第38話 捜索と調査
クラトスがガルフと別れかれこれ1時間以上も経過しようとする頃。
すぐ戻ると言われアリスと待っていたガルフは足をゆすりながらまだかまだかと待っていた。
「さすがに遅すぎる!」
ガルフは立ち上がり思わず叫ぶ。
「遅いですねぇ、きっと外の空気を沢山吸ってるんですよ~」
ナイミアは試験が終わり、緊張が解けたのかこころなしか普段よりおっとりしている。
「いくらなんでも吸いすぎであろう......少し外を見てくる、アリスはどうする?」
「私も行くわ、クラトスの事、少し心配かしら」
「ナイミア、もしクラトスが来たら探していたと伝えてくれ」
「はいぃ」
ナイミアに伝え、ガルフとアリスはクラトスを探しに病院を出ていく。
「ガルフ、どうする?クラトスはどこに行くか言ってないかしら」
「......そうだな、どこから探したものか......」
当てがないためどうするか考える。
「手あたり次第に聞くしかないか、アリス一緒に来るんだぞ」
「はあい!」
ガルフとアリスはクラトスを探すために町を駆けてゆく。
◆◇◆◇
『蛇の牢』ではクラトス達はどうにかして脱出するため、魔封じの鎖を破壊しようと試みていた。
「はぁはぁ......」
「くっクソ、ふざけた鎖だ......」
無理やり魔力を出していたが、現状は変わらなかった。
「しかしまずい、せめて誰かに情報を知らせることができれば!」
グラデルも足掻く中、ナシアーデは目を瞑り自身に魔力を集中させる。
「――」
「ナシアーデ、貴様ももうやめておけ」
「――っはぁ!」
ナシアーデは開くと勢いよく魔力を開放し
パリンッ!
魔封じの鎖は粉々になる。
「っ!やった、クラトス私、鎖を破壊できたわ!」
ナシアーデが喜ぶが他の3人は困惑していた。
「貴様、今まで実力を隠してたのか?」
「えっ?何言ってるのゼオス?」
ゼオスは立ち上がり、クラトスとグラデルを指さした後にナシアーデに指を指す。
「
だが貴様は俺たちより弱いはずだ、どうして破壊できた!?」
「そっそんな事言ったって......」
「教えろ、なぜ破壊できた?」
「しっ知らないわよ!あんたが弱いから壊せなかっただけじゃないの!?」
「なんだとぉ......!?」
「やっやるっての!?」
ゼオスはナシアーデに接近するがクラトスが間に入る。
「ゼオスにナシア、今はそんな事を言い合ってる場合じゃないだろ!」
「黙れ!」
ボゴッ
「グァ!?」
クラトスは腹を殴られると前に膝を落とし、ゼオスはそのまま背を向ける。
「......チッ、だが貴様の言う通りだ......」
クラトスはどうにか立ち上がる。
「野郎......謝れっての......」
「ふうむ、ナシアーデ、君は私達の鎖は破壊できるか?」
「どう......だろう、やってみるわ」
ナシアーデは順々の鎖を破壊していく。
「ふぅ、少し疲れた......」
ナシアーデはクラトスとゼオスの鎖を壊しグラデルのところに向かう。
「......クラトス、貴様はナシアーデを昔から知ってるんだな?」
「あぁ、そうだが?」
ゼオスはクラトスのとなりで小さな声で話す。
「なぜ俺たちでは壊せなかった鎖をナシアーデが壊せたかわかるか?」
「......わからない」
「本当か?」
「昔からナシアーデは特異な魔法を扱えていた、目立つから普段は使わないが、俺がわかるのはそれくらいだな」
ゼオスはこれ以上聞いても収穫はないことを察して話を切り上げる。
「壊せてしまった以上、厄介ごとに絡まれるのは確実だ、注意しておけ」
「わかった」
ゼオスの忠告にクラトスも真剣に聞く。
「気になってたんだが、ゼオスは『蛇の牢』に入る前、何を尋問してたんだ?」
クラトスはゼオスが魔導士サンルを尋問していた理由を聞いていた。
「俺はアクロテスの所在を聞いていた」
「試験内容漏洩のことじゃなくか?」
「それはカベイアが――」
ゼオスは途中で言葉を止める、クラトスも自分ばらしてしまったことに気が付く。
「あっ言っちまった......」
「ナシアーデっ!!」
「っ!なっなに?」
突然の大声にグラデルの鎖を破壊するため集中していたナシアーデはビクッと肩を上げてゼオスの方へ振り向く。
「貴様、漏洩したな!」
「っ!」
ナシアーデはクラトスを見る。
「(すまん)」
クラトスは軽く頭を下げる。
「ぜっゼオス、理由があるのよ......これには......」
「言い訳は良い!ふん、せいぜいエルマがどうするのか楽しみに待っていろ」
ゼオスは腕を組みながら軽く笑う。
「クラトス、あんた!」
「ははは、まぁナシアがバラしたからここに来られた訳で、結果オーライだ」
「良くない!」
クラトスとナシアーデが言い合っているとグラデルは
「喧嘩はせめて私の鎖を壊してからに頂きたいな!」
まだ鎖は壊されずにいた。
「あっごめんなさい、すぐ壊すわ!」
『蛇の牢』内での奮闘は続く。
◆◇◆◇
ガルフとアリスはクラトスを捜索していたが見つからずにいた。
「だっだめだ......見つからぬ!」
「ガルフ、どうすればいいかしら」
「......ふうむ」
ガルフは辺りを見回していると、異様にこそこそした女が早歩きで歩いている。
「......」
辺りを見ながら道の端をネズミのように走る。
ガルフはその女を怪しいと思い
「アリス、奴を追ってみよう」
尾行することにした。
◆◇◆◇
ゲライトはアネル=ハトルア、エセル=ポデュンノはゲライト共にネレイアイにより頼まれた依頼をこなす為オネロ家の屋敷にてを調査していた。
「きっ貴様ら、私にこんなことをしてただで済むと――」
「屑が何か言っている」
もとは白かった学者服は血で赤く染まり、顔も晴れ上がり原型がなくなっていた。
「ゲライトさん、こうなることはわかりきっていましたよ......だからエセルを連れていくのは反対しました、なぜ僕たちを選んだのです」
「いやー、なんとなく、面白いじゃない、何か」
「かっ軽いですよ!」
「悪いねぇアネル君にエセル君、面倒に付き合わせて」
激しい戦闘が行われたのだろう、屋敷には数多の死体が転がり、血の海と化していた。
「だけどねエセル君、さすがにやりすぎだよ?私が独断でやってるって体裁なのに、ここまでしたらさすがにぐちぐち言われるじゃないか」
「貴方も止めなかったじゃないですか......」
しかし、血の海と化した、そんな状態であるにも関わらず、返り血のついたエセルを除き、アネルとゲライトには血が一滴もついていなかった。
「なっ何も――ギャァ!」
「勘弁してほしいな、君たちのせいで服に血がついて苛立ってるんだよ」
エセルはあえて魔法を使わず蹴りなどで男を蹴り続ける。
「このままだと死ぬかな、仕方ない、私が人肌脱ぐか!」
ゲライトは鼻歌を歌いながらエセルに向かって歩いていく。
「君は力に頼りすぎだ、人生の先輩である私の姿をとくと見ておくがいい」
「......」
エセルは渋々交代する。
倒れこんでいる男をしゃがみ込みながら話す。
「いやーすまんね、エセルはやりすぎることが多々ある」
「......」
「私だって本当は手荒なことはしたくなかったし、穏便に話し合おうとした、だけど君たちは不意打ちしたわけだし、そういう事をされると条件反射で反撃してしまうのが私の性なんだ」
「げほ......」
男は吐血しながらゲライトの言葉を聞く。
「痛い思いはしたくないだろう?これでお互い終わりにしよう......アリス=オネロは何者かね?リーアー君」
「言ったら......殺され――」
「......そしたら、エイタ=オネロに聞くだけ」
「ひっひっひっ、いいのかね......エイタにも知らない情報がある、私を殺せば真相は闇の中だ......」
リーアーは血を吐きながら笑う、ゲライトは少しの間沈黙し再度口を開く。
「君には二つの道がある、一つは今ここで洗いざらい暴露しすること。もう一つは君は話さないで、禁忌魔法院に送られること、君は自由だ」
「禁忌......魔法院だと......?」
禁忌魔法院とは魔導協会が運営する機関のこと、具体的に禁忌魔法の何を研究しているのかはほとんどの人間は知らない。しかし禁忌魔法の研究には人間などが材料として使われているという噂は有名であった。
「......」
わざわざそこに送るということは暗に何かをされること指していた。
「何を......する気だ......」
「さぁ、どうするかね」
ゲライトは口は笑いながらも目は笑っていなかった。
「魔導士なら知っているだろう......イオブ戦争でオネロ家の魔導士は多くを失った......げほ......オネロ家は病弱の人が多く立て続けになくなり、もう魔導協会への影響力はなくなり......没落していった......」
リーアーは咳を抑えどうにか答える。
「っ......おっオネロ家には養子はいたがオネロの血を引く子はほとんどいなくなった、オネロ家は代々病弱......少ない子供は若くしてさらに亡くなり続け......ついには血を引く子供は一人だけとなった、それがアリスですよ......げほ、げほ」
「ふむ」
ゲライトは喉を回復させ静かに聞く。
「オネロ家は断絶の危機、先代は養子をとっていたがエイタ=オネロ、彼女はそれを良しとはしなかった、それで、我らは魔道具の研究を始め、それらを闇ギルドに売り資金繰りを始めた......アリスも病弱で時間が惜しかった......」
「それは調べた、人間を魔道具にするという......禁忌に触れたわけだ、それとアリスは関係があるのかね?」
「......魔道具と化した人間に意思はない、仮にあっても自力では動けない」
「......」
「これは、考えこそはすれ誰もしなかった......いやできなかった、不変の魔道具と老いていく人。私達はアリスを魔道具としての力を持ち合わせた人間にしようとしていた」
「つまり、アリスを不老不死にしようと?」
少しの間、沈黙し考える。
「少し違いますよ、それは確かに一つの野望ではあったし我々はそれを目指し、オネロ家の復権を目指した。だがエイタはアリスにより強く、長生きしてほしかっただけ、だけだったはず......故にまず魔力のコアを埋め込みました、そして儀式をした」
魔力のコア、魔力の放出と収集を行うことができる装置、主に魔道具に使用される。
「結果は?」
「......延命......という点では成功しましたよ、体も強くはなれた......しかし」
男は目を瞑り考える。
「心は壊れた、というより魔道具としての在り方に飲まれてしまった......子供にはそもそも無理があった」
「一体、アリスにどのような儀式をしたのかね?」
「元々養子の兄弟とアリスは仲が良かったのです、我々は......アリスにそれを殺し、食らうように命じましたよ」
「......」
アネルはリーアーの言葉を聞き激昂し、エセルも魔法の準備をする。
「お前は子供になんてことをさせた!」
「ゲライト、僕に命令を、こんな屑は野放しにしてはのちに禍根が残る」
「いいや、だめだ」
しかしゲライトはそれを制止して、リーアーに細かく聞く。
「アリスは抵抗したのでは?」
「しましたよ、それに病弱とはいえ、魔導士の才もありましたし苦労しました、ただ所詮は子供、無理矢理やらせました......」
「そして、アリスは狂った......というわけか」
「コアの所為もありましょうが......そうです......」
ゲライトは少し考える。
「......なぜ試験を受けさせた?」
「魔力を効率よく集めるためです、彼女は自分で魔力を生成できないという致命的な欠点がある、だから他者から魔力を奪い去る必要があったのですよ、それに言ったでしょう......魔道具の在り方に飲まれたと......彼女は兵器としてしか生きられなくなったのですよ......」
「ふむ......なるほど」
聞くべきことを聞いたゲライトは立ち上がりその場を去っていく。
「おっと、最後に聞いておきたい事があった」
ゲライトは思い出したかのように振り向く。
「どこで人と魔道具の融合の仕方を手に入れたのかな?」
「......」
長い沈黙の後。
「アクロテス=ヘスペー......彼はオネロ家の事を知っていた、そして提案してきましたよ
『オネロ家の窮状には同情を禁じ得ない、そして現在の君たちの状態ではアリスは到底間に合わない、どうだろう、私ならば救える、私が救いの手を差し伸べよう』
とね」
「アクロテス......君らは厄介な相手と手を組んだというわけだ......」
「何よりエイタはそれを望みアクロテスと契約を結んだ、かつて得たイオブ戦争の遺産を渡したらしいです......」
「その遺産とは?」
「さぁ?私にも......アクロテスにより情報を私とエイタは渡されました......」
「......」
ゲライトはそそくさとその場を後にする。
「えっあの男はあのままでいいのですか?」
アネルは聞くがゲライトは構わないようで急いで屋敷を出る。
「私は今すぐアーシアに向かい、ネレイアイに会う、エセルとアネルは今聞いた事、すべて魔導協会に報告をお願いしよう」
「「えっ」」
アネルやエセルが何か聞く暇もなく、ゲライトは使い魔を使い飛んで行ってしまった。
◆◇◆◇
その頃ガルフとアリスは尾行していた。
「(結局町の端にまで来てしまった......)」
町の端に着くころには人通りはもうなく、町明かりも徐々に消え始めていた。
杞憂だったのではないか、不安を覚え始める。
「一体......何を?」
女は腰に差してあった真っ赤な液体の詰まった瓶を取り出すとそれを一気に飲み始める。
「ガルフ、あの人は一体何をしようと?」
「我にもさっぱりだ」
全部飲み干した、女は突然苦しみ始める。
「――おぇ!」
その女の口からは禍々しき紫色の魔力が放出し始める。
「っ!大丈夫か!?」
「まっ待って!」
ガルフは思わず女に駆け寄ろうとするがアリスに留められてしまう。
女の体は崩れていき、赤いドロドロの液体に成り果てていた、しかし意思はあるのか、何処かを目指すかのように体の周囲を魔法陣が現れそして消えて行った。
「なんだったのだ、今のは」
「わからないわ......」
ガルフとアリスは困惑を隠せずにいた。
「......クラトスもいなくなり、先ほどのも......何か嫌な予感がするな」
この事を魔導協会の誰かに伝えておいた方が良いと考えたガルフとアリスは魔導協会の魔導士を探すことにしたのだった。
◆◇◆◇
森の丘の上でユノではアクロテスが計画の準備をしているところだったが
ユノは想定外の事が起きて動揺していた。
「使い魔が見ていました、貴方......何をしたのですか!」
アクロテスが何かしたのではないかと問いただしていた。
「計画どおりだね、私の薬を飲み肉体を保てなくなったんだろう」
「どういうことです......?」
「肉体を飲んだ本人の限界、いや限界以上にまで強化し魔力を高める薬だよ、まぁ大概は耐えられずに肉体が瓦解してしまうがね」
その言葉にユノは激昂する。
「どういうことですか!!」
しかし、そんなユノとは対照的にアクロテスは淡々と答える。
「どうせ彼らは死ぬ手筈だった、何をそんなに憤る?」
「私は聞いていませんでした!そんな薬に頼ることを!」
「それはそうだ、彼らは君に心配かけまいと、秘密にしてくれていたのだから」
「っ!?」
その言葉にユノは驚き言葉を失ってしまう。
「君、このこと知ってたら絶対に止めただろ?」
「......それは......」
「肉体を失っても計画を遂行して見せるという強い強い意思がこの計画には必要だった、あのままでは魔力は足りなかったからね」
「そっそんな......」
ユノは戸惑うがアクロテスは構わず話し続ける。
「君の同志は魔界の門と町とをリンクさせるために奔走しているはず、今から2時間くらいか、そしたらリンクは完了し君が魔法を発動させれば、門の開門が始まる」
アクロテスはしゃべりながら右に左に歩く。
「実際0時になっても完全ではなく門が開き切るのには時間はかかる、その間は魔導協会の連中が暴れるだろう。それは町に潜むイオブの魔導士が時間を稼ぐ、もちろん彼らにも薬は渡してある、心配はいらない」
「......」
アクロテスはユノの前に止まる。
「嘆く暇はない、怒る暇はない、君は崇高な復讐を必ずや達成しなければならない、そのために同志は奔走したのだ。故に君は止まってはならない......必ずこの計画を達成しなければならない!そうだろう!?ユノ=ノエア!」
声を大きくしながらユノに指を指す。それに感化されるようにユノは彼らの犠牲を無駄にしてはいけないという思いが高まる。
「そう......そうです、もう止まれない、私は必ず!!」
「それでいい」
アクロテスは満足したのかこれから始まる出来事を楽しみにしながら町を見下ろす。
◆◇◆◇
「よし全員分は壊せたな......」
「あとは脱出だ!」
クラトス、ゼオス、ナシアーデ、グラデルも『蛇の牢』の脱出を計画していた。
続く――
※作者
今更ですが町の名前失念してました、
一応アーシア区アーシア町ということにします。すみません。
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