第40話 VS『悪魔の腕』&エルマへの説得
急いで森を降っていくナシアーデと白馬ネウス。
「早くしないと、みんな、死んじゃう!」
「ヒヒ~ン!」
ネウスも理解しているのか颯爽と森を駆け抜ける。
「(でもおかしい......この森はそんなに広くないはず......)」
ナシアーデがネウスに乗りながら考えていると。
「――っ!?『サンダーボルト』」
ナシアーデは横の森に雷の魔法を放つ。
「ギシシシ、バレたバレた......」
「何よ、アレ......」
黒い腕のようなものに大きい口、到底まともな存在とは思えなかった。
「追手という事かしら、ネウス気を付けてね!」
「ヒン!」
「『サンダーボルト』」
ナシアーデは魔法を撃つがそれでも腕はネウスを追いかけ続ける。
「我、名『悪魔の腕』。ナシアーデ=パナケ、お前を捕まえる、ギシシシ」
「わざわざ、自己紹介どうも、でも私はあんたなんかに捕まってやんないから!」
ネウスのスピードを上げるが『悪魔の腕』はついてくる。
「(だめ、撒けない!)」
「ギシシシ、『消化液』、ペッ!」
「っ!ネウス避けて!」
『悪魔の腕』から吐き出された紫の液体に嫌な予感がしたナシアーデはネウスに避けるように命令したものの時すでに遅し、ネウスの腹に当たってしまう。
「きゃあああ!」
ネウスは転びナシアーデも飛ばされてしまう。
「うぅ痛っつ......ネウス、大丈......ひっ!?」
ネウスを見ると体の大半が溶け出して、内臓や骨が見えてしまっていた。
「っネウス......ごめんね......」
ネウスは召喚獣であり、永久の別れではない、しかし痛みや感情がある召喚獣であった。
「死んだ死んだ、『縛り根』」
「っ!」
根っこを操りナシアーデを縛り上げようとする『悪魔の腕』を間一髪の所で避ける。
「連れてく、捕まえる、だからここで止まれ、ナシアーデ=パナケ」
「止まらないわ、あんた倒して、森抜けて、みんな助けて見せるんだから」
「ギシシシ!」
――『悪魔の手』はナシアーデにとびかかる
「闇よ去れ!『閃光』」
――指先から『悪魔の腕』へ光の玉を放つ。
――玉はナシアーデからある程度離れると激しい閃光が巻き起こる。
ピカッ!
「ギシッ!?」
激しい光に『悪魔の腕』の動きは止まる――
ナシアーデはその隙を狙う――
「『雷光落とし』」
光り輝く雷は『悪魔の腕』に降りかかる。
バァァァンッ!
「これで......少しはダメージを......」
「ギシシシッ......弱い弱い、お前は勝てない......」
「......『雷光落とし』、『雷光落とし』、『雷光落とし』!」
ナシアーデは畳みかけるように魔法を撃ち続ける。
「なんで効いてないのよ......っ!」
しかし、『悪魔の腕』に魔法が何度当たってもダメージを受けているようには見えなかった。
「ギシシ、無駄、『縛り根』」
「っ!」
ナシアーデはキリがないと判断し、『悪魔の腕』の魔法を避け森を降る。
「ギシシシッ、逃がさない『木々の鞭』」
――シュルル!
「――いっ!」
逃げようとする中、『悪魔の腕』の魔法により、木々から延びる枝がナシアーデの全身を鞭のように痛めつける。
「いっ......止まらない、止まるもんか......」
――走る
――走る
右腕で目を守りながら、鞭のように痛めつけてくる枝の中、体中を擦り傷だらけにして走り続ける。
「『縛り根』」
「しまっ――きゃっ!」
目を守りながら走っていたため『悪魔の腕』の魔法に足をとれてしまう。
「――『サンダーボルト』」
「――」
「――っ!」
ナシアーデは後ろに迫る『悪魔の腕』に向かって雷を放つが避けられ、さらなる根っこに腕を縛られてしまう。
「こんな根っこ今すぐ切って......」
ナシアーデは両腕を力いっぱい引っ張るが切ることはできない。
「ギシシシッ捕まえた、捕まえた」
ナシアーデは両腕を縛られ近くの木に吊るされてしまう。
「あっあんた、なんで私を殺さないの?」
ナシアーデはなぜわざわざ自信を捕まえる手間をとるのか疑問だった。
「ギシシシッ、お前、鎖壊したか?」
「......」
「上位魔導士を捕縛するための魔道具、お前壊した、興味深い」
じりじりとにじり寄って――
「お前逃げる、足が邪魔、お前の足をとる!――」
――ナシアーデの足の足を掴もうとするが
「――!」
「がっ!?」
ナシアーデはとびかかる『悪魔の腕』を右足で踏み左足でさらに抑えて何とか止める。
「がっががっ!?にっ人間如きが......足で......止めた!?」
「――っ!」
しかし、『悪魔の腕』に触れていたブーツは徐々に腐敗していく。
「むっ無駄、お前の靴と足を腐らせる!」
「――っ!」
『悪魔の腕』はナシアーデの両足を持ち上げようとするがそれを抑え続ける。
ビキビキッ
「――いっ!」
足から嫌な音が聞こえる。
「無駄な足掻き」
「無駄――じゃない!」
しかしブーツは腐敗が進んでいき、自身の足にまで到達するのは時間の問題であった、さらに『悪魔の腕』は人間に踏まれている屈辱に抵抗するため両足力づくで持ち上げようとする。
「屈辱、屈辱!『縛り根』!お前の足を引きちぎる!」
地面より現れた根はナシアーデの足に向かい伸びていき、ナシアーデのスカートの下から太ももに絡みついていき、圧迫していく。
グッグッ
「あっああぁ!」
「足を壊して、連れていく!」
ナシアーデは思わず叫んでしまう、足の激痛と擦り傷の痛みが休みなく襲い掛かる。
「ギシシシ、いつまで、我を抑えられるか」
しかし放せば、『悪魔の腕』は容易にナシアーデの足を破壊する、だからこそナシアーデは今の苦痛を耐え続ける。
「絶対に知らせて見せるから......みんな!」
全員を助けるために。
◆◇◆◇
黒騎士は誰もいない町の中を歩いていた。
「ねぇネレイアイに頼まれたことって、何?」
「ヒューシィ、お前の魔法が役立つ時が来たぞ」
紫色のゴシックドレスを着た黒髪の少女はヒューシィと呼ばれた。
「やったわ、優秀な魔導士の魔法の実力、見せつけてやるんだから」
「ヒューシィ、私は今回の依頼にお前の魔法は欠かせないと考えている」
ヒューシィは笑みを浮かべる。
「そうね、貴方にはできない芸当を私はできるもの、フフッ見直した?」
「......口に気を付け方が良い、獲得できない魔法が存在することは屈辱的だと考える魔導士がいる事を」
「はぁい」
「......急ぐぞ......時間がない」
「あっ速いわ、少し待ってってぇ!」
黒騎士は進んでいく。
◆◇◆◇
ガルフ達はオルイアに連れられてエルマの休む部屋に来ていた。
エルマは椅子に座りながら机に肘をつく
「......それで......みんなぞろぞろと何用だい?」
「エルマさん、休んでいる所をすみません、皆さんがお話ししたいことがあるようなのです、お話を聞いてはもらえませんか?」
エルマは中指を机にコツコツと叩き、目の入ったアリスに対して口を開く。
「アリス、君はなぜ平然とここにいる」
「私はクラトスが心配だっただけですもの、エルマ?」
「僕の複雑な立場もわからずに......」
エルマは少し考え。
「......まぁいい、わかった、話を聞こうか」
ガルフ......そしてカベイアは前に見た出来事を話した。
「......」
「エルマさん......これが事実ならば、試験どころじゃない」
オルイアはエルマに言う、しかしエルマは深く考え、そして
「それが......どうしたんだい......?」
「......今なんと?」
エルマの答えにオルイアは唖然としてしまう。
「どれがどうしたと言ったんだよ」
バンッ!
その言葉にオルイアは机を叩く。
「貴方はこの重大さを理解していないのか!彼らが言うように町の端での出来事、そしてカベイアが言っていたアクロテスの件、このまま続けるにはあまりに危険すぎる!」
「君は冷静になるべきだ!アクロテス?あぁそれは重大だ、だがそいつはここで何をするつもりなんだ?何もわかってない、だろ?。過去にもアクロテスと思しき目撃例はあったさ、しかし結局は誤報だった」
反論するエルマにガルフはクラトスの失踪について問いかける。
「クラトス......あぁあの男か、失踪とは言うけど、今日いなくなっただけだろう?」
エルマは淡々と答える中、カベイアはエルマに強い口調語る。
「じゃあゼオスはどうなんだ!ゼオスは私が分かれてから、使い魔で探してるのに居場所がわかってない、ナシアーデもだ!何かあったて思わないのかよ、エルマ!」
「あぁ、思わないね!ゼオスはもともと僕に反抗的だった、こうやって僕を困らせたいんだよ、ナシアーデも僕の事嫌ってたんじゃ――」
その言葉にカベイアは反論する。
「嫌ってなんかいなかった!お前の目は節穴かよ!だから漏洩事件なんて起きるんだよ!」
「だからその調査を君達に頼んだんだろうが!」
エルマへの説得は平行線を突き進む中――
「エルマ様......その方達の言っている事は本当よ?......」
「――っ!」
ガルフ達が振り返ると後ろには水色の髪をし黄色羽のついた妖精がいた。
熱烈であった場は一瞬にして静寂に包まれる。
「......ネレイアイ、君か......」
エルマは少し驚いた表情をするが落ち着き、ネレイアイに問う。
「君は知っていたのか?」
「全部を知っていたわけではないわ......もちろん今回の事は偶然知れただけ......わたくしは......ある魔導士がアクロテスと接触しているという真偽の調査を依頼されて......だからわたくしは――」
エルマはネレイアイの話をすべて聞かずさらに問いかける。
「アクロテスはこの近くにいると......もしかしたら何か企んでいると......君は知っていたのか?知っていてそのことを言わずにいたのか?それを知っていて君は今の今まで平然と過ごしていたのか?」
「エルマ様......わたくしは依頼された仕事をこなす必要があった、それにこの事を貴方に伝えたら、余計な気苦労をさせてしまうわ......貴方が試験官として憂いなく頑張れるように......前任者のアグ様にだって頼まれていたから......わたくしは全力でサポートするつもりだったのよ?」
「......裏切り行為は本当で......見つけたのか......?」
「ユノ=ノエア様......彼女はアクロテスと繋がっているわ......」
「なんだってっ!」
エルマだけでなくその場にいた人全員が驚く。
「まっまさかユノさんが!?」
オルイアはまさか試験官の一人が裏切りを働いていたとは思っても見なかった。
「......エルマ様......事態は一刻の猶予もないわ......わたくしは協力者を募ってきたから彼らと一緒に――」
「裏切り者......ユノ=ノエアにその可能性がある事を......そんな大事な事をどうしてもっと早く言わなかった!!」
エルマは怒りだす。
「......今日ユノの使い魔から連絡があった、グラデルが保有していた魔道具が盗難にあったと......僕は引き続きユノに頼んだよ、得体のしれない魔道具を独断で保管していた......そんな魔道具を盗まれたらユノ達の責任だと......わかるか?僕は愚かにも敵に捜索を頼んでいた事になる、きっとあの魔道具もアクロテスが必要だったんだ......クソがぁ!」
バン!
エルマは机を蹴る、ここまで怒るエルマを周りは見たことがなかった。
「エルマ......」
アリスは心配そうに見るがエルマは怒りのまま語り続ける。
「ネレイアイ、僕は信用ならなかったのか!?もし話してくれていたら、あんな愚は犯さなかった、アクロテスが絡んでいる可能性があると知っていたら、他の優秀な魔導士を送る事もできた、君に相談だってできたんだぞ!?」
「......」
「ネレイアイ=ナイナイア!君は最初からアクロテスが絡む危険性を把握していた!なら最初から責任者の僕に言うべきだった!!......どうして言わなかった......君にとって僕は信用ならないのか?ネレイアイ=ナイナイア......」
エルマは崩れ落ちる、そんなエルマにネレイアイは近づいていき
「あぁ、かわいそうなエルマ様......」
そう言いエルマの頭を撫でる。
「(かわいそう......そう答えるのか)」
ガルフはエルマの事もネレイアイの事、関係性もわからないし、魔導協会の事情もあるのだろう、しかし違和感を覚えた。
「(かわいそう、ではない、謝るべきだ......)」
思うにエルマはネレイアイに裏切られた、裏切られたと思ってしまった、彼は彼なりに魔導士試験に情熱を燃やしていたのだろう、しかし、おそらく、確実に、彼は今後魔導士試験に係わることは難しい、漏洩、魔道具の盗難、試験管の裏切り、アクロテス、結局彼はすべてにおいて相手の掌に踊らされていた。そしてそれらはネレイアイが話してくれていれば、すべてではなくとも一部は防ぐことができたはずだった。
「(言えない事情があったとしても......)」
謝るべきだ、ガルフはそう考えた。
エルマは冷静になっていくと魔導士が一人入ってきた。
「魔導協会試験管代表エルマ=イアン君、過ぎ去った事を悔いても何も変わらない、ただこれだけは言っておきたい。ネレイアイは彼女なりに奮闘していた、それだけは頭に入れておいておきなさい」
茶色の紳士服のちょび髭の男はエルマを鼓舞する。
「......別に気にしてないさ......彼女が身勝手なのは知っていた......、......それよりゲライト、何かあるのか」
ゲライトは周りを見ながら他の魔導士にも説明する。
「端的に言えば町が魔界の門とリンクされ、そこから魔物が現れる」
「アクロテスの仕業か?」
エルマは聞く。
「そういうことだ、細かい説明は後でしよう、私は老体に鞭を撃ち他の魔導士に声をかけておいた、君たちはこれから現れる魔物と戦うんだ」
怒涛の勢いで説明するゲライトに混乱し始める。
「とにかく急いでほしい、一般人に避難させる時間はない、全力で被害を最小限にする」
ほとんどの者はわからない、しかし只事ではないことだけは把握した。
◆◇◆◇
「っ......」
「まだ耐える、頑丈、頑丈、でも無意味」
ナシアーデはどうにか押さえつけていたが両足はもうすでに限界に達していた。
「(靴はもうだめ......)」
ブーツは腐敗が進み崩れていく、体の疲労も痛みもピークに達していた。
「力、弱まった、早く足壊す」
「――っしまった」
既に足の下から抜け出してしまった『悪魔の手』
「『縛り根』より強く縛れ、手も足もちぎれてしまえ」
「あぁぁぁっ!!」
両足両手が今までにないほどの力で縛り上げられる、擦り傷からは血が零れていく。
「死ななければ、問題ない、苦しめ」
「あぁぁ!(痛いよぉ......誰か......助けて......)」
思わず思ってしまう、助けてほしい、と。
「ギシシシシシシッ!泣いてる泣いてる、泣きわめけ!」
「ああああ!」
「クラトス=ドラレウス、ゼオス=マルウォルス、グラデル=トロンダ、みんな殺してやる、お前にその死体を晒してやる」
「ふざっけないで......あいつらが負けるわけっ......」
「強がり、強がり、ギシシシッ、弱い奴は滑稽だ」
「あぁぁ!」
悔しくてやまらないナシアーデをいたぶって喜ぶ『悪魔の腕』
「ギシシシッ、滑稽、滑稽、こっ――っ!」
『悪魔の腕』後方より魔力の反応を確認して振り向く。
「......?」
ナシアーデは何事か理解できずに困惑していると。
「随分好き勝手してやがるな......?」
クラトスが立っていた。
「っ!クラトスっ!」
ナシアーデは思わず笑みを浮かべる。
「『縛り根』」
「『サンダーブレイド』!」
クラトスに襲い掛かる根を叩き切る。
「ギシシシッ、お前、生かす必要ない!『縛り根』」
襲い掛かる根を避けてそのまま突撃していくいくクラトス。
「『消化液』ぺっぺっぺっ!」
「クラトスっ!それに気を付けて!」
「っ!」
クラトスは紫の液体を避けつつ『悪魔の腕』に近づいていく。
「『サンダーブレイド』!」
「ギシャ!」
「なっ!?」
『悪魔の腕』はクラトスが剣を振ろうとした瞬間にとびかかってきて、剣を落としい、そのまま倒れてしまう。、
「くっくそ......力が強えぇ」
クラトスは両手で『悪魔の手』を何とかつかみ、顔を掴まれるのを防ぐ。
「ギシシシッ、ペッ」
「危っ」
『悪魔の腕』は至近距離での消化液を飛ばしてくる中、クラトスは頭を左右に動かして避ける。
「『ドラゴンブレス』」
クラトスは同じように至近距離で『悪魔の腕』に赤黒い魔力のブレスを吐く。
「っ!『ドラゴンクロウ』」
さらに畳みかけるように『悪魔の腕』を持ったまま赤黒い魔力を纏った腕で力いっぱい握りつぶす。
「ギシッ『縛り根』......っ!」
「うおおおおおぉ!」
根はクラトスの腕を縛り付けるが力づくで『悪魔の腕』を握りつぶしていく。
ブチチッ!
「っ!――......」
「っ?たっ倒したのか......?」
『悪魔の腕』の力がなくなり始めると『悪魔の腕』灰となってクラトスに降りかかる。
「ギャァ!?ケホ......最悪だ......」
クラトスはどうにか立ち上がりナシアーデに近づいていく。
「ナシア......ボロボロだな......」
「あんたもね......」
「今ほどいてやる......」
ナシアーデを両腕を縛り上げていた根は『悪魔の腕』が倒されたからか容易く切ることができた。
「......他のみんなは......?」
「今アクロテスと戦っている」
「クラトス貴方が来たのは、私が弱いから心配しに来たんでしょ?」
「......」
ナシアーデの質問にクラトスは沈黙する。
「言わないくてもいいわ、自分でもわかって......いっ!」
ナシアーデは立ち上がろうとするが立つことができない。
「......その様子だと、一人で森は降れなそうだな......」
「......だっ大丈夫......これくらい......」
ナシアーデは近くの木を使い何とか立つ。
「その足じゃ無理だろ?」
クラトスはナシアーデを支えようと手を差し伸べるが
「クラトスは戻ってゼオス達と一緒に戦って」
ナシアーデは拒否した。
そしてクラトスに気になっていた事を質問する。
「ねぇ、貴方はいつ追ってきたの?」
「ついさっきだが?」
ナシアーデの不安は確信へと変わる。
「私はずっとネウスに乗って降ってた、普通なら貴方が追い付くわけがない」
「確かに、言われてみれば......」
「多分この森、もしくは一部は魔法のような物で囲われてるんだと思う......」
「......だから、あいつ......あんなに余裕気だったのか......」
これにより、アクロテスとユノをどうにかしなければ、森は降れないことが分かった、クラトス、ゼオス、グラデル、ナシアーデの4人で何とかしなければならない。
「だから森には降れない......アクロテスの所へ戻って早く戦ってきなさい!私の事は放って置いていいから......」
「そんな状態でもう一度魔物が来たらどうするんだよ!」
「私一人が犠牲になるくらい、町の人が救えるなら構わないわ!」
「良い訳がないだろ!」
「じゃあ!クラトスは私を庇いながら戦えるの!?」
「っ......」
クラトスは反論できずに沈黙する。
「クラトス、顔貸して......『ヒール』」
ナシアーデは座りながら、クラトスに回復魔法をかける。
「微々たるものね......」
「ナシア......」
「クラトス、私は大丈夫......」
ナシアーデでは静かに微笑む。
「『ステルスベール』......これで少しくらいは相手に感知されない......これ以上はもう無理ね......魔力......いえ、私の体力がないもの......」
ナシアーデはクラトスに補助魔法をかける。
「『悪魔の腕』は言ってたわ、私を連れていくって、だから殺される事はない、心配しないで?みんなを助けてあげて?」
「っナシアーデ、死ぬなよ!」
「死なないって......出血はそこまでひどくないもの......」
「......行ってくる......」
クラトスはその場を後にする、一回ナシアーデを心配そうに振り向くがその後は走り去って行った。
◆◇◆◇
「――っおや」
アクロテスは明らかに右手を意識した。
「どうした、貴様の右腕、フッ......もしや殺されたか?」
ゼオスとグラデルは息切れをしてボロボロの状態であった。
「私はどうやら彼らを過小評価していたらしい」
「残念だったな!これでナシアーデは町に計画を知らせる事ができる」
「計画を知らせる?ハハハッ残念ながらそれは無理だ!」
グラデルの言葉に笑いながら左腕に雷を溜める。
「君たちに教えてあげよう、この森は魔法で周囲を囲っている、私の許可なき者は外には出られず、外部からは目視どころか魔力の感知すらできない!」
アクロテスは雷を左手から放つとゼオスとグラデルは左右に避ける。
「滑稽だよ、最初から無意味なことに全力を出して......なぁ!」
「――っ!」
ゼオスは防御するがアクロテスの殴打に吹き飛ばされる。
「『シャイニング・ブレイド』」
グラデルは光の剣でアクロテスに切りかかる。
「無駄ァ!」
「くぁっ!」
しかし光の剣は掴まれてグラデルは剣と一緒に投げ飛ばされてしまう。
「おっと、しまった、ユノの所に放り投げてしまった......まぁいい、ユノとて弱くない、大丈夫だろう」
グラデルとゼオスを何処かへ飛ばし誰もいなくなった。
「やれやれ、さぁ、そろそろ時間のはず、イオブの同志は町と魔界の門をどれだけリンクさせているかな?」
アクロテスは左手を地面に置いて左に意識を集中させる。
「――?」
アクロテスはもう一度同じことをする。
「――はっ?」
アクロテスから魔力があふれていく。
「町と魔界の門のリンクを......何者かが妨害している......だとぉ?」
アクロテスは高速で思考を回す。
「誰だ......させるか......させるかぁぁ!」
アクロテスは左手から魔力を地面に流し込み、何者かの干渉を防ごうとする
のだった。
◆◇◆◇
ユノは思わずつぶやく。
「......おかしい」
アクロテスは言っていた、時間が迫れば魔力が町を覆うようになる、それが合図、と。
「もう、時間は迫っているのに、何も反応がない......」
しかし、町に何も変化ない。
「一体......どうしたというの......」
続く――
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