第31話 縁

試合会場 Dの3


試合会場には、試験官である犬の獣人オルイア=ゲルはドネイが来るのを待っていた。


「ふぅむ......」


オルイアは腕時計をチラチラと見ていると。


「間に合った!......な!?」


ドネイは、はぁはぁ言いながらオルイアに聞く。


「ギリギリといったところです」

「はぁ~よかった」


ドネイは安堵しているところ、相手は暗めの茶髪にロングヘア―で全身を緑の服で着飾った女は堂々と佇んでいる。


「試合の時間よ早く始めましょう?」


腕を組みながらオルイアに話しかける。


「そうですね......ではドネイさんにレネさん位置に」


ドネイとレネ......と呼ばれた女はお互い向き合うと、ドネイ=イリは余裕そうに構える女を見る。


「ドネイ=イリさんにレネ=ポッドーさん、お互い魔導師として誇り高く戦ってください」


「......」

「......」


お互いそれぞれ構えると


「試合、はじめ!」


ドネイ=イリとレネ=ポッドーとの試合が始まろうとしていた。


◆◇◆◇


時は少し遡り、クラトス、ガルフ、アリスはドネイが急いで走り去っていた後を追いかけていた。


「クラトスにガルフ!早く早く!ドネイの試合が終わってしまうわ!」


クラトスの手を引っ張りながらアリスは歩いて行く。


「そんな急がなくても、試合は終わらないと思うが......」

「私が見たいもの!」


アリスがクラトスの手をグイグイ引っ張りながら歩く様をガルフは微笑ましく見つめていた。


「(活き活きとしておるな......)」


ガルフは昔のクラトス思い出しながら今のクラトスと比べていた。


「ふんふ~ん」


アリスはご機嫌に鼻歌を歌っていると――


「っ!アリス危ない!」


前方より何かが猛スピードで近づいてくる――


「きゃっ!」


何かが前方より飛んでくるのを察知したクラトスはアリスの腕を引っ張りクラトスの後ろに行かせると――


「『ドラゴン・スケイル』」


クラトスは赤黒い魔力を帯びて剣を構え防御固め――


バァン!


小さい爆発を起こして砂煙が舞う。



一瞬の事でガルフとアリスは茫然と立ち尽くす。

「......っ!クラトス!アリス!大丈夫か!」


ガルフは急いで駆け寄ると――



「誰だお前は!」


クラトスは全身が黒装束の相手と剣と短剣でせめぎ合っていた。


「やはり......」


男は小声でつぶやく。


「......その剣、ただの剣ではないな?」


その声から男であることがわかる、そしてクラトスが手に持っている剣がただの剣ではないことも

「この一瞬で......」

クラトスが愛用している剣は見た目こそは金色と赤の装飾が握りの部分にされている少し高価な剣に見えるだけだが、魔道具である。


「『魔導のつるぎ』は......そんな有名な魔道具ではないはずなんだけどな」


『魔導の剣』は通常の剣よりも魔力を剣に流しやすく、威力を大幅に強化させることができる魔道具の一つ。


「......なるほど、竜の力と剣の力を合わせているのだな」

「そうだな、だが残念ながら、分析されるほどの事を俺はしてい――」

クラトスは力を剣と腕に力を籠め――

「――ないっ!」


ビキビキッ


「っ......」


男の短剣にひびが入り始め、徐々に男は押され始める。


「......」


男は隙を突いて後ろに下がる。


「クラトス、私も手伝うわ!」

「いっいや待て」


アリス男に片手を向けるとクラトスはアリスの前方を片手で塞ぐと、男は両腕を軽く挙げ「まいった、まいった」と言ってクラトスの方へ歩いて行く。


「終わった......のか?」


先ほどまでの戦いを眺めていたガルフはクラトスの方へ歩いて行く。


「なぜ俺たちを狙った?殺す気だっただろ?」


クラトスは剣を男には向けないが鞘には戻さないまま男に問いかける、先ほどまでの攻撃は殺す勢いであった。


「君は私の知人とよく似ていてね、実力を試してみたかったのだよ」

「......本当かよ」

「不意打ちのような真似をしたのは悪かったとは思っている、すまないね」


動機としてはいまいちパッとしない、問いにも答えていない。


「名前を聞いても?」

「......クラトス=ドラレウス」

「......」

「?」


そう言うと男は黒い深く被っていたフードから顔を出す。

白髪交じりの黒髪をし、やつれた顔が印象的であった。


「もしかしたらアテラズという者を知っているのでは?」

「っ!」


その名前にクラトスは動揺する。そんな驚きの表情をしたクラトスをアリスは不思議そうに見つめていた。


「ガルフ、アテラズって?」

「アテラズ......どこかで......」


アリスに聞かれたガルフその名をどこかで聞いたことがあるような気がして思い出そうとする、その時クラトスが答えてくれた。


「アテラズは俺の......親父の名前だ」

「そうであった!」


ガルフもようやく思い出した。


「やはり......アテラズの子供......」

「親父の知り合いなのか?」

「えぇ」


自身の父親の名前が突然出てきて少し驚きながらも、この男と父親との関係性に興味が湧いたクラトスは「どういう関係なんだ?」と男に聞く。


普段こそ父親を避けてはいるがやはり気にはなるという複雑な感情をクラトスは有していた。


「アテラズの指導役をしていた、まぁ大分前の事だが」


男は空を軽く見上げながら懐かしそうに軽く笑みを浮かべる。


「親父の事について聞きたいことが......」


クラトスが男に話を聞こうとした時、アリスはクラトスの服を軽く引っ張り

「ねぇクラトス、ドネイの所に早く行かないと試合が始まってしまうわ」

と突如の襲撃と父の知り合いに試合の事が頭からすっぽ抜けていたクラトスにアリスは話しをかけた。


「あっしまった!ドネイの試合を見に行かねえと」

「おや、知り合いが試合に出ているのなら、早く行ってあげなさい、友の応援は何より力になるのだからね」

「......俺はこれで、最後に名前を聞いても?」


クラトスにそう言われた男は笑みを浮かべながら

「私の名前はゲライアト=ヒュタリア、魔道協会の末席に座る拙い魔導師ですよ」

「ゲライアト!また会えたら親父の事を教えてほしい!」

「もちろん、構わないよ」

「じゃあ、また!」


クラトスはそう言ってゲライアトを後にするのであった。


「......クラトス=ドラレウスか、ドラレウス......縁があるな」


ゲライアトはそう小さく呟いて静かに街中を歩いて行くのであった。





◆◇◆◇


試合会場 Dの3


「もう試合は始まってるな」

「仕方ないであろう、ゲライアトとの戦いもあったしな」

「行きましょ行きましょ!」


アリスはクラトスとガルフの両腕を引っ張りながら進んでいく。



「なっ......これは」

「......」


クラトス達が目にしたのものは、激しい戦闘の後であろう、試合会場にはあちこち穴が空いている、そして女とその近くで倒れているボロボロなエルフ、そうドネイ=イリである。


「ドネイ!」


クラトスが叫ぶと

「いっいや待てまだ試合は終わっていないようだ!」


ドネイはボロボロな状態で立ち上がろうとしている。


「......ドネイ」


アリスも心配そうにドネイを見つめていた。




時は少し遡る――

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