第16話 第1次試験 突破

ガルフ一行は森を駆け抜けていく。


「大丈夫かな、クラトスさん」


ラナはクラトスを心配するが......

「心配するな!クラトスは何か策があってのことだろう!」


グラデルはそんなラナを心配させまいと元気づける。


「うむ、クラトスはそうそう死なぬ」

「わわわっ森の中走りにくいです、ドネイさん背負ってぇ!」

「無理だから!」

「......」


ガルフに背負われながらアリスは後ろへと振り向いている。


「アリスもクラトスが心配であるか」

「......どうして見ず知らずの私に親切してくださったのかしら?」


クラトスはアリスに哀れみを感じていたのだろう、人を殺しても何とも思えぬその感性は悲劇以外何ものでもない。このまま行けばアリスにロクな顛末は訪れないだろう、それをわかってしまったクラトスはできるだけアリスに意識を向けていた。

ガルフはそれをなんとなくだが把握していたが......。

「クラトスは優しいのだ......誰かを見捨てることはできない」

アリスにそのことを言うことはしなかった。


「......ふぅん」


アリスは納得したのかどうかはわからないそのまま前を向いたようだった。


「(この後アリスをどうする気なのであろうか、クラトスは......)」


アリスをクラトスはどうしていくのかも疑問に思えたが今は考えるときではない、ガルフはゴール地点まで走りぬくのであった。


◆◇◆◇


「......お前もラナを狙っていたのか」


森の中クラトスはアルに肩をかけながら歩いていた。


「あぁ、そうだ」


ヘルダーは辺りに魔導師がいないか警戒しながら進んでいく。


「申し訳ないです、お嬢様を狙う刺客に助けられてる現状が......本当は私がやらなけらばいけないのに」

「ホントにな」

「否定してください......」


クラトスの負傷によって思ったより森を進めていなかった。


「......残り時間は......」


ヘルダーは懐中時計で時刻をみる。


「今は22時......後2時間か」

「2時間......」


ヘルダーから残りの時間を聞いたクラトスは何か決心して、絞り出すように声をだす。


「......アル......俺を置いていけ」

「......なっ何を言って......」


クラトスの突然の発言にアルは驚く。


「多分このまま行っても間に合わない、アルはラナを守ってやれ、ヘルダーは知らん」


アルはともかくヘルダーはラナを狙う敵でもあるため特に言うことはない。


「しっしかし......」

「いいから、早く......」


クラトスはアルに早くいけと催促する。

だが


「いっいやです!今回の事で私はわかりました、今の自分は弱い、それに第1次試験で私は終わりです」

「なっ」

「よく見ろ、その男の腕輪は赤く光っていないPポイントが1000に達していない」

「待て、だったら......」

「今からでは間に合いません、仮に勝ち残っても第2次試験は勝ち残れません」


アルの決心は堅いようだ、クラトスはどれだけ説得しても聞く耳は持たない。


「俺もギリギリまでは付いて行く、恩を売るのは好きだが借りを作るのは嫌いなんだ、ここで助けられた恩を返そう」

「......わかった」



クラトスはアルに肩を抱えられながら、ヘルダーは辺りを警戒しながらゆっくりとゆっくりとゴール地点まで歩んでいた。



◆◇◆◇


クラトス達やガルフ達が森を駆け抜けていたころエルマは無情の森の前の広場で待機していた。


「集まってきたね」


徐々に生き残ってきた魔導師が広場に集まってきた。


「あぁ、わかってるとは思うけど此処での戦闘行為は禁止だから」


エルマは念を押す、何せ混乱続きなのだから、これ以上問題を増やしてほしくはない。


「おい!」

「ん?」


一部の魔導師はエルマに突っかかってくる魔導師が現れた。


「お前が急にルールを変えたせいで1000Pを溜めることが出来なかった!どうしてくれるんだ!」

「「そうだ!」」


その魔導師に呼応するように他の魔導師もエルマに文句を言い始めた。


「大体今年の試験はおかしかったんだよ!!ひねくれ者が好みそうな試験だ!魔物を倒せばPが手に入るだあ?全然いなかったじゃねぇか!俺たち魔導師がお互い醜く潰しあう様を見てほくそ笑んでいたんだろう!?」

「「謝れ!」」

「......」


魔導師から不満が漏れ始めた、実際本当だったら明日から本番であるはずだったのに急遽今日になってしまったのだ、不満も覚える。


「前任者のアグだったらこんなことは起きなかったぜ!絶対――」

「黙れ」

「グァ!?」


アグの名前を聞いた瞬間まるで人が変わったかのようにその魔導師の顔面をわしづかみにする。


「さっきから好き勝手言わせておけば......」

「くっクソ」


エルマは力を強くしていくが、


「エルマ様新たな魔導師が到着しました!一部は負傷者もいます!」


その言葉を聞いてわしづかみにしていた手を放す。


「わかった魔導師の腕輪を確認する、その後は負傷者は医療室に向かわせてね」

「わかりました、今連れてきます!」


現在広場は混乱する状態が続いていた。


◆◇◆◇


「もう少しだぞ!」


ガルフとグラデルは森の先の開けた場所に多くの魔導師がいることが目視でも確認できた。


「でもでもぉ!周りには魔導師がたくさんいますよぉ~やばいですぅ」

「ハイエナだな、奴ら疲弊した魔導師狙ってPの獲得狙っておるのだ!気をつけるんだ!」


走り抜けている中魔導師がガルフに向かい襲い掛かる。

「あっ!ガルフ来るぞ!」

「なんと!?」


ガルフはアリスを背負っている疲れからか魔導師の気配に気が付かなかった、ドネイが気付き警告はしたものの少し遅かった。


「死ねぃ!」

「まっまずい」

「バン☆」

「ギャァ」


アリスは襲ってきた魔導師の右腕を消し飛ばされそのまま倒れ込む。

だが前に行った攻撃とは少し違う致命傷を避けて威力も弱めているように見て取れた。


「あっありがとうアリス」

「クラトスの言った通り殺さなかったわ、褒めてくれるかしら?」

「うっうむ、きっと褒めてくれるだろう」


ガルフ達はゴールまで突っ切る。

そして......。


ガルフ一行は見慣れた場所、ゴール地点までようやく到着した。


「おっおおついに我は到着したのか......」

「んしょっと」


アリスは茫然としているガルフから降りる。


「よしラナよ、ネウスから降りようか!」

「そうね、ネウスありがとね」


グラデルとラナはネウスから降りるとお礼を言った。


「ああやっと、着きましたああ」

「ああ、もう無理、疲れた」


ナイミアとドネイはそのまま倒れ込んだ。


少し時間が経つと職員らしき人が来る。


「お疲れ様でした、怪我人がいたら教えてください、そして腕輪をエルマ様にお見せして、認められれば第1次試験は突破となります」


ガルフが職員と話している間ラナは辺りを見るがアルはいない。


「アル......クラトスさん......」


ラナの心配は尽きない。


「うううう、クラトスさん、ご冥福をぉ」

「馬鹿野郎何勝手に殺してんだよぉ!」


ドネイとナイミアもクラトスの安否が心配だった。

その時エルマが歩いて来た。


「やぁ、皆......いや一部欠けてるか、まぁ無事でなにより」

「うむ、エルマ殿に腕輪を見せればいいのだな?」

「そうだね、さあ早く皆のを見せてくれ」


腕輪をガルフ、グラデル、ラナ、ドネイ、ナイミアと見せていき最後にアリスが見せる。


「アリス、良かったよ自重してくれて、君に何かあると僕は――」

「そう、お話が長いわ」


エルマに対してアリスは冷たくあしらう。


「長い、長いか、ははは!」


エルマは大きく笑う。


「あら怒らしてしまったかしら?どうかご機嫌を直してくださいな」


アリスは静かに笑みを浮かべるとナイミアの元へ走って行く。


「ナ・イ・ミ・ア!何してるの?」

「ひゃぁぁぁ!?アリスさん後ろに立たないでくださいぃぃ!」


エルマはアリスを静かに見つめていた。


「まぁ、いいよ我慢しよう、僕は優しいからね」


エルマは広場の中心部に立つと大きな声でしゃべり始める。


「さぁてもうすぐ24時だ!ここにいなければどれだけPを持っていたって意味がない!」


その言葉に動じぬものもいれば動じてしまう者もいる、中には仲間や知人が残っている魔導師もいるからだ、そして、ガルフ達もその一人。


「今正確な時刻は23時50分、あと10――いや9分だ!」


「(クラトス......急げ!)」





短い時間だがとてつもなく長い時間に思えた。


そして 


「あと一分!」

「(クッ!)」


ガルフは目を瞑り祈る、その時だった。


「アレを見るんだ!ガルフ!」

「あっクラトスさん!それに......アルも......えっ?」


グラデルとラナはクラトスが走ってくるのが見えていた、そしてアル、ヘルダーも一緒に来るのが見えた。


「わあああクラトスさああん急いでくださああい!」

「もっと急げぇぇぇ青髪のぉ!」


ナイミアとドネイは急かす。


「後30秒!」




「はぁ、はぁ、」

「(......)」


クラトスとアルの現在のスピードから計算して後30秒では出口まで向かうことはできない、ヘルダーはそう計算した。


「10!」


ついにカウントダウンが始まってしまった。


「もう時間がない、クラトス、アル、今からお前らを吹き飛ばす」

「は?」

「まって私はともかくクラトスさん怪我では」


「9」


「黙れ、もう時間はない」

「ちょっ」


「8」


「ハアアァァァ」


ヘルダーは最短で最大限の魔法を放つ。


「7」


「『大衝撃・暴風』」

「「わあああぁぁぁ!!」」


「6」


クラトスとアルは風の暴風に巻き込まれながらグルグルと回る。


「5」


「フン!」


ヘルダーはそれを出口の方面投げつけるが......


「4」


「っ!?しまった!」


アルとクラトスは出口近くの枝に引っ掛かってしまった。


「3」


ヘルダーは急いで走り、クラトスとアルの方へと走る。

当然出口のガルフも手伝おうとするが止められる。


「2」


ヘルダーは急いでクラトスとアルの引っかかってる枝にジャンプして持つ。


「1」


ヘルダーじゃクラトスとアルを両腕に持ちながら走りそして――


「ゼ――」


無情の森から広場へ走り抜けた。


「ロ!」


ヘルダーはクラトスとアルを放り投げる。


「はぁ......はぁ......さぁエルマ、今のはセーフか?」


ヘルダーはエルマに聞くとガルフ達も


「えっエルマ殿!どうなんだ!」


エルマは目を瞑り焦らすように考えている、そして


「うん、ギリギリセーフと言ったところかな?」

「「わぁぁぁい!」」

ラナとナイミアとドネイ、アリスは大声で喜ぶ。

「(よかった、本当に......)」

ガルフも感慨深く感じた。


「さぁてと腕輪の確認だ、その後は怪我人の治療だね」


最初はアルの腕輪を見るエルマ。


「う~ん、残念ながら1000Pはないね、不合格」

「そっそんな」


エルマの発言にラナは驚くが、


「うっお嬢様、申し訳ありませんこれ以上の護衛は不可能になりました」

「アル......」


アルはラナが悲しまないように接する。


次にヘルダーの腕輪を確認する。


「ヘルダーは......うん大丈夫だ、合格」

「だろうな」


次にクラトスの腕輪を確認する。


「えっとクラトスは......うん大丈夫!合格」


その言葉にドネイとナイミアはホッとする。


エルマは大きな声で話し始めた。


「さぁ長い長い第1次試験は今日終了した!だけど安心するのはまだ早いよ!この後も試験は続く、ただ訳があって詳細は後になる、ウンタルでゆっくり休んでくれ、第2次試験の日程は明後日にはウンタルの会場に張り紙を張っておく以上解散!」






長い長い第1次試験はついに終わった、それでも80時間はかかるはずだったものを大幅に早くした38時間したにもかかわらず本当に長い闘いであった。

第1次試験に挑んだものは10991人。その中で第1次試験を突破したのは2088人であった。エルマの予想より多い結果となっている、理由は明白、急遽日程を早めたことで魔導師達が最終日に魔導師を襲いP獲得という計画をエルマはふいにしてしまっていたからだ。

そもそもそれらは魔物がいなかったからこその計画であったのだが......エルマは森の中の出来事をすべては把握できていない。何がいたのか、何が起きたのか、それを見ていたものはごくわずかだ、何せ殆んどは殺されてしまっていたのだから。


クラトス達に襲い掛かる困難は第2次試験、エルマの予定にもない試験である。

様々な陰謀が渦巻く魔導師試験、なぜか内容が外部に漏れていたりと混迷はより深く広まっていくことを予感させる。はたしてこの先どうなるのか。

それはまさしく神のみぞ知ると言ったところ。

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