第20話 久しぶりの実家
ネレイアイと別れたクラトスは祖母の家に向かい第1次試験突破の報告をした。
「第1次試験を突破できたかい、よかった」
クラトスの祖母エイバフ=ドラレウスは笑顔で喜ぶ。
「あぁ、全く大変だった」
「まさか第2次試験がここアーシア区でやるなんてね」
「そうだなぁ」
クラトスは椅子にぐったりと座りこむ。
「せっかく家が近くにあるんだ、その利点を活かさないとだね」
「その利点を活かすためにばあちゃんの家に来たんだよ」
机のコーヒーを飲むクラトス。
「ふぅ」
「それで今日はここで泊まると?」
「そうだ、ばあちゃんお願いできるか?試験前くらいは綺麗な部屋で寝たい」
エイバフはフッと笑うと
「いいさ、試験は命掛けだからね」
「へへへ、どうも」
「う~ん?」
エイバフはクラトスの顔をマジマジと見る。
「なっ何だよ」
「お前さんいい顔つきになったね」
「おっかっこよくなったか?」
「あぁ、男前になったよ」
クラトスはにっこりと腕を組みながら笑うが......。
「前まで男前じゃなかったみたいだな、その言い方」
不服そうに言う。
「実際そうだったよ、自覚はなかったようだけどね」
「う~ん、そうだったのかぁ?」
クラトスは思い出すように考え込む。
「別に今も昔もそんな変化はないと思うが......」
「夢を持ったからだよ」
「そりぁ確かに俺はもう一度夢を実現しようとはしてるが、そんなんで男前になるかよ」
クラトスは別に自分を変えたとかそういう意識はない、諦めかけていた夢をもう一度目指してはいるが、別に自分の変化を望んでのことでもなかったし、これからもクラトスはクラトスとしてありのままで夢を目指そうと思っているのだ。
「人間は夢を持つと顔つきが変わるのさ」
「そんな簡単には変わらねえだろ」
「いいや変わるんだ、夢を持たぬまま生きてるとそのうちに亡者みたいになるんだよ生気がなくなってね、そんな悲しいことは他にない」
エイバフは昔を思いだすように話す。
「だから小さい些細な夢だろうが大きい絵空事を描くような夢だろうが、夢の有無は大切だよ。夢はね、人生を面白く面白くしようとさせるスパイスの有無なんだからね」
「へぇ~、それはばあちゃんの考えなのか?」
「一部は受け売りだがね」
クラトスの祖母も昔は祖父と共に魔導師であり、世界中を駆け回った、そういった経験もあり、一言一言の重みを感じていた。
「......あっそうだ」
クラトスは思い出したかのようにエイバフに話す。
「そういや話題変わるけどナシアとあったぞ」
「ナシアちゃんに?」
そんなナシアーデの話題をしているころ......。
◆◇◆◇
アーシア 試験会場
「ここで皆が戦うのね」
ナシアーデは試験会場を眺めていた。
「あっカベイアさん」
「ん?」
赤いフードの少女カベイアを偶然見つけたナシアーデは走り寄る。
「カベイアさんも試験のお手伝いを?」
「そうだ、面倒だけどな」
カベイアは口をへの字にしながら答える、赤いフードから見える青い髪、カベイアは男を魅了させるが、カベイアの男勝りな口調の所為で避けられる結果となっていた。
「ゼオスもいるんだ、どっか行ってるけど」
「ゼオスは前にウンタルで一緒だったけど......ここにも?」
「ははは、大変そうだろ?マジで切れてたからな」
ゼオスが切れている場面を想像するのは容易い。
「でもよく受け入れたわね?」
「それはネレイアイのおかげだな」
「どうしてネレイアイさんのおかげ?」
「あれ?知らないのか?」
ナシアーデはネレイアイの事は詳しくない、ネレイアイ自身が目立つこと好まない魔導師だからだ。
「ネレイアイ=ナイナイア、エルマと同格かそれ以上の魔導師だ」
「えっエルマさんよりも?」
「あぁ、まぁ今回の試験官代表はエルマだが」
「なんでネレイアイさんは代表にならなかったの?」
「それは知らないな、エルマと違って、ネレイアイはそういうのに興味ないんだろう」
ネレイアイの事を知らなかったナシアーデはカベイアに色々聞いていると......。
「カベイア、何を話しているのかな?」
「げっ」
「エルマさん!」
エルマがいることに気が付いたカベイアは口を塞ぐ。
「確かにネレイアイは強力な魔導師だけど、僕より強いというのは過大評価では?」
「エルマ......さん、これは噂だ噂!真に受けるのはどうかと......」
カベイアは先ほどの発言を訂正するようにエルマに話す。
「まぁいいよ、そんなことよりカベイア?ゼオスにもお願いしておいたけど、ちゃんとやってるね」
「ん、わかってるって」
「何か頼まれているの?」
ナシアーデは何を頼まれたのか気になり、カベイアに聞くと変わりにエルマが答える。
「君は情報漏れについてはもう知っているから話しておこうか、カベイア達は誰が試験内容を漏らしたのか調査を頼んでいるところなんだ」
「そうなんですか......」
ナシアーデはエルマから事情を聞き理解したが、なぜカベイア達を選んだのか、そのことに疑問が残る。
「えっと何でカベイアさん達に?」
「それは私達も疑問に思っていたんだ」
ナシアーデとカベイアは共にエルマの方を見るが、当のエルマは腕を組んで涼し気に佇んでいるのみだった。
「......それを君たちに言う必要はない」
「えぇ......」
「ナシアーデ、お前もいつかは慣れるだろうがエルマ......さんはこういう人なんだ」
3人が話していると試験会場に他の魔導師も現れてきた。
エルマはこの話題を他の魔導師には聞かれたくないためか話を終わらせる。
「まぁわかってると思うけどこのことは他言無用で」
「はいはい、わかってるって」
そうしてエルマはそそくさと会場を離れていくのだった。
エルマが会場を出て行って見えなくなると
「ナシアーデ、エルマをどう思う?」
「どうって?」
「良い人と思えるか?」
カベイアから突如そのようなことを言われるがナシアーデば別にエルマと付き合いが長いわけではない、それこそゼオスやカベイアの方が詳しいはずなのになぜそれを聞くのだろうか?
「良い......悪い人ではない?」
今回の第1次試験は意図的に魔導師同士の争いを発生させる内容だった、そのため正直印象は良くはない、しかしエルマの事をそこまで深くも知ってないナシアーデはエルマの事をそれだけで悪と言い切ることはできなかった。
「なんだてっきり悪って答えると思った」
「どうして?」
「今回の試験にあ~え~と、お前の知り合いが何人かいるだろ?だから」
確かに当初そのことでショックを受けた、エルマが今回試験官代表となり試験内容を高難易度に変えた、だが、
「別に心配なんてしてないわ」
「心配していないのか?」
「いっいや、心配していないというか......」
「どっちだよ!」
「あいつらなら大丈夫かなって」
ガルフは強力な魔導師だ、もちろんナシアーデはガルフを心配していないこともなかったがガルフは精神力が強いことを知っているため過度に心配はしていなかった。
しかしクラトスは違う、実際クラトスの精神力は一見強そうだが何か危うさをナシアーデは感じていた、少なくとも試験に受ける前のナシアーデの感覚では、だが、ウンタルで一度面会した時、クラトスの顔つきは昔とは違っていると感じた、ただの気のせいなのかもしれないが、大丈夫だと不思議と言い切れた。
「ふぅん、じゃいいか」
「なっ何よ......」
「いやぁ、ナシアーデがアイツを悪人って思ってたならゼオスと一緒にエルマを蹴落とそうとな」
「そんなことエルマさんにバレたら大変なことになるわよ!?」
「はっはっはっ!」
第2次試験はどうなることかと皆不安がっていた、何せ第1次試験は異例な事が多かった。きっと第2次試験もそのような異例続きになるのだろうとナシアーデも魔導師達も思っていた、結果は比較的に普通な内容だった、対戦方式なら慣れている魔導師もいる。そのため安心して第2次試験の準備を進めていた。
日は沈みに朝となる、第2次試験まで残り1日となろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます