第25話 皆に合う魔道具を見つけよう

会場の外に出たクラトス達


「ラナとグラデルは明日に試合があるからな、ばっちり休んでおけよ!」

「ははは!そうだな!」

「......クラトスさんにアリスちゃん......」

「ラナ、お前は明日の試合に集中するべきだ」

「だけど......」

「俺は大丈夫だ、色々考えてあるから......」


クラトスはアリス戦について何も考えてはいない、しかしラナに心配させまいとクラトスは嘘をついた。


「......わかった、明日の戦いの準備してくる」

「ラナちゃん......」


少し不服そうなラナをアリスは見つめる、そこでクラトスは一ついい案を思いつく。

「あ~そうだ、ここで売ってる魔道具でも見て行くか?ないよりはマシだろ?」

「おー!それはいい!戦闘慣れしていない魔導師にとっては重要な物だ!」

「じゃあついてこい!俺が特別に良い魔道具を買ってやる!」

「わぁほっホントですかぁ!?」

「マジで!?」


ナイミアとドネイは驚く、良い魔道具は大概が高価であるためだ。良い魔道具というのは著名な魔導師が長時間道具に魔力を込めてできた物などが高価で良い魔道具となる、そしてそんな物は一般魔導師には手が届くことはない。


「ナイミアとドネイのを買うとは言っていないぞ!ラナとアリスのだけですぅ!」

「えぇえ!そんなぁ、クラトスさんせっかく出会えたんですから!記念に記念にぃ!」

「頼むよぉ!今の俺はパワー不足なんだよぉ!」



クラトスは魔道具を売っている道具屋にみなを連れて行くのだが......



「......売り切れ......」


クラトスは茫然と佇む前に店長と思わしき男が申し訳なさそうに現れる。


「ああ、クラトスさん、すいませんもう売り切れです」

「魔道具はもうないのか!?」

「はい、一応試験前でしたし、多めに入荷していたんですよ?でも残念ながら......」

「......安いのも?」

「......はい」


どうやら道具屋には魔道具はもう無いようであった。魔道具は基本的にアマチュアで強力な魔法を使えない魔導師達に好まれる場合が多いために、試験中となると魔道具が市場からゴッソリ消えるということは毎年恒例であった。


「ひいい、わっ私も買いたかったのにぃ」

「魔道具なんて大概高いのばっかなのにな」


ナイミアとドネイも愚痴る、一応魔道具を独自で持っているのだが、多い方が戦闘で有利である、今回は残念ながら手に入りそうにないが。


「この様子だと他の店もダメそうだなぁ」


クラトスは腕を組みながら考えている、そして何か案を思いついたようだ。


「......皆は魔道具が欲しいか?」

「?」

「俺の家には非正規の依頼で手に入れた魔道具がある」

「それは、おそらくかなり貴重な物もあるのでは?」

「かもな」


クラトスは自身の魔道具の一部を渡そうと考えているようであった。


「うむ、では我も......」

「いや、ガルフはいいぞ」

「ぬ?それはなぜ?」

「良い魔道具は売れば金になる、兄妹の為に残しておけ」

「......すまないなクラトス」

「気にするな」



こうしてクラトスの家まで行くこととなる。

そんな道中での事。


「ねぇクラトスさん?」

「なんだ?」

「魔道具についてなんだけど、相手の闇属性の魔法を切って魔道具に吸収させる、なんてのもあるの?」


ラナは魔道具については詳しくない、そのためヘイブが使用していた魔道具について疑問が湧いた。


「完全に吸収か?」

「ええ、ヘイブが使っていたのだけれど......」

「いや、属性耐性レベルならあるが、完全な無効化なんてあるのか?」


クラトスがそう疑問を口に出すとグラデルが答える。


「いや!そのような魔道具自体は確かに存在するぞ!」


グラデルがそのようにいうとドネイも話す。


「あぁ、俺の村の村長が持っている杖なんかは風属性を完全に無力化するぜ」

「だがそう易々とは手に入らないな!魔道具には元となる道具と魔導師とが上手く合うか、そしてどれだけの時間を道具に魔力を込められるのかが大事なんだ!」

「良い魔道具を作るコツは道具にも魔力にも愛を込めることらしいぜ、だから道具も素材からちゃんと作ると良い魔道具ができやすいとか」

「そうなのねぇ、魔道具も奥が深いんだ」


グラデルとドネイ、ラナが話している間にクラトスが住んでいるという場所までたどり着いた。


「ここがクラトスさんの部屋......」


クラトスが現在住んでいる家はアーシア区内にある屋敷の2階の部屋である。


「非正規でしたなクラトスは......しかしなかなか良い屋敷だ!なさぞや部屋の中も......」


グラデルがそう言いかけると......。


「よしストップだ!」

「?」


クラトスはなぜか部屋のまで皆を止めた。


「ここから先は立ち入り禁止だ」

「どうして私は入りたいわ!せっかくクラトスの部屋に入れるのに」

「そう、私もクラトスさんの部屋に入ってみたい!」

「......本当にいいのか?」

「え?」

「後悔はしないか?」


アリスとラナは部屋に入りたがるがクラトスは脅すように話す。


「何を脅しているのだお前は......アリスにラナ気にするな、こいつの部屋はゴミ屋敷なだけで、それを他の人に見せたくないだけだ」

「ゴミ屋敷って......そこまではひどくない」

「ちなみに我は入りたくない」

「......なんでだ?」

「虫とか動物がいそう」

「なんだとぉ!?あーそこまで言われたら俺も我慢がならない、みんな俺に付いてこい!言っておくがな!汚いとは言ってもガルフが言うほどひどくはないからな!」

「いや我は入らない」

「いいから来るんだ!」


クラトスはガルフを無理やり引っ張りこみ、他の仲間たちもそのまま部屋に入っていく。





部屋の中には何やら骨董品やら武器やらで部屋中を埋め尽くし、歩こうとすればつま先立ちを強いられ、まるで探検をしているような気持ちであった。


「えぇ......」

「はは......」


ナイミアは困惑し、ドネイは苦笑いをして見せる。


「ははは!しかしこれはすごいなぁ!」

「クラトスさん......もう少し綺麗にしたらいいのに、時間ができたらお片付けを手伝ってあげるわ」

「クラトスの部屋は洞窟ね、宝物見つかるかしら?」


グラデルついつい笑ってしまい、ラナも困惑をするし、アリスは探検家気分であった。


「何の自信があって我らを部屋に招き入れたのだ!」

「いや、昔より良くなっただろ」

「......ナシアに判断でもしてもらうか?」

「なんでそこでナシアが出るんだよ......」


クラトスとガルフが話し込んでいる時、グラデルがクラトスに話してきた。


「話し込んでいるところ悪いが、そろそろ魔道具を見せてもらえるだろうか?なにせラナやアリスがここに長居するのは危ないからな、ははは!」

「......わかった付いてきてくれ」


クラトスは何とも複雑な気持ちで奥へ進む。

すると今までの場所とは少し変わり少し厳重そうで少し豪華な扉が現れた。


「ここには高価なの武器や魔道具がある」

「厳重そうな扉だ」

「一応な、高価な物だけならともかく強力な力を持つ魔道具もある、それを盗まれるわけにはいかないだろ?」

「確かにな」

「じゃあ開けるぞぉ」


クラトスは扉に手をかざす、どうやら自身の魔力でしか開けられないようにしているようであった。



ガシャン!



扉が開く。

扉の中にはそれなりにきちんと道具が並べられていた。


「この道具達が一応非正規魔導師としての報酬の数々だな、後はじいさんとばあさんの物の一部がここにある、それと......クソ親父と母親のも少しか......」

「ええぇ、あっあのクラトスさん、結構すごいのもありますよぉ」

「......」


ナイミア達はそれぞれ驚き、博物館でも見ているかのように見ている。グラデルも興味深そうに様々な道具を見つめる。


「我も驚いたぞ......」

「実際爺さん達からの貰いもんが多いんだよ、実家なんてもっとすごい、まぁあれらはさすがに俺の独断では渡せないから、ここにあるので我慢してくれ」


ラナやアリスは色々見て回るが迷っている様子。


「ねぇ、クラトスさんこれ何を選べばいいのか......」

「クラトスが選んでほしいわ!」

「......そう言われてもなぁ」


人に魔道具を選ぶなんて得意ではない、自分自身魔道具は剣を使ってはいるものの剣がラナやアリスには使えないだろう......汎用性のある物......クラトスは自分なりに考えた末......。


「ちょっと待ってろ、ラナにはどんな魔道具がいいか......」


そのように考えてある杖を出す。


白い杖の先端には紫の宝玉が付いており、質素な杖であった。


「これは......前にある老婆から貰った奴だな、闇属性強化だったはず」


魔道具によって自身の魔法を強化する、汎用性が高く使いやすい、これならばラナも使えるだろう。


「えぇと名前は確か『白闇しらやみの杖』だっけか、大きさも......少し大きいかもしれないが......まぁ大丈夫だろう......」


クラトスはラナにはこの杖を渡すことにした。


「後はアリスのか......」


アリスが一番難しい所であった、正直言えば必要ない、既に魔導師としての実力は極めて高かった。


「お前には必要ないなんて言いづらいな......」


クラトスは考える、過度に強力な魔道具はアリスにとって危険である、せっかく人を殺さないようになっていっているのに魔道具の過剰な力は人をまた殺めてしまうかもしれない。



「う~ん、よしこれならどうだろう」


ピンク色の石で彩色されたオレンジ色の腕輪をクラトスは手に持つ。そしてラナとアリスの方へ持っていく。


「ラナにアリス、お前たちに合いそうなのを選んできたぞ」

「わぁ!ありがとうクラトスさん」

「どれが私の?どれが私の?」


ラナとアリスが集まってきた。


「はいはい、落ち着いて落ち着いて」

「クラトスさん子供扱いしないで!」

「はい、ラナにはこの杖だ」

「それが......ラナちゃんのなの?」


ラナに渡された『白闇の杖』はラナには少し大きいようだったが幸い持てるようだった。


「『白闇の杖』闇属性を強化する魔道具だ」

「『白闇の杖』っ!ありがとうクラトスさん!私大切に使うわ!」

「......ラナちゃん......ずるいわ」


ラナは目に見えて嬉しそうにする、アリスはそんなラナを羨ましそうに見ていた。


「じゃあアリスのはこれだ」


クラトスは腕をアリスに渡す。


「わあぁ!これがクラトスから私にくれる物ね!」


アリスは腕輪を上に掲げながらグルグルと回る。


「そんなに喜ばなくても......」

「嬉しいわ!ありがとうクラトス!一生の宝物にするわ!」

「正直に言えばその魔道具は一生の宝物にするレベルの魔道具じゃないぞ?」

「何を言っているの!?クラトスがくれた魔道具なんだから一生の宝物よ!」


アリスはクラトスから魔道具......いや何かを貰えたこと自体が嬉しかったのだろう、とても大切そうに魔道具を持つ。


「大きさは問題なさそうだな」

「どういった効果なの?教えて教えて!」

「それは『破邪の腕輪』邪悪なモノから守ってくれる腕輪だ、あと炎と闇の耐性が付くらしいぞ」

「わぁ!きっとクラトスからの腕輪だからなんだって守ってくれるわ!クラトス!親切な魔導師さん、ありがとう!」

「まぁ、喜んでくれて良かった」


アリスに渡された魔道具は実際『白闇の杖』よりも全然弱い物ではあったし、アリスはラナと自身の魔道具の格の差は何となくわかってしまいラナに嫉妬をした、しかしクラトスから何かを貰えたという事実が嬉しい、その喜びの前にはあらゆるものは些事となった。


「あぁ、ガルフ、グラデル、ドネイ、ナイミア」


クラトスはラナとアリス以外の仲間を呼ぶ。


「む?どうした?」

「そろそろ帰るか!」

「ううう、一つくらい......」

「ダメだろ!」


ラナとアリスに魔道具が渡されたため帰るのだろうと考えていた。しかし


「せっかく来たんだ、お前らに魔道具一つやる」

「ええ良いんですかぁ!?」

「ここまで来て負けられても困る」


クラトスはせっかくここまで一緒に来た仲間に負けてほしくはなかった、それは当然アリスもだ。


「いや我は良い」

「ガルフはいいのか?」

「ご厚意は有難いがな、我は自身の持ち物で勝負させてもらう」

「そうか、負けんなよ?」

「負けるわけなかろう」


クラトスはそのまま歩いてドネイとナイミアに近づく。


「適当に選んでいいぞ」

「適当にって言ったってなぁ、ちょっくら探してくる」

「あああの色々見るのでお時間くださぁああい!」


ドネイとナイミアが走って行くとグラデルはとある魔道具に興味を持っているようだった。


「グラデル?どうしたんだ?」

「あっああ、ちょっと気になった魔道具がな......」


グラデルが見ていたのは錆びついた槍であった。何やら豪華な装飾をされていたのだろうが既に見る影もない。


「それは......俺のクソ親父が商人から手に入れたらしい、魔道具ではあったらしいがどういうわけか使えないし効果も不明。武器として使おうにも錆びついてるし、どちらかというともう骨董品だなこりゃ」

「......テーリア遺跡の......」

「ん?テー......なんだ?」


どうにも聞きなれない単語が聞こえた、しかし小さくぼそっと言った声でありクラトスには全てを聞くことはできなかった。


「いっいや!何でもない!気にするな!そっそれよりもこれが欲しいのだ、良いかね!?」

「え、それでいいのか?魔道具としても武器としてももう使えない骨董品だぞ?」

「あぁ、かまわない!」


グラデルはどういうわけか使い物にならない錆びついた槍を貰った。

少し経つとドネイとナイミアも欲しい魔道具を見つけてきたようだった。


「クラトス!いい感じなの見つけたぜ!」

「ドネイは何を選んだ?」

「俺は――」


ドネイはクラトスに欲しい物を教える。


「なるほどなぁ、いいんじゃないか?」

「よし、これで俺はもっと強くなれるぜ!」


ドネイが選択したものは比較的普通の物であった。



「クラトスさぁん、私も見つかりましたぁ」

「金で選んでないよな?」

「違いますよぅ、ちゃんと試験用の魔道具を選びましたぁ!」

「そうかい、じゃあ何を選んだんだ?」

「私が選んだのは――」


ナイミアは自身が選んだ魔道具を教える。



「......大丈夫なのか?聞いた限りかなり難しいらしいが」

「大丈夫ですよぉ、私は一応経験あるんで!」


ナイミアは少し難し気な魔道具を選んだようだ。



「さぁてじゃあ欲しい奴は皆貰ったなぁ?」


ガルフはあえて拒否をしたが貴重な魔道具を多くみられて満足そうであったし、他の皆は当然ながら満足している様子だった。


「じゃあドアから出てくれ、今から閉めるぞ」


クラトスは少し豪華な扉を閉める。



ガシャン!



「宝の部屋から戻るとゴミ屋敷であった」

「本当にね」

「うるせぇ!」


ガルフとラナはそう言うとクラトスは納得いかない様子で怒る。


「じゃあ皆早くでましょう?私が先頭ね?」

「ここ俺の部屋なんだが」


アリスは探検家気分で先頭に立ちクラトスの部屋から外へ出て行くのであった。



「まぁこれで大丈夫だろう?少なくともラナは」

「ええ、でも今日は本当にありがとうね?クラトスさんにはいつかちゃんとお礼しないと......」

「あっお礼の内容考えようよラナちゃん!」

「あっいいわね!それ!」


アリスとラナが話し始めるとクラトスはグラデルに話をかける。


「グラデル、本当にその錆びついた槍でよかったのか?」

「ははは!大丈夫だ問題ない!クラトスも心配しなくていいぞ!」

「まぁそこまで言うなら」


グラデルは心配無用といった様子なので今度はドネイと話す。


「ドネイは......まぁ大丈夫か」

「あぁ、今日はありがとうな!」

「いつか飯でも奢ってくれ」

「おういいぜ!というか絶対おごるからなー!」


ナイミアに話す。


「ナイミアはちゃんと練習しろよ?」

「わっわかってますぅ!」

「本番でミスとか笑えないからな」

「大丈夫ですってぇ」


ナイミアも問題はないようだ。


「そろそろ、帰ろうか、明日は頑張れよ、ラナ、グラデル!」


辺りは夕暮れ時だったクラトスはそう切り出して皆が帰ろう歩き出す。



「えええと、クラトスさんはなぜに私達と一緒に歩いているんです?」

「む?そうだ家はあそこだろう?」

「俺のばあさんの家に行くんだよ」

「えええ?なっなんでおばあさん宅にわざわざ?」


ナイミアとガルフ当然のような質問をするが


「だってあんな場所で眠れるわけがないだろ?」


「「えぇ......」」


クラトスの当然かのようにした返答に皆困惑するのであった。




こうして最終試験を当日に迎えることとなる、初日はラナとグラデルだ、ラナは戦いには慣れていないが今回は『白闇の杖』という魔道具を手に入れた事で闇属性の威力は上がっていることだろう。

グラデルは魔道具こそは骨董品レベルの物を貰っただけであるが、素の実力は光の武器を創造したり召喚獣を召喚出来たりと強い。

いよいよ幕が開く最終試験果たしてラナとグラデルはどうなるのだろうか――!?

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