第26話 最終試験 ラナVSスラン 

クラトスから魔道具を貰ったラナ達は宿屋で休み、いよいよ最終試験の日をラナとグラデルは迎えようとしていた。


ラナとグラデルなどの宿屋組は試験会場前にいた。


「グラデルさん......勝てるかな?」

「ははは!大丈夫だ!ラナは勝てる!もちろん私もだ!」


これは励ましではなく、グラデルは本気でそのように考えている、そして、


「そうだ、平気平気」

「ラナさんは『白闇の杖』もありますし、絶対勝てますぅ」


ドネイやナイミアも元気づけていた。


「ラナちゃんにグラデル頑張ってね!」


アリスも同じように話しているとクラトスとガルフが現れた。


「あっクラトスさんとガルフさん!」

「皆の試合は後日なのに、わざわざ来てくれるとはありがたい!では行くとしよう!」


そしてみなが行こうとしたところをクラトスはグラデルが持つ錆びた槍に疑問を持つ。


「その槍、持ってきたのか?」

「あぁそうだ!大丈夫安心してくれ!」

「グラデルがそこまで言うのなら、大丈夫なんだろうが......」


実際グラデルは優秀な魔導師であることは知っていた、そんなグラデルが大丈夫だというからには平気なのだろう。


「ああぁ、すみませんがぁ、私は例の魔道具の練習したいのでぇ」

「無理してこなくていいわよ?」

「そうだぞ、ははは!私達の勝利を祈っていてくれ!」

「ラナさん、グラデルさん頑張ってくださいねぇ~!」


ナイミアは昨日渡した魔道具の練習をしたいようであった、それを止める者はいなくナイミアは走ってどこかに行った。


「ドネイはいいのか?」

「俺は平気だ、貰った魔道具を120%の効果で使って見せるぜ」

「すげぇ自身だな......」


ドネイがそこまで言うのなら止める必要もない、クラトス達はそのままアーシアの試験会場に向かうのであった。





アーシア試験会場  


試験会場には複数の魔導師がエルマを中心に立っていた。


「みんな集まったようだね、今から戦う順番と場所をそれぞれ決めるよ」


エルマはマイクを持ち話す。


「場所か......似たようなのが此処がいくつかあったな」

「うむ、此処の建物は対戦会場が4つもある特別な場所であるからな」


アーシア試験会場は此処以外にも4つも対戦会場がある奇怪な建物であった、かつてはただの無駄と判断されていたが現在は魔導師試験で有効に活用されている。


「まぁやることは昨日と一緒なんだ、A、B、C、Dと12の数が頭の映像に流れる、A~Dは戦う場所だ、数字は戦う順番だね」


エルマは光の玉を上空に掲げる......昨日は気が付かなかったがどうやらこれはエルマ個人の魔法ではなく複数の魔導師が一斉に発動させたシンクロ魔法であるようだ。


「今日戦う者は前に来にくるんだ」


その言葉にラナとグラデルなどの魔導師はぞろぞろと前に行く、クラトス達他幾人かの魔導師は心配そうにしていた。


「では!」


光の玉は魔導師達の頭の中に入っていく。


「おおお!私はCの3か!」

「......Aの......1?」


各々魔導師は各自反応をして行く中、グラデルとラナも自身の戦う場所と時間を把握した。


「全員見えたね?Aの場所はここだ、それ以外の場所は適当な魔導師に話しかけてくれ、魔導師試験の試験官関係者には目印として首に名前と写真が書かれたカードがかけてある」

「ラナは戦えるか......」

「......ラナちゃん大丈夫かしら?」


クラトス達は不安気な表情をしてしまう、ラナを弱いとは考えてはいないしかし、今までの状態からみて戦いに慣れているわけではない、そんなことを考えてしまう。


「さぁ、試合に出る者以外はここから離れて観客席に移動してくれ!」


「私Aの1番だった......」

「そうか......」


どう返せばいいのかはわからない、だから


「ラナ!頑張れよ!大丈夫勝てる!」

「うむ、緊張しすぎないようにな」


その言葉に元気を貰ったのか静かにほほ笑んで

「......わかった!私頑張るね!」

そういって試合の準備を始めるのであった。




クラトス達は観客席で試合が開始されるのを待っていた。


「......勝てるか......」

「ははは!大丈夫だ!ラナは強い!魔道具も持って百人力だな!」


グラデルも観客席にいたことで少し驚くクラトス。


「グラデルはここにいていいのか?」

「いや残念ながらこの後に槍をもう少し調べさせてもらう、ラナの試合の結果は後で教えて欲しい!」

「わかった、調べるって?」

「どのようにすれば魔道具として活用できるかだ、詳しくは試合まで秘密だ!」


そうしてグラデルは出て行き観客席にはクラトスとガルフにアリス、ドネイの4人となった。





ラナは緊張しながら歩いて行く、一対一での戦いなど今の今までしたことはない、第1次試験の時も助けられてばかりであった。だが逃げ出すわけにもいかない、ラナはクラトスあら譲り受けた『白闇の杖』を抱きかかえるように持ちながら、ゆっくりと歩いて行くのであった。


「この人が私の戦う相手ね......」


相手は灰色のスカーフを口に深く隠しながら付けており全体的に灰色の服をしていたが、籠手だけは赤い籠手を着けていて印象的だった。一度映像で見ているとはいっても実際見るのとは全然違う、映像では冷たい男に感じていたが、実際は冷たいという雰囲気は不思議と感じなかった。


「......相手は子供か......」


相手は少し嫌そうな顔をするがすぐに顔つきを変える。



二人が立って向かい合うとユノとエルマも隣り合って話をしていた。


「これまた、良い魔道具をお持ちです、えーとラナ=ポデュンノさんですか......」

「最近何かと話題のポデュンノだね」


ユノは知らなかったらしく、エルマに何があったのを訪ねた。


「何が話題なのです?」

「エセル=ポデュンノが仲間を殺そうとしたんだよ、ざまぁないね」

「へっへぇ......」


エルマの少々棘のある言葉に苦笑いを浮かべてしまうユノはそのまま話を続ける。


「そして相手がスラン=パーアですか、彼も魔道具をお持ちな様子」

「知らない魔導師だね、ノーコメントで」

「別にコメントは求めていませんよ......」




ユノとエルマが話し合っている頃赤いフードとローブが印象的な青髪の少女カベイアとぼさぼさの黒髪に丸眼鏡をかけた男が話をしていた。


「あ~あ、試験官様は楽で羨ましいな~」

「愚痴愚痴愚痴愚痴うるさい奴だ、もうすぐ試合が始まるのだぞ、集中でもしたらどうだ?」

「そこまで愚痴言ってねぇよ!」

「今日は4回は羨ましいを言っていたな、それ以外にも依頼が面倒云々......」

「ああもう!わかったわかった!」


カベイアは面倒くさくなり話を折るが男は話しを続ける。


「実際、楽なのは事実だ、しかしそれは試合を見ていなければならないため、そして我々は審判とは言っても行きすぎた試合をストップする役目がメインだ、そこを忘れてはならない、何せお前はそういう大事なことを......」

「わかりましたぁ!、わかりましたぁ!!ったく......」



緊張の欠片もない会話が続けられているが現在対面しあっているラナとスランといいう男は緊張状態にあった。


「......ラナ=ポデュンノです」

「スラン=パーアだ、よろしく」


エルマはお互いの間に立って簡潔にルールを話す。


「お互い禁止行為は意図的な殺害行為のみだ、負けの判定は試験官がする。リタイアをする場合は叫べばいい、制限時間60分......他に質問ある?」


質問がない事を確認しらエルマは


「ないようだね......双方、魔導師として誇り高く戦うように」


そう発すると大声で


「はじめ!」


この号令の瞬間


最終試験 ラナ=ポデュンノVSスラン=パーア

の試合が始まったのであった。






ラナは相手がどう動くか警戒する、スランは何やら動き出したために身構えると......


「早速だが......リタイアをしてくれるか?」

「っ!?」


何の突拍子もない突然そのような事を言われた、ラナは困惑を隠せない。


「驚くのは無理もないだろうが、子供を痛めつけるようなことはしたくない」


スランはリタイアをラナに進める、しかし

「......私は......リタイアはしないわ」

ラナは拒む、

「そうか......それは残念だ」

スランは悲し気な顔をすると......


「『炎連弾』」

小さな炎の玉を連続して放つ、数々の炎を前にラナは

「『ダーク・ゴースト』」

ラナはダーク・ゴーストによって相殺を図るが

「っ!?」

ラナの放った闇の魔法はラナの想像を超えた威力で炎の玉を飲み込みながらスランに襲い掛かかる、スランは逃げながら

「『フレイム・ブラスト』」

魔法を放ち、ゴーストを破壊しながらラナに近づいて行く





その場面はユノにも印象的に映ったようだ。

「わぁ、さすが『白闇の杖』強いですね」

ユノは魔道具に関する知識を有しており、相手が持つ魔道具を注意深く見ている。


「こんなの前は持っていなかったんだけどね、ポデュンノ家からでも譲り受けたのだろう」

エルマはなぜラナがこのような魔道具を持つようになったのか、少し疑問が湧いたが相手はポデュンノ家、どうとでもなるのだろうと考えて特に気に留めることはしなかった。


観客席にいたクラトス達もラナの魔法に驚いていた。


「すごいな......」

「うむ、魔道具のおかげでもあるのだろうが」


魔道具『白闇の杖』の闇魔法の強化は想像を超えてすさまじいがラナ自体が他より魔力の量が多い事と魔法の才があったことも大きい。

ラナに与えられた魔道具はラナを急激に強化させる結果となっていた。





スランは円状に逃げ回りながらラナに近づいて行く。

「(......油断をしていたつもりはないが......)」


近づこうとするとラナは

「『暗黒の衝撃』」

魔力の衝撃をスランに飛ばし、スランを吹き飛ばす。

「くっ」

スランはそのまま壁に吹き飛ばされた。


即座に耐性を立て直し再びラナに立ち向かうスラン

「『炎の弾丸』」

連弾とは違い鋭い一つの炎の玉をラナに目掛けて撃つが

「『シールド』」

ラナは盾の魔法でどうにか防ぐ、だがスランの魔法の衝撃を受けてしまう大きく耐性を崩してしまう。


「さすがに子供といえど、第1次を勝ち抜いた手練れか......だが!」

「っ!『ダークブラスト』」

「『炎の弾丸』はぁ!」


ラナの放った大きな闇の塊を炎の弾丸で相殺を狙いつつダメージを覚悟でラナの元まで突進を図る。

「できれば子供を痛めつけたくないのだがな!」

「うっ......『ダーク・ブラスト』」


突進してくるスランに怯えてしまうが再度魔法を行使する。だが

「『炎の装甲』」

自らの体に炎を纏い、ダメージを覚悟で突っ込み続ける、

「はああ!」

ラナの魔法により怪我を負いながらも進み続ける。

「『ダーク・ぶら――」

「遅い!」

ラナはついにスランに捕まってしまう。

「これも邪魔だ!」

「あっ!」

『白闇の杖』をラナの腕から奪い投げられて、両腕を掴まれる。

ラナは両腕をスランの片腕で捕まれると体が完全に宙に浮いた状態となった。





観客席ではクラトス達は頭を抱えながら試合を見ていた。


「ラナが捕まった......」

「やべぇってやべぇって!」

「杖も投げられたか......まずいな」

「......平気よね?クラトス」

「......あぁ」


クラトスを含めみながラナの現状が絶望的であることがわかる、『白闇の杖』は奪われ、両腕も封じられた、少女の体では大人の男に抵抗などできない。

ラナはもうどうしようもない状態となってしまった。





スランはラナの両腕の持ちながらさらに聞く。

「負けを認めろ、なぜリタイアと叫ばない?」

スランはこれ以上の事をやらせないでくれとでも思っているのか、ラナに強く問う。

「いや......ここまで来てそんな......」

しかし、ラナも折れない、スランはこれでは埒が明かないと踏んだのか、あることをする。





エルマはラナを説得するスランに少々あきれていた。

「意図的に殺すなとは言ったけどスランも甘い」

「いいじゃないですか、優しいのは」


ユノは優しい魔導師がいてもいいではないかとエルマに言うがエルマはいまいち納得しない様子で試合を見守る。


「その優しさが仇にならなければいいんだけどね......」

エルマは小さくそう呟いた。





ラナの腕を持ちあげている右手の籠手が少し赤く光ると徐々に熱くなっていく。

「私の籠手は魔道具なんだ、魔道具『熱の籠手』......君のに比べれば、しょぼい魔道具だ」


徐々に腕は熱くなっていく......

「いっ!?」

それは我慢が出来なくなるほど熱くなっていく。


「魔力を通すことで籠手に触れた物を熱するようになる......どこぞの奴らから奪い取った物」

その話をするとスランは自然と力を入れ魔力もより流す。

「私は実際、人を殺す事は好きではない、だからそれ以外の方法で相手に負けを認めさせてきた」


籠手はどんどん熱くなり、ラナの両腕は熱湯に浸されているかのような状態になっていた。

「ああああっ!」

耐えきれずに叫んでしまう。


「このまま試合が終わるまで両腕を掴んでいても良いのだが......いいのかそれで?」

「いっ」

それは絶望的な言葉、さらにラナの手首をより強く掴む。

「この籠手は熱をうまく調整できない、ずっと熱に苦しむことなるぞ?」

「いああああぁぁぁあ!!」


白い湯気のようなものと共に嫌な音がラナの腕から流れ始める。





ラナが熱によって叫んで様を見せつけられクラトスとドネイは我慢の限界に到達していた。


「くっクソ!もう我慢ならねぇ!!待ってろ!」

「俺も行く!」

「まっ待つのだ!」

ガルフは力づくでクラトスとドネイを押さえつけようとするが

「あんなの見てられねぇ!」

「あぁ!」

クラトスとドネイはガルフを引っ張っていく勢いで身を乗り出そうとする。

「あっアリスよ手伝ってくれぬか!クラトスとドネイが試合に出てしまえば全てが無駄になる」

「でっでも......」


アリスはどっちが正しいのかがわからなかった、クラトスうあドネイと同じように助けてあげたいがそうしたらラナの奮闘を無駄にしてしまう気がして......。


「クラトス!お前はラナの奮闘を無駄にする気か!」

「ラナが苦しむ様をもう見たくねぇ!」

「あんな叫び声を聞いて黙っていられるか!」


ガルフとドネイとクラトスが言い合う中でアリスは頭を抱えていた

「わからない......わからないわ」


アリスは頭を抱え込んでしまうがガルフ全力でクラトスとドネイを押さえつける。

「ええい!クラトスにドネイ、いい加減に落ち着けぇ!」

「ぐぅ!」

「ぐぐぐっ!」



観客席でクラトスとドネイをガルフが押さえつけようとしている時にカベイアもこの現状を放置するわけにはいかないと考えていた。


「おい、もういいだろ!これ以上あんな声を聞きたくない!」

「だめだな、早すぎる」


カベイアは男を睨みつける。


「お前、あの声を聞いていて何とも思わないのか」

「思うとも、助けてやりたいともな」

「だったら......」

「だが、あのラナという少女は今もなお抵抗し続けている、私はそれを無碍にはしたくない」


カベイアはその言葉を聞いてラナの方を見る、確かに圧倒的に不利な状況でありながらラナの瞳はまだあきらめておらず、勝利を掴もうとあがいている。


「......わかったよ、お前が正しい......だがこれが続く様なら、止めに入ってもいいか?」

「そうだな......問題ない」


カベイアと男もラナとスランの試合の結果がどうなるのかを真剣に見つめていた。





ラナの腕を捕まえながらスランは激しい感情の籠った声で話す。

「......ここまで耐えるのにはきっと大きな理由があるのだろう......しかしな!私とて負けられないんだ!」

「うっうう......」


ラナの思考は現在曖昧である、腕を掴まれ宙に浮いている状態による痛みと疲労、そして熱による激痛、それらすべての苦痛が思考を狂わせる。


「さぁ早くリタイアしろ!もしそれでも抵抗を続けるならば!この両手は二度と使い物にはならなくなるぞ!?」

スランはラナの腕を今までにないほど強く掴む。熱は既に炎のように熱い、浮かされる痛みと疲労、腕の激しい熱、叫ぶ疲労感、それはもはや拷問の粋にまで到達していた。

「いやあああぁあ!」



苦しみから逃れたいリタイアすれば楽になれるだろうか、ここまでやったのだからお父様も許してはくれないだろうか......。クラトスや皆はきっと褒めてくれる......よくやったとか......そうだそれでいい......もう叫び疲れた......痛いのはもう......。

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