第19話 アーシアで出会った不思議ちゃん

試験内容を知ったその日の夜の事

クラトスは明日退院したらすぐアーシア区に向かうことにした。そのことは当然他の仲間にも知らせた。


「今日は早めに寝ようか......」


明日は用事があるわけではないがどうせ混んでいる列車に揺られるのは覚悟と体力が必要なために早く寝て体力をつけようと考えたのだ。


「......」


眠りかかろうとしていた時のこと......


「――トス」

「(ん?)」

「クラトス」

「なっなんだ?」


自身を呼ぶ声が聞こえて起きると、


「久しいなクラトス」

「へっヘルダー!?」

「しっ」


ヘルダーは人差し指を口に付け、辺りを見回している。


「なんだ、どうしたんだ?」


なぜヘルダーが突如自身の前で姿を現したのかが謎だった。


「簡潔に話すが、俺はもうラナを狙わない」

「......そんな事言われても信じられないんだが」

「だろうな」

「それに、それはラナやガルフに話すべきだろ、俺に話されてもな」

「急いでいてな」


急いでいる?その言葉に引っ掛かる


「急いでいるとは」

「ミイラ取りがミイラ、俺も追われる身になったということだ」

「何かやらかしたのか?」

「いや違う、ラナを守ろうとする者の仕業に狙われている」


守ろうとする者、ラナはとある魔物の封印を解く鍵であるらしい、おそらくは鍵を守ろうとする勢力からヘルダーは狙われているのだ。


「なんで今更狙われてんだ?」

「元々その依頼主から俺たちは守られていたんだがな、ポドの巻き添えで俺も用無しだ、守られ無くなればラナの守護者から襲われることになるわけだ」


ヘルダーは窓の方に向かい歩いて行く。


「俺がお前に会いに来たのは一応敵ではなくなったということと、ラナを守る勢力は一応いるということを伝えるためだ」

「ラナ......というよりは鍵を守るものだろ?」

「......そうだな」


窓を開けるヘルダー


「えっ此処3階だぞ」

「じゃあな、次はアーシア区で」

「ヘルダー此処は3階だ」

「とうっ!」


クラトスの言葉を無視して3階から飛び降りる。


「......まぁ大丈夫だろ」


ヘルダーはきっと大丈夫であると思い、クラトスは眠りにつくのであった。





ウンタル駅


「あぁ久しぶりな気がするな」

「うむ、しかし前よりは空いている様子」


クラトス達は久しぶりのウンタル駅でアーシアに帰還を目指す。


「わわ、やっぱり混んでますぅぅ」

「しゃねぇよ、第2次試験に向かう奴ばっかだろうし」


ナイミアとドネイもアーシアへ


「......アルが心配」

「それはわかるが仕方がない!」


ラナはアルを心配するがグラデルはそれを慰める。


「なんだか迷子になってしまいそう、クラトス離れないでね?」

「へいへい」


こうしてクラトス一行はアーシア区に向けて出発するのであった。


◆◇◆◇


アーシア区 試験会場



ここでは魔導師同士が戦う事になるため、過剰な戦闘には抑えることのできる魔導師が必要になる。現在その中で抜擢された魔導師達が愚痴を言いあっていた。

この試験会場赤いローブとフードを深く被った少女がいた。


「あ~あ~、都合のいい駒だなこれじゃ」


少女は扱いに納得がいっていない様子であった。

そこの近くにいるのは紺色の髪をした男、ゼオス、彼もまたこの扱いには納得いっていない。


「魔道協会のクソッたれ共が、この俺を誰だと思っていやがる!こんなことをやるために俺は協会の魔導師になったんじゃないぞぉ!」

「あぁうるせぇ」

「何だと!?キサマにそんなことを言われる筋合いは......」

「ふふふ、ゼオス様にカベイア様はお元気そうね......」

「「っ!?」」


ゼオスとフードの少女、カベイアの後ろにはいつの間にかネレイアイが小さな体を大きな羽でふわふわと飛んでいた。


「ネレイアイ......キサマいつの間に」

「しっ失礼だ!ゼオス!」

「いいわいいわ......そういうの気にしないの......ゼオス様のような殿方は好きよ?」


ネレイアイはゼオスの言葉など全く気にする素振りもなく話し続ける。


「そうやって感情を高ぶらせるのは大切よ?」

「それにも限度というものがある」

「黙れカベイア」

「あぁ?」

「ふふふ......ゼオス様にカベイア様、喧嘩はおやめになって?......」


ネレイアイの感情があるのかないのかわからない話声と言葉は聞くものの魂に語り掛けてくるものがあった。


「......ネレイアイ、此処に来た理由はなんだ?あの野郎の命令か?」

「あの野郎......エルマ様の事ね?えぇエルマ様が貴方達にお願いがあるって......」

「お願いってはっはっはっ!ゼオス、聞いたか?エルマがお願いだってよ」

「ええい馴れ馴れしいわ!、あの野郎が俺たちにお願いなどするはずがない」


ネレイアイは静かに笑うとそのまま話す。


「今回の試験については知っているわね......?」

「ふん、試験で戦い合う魔導師のお守りだろう!?」

「さっきまでその事で愚痴りあってたんだよ私達は」


試験中の魔導師のお守りは不人気だ、戦い合う魔導師の間に突っ込むこともあるという危険性と単純に暇であろうこと、自分は戦えないなどと理由は様々だが好き好んでいく魔導師がいないため選ばれた魔導師は強制的に行く羽目になる。


「ふふふ......貴方達にはね......」

「?」




「――......お願いできるかしら?」


その事を聞いたゼオスとカベイアは困惑する。


「なんで私達に?他に適任はいるだろ?」

「こいつはともかく!俺はいやだぞ、大体得意じゃない!」

「そうかしら?......ゼオスは案外得意そうよ?」


ネレイアイにどれだけ言ってももはや意味はないだろうと悟ったゼオスとカベイアは結局了承する。


「まぁ、ただ見てるだけよりかはやりがいはある」

「俺は心底納得していないがなっ!」

「ふふふ......がんばがんば......」


ネレイアイはそのまま試験会場を後にするのであった。



◆◇◆◇


アーシア駅


「ほう!ここがクラトスの故郷か!」


グラデルは周囲を見渡す。


「へぇ、ウンタルよりは賑わいあるな」

「そうですねぇ」


ドネイとナイミアも興味を持って辺りを見る。


「クラトス、とりあえず我は家に帰ることにする、皆はどうするのだ?」

「私と皆は宿屋を探すわ!」

「俺は一度ばあちゃんの家に帰る、あぁグラデル」

「ん?」

「俺の住所書いた紙だ、なんかあったら来てくれ」

「おうそうか!わかった!」


クラトスは一度祖母の家に帰り、その後自分の家に帰ることにした。



「......」


一週間も離れていたわけもないのに久しぶりに感じていた。


「(やっぱり命がけの戦いの後だと違うもんなのかなぁ)」


そんな風に考えていると近くに不思議な雰囲気の少女が右往左往していた。


「(あれは妖精か?まぁまぁ大型の妖精かな)」


水色の髪に黄色い羽、普通の妖精よりは大きい大妖精という種類の妖精だろう。


「(妖精は背丈こそ小さいが普通に大人びた顔立ちをするからな)」


少し珍しいとは思った、何やら道にも迷っているようだった、少しだけ迷ったが結局......


「大丈夫か?」


話しかけるとこちらを振り向いた、水色の長い髪に水色の瞳。

一瞬だけ驚いたような顔をしたあとは静かにほほ笑んだ。


「あら?......貴方は今年の試験を受けている魔導師様かしら?......」


なぜか試験を受けている魔導師だと把握されていた。


「えっそうだけど......」

「しかも貴方は......竜の魔導師様ね......当たってる?」

「......そうだが?」


自身の事をズバズバと当てられれば少しは警戒する


「ふふふ、......私の勘も捨てたものではないわね......」


本当に勘であったのか、そんなことを聞きそうになる


「あっええっと道には迷ってないの?」

「えぇ......大丈夫よ......」

「......本当にか?」


特に意味もなく再度確認する、あまりにもわからな過ぎて逆に興味をもってしまったのだ。


「ふふふ、さすがに警戒させすぎたかしら......」

「ん?」

「わたくしは......ネレイアイ=ナイナイア......こうみえて魔導師をしているのよ?以後お見知りおきを......」


ネレイアイ、そう名乗った妖精は静かにカーテシーをした。


「あっとクラトス=ドラレウスだ、そして今試験を受けている最中だな、よろしく」


名前を名乗られたからには無視するわけにもいかないだろうと考えてクラトスは自身の名前を名乗った。


「ふふふ、よろしくね」

「さっきの以後ってどういう意味だ?」

「あぁ......気に為さらないで?だ・け・ど、一応私の事、周りにはシッ、よ?」


人差し指を唇に付けるネレイアイ。


「わかったよ」


大変不思議な少女といっていいのかはわからないが大変不思議な妖精であることはわかった。


「あぁ、そろそろ行かないと......クラトス様......このご縁は神様の思し召しかしら?」

「そんな大層に考えず、たまたま絡み合った糸程度と考えたほうが気が楽だぞ、それと道に迷っていたんじゃ?」

「......実は右往左往してたの演技なの......」

「えっ!?」


驚愕の事実を話される、ではなぜそんな演技をしていたのか


「ふふふ......困っている人を助けてくれる人はいるのかで遊んでいたのよ?」

「ずいぶんと悪趣味だな」

「でも......クラトス様には出会えたわ」


そういうことを言われるとあまり強くは言えない。


「ふふふ......またね......」

「あぁ、また......」






クラトスは何とも不思議な妖精に出会った、物静かだが一声一声は魂を揺さぶってくる。ネレイアイ=ナイナイア、何とも不思議で魅力的で......。

そのような魔導師に目を付けられたクラトス=ドラレウス、はたしてどうなっていくのだろうか......。

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