第12話 第1次試験 混迷
旧試験塔に入ることに成功したクラトス一行だったが、何がヒントであるのかがまるで見当がつかずにいた。
「案外綺麗だったのは助かったがなぁ」
「長居はしたくはないのだが、ヒントが何なのかがまるでわからぬ......」
ドネイとナイミア、アリスも散らかっている書物などを探すがやはりわからない、そもそもヒントが紙なのかもわからないのだから仕方がない。
「はぁ、一番上まで行ってみるか......」
9階はある塔を階段で上がるのは嫌ではあったがガルフの言う通り、長居もするべきではないだろうとということで渋々一番上にまで上がることになった。
◆◇◆◇
試験塔 来客室
試験塔には一応来客室がある、来る者などは限られてはいるが、そしてそんな来客室に客を待っていたのはナシアーデであった。本来ならエルマや他の上位魔導師が相手をするべきであったがどういうわけか人手が足りずに新米のナシアーデが割り当てられた。
「緊張するわね......」
ナシア―デは魔導師試験を受けて4年になるものの実際に魔道協会で魔導師として働き始めたのは1年ほど前である、3年の間は修行に励んでいた。
「そろそろ参ります」
女の人が知らせてくるとナシアーデは緊張しながら来客の相手をするのであった。
「どうやら......今年の試験は混迷を極めているようですね......」
「いっいえ例年よりは難しいですが、混迷と言えるほどでは......」
ナシアーデが相手にしているのはクリーム色のスーツに白髪に髯を蓄えた男であった。
「いえいえ先例を破れば混迷が生まれるのが道理、ましてやエルマが考えた試験とのことですから......」
ナシアーデは困惑を隠せない、自身の上司に当たる人物に向かってこんなに堂々と文句を言うとは思わなかったからだ。
「あっあの......突然の訪問理由を伺っても?」
「あぁ、そうでした」
男のカバンから大きな封筒を手渡される。
「中身を見てください」
「えっ?私がですか?」
「えぇ、内容をエルマに教えれば飛び起きるはずです」
エルマではなくてナシアーデに見せるという行為の意図が見えないが断るわけにもいかないナシアーデはその封筒にある紙を見る。
そこに書いてあったのはルールが書いてある紙であった。
「これは?」
「それは第2次試験の情報ですよ」
「っ!?」
第2試験の内容はエルマと一部の者にしか知られていないはずの情報であった。
「今回私が入手できたのはそれだけですが、最終試験の情報も漏れているらしいですよ?」
「ほっ本当なのですか?嘘の可能性も......」
「第1次試験の情報も漏れていたらしいです......嘘の可能性もゼロとは言いませんが......ほぼほぼ事実でしょう」
第1次試験の情報まで漏れていたこととそれ以降の情報まで漏れていた事実、一刻も早くエルマに知らせねばならないことであった。
「早くエルマにお伝えください......このような事態を放置していては面子にも傷が付きましょう」
「はっはい!」
「ははは、緊張しなさるな、ではこれにて」
男は立ち上がり出口まで歩いて行く。
「情報ありがとうございましたアーペ=ポデュンノさん!、エルマさんにはお伝えしおきます!」
「えぇとナシアーデ=パナケ......でしたか」
「はい」
「お気をつけて、では」
アーペはそういうと試験塔を後にする。
「はぁ~疲れた」
ナシアーデは緊張が解かれて座り込もうとするが......。
「早くエルマさんに知らせないと!」
ナシアーデはエルマに急いでこの事を知らせるために急ぐのであった。
ナシアーデはエルマの部屋のベルを鳴らす。
「すみませんナシアーデです、急用です!」
そういうとドアを顔を青くさせていたエルマが開く
「......何だ今日は疲れているんだけどね......」
「あっ......えっと調子が悪い所何なんですが。アーペさんが訪問してきました」
「......珍しい、まぁそれで?」
「そのアーペさんが持ってきた封筒が」
ナシアーデは封筒をエルマに渡す。
「ん?これは?」
「中身を見てください」
エルマは封筒の中身の紙を呼んでいくと顔を徐々に青くさせていく。
「なっなっこれは一体!?」
「実は――」
ナシアーデはアーぺが語っていた事を細かくエルマに話した。
「――こういうことが......。」
エルマはアーペから聞いたことをナシアーデから聞きさらに顔を青くさせていく。
「なっなんだと......」
顔を青くさせ、頭を手で覆う。
「あっあのエルマさん......大丈夫ですか?」
「大丈夫な訳があるものか......今日は僕の厄日だ......」
エルマは頭を抱えながらブツブツとつぶやく。
「とっとりあえず第1次試験はもうしょうがないとして第2次試験から先をどうするか考えないと......」
エルマは急いでモニター室に走って行く。
「ちょっとエルマさん!その状態で走るのは......」
「うるさい!早くしないと取り返しのつかないことになる!」
ナシアーデの静止を振り切り走ってモニター室に向かう、第1次試験の現状が不安に思えてしまう、最初は完璧であったはず、だが今にして思えばそうでもないのではないか。
「(タノール......)」
タノールの話していた言葉を思い出す。途中で言葉を切ったがそれでも何を言おうとしていたかはわかる。ルールはいずれ破綻する......。きわめて不快な感情に心を支配される。
「だれだ、試験内容を漏らした奴は......」
今は犯人捜ししている暇はないだろう、しかしエルマは自分が考えた最高なアイデアを貶された事実が犯人捜しを心の中で求めさせていた。
「はぁ......はぁ......冷静になれ冷静になれ」
走りながら自分の心に言い聞かせる、まだ挽回できる。第1次試験は篩いにかけることが目的である。
「そうだ挽回できる、挽回できる」
エルマは徐々に冷静になってモニター室に到着する。
「ふぅ......」
大きく深呼吸をしてモニター室のドアを開ける。
「暇だから来たんだけど何か問題はあるかい?」
問題はあるかい、なんて聞くが実際には問題は来ないでほしい、順風満帆であれと心の底から願っている。だがそんな願望は打ち砕かれる。
「えっエルマさん!よかった今行こうとしていた所でした!」
「へっへぇ何かあったんだね」
顔に出ない、「やめてくれ」という思い。
「塔のヒントについてなんですが」
「あぁ9階に置いてある紙だろ?かなり刷ったけど足りないとか?まぁ使いまわせるから甘い魔導師なら使いまわしてると――」
「なっないんです!」
「へ?」
エルマはつい間抜けな声を出す。
「ヒントの紙が一枚も!」
「......そうか......その程度ならまぁ不服だがどうにかなる」
エルマは知らないこれから試験は徐々に混迷を極めていくことを......。
◆◇◆◇
「はぁ......はぁ......」
「うぅ......」
クラトス一行はどうにか9階までたどり着くが......
「......何もないな」
やはり他のフロアと同じように少々の紙などが散らかっている程度であった、中央には豪華な椅子と長机があった。
「ずいぶんと意味ありげに整理されてる場所もあるんだけどなぁ......ん?」
下から足音が聞こえだした、どうやら他の魔導師も入ってきたようだった。
「やはり来るか、クラトス」
「よし、ナイミアとドネイ!前に考えた連携をやるぞ!」
「あぁあれかよし」
「まずは、私から『アクア・レイン』」
階段に大量の水を出すと下にまで水は落ちていく、そして
「よっしゃいくぜ『瞬間冷凍』」
ドネイが塗れた水に触れると水にぬれたところは瞬時に凍っていく、これでは下にいる魔導師は上に上がるだけでも一筋縄にはいかない。
「わぁ凍ってる、これでみんな滑らせるのかしら」
「あぁ、魔導師が来る時間を稼げる」
「だがこれでは我らも降りるのが難しいのでは?」
「......」
どうにか時間を稼いでヒント探しに没頭するクラトス一行、だがヒントがないという事態は誰しもが予想だにしなかったであることをクラトスは知らない。
第1次試験――最初はよかった何もかもうまくいっているようだった。
しかし、徐々に徐々に崩れていく。このヒントの紙の消失は試験が混迷を極めていく序章にすぎぬことを誰も知る由もない――
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