第28話 最終試験 グラデルVSヤーリュ

Cの会場では魔導師同士で試合が行われていた。


それをクラトス見ている。


「本当はグラデルに会っておきたかったんだがな」

「見つからないのでは仕方あるまい」


クラトスはラナが試合を終わった後にグラデルに会おうと思っていたが結局見つからずに試合の会場まで来ていた。


「ナイミアも練習しているだろうし、邪魔をするわけにもいかないか......」


結局のところクラトス達ができることは特になく試合が始まるのを待つのみであった。




ラナとスランの激闘から時は流れ、Cの会場では2戦目が終了し、3戦目......グラデルが出場する試合の時間が迫る。



ユエルス=ミステインとアンサ=イーアは審判として座っているがユエルスは退屈そうな顔をしていた。


「この仕事はつまらん、全く早く終わってほしいねえ」

「ほっほっほ、これが昨日あのようにカッコつけた者の言う言葉ですかな?」

「かっこつけた者の言葉なんだよ!これがぁ!」


ユエルスは基本偉そうではあり、アンサは年の功とも言うべきか余裕そうにユエルスに話をかけてく。


「今回の試合に出るのはグラデル=トロンダとヤーリュ=ドルルでしたか」

「誰だねそれ」

「残念ながら知りません」


試験を受けに来る魔導師を全員把握などは困難でありよほどのモノ好きでなければ行わない。



クラトス達も観客席でグラデルとの試合を見るために待機をしていた。

そしてグラデルがいよいよ試合会場に登場する。


「いやぁ!ははは!」


グラデルは登場するや大きく手を振り堂々と登場する。


「あの槍を持ってきておるな......」


金の髪に銀の鎧......それとは不相応に錆びついた槍、どう見たって槍はグラデルの装いから浮いている。


「あっ本当だ、グラデル、クラトスから貰った魔道具もっているわ、クラトスはあの槍の使い方わからないの?」

「全然だ、あれは、クソ親父が商人から貰ったのを俺にくれた奴なんだが......よくわからないから骨董品扱いしてたんだよ」


実際いつ貰ったのかを正確には覚えてはいないがどういう経緯で父親が手に入れたのかは覚えていた。


「グラデルの奴、いくら魔道具とはいっても使い方もわからないんだろう?錆びてて武器としても使えるか危ういし......大丈夫なのか?」

「信じるしかない......」


ドネイは不安そうするがクラトスはグラデルを信じる事しかできない。



そんな中観客席にはゼオス腕を組みグラデル達を見ながらナシアと話をしていた。


「......ゼオス、クラトスの事まだ気にしてるの?もう4年前よ?」

「気にするに決まっている!おのれクラトスめ......」


ゼオスは文句を言っていると......


「まっまさか忘れている訳ではあるまいな!?」

「大丈夫よ、きっと覚えてるって......多分」


ゼオスの言葉をナシアーデは一応は否定する。

そうこうしているうちに試合は始まりを迎えそうである。




「ほっほっほっでは向かい合ってください」


アンサは対面する魔導師達の間に立つ。


「私の名はグラデル=トロンダ!悔いの残らぬ戦いにしよう!」

「これはご丁寧に俺の名はヤーリュ=ドルル、よろしく」


両者は握手をする。


「......その槍で大丈夫ですかな?錆びついていますが......」


アンサはグラデルの持ってきた、錆びついた槍を不思議に思う聞くが。


「ははは!大丈夫です!」


グラデルは笑顔で問題ない旨を伝える。


「そうですか、では......魔導師同士誇り高く戦ってください」


グラデルの自信を持った言葉にアンサもこれ以上聞くことはなく、いよいよ試合の開始の合図が――


「はじめ!」



グラデル=トロンダとヤーリュ=ドルルの試合が始まった。




「先手必勝!『アイス・アロー』」

最初に動いたのはヤーリュであった。

氷の矢はグラデルに襲い掛かるが――



「『シャイニング・アロー』」

グラデルは氷の矢に光の矢を撃つ、氷の矢は光に飲まれヤーリュに光の矢が襲い掛かる。


ヤーリュは光の矢を横に避けて、態勢を整える

「おっと、おいおいこれっ......」

力量の差に困惑をするが――

「ははは!どうした『シャイニング・ソード』!」

グラデルは隙を突くようにヤーリュに走りながら光の剣で切りかかる。


「っ『シールド』」

ヤーリュは自身の前に盾の魔法を構えどうにかしてグラデルの魔法を防ぐと

「ぬっ」

グラデルは一歩退いて、ようやく体は温まってきたのかニヤリと笑う。


「やるな!」

「相手が強すぎるって!Pポイントの差が近いって本当かよ!」

ヤーリュは既に勝てる気はしていなかった、何せ相手は

「まだまだ行くぞ!『シャイニング・ボム』」


グラデルから投げられた光の玉を

「『アイス・トルネイド』」

ヤーリュは玉を全てを破壊しつつグラデルに向けて氷の竜巻を放つ。

「『シャイニング・シールド』」

だがグラデルはその氷の竜巻を前に光り輝く盾の魔法で防ぎきる。





その一方的な試合をユエルスとアンサは見ていた。


「アイツ......強いな」

ユエルスはグラデルを見てつぶやく。


「ええ、強力な魔法の数々を片手で......魔導協会の上位でも戦い抜ける素養があります、正直グラデルと戦っている相手は不運ですな......」


アンサはグラデルの戦いを興味深く見る。


「だがあの錆びた槍はなんだ?全く使っているに見えないが」

「私も良くはわかりません......何かあるのでしょう......」


アンサもユエルスは戦いの勝敗よりも魔道具の存在が気がかりであった。





ヤーリュは完全な実力差を把握し、短期決戦に臨む

「あぁ完全に実力が足りてねぇな!アイス・クラあああああッシュぅぅ!」

巨大な氷の結晶を溜めこみ、一気にグラデルに飛ばす、ヤーリュはこれで決着をつけるつもりであった。



「すまないが、試させてもらうぞ!」

グラデルは錆びついた槍をなぜか掲げる。

「さぁ、魔力よ槍に集え!」


グラデルの言葉と呼応するようにグラデルから魔力が槍に集まっていくのがわかる、さらにはヤーリュの巨大な氷の結晶をも槍は吸収していく。


ヤーリュは膝を落す。

「嘘......だろ」

渾身の魔法をいとも簡単に防がれてしまった......


「はぁぁぁぁぁ!」

魔法は完全に吸収しきったがグラデルは槍に魔力を注ぎ込む。


そして――


「こっこれは......」


槍の錆びつきは徐々に剥がれていく......が、凄まじい力を感知する、

「――まずい!」

グラデルは瞬時にこの槍は危険なものであることを把握するが、魔道具がグラデルの魔力を吸収してくるため自身の魔力を奪われまいと抵抗する。


すると槍は周囲の観客席まで魔力の吸収を行おうとする。





「うっこれは!」

「何という力!」

ドネイとガルフは吸われまいと必死に耐える。


「グラデル!」


クラトスは咄嗟に乗り出すと

「あっ私も!」

「ぬっ!?いかん!」

アリスも付いて行く、その事にガルフは気が付くが既に遅い。




ゼオスもこの状態は危険であると判断する

「ちっこれはまずい......おいナシアーデ!さっさと止めるぞ!なし......」

「......」


ナシアーデはただ佇んでいる。


「ナシアーデ!」

「あっ何!?」

「行くぞ!」

「わっわかった!」



ユエルスとアンサも動き始める。


「これはまずい......」

「仕方なし!私も抑えに行きます!」


アンサは試合会場に走り行く。





クラトスとアリスがグラデルに駆け寄る。


「グラデル!その魔道具はやばい!」

「みんな大変なの!」

「クラトスにアリス!」


続いてゼオスとナシアーデが来る。


「グラデル!その魔道具の発動を中止しろ!」

「グラデル、お願い!」

「中止と言われても止め方がわからない!今抑え込んでいるのだ!」


そこにアンサが走ってグラデルの所に駆け寄ってくる。


「グラデルよ!その槍をこちらに向けてください!」

「っわかった!」


アンサの走ってくる方に槍を向ける。

するとアンサは走りながら両手に魔法陣を出す。


「『石化封印』」

アンサはグラデルの所まで走ると槍に魔法陣を近づける。

槍は徐々に石のような色に変わっていくと、何も起こらなくなった。


「おっ終わったのか?」

「はぁ......はぁ......おそらくは......ですが」


アンサは息を整えながら話す。


「あっありがとう!私の不始末でこんな」


するとアンサは気にしていないといった感じで笑うと一つ質問をする。


「その魔道具は一体何なのかお教えいただきたい......並みの魔道具ではない」

「これはクラトスより譲り受けた物だ、私の予想では大規模な魔力を与えることで魔道具として覚醒すると予想していた......だが結果はこの様だな!」


グラデルは少々残念そうに語る、アンサはクラトスににも似たような質問をしようとしたのをクラトスも読んでいたのか、アンサが何か言うまいにクラトスは答える。


「......それを俺に聞いても無駄だぞ、俺自身も親父からの貰い物だ、そしてそんな親父も商人から譲り受けた物」

「そうですか......その魔道具を私達に調べさせていただけませんか?私とユノは試験官の中では魔道具に精通している、きっと何かわかるはずです、何もわからなければ魔導協会にでも頼みます」


「クラトスは構わないか?」

「俺はどっちでもいい、あげた物だしな」

「そうだな、私が想像していた代物とも違った......どちらにしても魔導協会に管理してもらおう、あれは危険だ!」


クラトスはそういえばっといった感じで辺りを見る。


「勝負の結果は......って」

「気絶してるな......グラデルの勝利か?」

ヤーリュは既に魔力の過度な消費と槍の魔力吸収によって気絶してしまっていた。


クラトスは一通り話し終わると

「んじゃグラデルまた後で」

「また!」

「ナシアもまた会おう」

「えっクラトス、ゼオスと......」


そう言って帰ろうとした時、


「ちょっと待て!」


ゼオスが呼び止める。


「......何だよゼオス、今そういう気分じゃ」


心底嫌そうに振り向いて、答えるクラトス。


「4年前の約束覚えているな?」

「もっもちろん覚えてる」

これは嘘で本当は覚えてなどいない。


「黙れ!覚えているだけでは意味がない、キサマが守らなかったのだからな!」

「(約束......約束って何だったか......)」


クラトスは思い起こそうとする、4年前にゼオスと何を約束したか、殺し合ったり共闘したり、協力したり色々あったことは覚えているが......そこで何かを思い出す。


「あっ!もしかして4年前の試験が終わったらゼオスと真剣勝負してやるっていう約束か!?」


クラトスはハッと思い出したかのようにゼオスに聞くと......

「クラトス......あんたやっぱり忘れてたのね......」

「キサマ......忘れていたのか......」


ナシアーデはやれやれといったしぐさをし、ゼオスは目を丸くする。


「いっいや忘れていたわけじゃ......」


クラトスはゼオスを落ち着かせようとするが......。


「忘れていたんだなっ!もう許さん!死ねぇ!!」

「ゼオスだめよ!クラトス早く逃げなさい!」


ゼオスはそのままクラトスに飛び掛かかろうとしたところをナシアーデが押さえる。


「ありがとうナシア!この礼はいつかする!アリス!」

「わっ!?」

「ゼオス!今回の試験が終わったら勝負してやる!」


クラトスはアリスの腰を腕に挟むとゼオスから逃げるように走り去る。




怒涛の時間はこうして終了した、グラデル=トロンダとヤーリュ=ドルルの戦いはグラデルの一方的な試合で終了、ハプニングも起きたため、審判同士の協議の結果無事グラデルは勝利を認められた。


そして次に試合を控えているのはドネイ=イリとナイミア=ピリスである、ナイミアは現在魔道具の練習中、果たしてどうなるのか。


次回へつづく――

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