第10話 第1次試験 戦いの予感

無情の森


グラデルはラナにクラトスに出会ったこととどうして頼まれたのかを話していた。



「ラナを探せと言われたのにはこのような事情があったのだ!」

「......そんなことが」


グラデルの説明を聞いて納得した。


「しかし、クラトスの説明ではあと3人はいるはず......何かあったのかね......?」

「えっええ、説明するわ......」


クラトスと別れた後に何があったのかをグラデルに説明した。


「そうか......それでバラバラになったのか......」

「ええ、誰が生き残ってるのかはわからないわ」


ラナの悲し気な表情を振り払うようにグラデルは大きく暗くなっ夜空に指をさす。


「いや私が来たからにはもう大丈夫だ!さぁ行こう!」

「え?どこへ?」


突然のことにラナは呆気にとられる。


「はぐれてしまった仲間たちを探しにだ!」

「でも、どこにいるかなんて......」

「ははは!私はラナを探し出したんだ!きっと見つかる!」


白馬ネウスも首を縦に振る。

「よしでは行こう――と言いたいところだったがまだ日も昇っていなかった!」


現在は真夜中で何も見えない。


「では今は眠ることにしよう!ラナ眠りなさい!」

「えっグラデルさんは?」

「ははは!私は大丈夫だ、ネウスもいるからな!」


不安は残るもののグラデルの言葉を信じて眠りにつくことにしたラナ、

こうして長い長い試験の1日目は終わりを迎えた。




◆◇◆◇


試験塔 モニター室


太陽は昇りそろそろ24時間が経とうとしている。

エルマは指を机にコンコンと叩きながら何やら考え込んでいた。


「......そろそろ時間だね」


24時間が経過したこととゴール地点に関するヒントを伝えるためにマイクを持つエルマ。これはただのマイクではなく森の中をに声を響き渡せることができるように魔法で加工した特殊なマイクだ。


「さぁ、試験を受けている魔導師達、そろそろ無情の森に入り24時間が経過しようとしている、だから僕からゴールのヒントを与えようと思う!」



マイクは無情の森中に伝わる、目を閉じて内容を聞く者もいれば、メモを取る者、まったく関心のない者とさまざまであった。


「森の中央にある旧試験塔にヒントがある、以上」


ブチッとマイクを切る。


そういうとエルマはそそくさとモニター室を後にするのであった、昼間なのに不思議と誰もいない廊下を歩いていると。


『ご機嫌斜めじゃないか』


血のような炎と共に燕尾服も髪も瞳すら鮮血のように真っ赤で長身の男が立っていた。


「なぜいる」


エルマは男に話しかける。


『なぜいる?私と君の関係じゃないか』

「理由を聞いているのだが?」


エルマがそういうと男はやれやれと首を振りながら答える。


『試験官になったというのに残念ながら今の君にはユーモアがないね、つまり余裕がない』

「うるさいな、お前は此処にいていい存在じゃない早く戻れ」

『んっんっん、怒ってるのか?』


血のような男は大きく歯も見えるほどくっきりと笑いながらエルマに話しかけ続ける。


『エルマ、本能に仮面をつけるのは無しだ、人間は本能むき出しにして生きて行くほうがよっぽど楽しいぜ』

「黙れ!タノール!」


タノールは一瞬真顔になるとまたにっこりと笑う。


『そう今のだ、感情は大切にしたほうがいい』


タノールは右の拳をグッと上げる。


『クール気取りはやめておけ!生きるとは感情!感情無き者を生きているとは言わない!それはただの亡者さ!』

「......」


エルマは今にも襲い掛かる勢いでタノールを睨み続けるがそんなことなどお構いなしにまるで演説でもしているのかのように話し続ける。


『エルマ、私が今回の試験に来た理由は君という存在が本能や欲望の為に働いたという事実が嬉しかったからだ』


エルマの周りをまわりながらしゃべる。


『だが今の君の話す言葉の一つ一つは中身のないシュークリームだ!味気ない、つまらない、無味無臭の極み!』


目を瞑りながら眉間に指をあてるタノール。


『エルマよこのままでいいのか?君という存在をもっと湧き立たせるべきではないのか!』


エルマに両手で開いたようなしぐさをすると今度はそれ上を見上げるように両腕を天井に広げるタノール。


「タノールそれ以上話し続けるならば僕は君を殺す」

『殺す?君が?私を?はっはっはっ!なんだユーモアはあるのか!』


顔を手で覆い隠して笑う。その様子をエルマは見下しているかの様に見ていた。


『ならそのユーモアをこの試験という大舞台で発揮させようではないか、緻密に練った試験がなんだってんだ!どうせルールの穴を突かれて破綻す――』

「警告はしたぞ」


エルマは魔法をタノールに向けて撃つが......


『おっと何かしたかい?』



タノールに当たるも、魔法はタノールをすり抜け廊下の壁に当たる。


「なっ?」

『~♪』


目を瞑りながら口笛を吹いている

魔法が壁に当たった事で他の魔導師が近寄ってくる足音が聞こえ始めた。


『邪魔が入りそうだ、ではこれにて失礼!』


タノールは血の炎を纏うとそのまま消えていく。


他の魔導師が来る頃には既にエルマがだけが立っている状態であった。


「えっエルマ様!いったい何が......」

「何でもないよ......僕は疲れたから眠る、何かあったら起こしてくれ」


エルマはタノールとの出会いに疲れはてて眠りにつく、それほどタノールに対して苦手意識を持っていたし警戒していた。




◆◇◆◇


無情の森


クラトスはドネイとナイミアと24時間が経過した旨の報告を聞いていた。




「さぁ、試験を受けている魔導師達、そろそろ無情の森に入り24時間が経過しようとしている、だから僕からゴールのヒントを与えようと思う!」




森中に響き渡る声に集中して耳を傾ける。




「森の中央にある旧試験塔にヒントがある、以上」


 


「......そっそれだけ」

「言葉で教えてくれねぇのかよ」


クラトスとドネイは拍子抜けする。


「まっまずいですよぉ塔に向かうなんてぇ」


ナイミアは塔に行くのを嫌がる、それは実際怖いというのもあったが、中央にある塔にヒントがあるというシンプルなヒント、だがこれは一つの場所にあらゆる魔導師が集まる状況が作り出されることでもある。ナイミアはその事実に怯えていた。


「だけどなぁ、ヒントは知っておきてぇし」


ドネイがそういうとクラトスも続く


「とりあえず警戒しつつ向かおう」

「うぅやめておいたほうがいいと思いますけどぉ」

「怖がるのはわかるけどなぁ、俺の探してる仲間ももしかしたら塔に来てくれるかもしれないだろう?」

「そっそれはそうですが」

「よし行こう」



クラトスとドネイについて行くようにナイミアも続く、幸い塔からそう遠くない場所であったため、敵に遭遇することはなく塔の附近までは近づくことはできた。



◆◇◆◇



「森の中央にある旧試験塔にヒントがある、以上」



「ふぅむ、試験塔か......」


ガルフは大木の上にいた。


「とりあえず塔に向かうべきか」


ガルフはラナが逃げた先を追っていたのだが結局見失い、戦闘を回避するため大木の枝で隠れていたのだ。


「ラナ達は大丈夫であろうか......」


ラナの心配は尽きないがするべきことは変わらない。


「おそらくクラトスはいるはずだ」


ガルフもまた塔を目指すのであった。


◆◇◆◇


「森の中央にある旧試験塔にヒントがある、以上」


アリスもまたその音声を聞いていた。


「旧試験塔って......あそこかしら?」


アリスは偶然にも塔とはそう遠くない場所にいた。


「なんだかおもしろそうね、行こうかしら」


アリスも旧試験塔に向かい始めた。




24時間の間には様々な出来事があった、クラトスは仲間とはぐれた後にまた新たなる仲間を作り、ガルフは森の中で一人さまよい続けた、ラナは仲間に裏切られるも何とか新しい仲間に助けられた。

そしてこれから先どうなっていくのか、今度は一つの場所に強者が集まろうとしている、それはさらなる熾烈な戦いを予感させるのであった――

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