第9話 第1次試験 新たなる出会い
時は遡り――
ガルフ達と別れ後
クラトスはガルフ達と別れてからほどなくして戦闘が始まる。
こいつに時間をかけるわけにはいかない、さっさと終わらせる!
「『ドラゴンブレス』」
赤黒い竜の息吹を大きく吹いてやせ細った男に命中させたかと思ったが......。
「無駄無駄ァ」
男は両手で魔法陣を展開、そして
「『カウンター・マジック』」
放ったブレスはそのまま俺の方に返ってきた、咄嗟に両手で構えてどうにか防ぐ。
「うおおおおぉぉぉ!」
跳ね返ってくるブレスに両腕に意識を魔力を集中。駆け巡る炎の熱さとえぐられる魔力、これこそがドラゴン・ブレスの効果。単純に相手の肉体攻撃だけではなく相手の魔力をも削ることができるのだ。
男はいつの間にか俺の方へ近づいていた、そして、
「おらぁ!」
っ!なっ
予想外にも拳による力業で俺の腹を殴りつけてくる――
「ッ!」
咄嗟に避けて臂で奴の背中を叩きつける。
「グッ!」
倒れこんだ奴の体を抑え込む――
「降参だ降参しますよ」
「なぜラナを狙う?答えろ」
奴が本当の事を話す保障はないが、ラナがなぜこんなに執着して狙われているのかを知れれば対策を考えることもできる。
「......まぁいいでしょう、ラナという娘が危険だからです」
「危険?」
その話を聞いてもピンとは来ない、ラナと話していて危うさを感じることなどいままでなかったからだ
「ええ、危険です、かなり危険です」
「だからなんで危険なんだ!」
「ラナはある魔物の封印を解除する鍵の役割があるのです」
「鍵......」
「ふふふ、私はその鍵の役割をさせないために狙っているのですよ、死ねば鍵の役割は遂行できなくなりますから」
「ラナを狙う奴らは皆このことを知っているのか?」
「さぁ?」
鍵の役目......それが原因でラナは狙われていたのか......
考え込んで背中を抑え込んでいた少し力が緩んだ瞬間だった。
「なッ!?」
男は一瞬の隙を突いて木のを俺の体に縛り付けて抜け出した。
「っと、危ない、危なかったですねぇ、あなたが剣を差し込む輩ではなく助かりましたよぉ」
「クソ、卑怯だぞ!」
「いえいえ、貴方が甘いと、ええそれだけです」
体を縛り付けられていては魔法もロクに放てない。
「私の名はポド=ポース、ではさようなら」
ポドは両腕から炎の塊を溜めこむ。
「うおおおおお」
俺は木の根を引きちぎろうと体を引っ張る。
「いやいや、無理はしない方がよいですよ、それ私の魔法の根なんです、引きちぎるなんてそんな......」
全力で木の根を両手で引っ張る、竜の魔力を溢れさせる。
ブチブチッ
少しづつだがちぎれ始める。
その様子にポドは目を大きく広げる、魔法の根をいくら魔力で力を籠めていてもそうやすやすよ短時間でちぎるとは予想だにしていなかった。
「まさか!?いやしかしもう遅い」
「うおおおお」
ポドの炎の塊は完成しようとしている、俺は全力で根を引きちぎようとする。
「灰となりなさい!『炎の小星』」
炎の塊はまるで太陽のようだ、そんな魔法を俺に目掛けて放たれる。
ブチっ!
よし切れた!
全力で根を引きちぎった時にあふれさせた魔力と足の踏ん張りの反動を利用して
全速力でポドに向かう
炎の塊すら突き抜けて――
ポドが目の間まで見えてきた。
「くっ――」
ポドは横に避けようとするが
「おらぁ!」
俺は片腕をポドの首元に当てるように伸ばして――
「グアッ!?」
ポドの首を前腕に引っ掛けたまま飛んでいく、そして目の前には大岩が見えるが
「(あっ止まれね――)」
バアアアアン!!
止まることができずに近くにあった大岩にポドと俺は当たってしまう。
「イテテ、なんでこんな所に大岩が......」
頭がくらくらする、なんとかポドを倒すことができたができたはず
「まぁ。これで......」
近くにいるはずのポドがいない
「なッ!?どこだ」
辺りを見渡すといつの間にか木の枝の上にいた
「まさか今の攻撃でも倒れねぇなんてな!やせ細ってる顔つきの癖にやるじゃねぇか!」
「それは、どうも。ただ実際私はやられてましたよ、腕輪をよく見なさい」
腕輪を見ると赤く光っていた。
「これは?」
「1000
「待て、倒したら譲渡されるのは知ってるが、なんでお前は脱落してないんだ?」
「それは、今回の試験の特殊性、いや単純に欠陥かもしれないですねぇ」
「どういうことだ?」
「脱落条件もわからないんですよ?リタイアくらいしか脱落者がわからない、そうわからない......」
俺はそれを言われてハッとする、確かに今回の試験は脱落条件は特に説明されてはいない。
「では――」
「あっまて」
ポドは木々の上を駆け抜けていった。
「逃げやがった......あっまずい追いかけないと!」
ポドはラナを狙う、ポドを追いかけて行けば自然とラナ達にも出会えるはずだ。
クラトスは森の中を駆けていくのであった。
―――
――
―
クラトスはポドを追いかけて、森を駆け抜けていたのだが......。
「くそ、見失った!」
ポドも見失うし、ここがどこかもわからない......やばいな
道端から魔導師が現れ――
「ははは獲物発――」
「邪魔だぁ!」
「グわぁ!」
腕輪が赤くなると魔導師達から狙われるようになる、そのせいで俺はいちいち敵対してくる魔導師の相手をしなくてはならず時間を大幅にロスしていた。
「こんなんじゃ、キリがないな」
太陽は西に大きく傾き始めていた。
「う~ん早く合流したいんだ――」
「誰か助けてぇ!!」
「ッ!」
こんな所で助けを呼んだって誰も助けてはくれないだろうな......
叫び越えはそう遠くはない、なら選択肢は一つだ!
「待ってろ!今行く」
◆◇◆◇
クラトスと同じような考えを同じにする魔導師も当然いた。
「この辺りで聞こえたのだが......」
グラデル=トロンダこの男もそんな甘い魔導師の内の一人。
「だが助けを呼ぶ声を無視することなどできん!」
見つからない、だが私の勘は当たる、助けを求める者への勘は特に!
「魔力の後はあるんだがなぁ」
だめだ、もう遅かったのかもしれな――わっ!?
何かが私を引きずり込む、私が魔法で応戦しようにも既に地面の中で身動きが取れなくなってしまった。
「うっ......」
かろうじて呼吸はできるものの長期間居続ければ死んでしまうだろう、おそらくさっきの助けを呼んだ声の主は地面に沈んでいる。
「顔も見せずに攻撃するなど卑怯なり、正々堂々戦え!」
この状況でできるだけ大きな声をだす、地面に沈めた者をおびき出すため。
「うるせせせなぁぁ?俺は今腹が立ってんだ!」
顔は見せないが声だけは響く。
「ほほう、なぜだか私に教えてくれるかな?」
この魔導師がこのまま放置するだけならばいいが、埋めたあとにとどめをさす可能性もある。できるだけ時間を稼ぐ。
「ある魔導師が俺の邪魔しやがったんだよおおお」
「つまりこれは君の憂さ晴らしか」
「はっそうだ、そしてあの女を探してぶっ殺す!」
相変わらず顔は見せないどうすればいいか......。
「お~い、誰かいないか~?」
まずいっ!来てはならない、私と同じく引きずり込まれる!
「お~あの女の叫び越えのおかげか」
「まっ待つんだ!その様子だともうPは足りているんだろう?無駄な戦いは避けるのが賢いやり方ではないか!」
「......お前もしかして聞いていないのか?」
「なっ何をだ?」
聞いていない?確かに私は初日は試験とは気づかなかったが......。
「Pは後々、大量に必要になることをだよ!」
「!?」
私はその言葉に驚いていると声はしなくなった.。
まっまさかPは1000で良いのではなかったのか?
◆◇◆◇
誰もいないな、確かにこの辺りだったはずなんだが
「だれかぁ」
......何かいるな
なんとなく勘のようなものだが、ここの下、つまり地面に何かいる可能性があることはわかった。
「集中」
地面のどこにいるのか......目を瞑り相手の居場所を探る......。
いつかだかこんな修行をしていた気がする。いや今どうでもいいか、とにかく集中だ。
......、......、............!
真下!
「そこだぁ!!」
剣を地面に突き刺すと鈍い音と共に体が浮き上がってきた。
「なっなぜだ」
「リタイアを宣言しろぉ!」
「ひっりっリタイアァ!」
一度殴りつけて気絶させると、この男を木に括り付けにした。
沈められていたらしい茶髪におさげをした眼鏡の女と紫の髪をした小柄なエルフがいた。銀色の鎧を着た金髪の男が浮かび上がっていた。
「あっありがとうございますぅ~」
「まさか試験中で人助けをしてくれる魔導師に出会えるとはな」
「名も知らぬ魔導師よ!ありがとう!」
それぞれが感謝の言葉を述べていると鎧の男が俺に話しかけてきた。
「魔導師殿!名を伺っても?」
「名前はクラトス=ドラレウスだ」
「私グラデル=トロンダだ」
グラデルは手を伸ばしてきた、握手を求めているのだろうと思い、俺も手を伸ばすが......
「まっいたいいたい!」
「おっとこれはすまない!助けられた興奮が抑えきれなかった!」
グラデルと話し終わると紫髪のエルフが自己紹介をしてきた。
「助けてくれてあんがとよ、俺の名はドネイ=イリだよろしく」
次はおさげの女が体を小さくして、エルフに続く。
「あっ私の名前はナイミア=ピリスですぅ」
とりあえず助けられたようだ。
「そういえば君たちに聞いておきたいことがあるんだ」
グラデルがそういうと俺を含めみんながグラデルの方を見る。
「第1次試験合格には1000Pが必要だが、あの男が後々大量のPが必要になると言っていたんだが何か知っている人はいるかな?」
「「っ!?」」
ドネイもナイミアも知らないようだ、俺もしらなかった。
「あいつが本当のことを言っているとはかぎらないぞ?」
「それもそうだな!ははは!」
そういうことならあの男に来ておきたかったが俺が気絶させちゃったからな。
「まぁわからないことは仕方がない......」
そういって俺はこの場から離れようとする。
「クラトスっちょっとお待ちを!」
「待ってくださいぃ」
グラデルとナイミア、ドネイは俺を引き留める。
「なっなんだ!」
「私こんなに弱っちいんです、誰かに守ってもらわないと死んでしまいます」
「だったらリタイアしろぉ!」
「無理ですぅ!家族のために一攫千金夢見てるんですよぉ!」
そんな目で見られるとなぁ......
次はドネイが話しはじめた。
「俺は遠距離攻撃は一応得意なんだ、一緒になれば役に立つと思うぜ」
ドネイは自身の力を武器に俺と一緒に行きたいらしい。
「私は、無情の森でも暖かい心を持つ者に出会えたことがうれしい!共に助けを求める者を助けようではないか!」
「グラデル......今回の試験でそれはきついだろ」
「だがクラトス!君は助けにきたではないか!」
「たまたまだよ」
......この様子だと離れる気はなさそうだな。
「わかった、いいよ付いてきて」
「クラトス!サンキューな!」
「だが、この赤く光る腕輪を見ればわかると思うが俺は狙われるぞ」
「でっでもクラトスさんなら私に何かあっても助けてもらえますよね?」
「まぁ努力はするよナイミア」
「ふむこれで問題はないか!」
仲間が出来たのはいいが......。
「だが俺は一度仲間とはぐれてるんだ、その仲間を探しに行きたい」
「では私が探しに行こう!」
「えっなんで!?」
なぜグラデルが探しに行くのかがわからなかった。
「そんなに大所帯では探しづらいであろう!それにクラトス、君の赤く光る腕輪で迂闊に動くのは危険だ、私なら比較的安全に探せるし――」
グラデルは地面に手を置いて魔法陣を発生させると白い馬が現れた。
「機動力がある」
「......これは召喚獣か」
召喚獣はこことは此処とは違う場所から契約した魔物を呼び出された存在を言う。他にも使い魔というものもある。ただ使い魔の場合は常に現界し続けることもできるが召喚獣は長時間の現界は難しい。
「召喚獣ネウス、この白馬は森の中でも颯爽と駆け抜けることが出来る」
......どうしようか、何もかも話すべきか......。
「さぁどうする?君が嫌なら何も言わない!何せ初対面なのだからな!」
......よし
「グラデルいや皆に色々話しておきたいことがある」
俺はグラデルとドネイ、ナイミアにラナや皆の事を話した。
ドネイは腕を組んで考え込んで、ナイミアは「あわわ」と顔を青くする。
そしてグラデルは......
「そんなことが!だったらなおさら急がねばならん!」
「そうだ、グラデルの方が長距離を探し出せるだろう、お願いだガルフやラナ達えを探し出してくれ!」
「よし、任された!」
グラデルは白馬と共に森の中を駆け抜けていった。
気が付けば空は既にオレンジ色をしていた。
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