第30話 魔道具『クラートア』
ドネイとナイミアが昨日と同じように広場に集まるとエルマ達によって試合の順番が決まろうとしていた。
「うぅぅぅ、1番目はやだ、1番目は......後がいい、後が......」
ナイミアは祈りながらブツブツ呟いている中、ドネイはまだかまだかと待っていると。
「では2日目の試合の順番と会場場所を決めるよ」
エルマと魔導師達によって創造された光の玉は試合を行う魔導師達の頭に入っていく。
そんな中後ろにはクラトスとガルフ、アリスがナイミア達を見ていた。
「どんな順番になるかだな」
クラトスが話すと
「うむ、ナイミアに関しては少し心配だ」
クラトス達が話している間に順番がわかったようだ。
ドネイは特に表情は変えず。
「Dの3......まぁ普通だな」
しかしナイミアはというと......
「Bの7、そんな遅いんじゃぁ緊張しちゃいますよぉぉぉ」
頭を抱えていた。
こうして試合を行う者はその場を離れて会場の外に出る。
会場から出た後もナイミアはずっと独り言を話していた。
「ああ、緊張してきたぁぁ、もっと最初の方が......あぁ、やっぱり私なんて......」
そんな有様にクラトスはナイミアに話しかける。
「ナイミア、昨日のドネイとの修行を忘れたのか?」
「正直忘れたいですが、忘れていません!」
「あの修行を今日もやってみろ、そして魔道具を完全に使いこなせるようになるんだ、幸い時間はまだあるし、いける......はず」
「私できますかぁ?」
「できる、ナイミアも自分で言うんだ」
「できる......」
「元気よく言うんだ、私はできる!」
「私はできる」
「私はできる!」
「私はできるっ!」
「「私はできるっ!」」
クラトスがナイミアを元気づけている様をガルフ達は見ていた。
「うーむ、ドネイは問題ないのか?」
「俺か?まぁ問題ないというかいつも通りに行く」
「ドネイはトレーニングとかしないの?」
アリスはドネイにそう尋ねるが......。
「俺は瞑想と魔道具を愛でることがメインなんだよ」
ドネイの瞑想という言葉にガルフは興味を持ったようだ。
「ほう、瞑想とは興味深い......我もやってみるか」
「おっいいぞ!明日はガルフも試合だろ?瞑想すれば心身が落ち着くし、きっと役に立つ」
「......そうね、明日はガルフも戦うものね......」
こうしてガルフとドネイは時間までの間、訓練を行うことになる。
アリスの寂しげな表情に誰も気が付くことはなかった。
◆◇◆◇
「......」
ラナはベッドの上で外を眺めていた、怪我自体は回復しており、退院までには時間はかからないとのこと。
「杖......」
ラナは机の上に置いてある折れてしまった『白闇の杖』を見る。
ユノが言うところには魔道具の修理は専門の人が必要で、現状は何もできないと、そして修理しても魔道具として活用できるようになるかもわからないとのこと。
「はぁ......」
ラナはため息をついていると
コンコン
ドアをノックする音が聞こえた。
「誰?」
ドアから聞こえた声は
「私だ」
「っ!?」
聞き覚えのある声であった。
「スラン=パーア......?」
「あぁ、そうだ」
スラン=パーア......ラナと激闘を激闘を繰り広げた相手である、ラナにリタイアと叫ばせるためにラナの手首を魔道具で焼いた男。
「どっどうしてここに?」
「君にはひどい事をしたから一度謝っておきたくてな......」
「......」
スランという男が悪い人ではないことはわかっていたがやはり、昨日の事を考えると複雑でもあった。
「......本当は顔を見せて謝りたかったが、仕方がない、ドア越しで......」
「スランさん......入っていいです」
「......ありがとう」
ドアを開けると杖を突きながらスランが入ってきた。
「っあ!大丈夫!?」
そんなスランに対してラナはベッドから降りようとするが
「いや、大丈夫だ」
スランはそれを拒否し、コツコツと杖を突きながらラナに近づき頭を下げる。
「......昨日での試合で君にした事、本当にすまなかった」
「試験なんだから皆必死になるのは当然、大丈夫気にしてないわ」
「そのように言っていただけると私も少し心が楽になる」
「スランさん、その体じゃ立ってるの大変でしょう?椅子にでも座って?」
ラナに進められるとスランはゆっくりと近くにあった椅子に座る。
「私がなぜ今回の試験を受けたのか......話してもいいか?」
「いいけど......なぜ私に?」
「......」
スランは言うべきか迷っているような顔をするが、何かを決心したような顔でラナを見る。
「私はポデュンノの名前を知っている、いや知っているだけではなく、ポデュンノ家のとある魔導師とも一度会った事がある」
「えっ......でも昨日はそんな素振り」
「君はポデュンノ家の魔導師ではあっても、私は八つ当たりのようなことはしたくはなかった」
「八つ......当たり......?」
ラナは少し気になるスランの言葉に興味を覚えた。
「私には兄がいてね、兄と私は魔導師として依頼をこなしていた、そしていつものように依頼を受けた、その依頼はただの盗賊の捕縛、大した依頼ではなかった、そう大した依頼ではないはずだった――」
―――
――
―
4年前
小さな洞窟の中
「兄貴、こっちは終わった」
スランは後ろを振り向くとスランと同じく灰色の髪をして眼鏡をした優男に声をかける。
「ちょうどいい、僕も終わった所だよ」
スラン=パーアと兄のアレン=パーアは最近、町に来る商人を標的にした盗賊団に困っているという依頼を町長よりその依頼を受けて、盗賊団を捕まえていた。
「くっくそぉ」
盗賊団は皆ロープをほどこうと足掻くがきつく縛られ動けない。
「5人か......しかし盗賊団の捕縛なんて魔導協会に依頼をするべき事案だろうに」
スランは愚痴を吐くとアレンも少し困り顔で話す
「仕方がない、魔道協会は優先度の低いものに関してはお金でも積まない限り、魔道協会傘下のギルドに依頼が行き渡る速度が遅いからね......」
アレンはそう言うと、少し笑いながら話す。
「でも、そういうのを待っていられないという依頼人がいるからこそ僕達のような非正規の魔導師が活躍できているんだ!」
そんなアレンの話を聞いて、スランはため息を吐く。
「なんだか虚しいな、魔道協会が活発ではないおかげで俺たちが生かされてるなんて」
スランはそんな言葉を空にぶつけていると、アレンは盗賊団がため込んできたであろう物の数々を壁の横穴より発見した。
「あってめぇ俺たちの――」
「ふんっ!」
盗賊団の頭は隠していた財宝を暴かれ、騒ぎ出すが、スランはそんな盗賊団の頭を殴って黙らせた。
「スラン、これは......すごい」
「おっおぉ......」
アレンが持ってきたのは数多の魔道具、しかもどれも一級品の魔道具、正直言えばこんな盗賊団如きが持っていること自体がおかしい物の数々であった。
何か裏があるのではないか、さすがに異常に感じたアレンは盗賊団に尋問を行う。
「これを全部君達だけが盗んだとは考えにくい、君達......何か他の何かとつながっているのでは?」
「おっ俺たちが全部盗んだんだよ!」
あきらかに動揺している頭にさらに質問をし続けるアレン。
「いやおかしい、君達はここら一帯を根城にしていた、商人を襲えばまぁ、魔道具のいくらかは手には入るとはいえ......」
魔道具のどれもが一級品で数が多い。
「しっ知らねぇって」
頭もその手下も話す気はなさそうであった。
「兄貴、これ以上問いただしても無駄だ、拷問なんて嫌だろう?」
「そうだね、拷問は趣味じゃない、まぁこの財宝の事は町長と魔導協会に伝えておこうか、そうすればちゃんと処理をしてくれるだろうしね」
そしてアレンとスランは盗賊団を連れて行こうとした......
その時であった――
スパンッ
「ッ――」
「......?」
スランもアレンも謎の音に戸惑い辺りを見渡す。
「なっ......」
盗賊団一行の首が刎ねられていた。
「スラン!気を付けるんだ!」
「っ!」
アレンとスランは辺りを警戒していると......
ゆっくりと男が歩いて来た、穏やかに笑いながら白髪に髯を蓄えたその男はそのままアレンの元へ歩いてくる。
「スラン......逃げるんだ」
「っしかし」
アレンはスランに逃げるよう促すがスランはそれを拒否する。
「早く――」
アレンはもう一度促そうとした時。
「落ち着きなさい」
「っ!」
その男はいつの間にかアレンとスランの近くにまで移動していた。
「貴方達が見つけた、私に魔道具をお譲りいただきたい」
唐突に申しだしたその男に対してアレンもスランも警戒をしながら話をする。
「なんでこの魔道具が欲しいんだ?」
「必要でしてね、察しているでしょうが表沙汰にはしたくはない事です」
スランの問いかけに男はそう答える。
「すまないが、渡すわけにはいかない、これは全て強力な魔道具だ、きちんと管理しなければならない物だ」
「あっ兄貴!」
この時すんなりと魔道具を渡しておけばなんの問題もなかった。しかしアレンは正義感が強い男であった。この魔道具が悪行を生業とするものにバラまかれることになれば大変な事となる、それを危惧したアレンは拒否をした、拒否をしてしまったのだ。
「はっはっはっ.......勇気があるし正義感もある......しかしそれは蛮勇というもの」
「兄貴!渡した方が!」
「スラン!それじゃあダメなんだ!悪人にこの魔道具を渡してはならない!」
アレンは戦闘態勢を取る。
「愚かだ......仕方がない......夢見がちな魔導師に現実を教えるのも我々の役目......」
男は体の中央、心臓のある部分を両手で抑える......すると。
「魔道具......展開『クラートア』」
その心臓部から黒い宝玉が現れる、宙に浮いた宝玉からは禍々しき魔力がアレンとスランに向かって放たれる。
「っ!『シールド』」
アレンは咄嗟にスランの周囲に盾の魔法を発動させる。
「兄貴!」
スランは兄のアレンを助けようにも辺り満ちる禍々しき魔力に恐れてしまい動けない。
「......『クラートア』展開終了」
男の体の中に宝玉が入っていく。スランはアレンの方を見ると倒れており、急いで駆け寄る。
「おい!大丈夫か!」
スランがアレンに声をかけているのを気にも留めずに男は魔道具のところに歩いて行く。
「......」
男は魔道具を中心に巨大な魔法陣を描き始めていた。
「兄貴に何をしたんだ!」
スランが大声で男に聞くとその男は平然とスランに顔を向ける。
「何をした......ですか、簡単に言えば喰らったんですよ」
「喰らった?」
「魔道具『クラートア』これはね、私が昔、苦労して手に入れた魔道具なのです、大変思い入れ深い物ですがいまだに完全ではない、そんな魔道具を完成させるための餌にしたのです」
「殺したのか!」
「いえいえ、殺してはいませんよ......」
スランと男が話をしているとアレンは弱弱しく立ち上がる。
「うっ......」
「兄貴、大丈夫か!?」
「なっ何とか......だけどこれは......」
「?」
アレンは困惑の表情を浮かべる。
「その男の魔力を喰らったのです、そしてその男は魔導師として活動はできませんよ」
衝撃的な言葉を発した男にスランは怒りの声を上げる。
「何を言っている!大体魔力は自然と回復するモノだ、ふざけたこといいやがって――」
「いっいや......スラン恐らく本当だ......」
アレンは手から火の玉を発生させてもすぐに離散してしまう。
魔法陣を描きながら男は話す。
「貴方は魔法を放てない、『クラートア』は魔力を喰らいさらに相手を無力化する」
「なっ......くっ!」
スランは男に襲い掛かろうとするがアレンはそんなスランの片腕を捕まえる。
「何を......」
「スラン、だめだ......スランはまだ魔法を使えるんだ......」
「だが......!」
男は魔道具の周りに魔法陣を描き終わったようであった。
「そう、蛮勇で未来を無駄にしてはいけない、その男のように」
「兄を馬鹿にするな」
「馬鹿になんてしてないですよ、これは君の事を思っての忠告ですよ......」
男が描いた魔法陣は転移の魔法陣のようであった、このまま何も知らずに転移させる訳にはいかない、スランはそう思った。
「名前くらい名乗ったらどうなんだ!」
「名前......いいでしょう、私の名前は――」
魔法陣が光輝くと魔道具と男は宙に浮いて行く。
「アーペ=ポデュンノ」
アーペ、そう言うと名乗ると男は魔道具と一緒に転移してしまい、消えて行ったのであった。
スランとアレンを残して......。
―――
――
―
「私は自身の非力を悔いてね、今年の魔導師試験まで修行をしていたというわけだ」
「スランさんの......お兄さんは?」
「兄は家で細々と暮らしている」
スランから聞いたことはラナにとっては驚きであった、アーペはラナにとって祖父である、今まであってきたが悪印象を抱いたことはなかった。
「おじい様が......」
「......私は兄のを無念を晴らすために今回試験にも参加した、魔道協会の上位になれればアーペとも接触できるはず、そのため――」
スランは話し続けるがラナが悲し気な顔をして、ハッと気づく。
「あっすまない、君のおじいさんなんだよな、はぁ......私も気を付けないといけないな......」
「いいわ......私の家族は皆に恨まれるような事をする人多いもの......」
スランはやってしまったとばかりに頭を押さえる。
「いっ一応言っておくが殺すつもりはない、勝負を挑み兄の無念を晴らす......それが今私が目指していることで......あー」
スランはどうにか言葉を選んでいると
「スラン=パーアさん!こんな所に......まだ安静にしていないと!」
スランを探していたのだろう、ナースがスランの元に駆け寄ってくる。
「あぁもう戻ろうと思っていた所だよ」
スランは杖を突いて椅子から立ち上がるとラナの部屋を後にする。
部屋から出ようとしたスランに
「スランさん!敗者復活戦は無事勝てること祈ってる!」
そう言われるとスランは少し笑みを浮かべて。
「ありがとう!」
そう言って部屋を後にするのであった。
「......」
誰もいない病室でラナはスランから聞いたことを思い出す。
「おじい様......」
なぜ魔道具を集めていたのか、スランの兄を襲ったのか、そして
「魔道具『クラートア』......」
スランより教えてもらった、ラナの祖父が使用したという黒い宝玉の魔道具『クラートア』とは何なのか......
「......今日はドネイさんとナイミアさんが戦うのね......」
ラナはただ一人外を静かに見ながら様々な事を考えていた。
◆◇◆◇
「ドネイ時間だぞ」
「......」
「ドネイ時間よ!」
クラトスとアリスは目を瞑り集中しているドネイとガルフを前に試合の時間が迫っていることを伝えていた。
「うわぁ、すごい集中力ですねぇ」
「どうだか、寝てるだろこれ......ナイミア『アクア・レイン』できるか?そうすれば起きるだろう」
「あっそうですねぇ」
ナイミアはガルフとドネイの頭上に大雨を降らせる。
「......なっ!?」
「冷たい!」
ナイミアの降らせた雨によってドネイとガルフは飛び跳ねる。
「ドネイ!試合の時間だ!」
「えっ......マジか!」
ドネイはびしょぬれになったことを聞く暇もなく、クラトスに急かされる。
「まっまずい!」
ドネイは全速力で走り抜けていく、その様を他の皆は後ろから眺めていた。
「早いな......」
「ねー」
クラトスがそう言うとアリスも頷いた。
「本当ですねぇ......私達も......」
ナイミアがそういった時であった。
「ナイミアよ......ドネイはともかくなぜ我も濡らしたのだ?」
「ひゃっ......」
ナイミアはガルフに聞かれると
「すっすみませええん!私魔道具の最終準備してきますぅ!」
そのまま走り去ってしまった。
「いっいや、単純に聞いただけなのだが......なぜ逃げるのだ......」
「......まぁ仕方がない、それにナイミアももう少し時間が必要だろう」
「クラトスにガルフ!早くドネイの試合見に行きたいわ!」
「あぁ、そうだな!行こうかドネイの試合を見に!」
クラトスとガルフ、アリスはドネイの試合を見るためにDの会場へと向かう。
ドネイ=イリの試合は今まさに始まろうとしていた。
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