第13話 第1次試験 予想外には予定外を

試験塔 モニター室


度重なる厄介ごとに疲れていたエルマにさらなる厄介ごとが襲い掛かる。


「なっないんです!」


旧試験塔の9階に置いてあったはずのヒントの用紙がなぜか消失していたという報告を受けるエルマ


「へ?」


エルマはつい間抜けな声を出す。


「ヒントの紙が一枚も!」


旧試験塔にも監視カメラはあったが常にうつされているわけではなかった。


「......そうか......その程度ならまぁ不服だがどうにかなる」


本当であればヒントの奪い合いを見たかったエルマ、なおヒント用紙には魔法で加工が施されているためそう易々と破いたり内容を書き換えることはできないようにしてあった。


「......よし」


エルマはマイクを入れる。


「君たちに詫びなければならないことがあるんだ」


エルマは深く深呼吸をする。


「9階にあったはずのヒントに用紙がどういうわけ無くなっている!というわけ今から口で伝えることにする、一度は通っている場所だよ、以上」


マイクを切るエルマ。


「......」


エルマはこれからどうするか考えることにした。



◆◇◆◇


旧試験塔


クラトス一行は9階で魔導師と攻防を繰り広げていたころであった。

突如マイクから音声が流れ始めた。


「君たちに詫びなければならないことがあるんだ」


エルマが謝るなんてあまり想像ができなかったためにクラトスは驚くがエルマの次の言葉にさらに驚くこととなる。


「9階にあったはずのヒントに用紙がどういうわけ無くなっている!というわけ今から簡潔にした内容を口で伝えることにする、一度は通っている場所だよ、以上」


その言葉はクラトスはもちろんガルフやドネイ、ナイミアも困惑させた、アリスは関心が薄いためにあまり理解をしてはいなかったが。


「行き損だったてことか......」

「であるな......」

「あーやべぇこれどうやって帰る?」

「9階から1階まできっと凍っちゃってますよぉ」


対魔導師の為に行ったことが裏目に出てしまい降りることを困難にさせてしまった。


「とりあえず、ゆっくり慎重に降りよう」


クラトス一行は滑らないように気を付けながら降りていくことにした。



◆◇◆◇


無情の森 旧試験塔附近


ラナとグラデルは旧試験塔附近まで近づいた時にあの音声を聞いていた。


「9階にあったはずのヒントに用紙がどういうわけ無くなっている!というわけ今から簡潔にした内容を口で伝えることにする、一度は通っている場所だよ、以上」


その言葉にラナとグラデルは

「えっ」

「ほう......」

ラナは驚き、グラデルも興味深そうに聞いていた。


「ははは!旧試験塔に入っていった者はくたびれ損だということだな!」

「だっ大丈夫かな、クラトスさん......」

「クラトスなら大丈夫であろう、多分!」


グラデルは根拠のない自信でラナを励ましていると旧試験塔から魔導師達が出てきた。


「やはり内部では戦いがあったか」


ボロボロの魔導師や靴が凍っている魔導師などがまばらに逃げていく。


「クラトスさんまだ出てこないわ......」

「きっとかなり上の階に居るのだろうもう少し待つとしよう」




グラデルとラナが塔の外で待機することにした。




◆◇◆◇


旧試験塔内部


クラトス達は凍った階段をゆっくりと降りていたのだが。


「おらぁ!」


潜んでいた魔導師をクラトスは吹き飛ばす。

全員が撤退したわけではなく、一部の魔導師は今もなお塔内部にいた。

そしてクラトスの後ろにはアリスを常にいさせることでできるだけ殺しをさせないようにしていた。


「クラトス、私何もしなくていいのかしら」

「あぁ何もしなくていい」

「ふぅん」


アリスはそのまま茫然とクラトスを見ていた。


「あっあのう、これどれくらいいるんでしょう」

「知らねぇな、Pポイント稼ぎだと思って頑張るしか」

「もう足りてますよぉ」


ナイミアやドネイなどは魔導師達との闘いで既にPは貯まり切っていた。


「ええいまだおるぞ!」

「俺がやっておいてなんだが滑って戦い難いなぁ!」


ドネイとガルフも戦い続ける、旧試験塔を降りるのには難航していた。



◆◇◆◇


???


ここはとある屋敷、そこに白い学者服を着た男と美しき女がいた。

齢30を過ぎているその女は男と会話をしている。


「魔道具の開発は順調?」


男はその女の声にいやらしく笑い問いに答える。


「ヒッヒッヒ、ご安心をあなた様から送られてきた《《モノ》》のおかげで順調でございます。これを......」


男が出してきたのは赤い剣である、光に当てる血のように赤く輝く、その光は何もかもを魅了し渇望させるほどの魅力を持つ剣であった。


「それが成功したものね」

「はい......たった一つだけなのは申し訳ないですが。魔道具を人工的に作り上げるのは至難の技、ご理解を」

「良い、これを見せつければあの人達も納得いくでしょう」


女は満足そうに笑うと男は思い出したかのように話題を振る。


「かの娘は順調ですかな?」

「報告を聞く限りでは、しかしあいつを信用できない」

「それはそうでしょう......過信はしないほうがよいですな」


男は紅茶を飲む。


「そういえば、試験の情報が漏れていたらしいですよ......」

「......興味深い、内部に漏らした者が?」

「わかりませんが......もしそうならエルマは責任問題にもなりますな」


男はそう言うが女の方は笑っている。


「ふふふ」

「んん?おかしいことを言いましたかな?」

「いえ、エルマの事はよく知ってる、エルマは普段こそ冷静に対処するが実際は感情的な人物で負けず嫌い、きっとあがくにあがく」

「というと?」


女が笑う。


「試験の根底を変えてでも、漏洩した奴の企みをめちゃくちゃにするだろうねエルマは」

「ほう」


そして男はニヤリと笑う。


「なるほど、ではこれからの試験が楽しみですな」

「そうね順風満帆に終わるなんてつまらない、これからの試験は面白くなるわ」


二人は静かに笑いあっていた。


◆◇◆◇


試験塔 モニター室


エルマは堂々と座っていものの内心疲れていた。


「(試験の内容が漏れているか......)」


どうするべきか、今から変えるとしても大幅な変更はできない。


「......決めた」


エルマは決心する、

モニター室にいた従業員にエルマは声をかけると


「今何時だ」

「今は......14時ですが」


エルマは良い案を思いついたかのようにニヤリと笑う。


「ふふふ、情報を漏らした奴が誰だかは知らないがね......そうやって情報を漏らすのなら僕にだって手はあるんだよ......」

「えっエルマ様?」


エルマはマイクを入れると


「エルマ様何を!?」



「今から言う言葉をきちんと聞いてほしい」


静止を振り切り話し続ける。


「第1試験についてだ、僕は80時間と言ったがその時間を変更とする」

「!?」


寝耳に水といった様子でエルマを見る、その内容に驚いて他の職員の体は固まってしまった。


「なっ何を――」

「現在の時刻は14時だ、24時までに君たちが最初に集まった広場まで戻ってきなさい、以上」


エルマが語った内容に絶句する職員たち。

それは自身が練り練って考えた試験を変えるものであった。


「エルマ様!なぜこのようなことを!予定とは違います!」

「それはそうだろうね、予定外の事なんだから」

「第2次試験の準備もあります!」


エルマは平然と構えて答える。


「第2次試験も最終試験も内容を変える、いや第2次試験に関して無くして最終試験だけやることになるかもしれないね」

「そっそんな急に言われましても......」

「第1次試験を終了した後に魔導師達にはウンタルで準備が終わるまでの間休ませればいいし、最悪一度家に帰らせるという手段もある」


今のエルマに何を言っても意味はない、エルマは自分の計画を崩した名も姿もわからぬ者にどうにか復讐してやることにしか頭に入っていない。


「僕を欺けると思うのかな、このままでは済まさないよ」


エルマの瞳は怒りに燃えていた。




エルマの独断により急遽第1次試験の内容は変更された、予定では無情の森で80時間かけて行うはずだった試験を38時間で終了することになった。

当の魔導師達そして試験官達には堪ったものではないだろう、だがエルマは変えない。


第1次試験はいよいよ最終局面へと向かっていくのであった――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る