第27話 最終試験 ラナVSスラン 決着
「さぁ早くリタイアしろ!もしそれでも抵抗を続けるならば!この両手は二度と使い物にはならなくなるぞ!?」
スランはラナの腕を今までにないほど強く掴む。熱は既に炎のように熱い、浮かされる痛みと疲労、腕の激しい熱、叫ぶ疲労感、それはもはや拷問の粋にまで到達していた。
「いやあああぁあ!」
ラナは頼みの綱である『白闇の杖』を奪われ、両腕を掴まれたたまま、相手の魔道具で熱しられ続けていた、スランはリタイアを進めるがラナは拒否し続け、ラナの苦痛はピークに達していた。
「(苦しい......リタイアしたい......クラトスさん......皆......)」
「......」
ラナの両腕がスランに掴まれながらの状態が続いていた。
□
カベイアは歯ぎしりしながら我慢をしていたが
「もう見てられない、止めに――」
そういって乗り出そうと構えると
「いや待て!」
男はカベイアの方を引いて引き留める。
「何を言ってやがる!戦意は喪失してるだろ!?あんなのずっと見てれない!」
カベイアは男が傍観を進める現状に腹が立ち腕を払うが、男はラナとスランの方に指を指す。
「よく見ろ!」
「よく?」
男の言われた通りにカベイアはラナとスランの方を見ていると......
□
ラナを掴んでいるスランは徐々に抵抗の力が弱まっていっているのを感じていた
「(......そろそろ、終わりか)」
スランにとって熱し続けるという行為は望まぬ行動ではあった、しかし負けるわけにはいかない、だからこそできるだけ楽にリタイアをさせてあげたかった。
「もう、リタイアをするべきだ......」
スランはそう進める、もはや抵抗などは無意味で傷口を増やす結果となるだけだ、ラナの口が開く......しかしそれはスランの望んだ言葉ではなかった。
「私は皆に......そうよ、皆に助けられて此処まで来たの......だから......」
ラナからは再度抵抗の意思が芽生えていた、その状態にスランは困惑を隠せない。
「なっまだやる気か!?無茶だ!やめろ!」
それは困惑もあり怒りもあった、リタイアしない事への怒り、これ以上むごいことをさせるなという怒り、だがラナは続ける。
「私は皆に助けれてばっかりだから皆私を心配するの、だから今日この時だけは......私だけの力で!」
「なっ足に魔力を!?」
スランはラナの右足に魔力を纏っていることに気が付くが――
「はぁ!――」
バギッ!!
「ぐばっ!?」
捕まえられている両腕を利用してブランコのように勢い付けると右足でスランの脇腹を蹴りつけた。
万全のスランならば避けることが出来ただろう、しかし長時間の拘束行為と『熱の籠手』の使用はスランの体力や魔力、集中力を消費していた、その隙を突くようにラナはスランの脇腹を蹴る、ついにラナはスランの拘束から抜け出すことに成功した。
ラナはスランが怯んでいる隙に『白闇の杖』を取りに向かい走る。
「――!」
スランは片膝を突きながら魔法を撃つ。
「杖を取りに行くか!『炎の弾丸』」
「『シールド』」
ラナはスランが魔法を撃ってくると盾の魔法を発動して防御する、威力は前回より落ちていたために怯むことはない、それはスラン自身も体力を消費していることを示唆するものであった。
ラナはスランの魔法による妨害を退けながら走り抜けついに――
「(取れた!)」
クラトスより貰った『白闇の杖』を取り返す事に成功した。
「『フレイム・ブラスト』」
だがそれを待っていたかのようにスランの炎が迫りくる。
「っ!ダーク・ブラストぉぉ!」
迫りくる炎に対し、ラナは魔道具によって強化された闇の魔法で相殺させる。
「やはりその杖はさっさと取り上げないとだめだな!はあぁぁ!」
スランはラナに向かって全速力で走ってくる。
「させないわ!『ダーク・ゴースト』」
ラナはスランを近づけさせまいと闇の霊を呼び出すが――
「その技は完全に見切っている!『炎連弾』」
すでに読まれていたのか今度は逃げ回らずに的確に闇の霊を撃ち抜く。
「(私は......負けたくないの!)」
ラナは負けたくないという強い思いで魔法を唱え続ける。
「『ダーク・ゴースト』!」
スランは埒が明かないと踏む。
「どうなっても知らんぞ!『炎の小星』」
スランはラナをリタイアさせることは諦めて、力づくで勝利を掴むと決心し、新たな炎の魔法を発動する。それは今までの炎の魔法とは比ではない強力な魔法であることはラナの眼から見ても明らかであった。
「(あれは......『シールド』では受けきれない)」
どうすればいいのか考える、だがラナには思いつかない、杖を強く掴みながら思考を回し続ける、どうすれば勝てるのか......そして一つの案を思いつく。
「(もしかしたら......でも......)」
ラナは一瞬迷う、それはしたくはない事だから、だが
「(だけど......それでも負けたくないわ!)」
ラナは覚悟を決めた。
□
クラトスとドネイはガルフに押さえつけられながらラナとスランの試合を眺めていた。
「ッ!ポドと同じ魔法か......規模はポドほどではないとはいえ......」
「ポド......クラトスが戦ったという相手だな?」
「あぁ」
クラトスは思い出すポドが使った炎の魔法、スランの『炎の小星』はポドほどの威力があるようには見えないが、それでもラナにとっては脅威でしかない。
「頼む頼む!勝ってくれ!」
「ラナちゃん......勝って......」
ドネイとアリスも祈りながら戦いを見る。
クラトス達はただ見て応援することしかできない。
□
スランの『炎の小星』は――
「くらえぇ!」
ラナに向かって突き進む。当たればただでは済まない、最悪死ぬだろう......しかしラナは逃げずに......
「――今!」
「無駄だ!この魔法はそう易々と......」
現状撃てる最大の魔法をラナに放った、ラナも体力を消費している『白闇の杖』の強化があっても相殺などはできない、可哀想だがこれで自身の勝ちであると、スランは勝利を確信していた。
しかし――
ピカッ
『炎の小星』は突如怪しい紫の光が漏れだすと――
ズガンンン!
大規模な爆発を引き起こす。
「――なっ!?」
激しい爆発で辺りは黒煙に包まれる、しかしラナに『炎の小星』を破壊できるはずがない、何をしたのか?、何が起きたのか?......スランの思考は試合よりも「なぜ?」という疑問で完全に支配されてしまった。
□
この出来事に観客席の魔導師はもちろんクラトス達も驚いていた。
「嘘だろ!?」
クラトスは驚愕を隠せない、自分自身は『炎の小星』は突き抜けこそしたが破壊などはできなかったからだ。
「これは......驚きだ」
ガルフは既にクラトスとドネイを押さえつけてはいない、先ほどの出来事を唖然として見ていた。
「ラナって案外奇策思いつくんだな!?」
ドネイもラナがそのような策を考え出したことに驚いていた。
「......すごいわ!」
アリスも感激して試合を見ていた。
□
スランが晴れぬ疑問に苦しんでいる中、黒煙は徐々に薄くなり、ラナが見えるようになってくる。そしてそのラナの手には先ほどまで持っていたはずの杖が無い。
「っ!?」
スランはその事に驚愕する、なぜないのか、あらゆる可能性を考える。
「まさか......」
一つの可能性を考える、しかし、それは通常の魔導師であれば困難な事である、だが地面に『白闇の杖』が真っ二つに折れているのを発見して、それは確信へと変わっていく。
「魔道具を暴発させて相殺したのか!?」
そう、ラナは迫りくる『炎の小星』を前に魔道具『白闇の杖』に膨大な魔力を注ぎ込ませるとそれを投げて、炎の塊の中で暴発させていた、安物の魔道具ならばともかく『白闇の杖』を暴発させるほどの魔力を注ぎ込めたのは魔力量が多い魔導師であるラナだからこそできることだった。
しかしラナにとっては『白闇の杖』の暴発をさせるのは苦渋の決断でもあった。
クラトスから貰ったものを1日で破壊してしまうなんていやだ、それにできるかも、成功するかも不透明、ラナはあの一瞬にあらゆるものを賭けて勝負していた。
「っ!しまった!」
スランはあまりの事に困惑をしているとラナに隙を与えてしまった。
しかしラナも満身創痍、魔力は既に枯渇して、ギリギリの状態だからこの魔法に全てをかける。
「『ダーク・ブラストぉぉぉぉ!」
ラナはフルパワーでスランに魔法を撃つ、これは『白闇の杖』の力を借りない、誰の力も借りていない、ラナの力――
「だが......負けん......私は負けんぞ!フレイムブラストぉぉぉぉ!」
スランもギリギリだが負けられない、ラナがフルパワーで来るのなら、こっちだってフルパワー、既に『炎の小星』を撃つ魔力は残っていない、だからこの魔法に全てをかける――
巨大な炎の塊と巨大な闇の塊が両者から放たれ――
バアアアアンッ!
炎と闇の魔法がぶつかり合う。
激しい地響きに轟音、衝撃波、そして巻き上がる黒煙。それらすべては観客席にまで届く。
この試合を見ていたありとあらゆる魔導師が身を乗り出し
この試合の勝敗を......試合の結果を見ようとしていた。
徐々に姿が見えてくる、ラナもスランもボロボロの状態でどうにか立っている。
「はぁ......はぁ......」
もう両者動くことすらできない状態である。どちらが最初に倒れるか、
全員が固唾をのんで見守る。
「......まさか......子供に負けると......は――」
スランはそう呟き膝をつくと――
ついに――
バタンッ
スランは倒れた。
エルマとユノは急ぎスランの方に行く、スランはもう歩くことも出来ぬほどの状態であった。
そしてラナ所に行くとエルマは高らかに宣告した。
「勝者はラナ!ラナ=ポデュンノだっ!!Aの1の試合はこれにて終了!この素晴らしい試合をした魔導師に感謝しよう!!」
「「うおぉぉぉぉ!」」
エルマの宣告を聞いた魔導師はみな大声で歓声を上げる、これはラナの勝利を祝っているだけではない。
素晴らしい試合をしたラナ=ポデュンノ、スラン=パーア、両者魔導師へ捧げられた歓声でもあるのだ。
歓声で沸く会場ではカベイアも嬉しそうにほほ笑む。
「ははは、『炎の小星』を防ごうと準備していたんだけどな」
カベイアがそう言うと男も笑っている。
「全くこれだから、魔導師同士の戦いは面白いんだ」
ラナは勝利を宣告されてからもただ茫然と立ち尽くしていた。
「勝った......の?」
ラナはそう実感すると疲労感からフッと後ろへ倒れそうになると......
「おっと、魔道具を暴発なんてご無理をなさるからですよ?」
ユノがその体を支えた。
「えっと......あなたは確か......イッ!」
「ユノ、ユノ=ノエアです、両腕に火傷がありますね」
ラナは試合中は意識していなかったが徐々に激痛が発生してきていた。
「少々お待ちを『ヒール』」
ユノはラナの火傷に回復魔法を浴びせると火傷の傷跡や痛みは引いていた。
「これは応急処置です。医療班を今お呼びしますから、休んでいてくださいね~」
ユノは近くの魔導師にラナの元へ行くように告げると今度はスランの元に向かう。
「さあて、あなたはスラン=パーアさん、あなたも相当無理をなさいましたね?」
「......当たり前だ、必ず魔導協会の魔導師になると誓ったのだから......」
「......スランさんは重症ですので入院すると思います、お体を大切にしてくださいね」
ラナは座って休んでいると魔道具『白闇の杖』の事を思い出す。
「あっそうだ、『白闇の杖』......あっ」
ラナは魔道具の方に歩いて行くと、『白闇の杖』既に折れていて使い物にはならない状態になってしまった。
その時クラトスが他の魔導師の静止を振り切って現れた。
「ラナ!頑張ったな!」
「いや、止まってください!」
「そう固い事を言うなって、俺の知り合いだ」
クラトスは静止してくる魔導師をまあまあと言いながらラナに近づいて行く。
「クラトスさん......私勝ったわ......だけど、これ」
ラナは少し悲し気に折れた魔道具をクラトスに見せる。
「おっこれはまた見事に真っ二つに折れてやがるな」
「ごめんなさい、せっかく貰ったのに、昨日貰ったばかりなのに......」
ラナは申し訳なさそうにクラトスを見る。貴重な魔道具を勝利のために壊してしまった事が申し訳なくてならなかった。
「気にしないでいいぞ」
しかしそんなラナの想いとは裏腹にクラトスは全く気にしてはいなかった。
「でも......」
「そんな事より、勝った事を喜ぶべきだろ?」
クラトスがそう言うとラナは少し照れながらクラトスに問う。
「......クラトスさん......私すごかった?」
「おう、すごかったぞ!」
ラナはクラトスに褒められて笑顔になっているとユノが現れた。
「すみません、ラナさんの怪我はまだ完治していませんので~」
「あぁそうか、じゃあなラナ、見舞いには行く」
「わかったわ......わざわざありがとう、クラトスさん!」
ラナが言うとクラトスは背中を向けたまま片腕を軽く上げ、立ち去って行った。
「クラトス!ラナに会ってきたんだろ!?どうだった?」
「魔道具が壊れた事は気にしてたみたいだが、まっ元気そうだった」
クラトスが無理してラナに会った事で、ドネイはクラトスにラナの様子がどうだったのかを聞いていた。
「ラナちゃんすごいわ、私もビックリしてしまったもの......」
「土壇場でああいう思いつきができるのは強い」
アリスとガルフはラナが魔道具を投げたことを感心していた。
「次はグラデルか......アイツ強いらしいからなぁ」
クラトスはグラデルがどのように戦うのか気になって仕方がない、自分の目では見たことがないもののグラデルが強いのは何となくはわかっていた。
「ではCの所まで行くとしよう」
ガルフもそう言うと。
「あぁみんな行こうぜ」
クラトスが先導を切り進んでいく。
こうしてグラデルが試合を行う予定の場所まで移動していくのであった。
ラナ=ポデュンノとスラン=パーアの試合は激闘の末ラナの勝利で終わった。
次の試合はグラデル=トロンダが試合を行う、グラデルがどのように戦うのかそして錆びついた槍をどうするのか......
次回へ続く――
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