第17話 束の間の休息と......

残っていた魔導師はぞろぞろと帰っていき、ヘルダーはいつの間にか消えていた。

クラトスとアルは怪我を治すために病院に向かい比較的軽傷なガルフ達は宿屋へと帰っていくのであった。



クラトスは病室で休んでいた。


「いやぁいい天気だ」


クラトスは窓辺のベッドで横たわりながら外を眺める。

アルとは別の部屋になったためクラトスは特にすることもなくじっとしている。


「誰か来ねぇか」


昨日......というよりほんの数時間前に終わったばかりの試験、みんな疲れがてて眠り込んでいるのだろう。


「あぁあ、昼飯はまだ先だし、また寝ようかな」


ベッドでまた眠ろうとしたとき


「クラトス、案外元気そうね!」

「ん?」


聞き覚えのある声が聞こえ振り向くとナシアーデがいた。


「病院に行ったて聞いて急いできたけど、心配して損したわ!」

「へいへい、心配させてすみませんよっと。しかしナシアと話すのが久しぶりな気がするな」

「まぁ、あんたは命がけ戦ってたからそう感じるのでしょうね」

「かもしれない」


ナシアーデがクラトスをジロジロ見てきたためクラトスは顔を腕で隠す。


「なっなんだ!?」

「ねぇ、なんか顔つき変わった?」

「それは男前になったって意味かな?」

「何言ってるのよ、今のクラトスは活き活きしてるなぁって」


ナシアーデとしても最近はクラトスとは会っていない、一度スタルの森であってはいるものの、じっくりと話す機会はなかった。今までのクラトスは昔の少年時代のような活き活きさを感じることはなかったのだが今のクラトスは違う、何か生を漲らせるものを感じることができた。


「そういうのを男前になったって」

「違うわよ!」


お互い久しぶりに話す機会が得られたため話していると。


「むっ?ナシアか?久しいな」

「あっガルフ!」


そのほかグラデルとラナ、ドネイ、ナイミア、アリスとが病室入ってきた。


「クラトスさん大丈夫?」

「予想よりかなり元気そうだ!」

「くっクラトスさんご無事そうで何よりです、これでまた守っていただけますぅぅ」

「ナイミア......お前クラトスに守ってもらうこと前提かよ......」

「聴いて下さる?私クラトスとお別れした後も魔導師を殺さなかったのよ?」

「わぁわぁ、そんなに一気に話すな!」


各々がクラトスに話しかけていくと、ナシアーデはそっと後ろに下がる。


「皆話したいことあるでしょうしそろそろ帰るわね、クラトスまたね!」

「あぁ!」

「ガルフもまたね!」

「うむ、次会うときは3人でゆっくり食事でもしようではないか」

「それはいいわね、じゃまた!」


ナシアーデはクラトス達にお別れを言うと病室を後にした。


「なんだか少し寂しい気もするけど......しょうがないわよね」


ナシアーデは一人病院を後にするのであった。



◆◇◆◇


エルマと3人の試験官が会議室で話し合っていたが第2次の試験内容の大幅な変更を独断で決めたことで、他の試験官に大きな反発を受けていた。

一人は坊主頭で上半身を裸でいてほかの魔導師よりひときわ筋肉で幅をくっていた。


「エルマ、俺はよぉお前の考える試験には異議を唱えないようにしてきたんだ、新しい変革を生み出してくれると考えてな」


エルマは聞いているのか聞いていないのか、横目でその魔導師を見る。


「だが、ふたを開けてみれば、なんだ?勝手に内容を変更させるわ!しかも試験中の期限時間まで変えるだとぉ?」


机を強く叩きつける。


「ふざけるのも大概にしろぉ!」

「いや?ふざけてないよ、僕には僕のプランがあってのことだ、、まぁ相談しなかったのは悪いとは思うよ」


エルマは平然と受け答えていると今度は灰色の色をした獣人の男が話す。


「まぁまぁ、落ち着いて、エルマさん?理由をお教えいただきたい、このような事を毎回起こされては私達はもちろん試験に挑む魔導師達も混乱してしまいます」

「先ほど話したけど、あらゆる状態に対応できるように――」

「嘘!」

「っ!?」


その声にエルマは驚く、声の主は水色のロングヘア―、大さな黄色い羽が生えた妖精であった。


「悪いエルマ様......嘘はメッね」

「ははは、ネレイアイ、何を言っているのかな」

「わたくしが言ってもいいの?エルマ様の為にわたくしは言わないでいるのよ?」


ネレイアイ=ナイナイア、水の妖精として魔導協会の上位に位置するほどの実力の持ち主。


「......」

「言えば楽になるのよ?......嘘で塗り繕ってると取り返しがつかなくなるのよ?」

「なんだぁ?エルマおめぇ何か隠して――」

「カバム様......」


ネレイアイは静かに筋肉質の男カバムを見る......静かな水色の瞳、妖精の姿、人間でいえば少女の大きさでありながら大男のカバムを沈黙させる。


「わかったわかった」

「エルマ様、さぁお話になって?」

「......はぁ、わかったよ、ネレイアイには負けた」


エルマはそう言うとアーペから試験内容が漏れていた事実を話し始めた。


「情報が漏れていた、だから試験内容を変えようとしてたんだ」

「しかし、エルマさん今回第1次試験の内容を変えた理由にはならないのでは?」

「それは僕が漏らした奴を困らせてやろうとしたのさ」

「漏れてたってよぉ!そんなん大問題じゃねぇか!」


情報が漏れていたことを話したことでエルマは揉みくちゃされる。


「ほら楽になった......」

「うるさいな」

「嘘で生きて行くとつらいわ......時には本音で話すといいわよ?」


ネレイアイは静かに微笑む。


「大体どうやってこのことを?」

「ナシアーデから聞いたのよ」

「あぁなんだ」

「次の話題を話しましょう、やるべきことは沢山あるわ」


魔導師試験の試験内容を急遽考えることになった試験官達は休むことは出来ない。




◆◇◆◇


「......」


ヘイブはベッドで横になっていた、ヘイブは無理やり魔力を増幅させたせいもあって長期的な入院が求められていた。


「ネア.....」


ネアことネア=ランはヘイブ=ランの弟、元々ポデュンノ家を裏切った理由はお金の為である、そしてラナを殺せれば大金が手に入る。ポドから受けたそんな甘い口車に乗って犯行に及んだが結果は失敗、失敗どころか殺そうとした相手に情けをかけられるという屈辱的な出来事を味わってしまった。


「早くネアの元へ......」


早く行きたいものの体が言うことを聞かない、グラデルとラナから受けた魔法と薬による魔力増大化の影響は予想だにしないものであった。


「......ラナ様......」


少し前にラナとグラデルが見舞いに来てくれたのだがヘイブは気まずくて目を見て話すことが出来なかった。その優しさが自分の醜さを相対的に見せられている気がした。


「......っ?誰?」


何かドアの前で立っている、直観だがそのように感じた。


「さすがに気が付くか」


ドアを開けて入ってきたのはペストマスクを着けた小柄な男であった。


「あなたは......」

「久しぶり、例の薬を渡したとき以来か」


小柄な男はヘイブに話しかける。


「いやぁ、しかし失敗してしまったんだねぇ、薬まで渡したのにポドといい全く」

「もう一度機会を......」


ヘイブはもう一度とチャンスを求めるが......


「ヘイブ、君はもう無理だ、顔はバレてるし実力もない、ポドは音信不通だし、まぁ死んだか逃げたか、はぁ~」


男は大きくため息を吐く。


「わかりました......」

「あぁでも体くらいは治してやろうか、私の薬の所為だしね」


そういうとヘイブが前に貰った小瓶よりは大きめな瓶を男から渡された。


「こっこれは?」

「薬だよ薬、私の理論が正しければこの薬で君は回復するし、それどころかより力がみなぎってくるはず、しかも前に君に渡した副作用は無しでだ」

「......実験体ということですね?」

「まぁそういうことだ、さっググっと飲んでくれ」


ヘイブは男に急かされると瓶を開けて飲み始める。


「(あれ......おいしい?)」


前回飲んだものはお世辞にもおいしいと言えるものではなかったが今回のはおいしいかったフルーツのような甘味を感じてグイグイと飲んでいく。量が少し多かったが余裕で飲み切ることが出来た。


「味は?体は?」

「味はすごくおいしいですが、中毒性が強いと思います、そして体の方は......」


先ほどまで動けなかった体は徐々に動かせるようになり、痛みも引いて行った。


「すごい回復量です、魔力も高まっているのを感じます」

「あぁ......それは......よかった」

「?」


男は意味深げに溜める。


「あぁ、そういえば魔道具はどうでしたか?」

「あぁ、それなら今も持っています、強力な武器だと思いました」

「使っててかなりしっくり来たでしょ?長年ともに過ごした家族のような」

「家族かはわかりませんが、使いこなせたとは思います」

「そうですか......」


色々と聞いてくる男に戸惑いを覚えるヘイブ。


「ありがとうございます」

「なぜ感謝を?ラナ様の殺害は失敗しているのに」

「実は今ので私の個人的な依頼は完了したんだ」

「個人的な?」


ヘイブはまだ何もわかっていない、いや想像だにしていない。


「前に渡した薬、あれは20年前の戦争で使用されたものの模倣」


20年前とある島であるモノを巡って起きた戦争。


「20年前......あのようなものが使われたということは聞いたことありませんが」

「それは当然、何せ使用した後には君と同じように長時間動けなくなるデメリットがある」

「それだけで?」

「いえ、何よりあの薬の作り方や材料に問題があった」


問題とは何なのだろうか、ヘイブは興味津々といった様子で聞いていると。


「人間だよ」

「っ!?」


ヘイブ衝撃のあまり両手で口を塞ぐ。


「人間を使うんだよ、こんなものの作り方を世界中にバラすわけにはいかない、だから隠されていた」

「なぜ、あなたはそれをしっているの?」

「物事に完璧はない、どこかに穴はあるしそこから漏れてしまうことだってある」


ヘイブは男が話し続ける内容を興味を持って聞いて行く。


「20年前の戦争はこの薬の件然り様々なものが漏れ出たんだが、まぁその話は今は関係ない、薬に適正があればデメリットも出ないし、他より強力な兵士として活躍したらしい、だから私はデメリットのない薬を作るために今の今まで研究してきたんだが」

「だが?」

「......君って案外鈍感なんだね」


ヘイブは気が付かない、それは頭の片隅にすら思考していないありえない出来事なのだから。


「ちなみに今の体の調子は?」

「かなり良いですが......」

「私の理論では薬の材料と飲む対象の血筋が近ければデメリットは生まれないのではないかを今検証しているのだよ」

「......?」

「君に渡した魔道具はそんな薬の残滓のようなものなんだ」


ヘイブは顔を青くさせていく。


「あぁ、やっと気が付いたみたいだ、君に渡した魔道具、そして今さっき君に飲ませた薬はね――」

「いやだ!聞きたくない!」


耳を塞ぐが男はそんなヘイブの耳元に近づく。



耳を塞いでいたはずなのに脳みそに直接話されたような感覚だった、それは男の魔法だったのかもしれないし、ただヘイブがそのように感じただけなのかもしれない。少なくともヘイブの精神を破壊するのには十分であった。


「アアアア殺してやる!」


ヘイブは短剣【闇喰らいダークイーター】」を男の首に突き刺そうとするが寸前の所でかわされる。


「おお怖い、さっきまで弟をおいしく飲んでいたのに、次は弟を武器にして襲い掛かるとは......何て女なんだ」

「っ!」


男は避けるがヘイブは畳み掛けるように襲い掛かる。


「まぁいい!これ以上の騒ぎは他の面倒事を引き起こす!」

「死ね!」


ヘイブが騒いだため廊下から人が走ってくるのを察知した男は、襲い掛かってくる短剣を持った右手を......


「『悪魔の腕』」


男は右手を真っ黒い怪物の腕に変化させると短剣とヘイブの右手諸共を吹き飛ばした。するとヘイブは倒れ込む。


「ギャァァァァ」

「おやおやこれではどちらが怪物かわからないな」


男は今度はヘイブの喉元を......


「復讐鬼の厄介さを私はよく知っているからね、さっさと殺させてもらおうか」


黒い右手はヘイブの頭と胴体を切り離すように首元を両断にした。





◆◇◆◇


その知らせがクラトスに届いたのは夜の事、何者かがヘイブを殺したとの事だ。


「......どうして」


ヘイブがラナ達を裏切った、しかしそれは弟の為であった。


「何か良い知らせが聞きたいな......」


クラトスは心から喜べる情報を聞きたいと心の底から思うのであった。




第1次試験が終わり1日も過ぎないうちに生き残りの一人が病院で襲撃された、さらにその後駆けつけてきた魔導師や医師達も同様に殺害され死者は合計6人であった。

この事態に魔導協会は魔導師を新たに派遣する決定を異例の早さで下した。

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