で報告をしろ」

「わかったわ、優秀な魔導士として働いてみせてやるんだから!」

「......それとだ、私は集中をする、いちいち話をかけてくるな、わかったな?」

「はぁい」


黒騎士は大剣を両手で抑える。




エルマとゲライト、ネレイアイが試験会場でこれから起きる事に集中していた頃。


「報告だ」


現れたのは黒い猫だった。


「ヒューシィの使い魔だな、どうなんだ『ジャミング・マギ』の状況は」

「まず、『ジャミング・マギ』によって、リンクさせる役目を持った魔物がこれから沢山現れる、君たちの仕事はその魔物の討伐だ」

「それはわかっている」

「本来『デモンゲート』はリンクが途絶えれば発動できない。だが、アクロテスは途切れかけたリンクを魔力で修復し続けている、故に『デモンゲート』と『ジャミング・マギ』の拮抗状態は今もなお続いている」


ネレイアイは質問する。


「拮抗状態もずっとは持たないはずね......誰かがアクロテス様を倒さないといけないわね?......」


その言葉にゲライトは気に触れたのか注意する。

「ネレイアイ、彼はもう仲間じゃない、様付けはやめたほうがいい」

「あぁ.....そうだったわ......」


ネレイアイ哀しげな顔をして口を塞ぐ。


「話していいかな?」

「おっとすまない」


黒猫の使い魔にゲライトは謝り続けるように促した。


「アクロテスは今『デモンゲート』の修復『ジャミング・マギ』への対抗に意識を集中しているはずだ、そして奴は『ジャミング・マギ』に対して本気にならざるを得なくなるはず、それがチャンスだ」

「だろう、彼は普段は魔力や肉体を封印している、目立つから、しかし本気にならざるを得なくなれば別、本気になれば場所もわかるはずだ」

「わからなかったら、どうするんだい?」

「そしたら、残念!終わりだねー」


その言葉にエルマは怒る。


「そんな気軽に言う事か!」

「君の怒りは最もだ、しかしこれは本当なんだよねぇ」

「粗を探せばいくらでも見つかるわ......アクロテスさ......アクロテスがそもそも本気をだす必要がないと判断されれば......意味はないわ」

「確かに、ネレイアイの言う通りだ、エルマ君、完璧なんていうのは不可能なんだから」

「......理解はできるが、容認しがたいね」


エルマの態度にゲライトは思わず笑ってしまう。


「全く君という奴は」

「一体何がおかしい」

「いやぁ何でも~?」


エルマは黒猫の使い魔に言う。

「アクロテスの場所が分かり次第報告、頼むよ?」

「了解した」


黒猫の使い魔はとことこと歩いて行った。



◆◇◆◇




「――っ!」


アクロテスはどうにか、『ジャミング・マギ』の妨害を阻止しようとしていた。


「こっこれは、ジャミング魔法......」


ジャミング魔法、禁忌魔法に匹敵するとされるほどに危険で強力な魔法。


「くっ左手でだけでは......」


アクロテスは押されていた、地理的に町より遠いこと、左手だけであること、戦闘での魔力の消費、そしてイオブの魔導士は魔力こそ薬で高めたが、アクロテスほど優秀な魔導士ではなく、魔界と町をリンクさせる魔法陣そのものの出来は良くなかった、そのために容易に介入を許してしまっていた。


「――っ!?」


アクロテスは気が付かなかった、後ろに潜んでいた魔導士の事を。

「『竜激斬』」


『ステルスベール』、本来ならばアクロテスは見つけることは容易であった、しかし魔法陣に気を取られ気が付くことができなかった。


「ぐぶぁ!?」

「うおおおおおっ!」


クラトスはアクロテスの背中に剣を突き刺す隙は今この瞬間しかなかった。


「ありえない......ありえない......っ!」

「(まだだ......もう少しで貫ける......)」


アクロテスの体を完全には貫けていない、クラトスは全身全霊で魔力を込める。


「『放電』っ!」

「グアアアァ」


アクロテスは自身を雷で纏い、クラトスに反撃する。


「お前に構っている暇はない!どけぇ!」

「断るっ!」


クラトスは全身に赤黒い竜の魔力をさらに纏わせる。


「(もっとだ......魔力を一気に奴にぶつける)」


拮抗する中クラトスは体の内の燃えさかる魔力を吐く。


「『竜の爆炎』!」


クラトスは口から燃え盛る炎を至近距離でアクロテスに当てる。


「グアァ!」


明らかに効いている、アクロテスは反撃ではなく剣から抜け出そうと前に動く。


「っ!」


それにあわせクラトスも動く。


「小賢しい!ドラレウス!」

「まだだっ!『竜の爆炎』」

「おのれぇ!」


クラトスは逃すまいと攻撃を続ける。


「もういい!『デモンゲート』さえ成功させればここなど特定されても構わない!」

「――っ!?」


アクロテスは魔力を開放し、その勢いでクラトスは吹き飛ばされてしまう。


「っ......なんだ一体......」

「はぁ......はぁ......貴様......帰ってきたのか......」

「グラデルは?」

「知らん......死ぬような奴じゃないだろう......」


ゼオスは息絶え絶えの状態で歩いてきた。


「......奴の体が大きく......」


アクロテスの小柄であった体は徐々に大きくなっていく。


「ハハハッ喜べ!これで町の魔導士は私に気が付く!貴様らの奮闘の賜物だなぁ!?」


アクロテスは巨人のようにでかくなる、クラトスはその姿を見上げていると着けていたペストマスクは落ちていく。


「――」

「ハハハッこれをつけていなければ単眼というのは目立って仕方がない!」


アクロテスの顔には大きめが一つしかなかった。


「単眼......」

「貴様らと遊んでいる暇はない!」

「ぐああぁ!」

「ゼオスゥ!」


魔法ではなく、単純な振り払いにゼオスは吹き飛ばされる、クラトスはナシアーデの回復のおかげかどうにか避けることができた。


「ハハハハッ!この姿は久しいなぁ!?『魔力弾』」

「『ドラゴンスケイル』」


アクロテスから出された純粋な魔力の弾に装甲を固めるが容易に吹き飛ばされる。


「それにしても、我が魔法をジャミングするとはいい度胸だ」


アクロテスは左手地面に突き刺す。


「『竜激斬』」


クラトスはその隙に攻撃を仕掛けるが――

「小賢しい!死ね」

アクロテスの口から放たれた魔弾が放たれる――


――『サンダーボルト』


クラトスは雷を放ち応戦する――


◆◇◆◇


一方その頃


ガルフ達はアーシアの町を守るために魔物と交戦していた。


「不気味だ......」


地面から現れた紫色のスライムは赤い口と目のようなものがあり、何かを探していた。


「何をチンタラしている!早く攻撃を――」

ある魔導士が叫ぶと紫のスライムは周囲に液体まき散らす。


「――いやぁ!」


その液体に触れた魔導士は溶けていくと、一部の魔導士はパニックを起こしそうになっていた。


「皆冷静になるのだ!相手の動きを見よ!......こ奴らは見た目以上に侮れないぞ、アリス、我の近くをあまり離れるでないぞ!?」

「わかった......ねぇクラトスは大丈夫かしら......」

「なぁに心配するでない!我はクラトスとは十数年の付き合いだ!そんな我が言うのだから間違いないぞ?」


アリスはそれを聞くと笑みを浮かべた。


「しかし、こいつら多分人間だったんだよなぁ」


カベイアはそうつぶやくと近くにいたオルイアは聞く。


「カベイア、戦いたくないですか?」

「まさか、こいつらは平穏を脅かす敵だ、戦える」


紫のスライムは何かを叫ぶ。


「オオオオオォオ~!」


口から何かを吐き出す。

「オォオ~」

小さいが同じようなスライムだった。


「小さいが......同じ奴ですか......ここ以外にもいるらしいですね、手遅れにならないうちに急ぎましょう、『シルバーレイ』」

オルイアは銀色の光をスライムに当たる、するとスライムは灰となり消えていった。



「我も行かせてもらう!『オルトルバスル』」


光の光線を紫スライムに向け発射する。


「オオオォオ!『おーおお』」


紫スライムはシールドを張りガルフの攻撃を防ぐ。


「こいつ魔法も使えるのか......元は人間......う~む、このスライムはもしかしたら見た目は同じなだけで大分個体差がある可能性が......」

「バン、バン」


アリスは指鉄砲の形をして魔力弾を撃つ。


紫スライムは液体を周囲にまき散らす。


「おっと危ない!」

「カベイア!」

「「きゃぁ!」」


ガルフとオルイアはそれぞれアリスとカベイアを持って避ける。


「クソぉ舐めやがって『ファイアボール』」


カベイアは持たれながら炎の弾を紫スライムに撃ちこむ。


「おおおぉ」

「舐めるでない!『アイスロック』」


ガルフは紫スライムの上空から凍るの塊を落とす。


氷の塊はスライムに当たり倒れていく。


「倒し――っ!?」


しかしスライムは分裂をし始めてそして融合、また紫のスライムに変化した。


「再生するのか......」


他の魔導士も困惑していた時だった。


「『速攻乱舞』」


紫スライム突如現れた男に粉微塵に切り刻まれる。


「ここの魔物は弱いというのに何を手間取っている」

「お前は......」


オールバックで長髪の黒髪に赤い瞳に黒スーツ


「お前は......ガルフだったか?」

「ヘルダー、第1次試験ぶりではないか!」


ヘルダー=アッエス、第1次試験ではガルフと戦い、クラトスとも共闘した男。


「クラトスはいないのか?」

「行方不明というやつだな」

「そうか......」

「それよりどうして、ここに別の場所担当では?」


ヘルダーは指をで2か所指す。


「あっちとそっちの方角で魔導士が押されている」

「なぬ!?」

「俺はゲライト......という魔導士に頼まれあちこちで戦況の確認とサポートをしている」


ヘルダーは言うべきことを言ったのかすぐさま立ち去ろうとする。

「急げ、今は端だけで被害は済んでいるが、すぐ中央に潜入されるぞ」

そういってどこかへと飛んで行ってしまった


「よし、では我は――」


ガルフはそれぞれの魔導士に行く場所を言い、どうにか被害を抑えようとしていた。


「――っ!?」


丘の上にある森から凄まじい魔力を感じ取ることができた。


「いっ今のは......?」


他の魔導士達も感じていて怖気づいてしまう。


「さぁ早く町の中のスライムを倒しに行ってください!」


オルイアはできるだけ急かし、気にさせないようにさせた。


「ガルフ、今の魔力、やばかったよな......もしかしてアクロテスの......?」

「かもしれない......」

「だったら、私――」

「いや、ならない」


ガルフとカベイアが話している中、アリスはその場所へと行きたがった。


「どうして?クラトスがいるかもしれないのよ?」

「アリスが傷ついたら、クラトスは悲しむぞ?」

「私はそんなに弱くないわ」

「だめだな、勝手に行ってクラトスに怒られても知らんぞ?」


ガルフは何とかアリスを説得して思いとどませる。


「とにかく、町を守るのだ、そうしたらクラトスも喜ぶぞ!?」


こうしてガルフ達の戦闘は続く。




黒騎士の大剣はひび割れていく。


「――アクロテスが力を開放した」

「それって......」

「急いで伝えろ、アクロテスは力を開放した、妨害は長時間は続かない」


ヒューシィは黒猫を呼び抱っこして黒騎士が言っていた事を伝える。

「お願いね?」

「了解した、すべて伝えよう」





試験会場ではエルマ、ゲライト、ネレイアイで話し合いが行われていた。



エルマは神妙な面持ちで魔導士達に説明する。


「――先ほど膨大な魔力が西北の森で確認された......」



「ヒューシィの使い魔からも連絡が来た、アクロテスが力を開放したと。う~ん間違いなく西北の森にアクロテスがいるねぇ」

「......ネレイアイは行けるか?」


エルマはネレイアイが一番の適任だと考えた。


「う~ん、ネレイアイは行けるかね?、実力はともかく......あまり時間をかけないでね?」

「えぇ......ふふふ......もちろん......」


アクロテスは現状誰かと戦闘中であることだけはわかっていた。


「ネレイアイ、アクロテス=ヘスペーとユノ=ノエアの捕縛を頼む、場合によっては殺しても構わない」

「えぇ......エルマ様......きちんと捕まえて......試験続けないとね......?」

「あぁ、そうだね、君のか・く・し・ご・と、には散々な目にあった、君には名誉挽回をしてもらいたいね」


エルマは嫌味たらしく言う。


「ふふふ......そうね......行ってきます......」


ネレイアイは静かにカーテシーをする。


「ご無事でネレイアイ、私は町が落ち着いてきたら、助太刀に向かうとするよ」

「あぁ、まぁせいぜい頑張りな」


ゲライトとエルマは声をかけ、ネレイアイは水を纏うと消えていった。



◆◇◆◇



その頃クラトスとアクロテスは攻防戦を繰り広げていた。



「おのれ......貴様はなぜそこまでして戦う?一体何のために戦う?無意味だ『縛り根』」


地面の下より根がうねうねとクラトスを縛り付けようとするがそれを避けながら近づいていく。


「俺は......最高な魔導士になるためだ」

「最高?ハハハハハッ下らない、何が最高だ!ガキの夢だそんなもの、あきらめろ!『魔力弾』!」


口から魔弾を吐き出してくるのを避けながら地面の根を避ける。


「人の夢を勝手に否定してんじゃねぇよ!」

「事実だ!今貴様が必至こいて戦っている私はなぁ!右手はなく、左手を封じ、膝をついて、仕事の片手間で戦っているんだよ!だというのに貴様は攻撃を当てられていないではないか!『地雷』」

「――しまっ!」


地面が紫色に光り爆発する。


「グワァァァ!」


クラトスは高く飛ばされ地面に落とされる。


「しかし最高な魔導士だぁ?弱い上に甘いとはどこまで救いようがない馬鹿なんだ!魔導士社会はそんなに甘くない!奴らは非情だ、冷血だ、残酷だ、奴らのレベルに

貴様は到底なれない、なりきれない!」


アクロテスは単眼を見開いて語る。


「いいか!?弱い魔導士、甘い魔導士なんてのは強い魔導士の糧にされるんだよ!

私は知っている!甘い魔導士はなぁ!勝手に信じて裏切られるんだよぉ!

貴様はそういう類の人間だ!勝手に信じて裏切られ失望する、そういうなぁ!」

「っ勝手に言ってろ......」


クラトスはどうにか立ち上がる。


クラトスは何がどうなっているのかは理解できていない、なぜアクロテスが左手を地面に受けているのかも、だが重大な問題が起きてそうせざる得ない状況になったのだと理解した。


「アクロテスの後ろには......行けないな、奴の『縛り根』『地雷』『魔力弾』が行かせないように邪魔をする」


ならば遠距離で奴の左手を狙う。あそこまでかたくなに左手を地面につけているのにはそれだけの意味があるはずだ。


「(魔力を圧縮して、奴の左手に飛ばす)」

「ハハハハッ何を考えている、私の左手でも狙うか?残念ながらそんな事はさせない、『地雷』っ『縛り根』」

「――っ」


地面に気をつけながら走る、今のアクロテスの攻撃はほとんどが地面からの攻撃――

「甘いっ!」

「っく」

アクロテスの魔弾をどうにか避ける。


「うおおおおぉ!」


口から魔弾が放たれる――


それを左に避けるて近づく――


地面にからの『地雷』は前に転がるように飛び――


『縛り根』を剣で回し切りにする――


「――っ!」


アクロテスは近づいてきたクラトスに魔弾を撃つがさらに左に避けられ――


近づいてくる――



「――」


クラトスから零れた血に魔力を込める。


「竜血結晶」


数多の赤い結晶はアクロテスの左腕を中心に全体に襲い掛かる。


「――」



両腕が使えない状態での戦いには無理があった、アクロテス自身それは理解していた『ジャミング・マギ』によりリンクを無効にされ、押し戻されたイオブの魔導士。

アクロテスは戦闘中、その補填を自身の魔力で行っていた、切れかけたリンクをつなぎとめていたのだ。


「――っ!」


今までの自身の時間を、労力を無駄にするわけにはいかない、だからこそリスクを承知で力を開放したのだ。もう少しで完成であった禁忌魔法『デモンゲート』、きっと失敗する、両腕があれば勝てた、邪魔されなければ『ジャミング・マギ』に押し勝てた。だが目の前の男に狂わされた。




「ゆるさん......ゆるさんぞぉぉ!クラトス=ドラレウスゥゥゥッ!!」




左腕を地面から放し――


「『雷光鉄槌』」


左手を巨大な雷を纏ったハンマーにして『竜血結晶』を破壊しクラトスをたたきつける。


「死ねぇ!ドラレウス!!」

「がっ......」


クラトスは何とか剣で押しつぶされないように耐える。

「死せよ!ドラレウス!!」

「クソォォ」


クラトスは潰されまいと剣と両足に力を入れる。


パキっ


「(まずい、魔導の剣がひび割れていやがる......)」


「死せよ!死せよ!!」


メキメキッ


「『ドラゴンスケイル』っ!」

「まだ抵抗するかっ!『放電』」



メキメキバキッ



目を瞑り耐える――



もはや何の音かわからない、剣のひび割れた音か、アクロテスの攻撃を抑え続けた地面が沈下しているのか、魔法の音なのか、自身の体の軋む音なのか

それでも力は絶対に抜かない――



「うおおおおおぉ!」




目を瞑り耐え続ける――




「――っ?」

「うおおおおぉ!」




目を瞑り耐える――




「――トス様?」

「――んっ?」



目を開けると――


水色の長髪の妖精が黄色い羽根で羽ばたいていた。


「......ネレイアイ?」

「クラトス様......ご無事でなにより......」


予想外の人物にクラトスは戸惑う、自身が目を瞑り叫んでいる間にアクロテスは距離をとり、近くにネレイアイがいた。



「アクロテス......いえ、アクロテス様......お久しぶり......」


ネレイアイは静かにカーテシーをする。


「様を付けるなと言われて......様を付けないように気を付けていたけど......ふふふ......駄目ね......」

「ネレイアイ=ナイナイア......君が......来たのか......」


アクロテスは固まってしまう。


「ネレイアイ!他にもいるんだ!」

「クラトス様......他には誰が......?」

「ゼオス=マルウォルス、グラデル=トロンダそしてナシアーデ=パナケ......」

「そう......ここにいたのね......」

「あっ後ユノ=ノエアが......」

「ふふふ......」


クラトスはユノが裏切っていた事を言おうとしたがその口を人差し指でふさがれる。


「大丈夫......わかってるわ......」


静かに笑みを浮かべてネレイアイはアクロテスの方を見る。


「アクロテス様......いなくなってから10年......わたくし悲しかったわ」


アクロテスは見るからに動揺していた。


「私とて好きでいなくなったわけじゃない、魔導協会貴様らの方針に納得できなくなっただけだ」


ネレイアイはクラトスの耳元で囁く。


「クラトス様......早くこの場から逃げて?」

「......」

「大丈夫、わたくし強いもの......」


静かに笑みを浮かべるネレイアイ。


「......ユノを......探してくる......」

「......ありがとう......」


クラトスはそう言ってその場から去り、ユノを探しに行く。


「ねぇ......アクロテス様――」

「『メンタルプロテクト』」


補助魔法をかけ、ネレイアイに近づいていく。


「『雷光鉄槌』」


ネレイアイとアクロテスの戦いが始まろうとしていた。




◆◇◆◇




「――っ!」


黒騎士の大剣は壊れてしまう。


「ヒューシィ、戻っているか」


黒騎士に呼び出されたヒューシィは急いで駆け寄る。


「何かあったの!?」

「アクロテスの『デモンゲート』のリンクは全て破壊した」

「なら......!」


ヒューシィは一瞬喜ぶ。


「だが奴は不完全なリンクの状態で強制的に魔界の門に繋がり、無理矢理に門を引っ張り出すようだ、一瞬でそれを行った......早く皆に知らせろ、禁忌魔法『デモンゲート』は不完全な状態で発動する危険ありと......」


黒騎士の言葉に動揺するが落ち着きを取り戻し、知らせた後どうするのかを聞く。


「この後?私の知ったことではない、今回の仕事は対象の始末だけだ、妨害はネレイアイの個人的なお願いを聞いてやっただけだ、後は勝手にやるだろう」


その言葉に不信感を覚える。


「町の人はどうするの?」

「これから起きる出来事は全てエルマ達の責任だ」


その言葉に失望を覚える。


「全員死んだら?」

「運が悪かっただけだ、対象も一緒に始末できたとポジティブに考えろ」


その言葉に嫌悪感を覚える。


「わかった、次から貴方とコンビ組むことはなさそう、貴方......最低な魔導士ね」

「......次からではなく、今からいなくても構わない」

「......そう」

「あぁ、手綱役を買って出たのは私だったか、これではまずい、教育しないとな」


突然黒騎士はヒューシィの腹を膝蹴りした。

「ウッ!?」

突然の事で痛みと思考がごちゃごちゃになる

「ゲホ......ゲホ......」

両膝をついてお腹を支える。


「ちょうど良い、最後に仲間として教えておく」


バキッ


「いっ!」

後頭部を蹴られうつ伏せにされる。

「あっ......あ!」


ヒューシィは頭を抱えながらうつ伏せで泣き出すが無視して話を進める。


「優秀な魔導士というのは魔法だけではなく肉体の丈夫さも込みで言うべきだ、前は仲間として口を慎んでいたが......」


ガクガク震えながら聞く。


「大体......お前の力は父親により継承された力に過ぎない、優秀......という言葉の重さを自覚しておくべきだ」

「......ごめんなさい......」

「言っておくが君はたいして強くない、強い奴というのは......癪だがアクロテス、セルミダ、アーペ辺りだろう」


ヒューシィは謝る、何もわからないがとにかく謝る。

「ご......ごめんなさいっ......ごめんなさいっ!」

「お前は父親にも母親にも見切りをつけられた子供だ、そして魔導士社会をお前は親の才で生きてきただけに過ぎない、まともに教育もされなかった、知らなくて当然だ謝ることはない」


黒騎士はヒューシィを見下ろす。

「これでわかったな......私はお前より強い」

「は......はい......わかりました......ごめんなさい......わかりました......」

まるで勝ち誇ったようにヒューシィに語り掛けた。




うつ伏せになり、謝りながら泣くヒューシィを背に

「......仕事の時間だ......」

黒騎士は町の中を歩いていくのだった――



続く――




※作者コメ

ネレイアイ=ナイナイア

髪型をツインテールからロングヘア―に変更します。過去話も修正しておきます。

言動と髪型があっていないと思ったためです、申し訳ありません。

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