第22話 蠱惑の妖精は渦のようで......
クラトスが寝室で眠ろうとしていた時、なぜか人の気配を感じる、最初は狸寝入りを図るがその人は近づいてくる。そして不思議にも怖いとは感じなかった。好奇心に負けたクラトスは我慢ができずに目を開くと......。
「ふふふ......月が綺麗ね......竜の魔導師様......」
「ねっネレイアイ!?」
ネレイアイ=ナイナイア、水色の長髪の少女、優しい瞳はあらゆるものを吸い寄せるのだろう、月明かりの中でカーテシーをするその姿は、
月明かり所為もあってなのか蠱惑的にすら見える。
「なっなぜここに?」
「ふふふ......来た理由はね、ないのよ?」
「なっ無い!?」
ネレイアイにどう反応していいのか困る。
「お人好しな魔導師様にお会いしたくなって......それに明日は試験だものね」
「試験が関係あるのか?」
「わたくしは......貴方のようなお優しい方が苦しむところは見たくないから......」
当たり前のように会話をしているクラトスとネレイアイ、クラトスの頭には既にどうやって此処に来たのかという疑問は消えていた。
「なんで俺を気にかけてるんだ?」
「どうしてだと思う?」
「どっどうしてって......」
そうは言われてもわからない、そもそも昨日であったばかりなのだ、ネレイアイの事すら知らない。
「ネレイアイの事を知らないからわからないな......」
「......」
何も言わずになぜかほほ笑む、ネレイアイ=ナイナイアという妖精に深入りしてはいけない。クラトスは何となくだがそう思った。しかし......
「ふふふ......クラトス様......」
「なんだ?」
「わたくし、魔導師試験の試験官をやっているの」
「え!?」
いきなりの暴露にクラトスは驚く、只者ではないとは思っていたがまさか試験官だったとは、つい大声を出してしまう。
「そんな大声出すとおばあ様が起きてしまうわ......」
「あっすまん、つい」
「ダメ......わたくしがビックリしてしまったわ......」
「そんなことを言われてもな......」
クラトスに顔を近づけるネレイアイ、月明かりがネレイアイを照らす。
クラトスの理性が警告する、魅了に掛かっていると......だが抗うことができない。
「許してほしい......かしら......?」
「あぁ......許してほしい......」
既にネレイアイの言いなりになっていた、前日に出会った時のネレイアイとは非ではないほどの魔力を感じていた。ネレイアイの魔力はクラトスを包み込み、思考をより鈍らせる。
「なら......教えていただけるかしら......貴方のこと......」
「なんだ、何を知りたい?」
月明かりに照らされるネレイアイは静かにほほ笑む。クラトスは身体も心もネレイアイに支配された。
「貴方のお友達、ナシアーデ=パナケという方について......」
「あぁ、わかったよ......」
クラトスはネレイアイに何もかも話しそうになるが......
「メっ」
クラトスはネレイアイに口元を人差し指で塞がれる。
「メっよ?......大切なお友達の情報を話してしまうのはいけないわ」
「......?......ッ!」
クラトス今自分は何を言おうしていたのか驚く。
「なっなんで今......」
「ごめんなさいね、少しだけ魔法をかけていたの、怒らないでくれるかしら......」
どうやら魔法をクラトスはかけられていたらしい、ネレイアイが止めていなければ何もかも話しているところだった。
「どうしてこんなことを?」
「ふふふ......どうしてかしら?」
イタズラ気に笑う。
「それも秘密か......」
「ふふふ......今の感覚を覚えているときっとこの先、為になるから......忘れないでね?」
ネレイアイは静かに笑みを浮かべた。
「楽しい時間が過ぎるのは早いわ......」
「もうお別れか?」
「ふふふ......そう......今日はお別れ」
ネレイアイは後ろに下がっていく。
「クラトス様、今日の事はシッ、で......」
ネレイアイは人差し指で自身の口を塞ぐ。
「あぁ他言無用な」
「えぇ、そう言っていただけると安心できるわ......」
ネレイアイは黄色い美しい羽を広げる。
「クラトス様、試験......がんばがんば......ね?」
「はい頑張るよ」
「うふふ、クラトス様、では......また......」
「あぁ、また......」
ネレイアイは青空のように綺麗な水を纏うとそのまま消えていった。
「本当に不思議というか......なんというか......」
クラトスはネレイアイがいなくなってからも不思議な気持ちに浸っていると、徐々に冷静になっていく。
「......あっ!そもそもなんで俺がここにいること知ってたんだ!」
今になって思う、なぜクラトスが寝ている寝室にネレイアイは行くことが出来たのか、そもそもネレイアイがいる時に気が付くべきだった、しかしその疑問はネレイアイがいなくなるまで頭の中から消えていたのだ。
「しかし......ネレイアイは試験官の一人だったのか......」
なぜ試験官であるネレイアイはクラトスにここまで接触を図っているのか.......わからないことが多い。
「はぁ......とりあえず寝よう......」
考えることをやめて、明日の第2次試験に備えるクラトスは眠りにつくことにした。
最初はただの妖精であると思っていた、だが今になって考えれば浅はかであった、ネレイアイ=ナイナイアという妖精は渦だ、関わったあらゆる者をグルグルと巻き込んで自身に引き付ける。抗おうにも抗えない、巻き込まれればより蠱惑的にネレイアイを見てしまう。
前日と今日とではそれほどに何もかもが違っていたのだ、おそらく普段は魔力を抑え込んでいるおかげで普段のネレイアイは不思議ちゃん程度の存在に見られているのだろうし、魔力を抑えているので渦として周りを巻き込むこともないのだろう。
クラトスは今日夜に出会ったネレイアイこそが本来のネレイアイに近い状態ではないかと考えた。
そうしてクラトスはネレイアイとの不思議な時間を終えてついに第2次試験の当日を迎える。果たしてこの先どうなるのか......。
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