第15話 第1次試験 無情の魔物

それは無情の森を人知れぬ間に支配していたもの、逃げる事は許されない。

誰もそれに気が付かなかった。森の中の膨大な魔力の放出を感知したそれは無情の森を這いずり回る。

多くの生物は貪り尽くした、では次は人を喰らおうか。


「ギャァァァ!」

「ヒィィィ」


声が聞こえる......では喰おう、その姿はまさに森の支配者。

魔力を音を......それだけを頼りに喰らい続ける。

それは生きている限り死に続けるもの。

感情は既に消失し、いかなる温情もない、まさに無情のものなり。


◆◇◆◇


クラトスはアルを探すとために森を歩いていた。

だが既に辺りは暗くなっていた。


「ラナ......正直こういうことを言いたくはないが......」


クラトスは苦渋の決断だがこれ以上長期間いることは自身の試験の合格が危ぶまれる可能性もあるため、捜索を打ち切ると提案しようとしていた。


「......そう......ね、みんな迷惑かけるのも悪いわ」


ラナ悲しそうな表情をする。


「......」


クラトス一行はアルの捜索を諦めてゴール地点に行こうとしたときであった。


「助けてぇ!」


女の魔導師がクラトス一行の方に向かって走ってきた、


「一体どうしたんです?」


クラトスも何事かとゆっくり近づこうとしたときであった。


「きゃ――」


ものすごいスピードで女の魔導師は消えていった。


「わわわっ一体何なんですかぁ!」

「消えたのか!?」


ナイミアとグラデルは何がどうなったのか早くてわからなかった。


「ちげぇな、何かに引きずり込まれた感じだったぜ」

「あぁ、そうだな」


ドネイとクラトスは何かに引きずりこまれた事がわかった。


「......ゆっくりと近づこう......」


クラトスはただならぬ予感を感じて進んでいく。

すると――


「なっ」



ピンク色の液体があちこちに触手を伸ばしていた、液体の中には人であった何かがある、おそらくは魔導師が引きずりこまれた結果なのだろう。


「......」

「ひっ」


ラナは驚きつい声を出してしまう、すると......


「みんな逃げるのだ!」

「みんな逃げろ!」


ガルフとクラトスは全員に逃げろと叫んぶ走って行く。


「グラデル!ラナを白馬に!」

「任された!」


グラデルは速攻で召喚した召喚獣ネウスにラナを乗せグラデルも乗った。


「ガルフ、ドネイ、ナイミア!勝手に逃げろぉ!」

「うむ」

「へいよ」

「ひぃぃ、クラトスさんおぶってください!」


クラトスはアリスを背負いながら走って行く。


「早いわ!さすがだわクラトス、もっと早くはできないのかしら?」

「無理!」


魔物の触手はすさまじい速さクラトスを追いかけていた、


「アリス!あの後ろの奴に攻撃を!」

「いいの?わかったわ」


アリスはクラトスに背負われながら体をねじって触手に目をやる。


「バン☆バン☆バン☆」


魔力の玉は一瞬は触手を離散させるがまたもとに戻ってしまう。


「(だめだ、このままだと、全員は生き残れない)」


クラトスは起死回生の一手を思いつく、一度だけ見たあのスライムらしきもののコアを......


「グラデル!アリスはネウスに乗せられるか」

「いや、3人はきついな!」

「まて何を考えておるのだクラトス!」


ガルフはクラトスが何を考えているのか何となくだがわかってしまった。


「ガルフ!アリスを投げるぞ」

「はぁ!?」

「アリス!頑張ってあの男に捕まるんだ!」

「あら、行ってしまうのね、どうかお元気で」


クラトスは近くにいるガルフにアリスを投げつけるとクラトスは後ろへ向く。


「『ドラゴン・スケイル』」

赤い黒い魔力を纏うと触手の注目はクラトスに向く。


「俺はうまいぞ、さあ俺をコアの元にまで連れていけ」

触手はクラトスの腹を絡みつくとコアの元まで思いきり引きずり込む。


「グオオオッ!?」


あまりの速さに失神しそうになるが意識できるだけ持つように心がけるクラトスはついにコアの近くまで来た。


ピンクの液体と一番の中央部分にはゼリー状の液体に覆われたコアらしき黄色い塊。辺りにはかろうじて意識のある魔導師の嗚咽と死臭、どれほどの魔導師が解かされてきたのか予想できなかった。


「(おそらく、今回魔物が見当たらなかったのはこいつが全部食ったからだな)」


冷静に分析しているが徐々に本体に近い液体に近づいていくクラトス。


「そろそろか」


チャンスは一瞬、成功するかはわからないがそれでもやってみなければわからないだろう。


「......」


それは液体に触れる一瞬、遅すぎれば溶かされる。


「......」


近づく足は今にも触れる......そして


「......今だ!『ドラゴン・スケイルフルパワアアア!』」


普段のスケイルは自身の肉体にダメージが入らない範囲に力を調整しているが、フルパワーは調整をしないで、発動させるもの。


竜の魔力をいきなり暴発させることで、触手を一瞬退けさせて、さらに消化攻撃を軽減させる。だが竜の魔力は液体を通じてコアにも届く、その魔力を本能的に危険であると判断したのか全ての触手をクラトスに向ける。


「(少し多いな......)」


触手の多さに少々ビビるが長時間かけるわけにはいかないいち早くコアを破壊する。


「っ!」


ドラゴンスケイルをもってしてもスライムの液体はクラトスに激痛を与え一歩一歩を遅くする、されに触手はクラトスの体極限にまで痛めつける。


「(そんなに遠くないのに一歩一歩が遠く感じる)」


ただでさえフルパワーのドラゴンスケイルは体力を使う、このままでは間に合わないとそう思っていた時であった。


「『速攻乱舞』」

「っ!?」


誰かが触手に立ち向かい注意を引いてくれた。


「(誰だか知らないが、注意を引いてくれた、これで進める!)」


クラトスは先ほどまでのスピードが嘘のように進む。


「はぁ......はぁ......」


ようやくコアの前までたどり着いた、コアをただ平然と浮いている、


「『竜激斬』」

赤い黒い魔力を剣に纏わせる。コアは最後の抵抗のように触手でコアの周りを固めるが......。



ズバンッ




コアを真っ二つに両断した。

その瞬間ピンク色の液体は消失していき、残ったのはコアと一部のピンクの液体のみとなった。


「こっこれで、いいか」


気が付けば辺りは真っ暗、今が何時なのかもわからなかった。


「(くそ、急がないといけないのに体中が痛い)」

無理やり放出させた竜の魔力、そしてスライムの粘液によってクラトスは予想以上のダメージを受けていた。


「まずいな」


さらに今までの試験での疲労が此処へ来て現れ始めた。


「(疲れるのはまだ早えよ......)」


その時に足音が聞こえた、敵の魔導師かもしれないだがもう抵抗できる気がしなかった。


「畜生......」


力を振り絞り立ち上がろうとするが座るのが精いっぱいだった。


「誰だ?」


現れたのはオールバックで長髪の黒髪に赤い瞳に黒スーツを着た男だった。


「俺はヘルダー=アッエスそして」

「クラトスさん、アルです」


ヘルダーと申し訳なさそうな顔をしているアルがそこには立っていた。


「アル生きていたか!」


アルの生存が確認できただけでもうれしいことだった。


「クラトス=ドラレウス......だな?」


ヘルダーはクラトスに聞く。


「あっああ、戦闘は今は勘弁な」

「いや今回の件はお礼を言いたい、ありがとう。俺一人では勝てなかった」

「というとさっき触手が俺以外に注意を引いていたのはヘルダーのおかげか......」


ヘルダーとクラトスはお互い知らぬ間に命を助け合っていた。


「クラトスさん!お嬢様やみなさんは?」

「安心しろ、試験の合否はともかく全員生きてる」


それを聞いたアルは笑顔で喜ぶ。


「さぁて......早くゴール地点に行こうか......間に合うかはわからないけどな」




現在の時刻は21時

残り3時間で果たして間に合うのだろうか。

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