第21話 試験前日の平和な日
第2次試験を前日に控えた日
特にすることもなくアーシアをうろうろする、試験会場にも行こうとは思ったが関係者以外は立ち入り禁止だそうで、ガルフの所にも行ったがせっかく帰ったのだから家族と一緒にいたいだろう、グラデル達が休んでいる宿屋の場所も知らず、結局何もすることがなくなっていた。
「(ラナはグラデル達がいるから大丈夫だろう、たまにはこういうのも悪くはない)」
いろいろ考えながら歩いていると。
「ん?あれは......」
川の土手の下に見慣れた人影が見えた。
「あれは......ラナか」
こんな所に一人でいるのは危険だと思い走って近寄る。
「おいラナ、一人は危ないだろ?」
「あっクラトスさん」
「どうしたんだ?」
「グラデルさんやナイミアさん、ドネイさんにずっと心配されてると疲れちゃって......」
四六時中近くに誰かいるのは疲れるのだろう、ヘイブの件があったこともあり、グラデル達がラナは心配する気持ちは理解できた、しかしそうやって張り詰めた空気はラナにとって心休まらないだろう。
「そうだ、アリスの様子は?」
アリスも心配の種の一つだ、悪気なく殺しをしてしまう感性は早く治してあげたいとクラトスは考えていた。
「アリスちゃんはみんなと遊んでいるわ、私も遊んだ......けど、やっぱりクラトスさんがいないと寂しそう......」
「そうか」
「あっそうだ!私達は休んでる宿屋まで一緒に行きましょ!今日は何か予定ある?クラトスさん」
「いやないな」
「じゃ行きましょ!」
クラトスは腕をラナに引っ張られながら宿屋まで連れて行かれた。
「お!クラトスではないか!それにラナ!いま探しに行こうと思ってたのだぞ!」
「ごめんなさいグラデル」
「ヘルプ!ヘルプだ!クラトス!」
「ナイミアにドネイ?もっと遊んで?」
「いやああもう!勘弁してくださいぃぃぃ」
ドネイとナイミアはどうやらアリスと一晩中遊ぶ、というよりアリスに遊ばれていたようだ。
「アリス」
「ん?あらクラトス!見て見て私誰も殺してないわ!ナイミアにドネイ、みんなやさしいのよ?グラデルはねお料理が得意でね!ラナちゃんとはおままごとで......」
「アリス、ナイミアとドネイの顔をよく見て見ろ」
「......?あら、ナイミアにドネイ顔色悪いわ?風邪なの?いけないわ明日は試験なのよ?」
「一晩中、遊んだで皆寝不足なんだ、アリスはちゃんと相手の事を考
えないとな」
アリスはクラトスにそう言われると
「でも、前クラトスが入院してた時はそんなこと誰も言わなかったわ」
「それはアリスを気にしてあえて言わないでくれたんだよ」
「そう......なの?」
アリスは寂しそうにナイミアやドネイを見る。
「少し、すこーし気にして言わなかっただけだぞ?」
「あっアリスさんは元気でぇ、元気すぎるかなぁとは.......そのぉ」
アリスはどうやら自分が身勝手にやっていたことを自覚してきたようだ。
「あぁ、ごめんなさいナイミアにドネイ.......私楽しくなってつい......」
アリスは右手と左手の人差し指をグルグルと回しながらナイミアとドネイに謝る
「よしこれで一件落着だな」
「ねぇ、クラトスとお食事がしたいわ!」
アリスの突然の提案にクラトスは少し驚く。
「えっ?ちょっと......」
「クラトス早く行きましょう!」
「あっ私も行く、アリスちゃんいい?」
「いいわ!」
クラトスが何も言う隙もなくどんどん会話が進んでいく。
「......俺行くとは一言も言ってないんだが」
「えぇ、だめ......?」
アリスは悲し気にクラトスを見つめてくるため結局断りはせずにラナとアリスは一緒に出掛けることとなった。
「じゃあ、グラデル、少しの間出かけてくる」
「ははは!頑張ってこい!」
「まぁ......頑張れ」
「お気をつけてぇ」
こうしてクラトスはアリスとラナと共に食事に出かけることになった。
「ねぇねぇ、どこに行くのかしら?」
「どこってなぁ」
アリスから急かされるが料理店には詳しくない、特に子供が喜ぶようなものには疎くて困ってしまう。
「何か食べたいものは?」
「私は何でも、アリスちゃんは?」
「私も何でもいいわ!クラトスが好きな所に連れて行って!」
さすがに酒場に連れて行くわけにもいかないだろう、クラトスは考えに考えた末。
「わぁ、カフェね!」
「(まぁ、こういうところでいいだろう)」
「ケーキ頼んでいいかしら」
「あぁ、どうぞ......安いのにしろよ」
クラトスは珈琲を頼み、ラナとアリスはショートケーキを頼んだ。
「......そういえばラナに聞いておきたいことがあるんだが」
「~♪ん?何クラトスさん?」
「エセルって男のこと知ってるか?」
「っ!?」
ラナは驚いた、クラトス自身も聞くべきなのかは迷った、しかしアリス以外誰もいない場所でなら話しやすいのではないか?と思いラナに聞いたのだ。
「クラトスさん......なんでエセル兄さんのことを?」
「前に戦ったんだ」
「エセルは私の兄に当たる人、でも家には長い間帰ってきてないの」
「そうか、いや前々から聞こうとは思っていたんだがな」
「......どんな感じだった?」
「エセルか?まぁなんというか非正規への敵視はすごかったな、それを庇った奴すら殺そうとする勢いだった」
クラトス思い出す、あの運命的な日を、そしてエセルの異常な非正規魔導師への敵視も気になった。
「やっぱり......」
「やっぱりって何か思い当たる節があるのか?」
「......私とエセル兄さんは異母兄妹、私の家は非正規魔導師を多く雇っているの」
「異母兄弟......」
「非正規の理由は......あまり外部に知られたくない事を隠すため、エセルのお母さんはそんな雇っていた非正規の魔導師に殺されたらしいの......目の前で」
「っ!なっなんでその魔導師はエセルの母親を?」
ラナは首を振る。
「知らないわ......このこともなんとかメイドに聞きだしたくらいだもの、だからその後その魔導師がどうなったのかも知らない」
「そうか......ありがとう」
エセルがなぜあそこまで非正規を敵視していたのかを知ることができた、目の前で母親を殺された、そんな出来事が起きれば確かに理解できる。
だがしかしなぜその魔導師はエセルの母親を殺すという暴挙にでたのだろうか
クラトスの疑問は尽きなかった。
「クラトス、私食べ終わったわ、ラナは食べないの?私が貰ってもいいかしら?」
「わっだめ私が食べる」
そうして昼食を食べ終わり店から出て宿屋まで歩いていた時のこと。
「......アリス」
「何かしらクラトス?」
クラトスはせっかくだからアリスに質問をすることにした。
「俺はアリスの事全然知らないんだが......アリスは兄妹とかいるのか?」
「いっぱいいたわ!」
「......」
「あっアリスちゃん......」
「......どうして「いた」なんだ?」
「いたから、いたなの!!」
アリスは一変して口を閉ざしてしまった、おそらく知られたくないことなのだろう。
アリスに何があったのか気にはなるが......。
「ごめんって、何かお菓子買ってやるから機嫌直せ」
「本当!?クラトスありがとう!」
「あっ私もクラトスさん!」
これ以上深堀するのやめた、もしかしたら大切な情報も知っていたのかもしれない、だが相手が嫌がっているのに無理やり聞くことはできない。
そうしてクラトスはアリスとラナを宿屋に帰すと集まる場所はわかりやすいアーシア駅に決めた。
気が付けば夕方だ、祖母の家に戻り自身の部屋に行く。
何せ明日は第2次試験なのだ体はじっくり休めておきたい。窓を閉めて目を閉じる、ただ月明かりのみが照らす部屋、そこには誰もいないはずなのに――
「......(誰かいる)」
なんとなくそんな気がした、部屋のドアや窓が開いた音はしなかった、どうやって入ったのか、誰がいるのか、目を開けるべきか狸寝入りをするべきか。
そんな風に迷っている思いを知ってか知らずか近づいてくる。
「......(?)」
だが不思議でもあった、怖いとは感じなかった、本来自分以外誰もいないはずの寝室で近くに誰かが立っているにも関わらず。
「......(気になるな)」
気になってしまう、何を意図してこのような事をしているのか。どこかに行く気配のない誰かが気になって気になってしょうがない。結局我慢しれきてなくなり......。
「......っ!」
目を開けた。
「ふふふ......月が綺麗ね......竜の魔導師様......」
「ねっネレイアイ!?」
ネレイアイ=ナイナイア、水色の長髪の少女、優しい瞳はあらゆるものを吸い寄せるのだろう、月明かりの中でカーテシーをするその姿は、
月明かりの所為もあってなのか蠱惑的にすら見える。
クラトス=ドラレウスとネレイアイ=ナイナイアの不思議な時間が始まろうとしていた――
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