第8話 第1次試験 無情な森に温情あり

試験塔 監視モニター室


無情の森近くにある巨大な塔。ここでは様々な人達働いている、試験の外部からの妨害を防ぐために森を囲うように結界を張り続ける者や森の中で起きている出来事をできる限り収集しる者など。ここモニター室では森の中で行われている、戦闘行為を監視カメラや召喚獣を通して観察している。


「いやぁ、ははは、みんなすごいねぇ今年は当たりかな?」


モニター室の映像から流される戦闘をエルマは笑ってみていた。


「あっあのエルマ様......」


エルマに向かって何やら報告したい様子でエルマに走って行く男。


「ん?なんだい?」

「度を越した殺害行為を行う輩が現れたと情報が入りました」

「度を超すってどんな感じ?」


カメラや召喚獣ですべてを把握できるわけではなく、網羅できない場合も多いため、魔道協会より送られた魔導師を森の中に忍び込ませ『無情の森』で起きた出来事を随時報告させていた。


「助けを求めた者の頭を潰すなど......本来は警告を発してから強制的に退場させますが今回は悪質です。一発退場にするべきです」

「う~ん......プロフィールは?」

「アリス=オネロ。性別女。年齢12。オネロ家の娘の一人である事以外の経歴は不明。以上です」

「オネロ......なるほどねぇ」


普段の試験ではれば即刻退場勧告がなされる、しかし今年の試験は普段ではない。

あらゆる異例が行われる、許される試験と化していた。


「う~んようやく盛り上がってきてるんだどなぁ」

「エルマ様、この現状を看過しては」

「はぁ、しょうがないなぁ、では警告文を送ろう」


警告文は悪質な行為を意図的に行った魔導師に送る手紙である、手紙といっても魔力で加工してある頑丈なものでそう簡単には偽造はできない。

警告文を送る役目は召喚獣ハットスという鳥が送ると決まっている。


「では送ろうか、アリス=オネロへ届けなさいハットス」

「くるっほ~」


監視塔の外に放たれた召喚獣ハットスは足に警告文を着けて対象の場所まで飛んでいく。試験に受けるまでに写真で魔力も一緒に吸収したため。ハットスにはその魔力を目印に対象の存在まで飛んでいかせる。


「ふぅ、これで十分かな」


エルマは満足してモニター室に戻るのであった。


◆◇◆◇


無情の森


「グアァアァ」


無情に響き渡る声、それはこの試験ではたびたび聞こえる、そして今回の悲鳴の元は――


「う~ん、おもしろくないわ......飽きてきた」


少女......アリスの目の前には人だったものが転がる。


「あら?」


空を見ると鳩が空を飛んでアリスの方に落ちてきた。


「まぁかわいらしい鳩さん、あら手紙?」


鳩の足に結ばれた紙をアリスは開いて読んでいく。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

警告


アリス=オネロ、君がこれ以上意図的な殺害行為を行い続けるとさすがに庇いきれない。僕は今年の試験では強制退場という形での脱落者を出したくない。

なので自重してほしい、もし君が殺害行為を行い続けるのであれば。

強制退場という結果が待っていることは理解しておきなさい。


次はない。


試験官代表 エルマ=イアン

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「......」


今までとは打って変わって真顔になって警告文を読むアリス。


「う~んつまり......私に警告してるの?......」


ハットスはアリスが警告文を読んだ事を確認すると

すぐさま飛び去ろうとするが――


「待って」

「クルアア!?」


アリスはハットスをわしづかみにする。


「ねぇ?これ......私に警告してるの?」

「クゥゥ......」

「何か言ったらどうなのかしら......」


しゃべらない鶏相手をわしづかみにしてしゃべらせようとするが全くの無意味である、ハットスはしゃべらない召喚獣であるのだから。



「私を......無視してるの?......」


真顔で目を大きく開き鳩を見る。先ほどまでの笑顔などはどこにもない、今にも潰す勢いでハットスを掴む。


「......」

「クルゥ......」

「そう......」


アリスは一瞬わしづかみにしていた腕の力を緩める。


「クルフゥ......」


一瞬ハットスは安堵するが。


「......さようなら」

「クアアア!」


無情にもアリスはハットスを握りつぶした。


「......」


地面を見ながら深く深呼吸をしてまた空を見るとアリスはまたいつもの無邪気な顔をして森を歩んでいくのであった。


◆◇◆◇


無情の森


ラナはアルに腕を引かれながら、森の中を慎重にすすむ。


「ちょっと待って、今何か」

「急いでください――」


その時、木々の上からやせた細った顔の男が飛び降りてきた。


「すみません、すみませんねぇ、会話の邪魔しちゃって」

「くっ!ここは私に任せて早く!」

「そんな......」


アルは男に向かい合うとラナに逃げるよう促す。


「っ!生きて!」

「おっと行かせる訳には――」

男はアルを無視し、炎の魔法を放とうとする――

「させるか!」

アルは腰に差していた短剣を出すと男の隙をついて攻撃するが、よけられてしまう。

「どいつもこいつも、邪魔、邪魔ですねぇ」

アルは男の前に立ち構えた。


走り続ける、そばにはもう誰もいない、だけどそれでも、必ず――


生き延びてみせる――


◆◇◆◇


「ここいらも魔物なし、やっぱり魔導師同士潰しあうしかねぇのか?」

長い紫の髪をした目つきも顔立ちも悪人その者だが特徴的な長い耳を持った小柄だが200歳は生きているエルフである。

現在森の中を放浪していた。当初は森ならば有利なのではないかと考えていたが予想以上に強者ぞろいでコソコソと隠れつつどうにか生き延びていた。


Pポイント1000溜めるには魔導師を最低4人倒す必要があるんだよな」


自分ではきついという考えが真っ先に頭に浮かんだ。


「仲間を作るという手もある......が」


この試験において仲間は裏切られる可能性がある。そして実際に信じあっていた仲間に裏切られた魔導師を何人も見てきた。


「(裏切られた魔導師の顔はもう見たくないな遠目からだったけど......)」


腕を組みながらどうにか自身の強みを生かした秘策を考えるエルフ。


「おいおいちっこいエルフがいるじゃねぇか」


森の茂みから現れたのは柄の悪そうな男だった、どうやらエルフと同じで逃げていたが弱そうなエルフを獲物にしようと考え出てきたようだった。


「へへへ、いいカモが出てきたじゃねぇか」


エルフは戦闘態勢に移行するのであった。


◆◇◆◇


無情の森


あんなに大所帯だったはずなのにもう一人きりになってしまったラナ。

「はぁ......はぁ......」

誰もいないし誰も守ってはくれない。最初は護衛を拒否していたが今にして思えば一人で森の中を過ごす勇気なんてない、既に日は沈みかけてオレンジ色で包まれる。暗い森の中で過ごすなんてできるのだろうか。

そんな不安を抱えながら走る走る不安をかき消すように。


「もう休もうかな」


辺りは既に星空が見えていた。あまりに色々ありすぎた疲れを癒すため森の中一人大木の根を枕に横になる。ルール上強姦行為の禁止が明記されているとはいえ不安は残るがしょうがない。何せ今年の試験は異例だらけの試験なのだから。


「......みんな生きててね......」


ラナは思い出す、クラトスは困っている人に手を貸す優しい人だ、少し無鉄砲な時もあるが頼りなる人。

ガルフはクラトスを窘めることができる人。しっかり者だと思っているとクラトスと同じで少し抜けてるところもあるがやっぱりやさしい人。

アルはラナに謙遜するが、時々男らしい所を魅せる時もあるやさしい人。

ヘイブ......裏切ったけどその動機はやっぱりやさしかった。


「みんなやさしい、私恵まれてるのね......」


だが魔力を感知したとたん眠気は吹っ飛びラナは飛び上がってどこにいるのか探し始めた。


「魔導師がどこかに......」


一瞬だけ感知した魔力から相手の居場所特定して魔法を放つ

「『ダーク・ショット』」


かすかだが当たった感覚がある。


「まさかこんな子供に見つかるとは」


体が徐々に表れてくる、全身を黒い服で包んだ女性だった。


「私もまだまだというところかな」

「......退いてください」

「おや殺す度胸はないの?ダメだよ?そういう甘い考えだと――」


ラナの懐に一瞬で近づく。


「死んじゃうよ?」


女は鋭い爪切り裂こうとするが――


「『シァァイニイイイング・アロオオオオオ』」


光り輝く矢が女の腹を射抜く。

「ぐはぁ!?」

「なっ何が......」


女の後ろにいたのは、全身を銀の鎧で着飾り、金色の髪と髯を生やした男であった。しかも森の中で男は白い馬に乗っている、男はパカラパカラと馬に乗りながらラナに近づいてくる。


「そこな女、死んでいないだろう?顔を上げよ」


そう言われると背中を貫かれた女は顔を上げる。


「うっカッコつけやがって、不意打ちしたくせにさ」

「フッその体では戦えまいリタイアを叫ぶべきだな」


女は心底悔しそうにしながらも渋々リタイアを叫ぶ。


「まぁそこの女は10分後に転移するからいいとして」

「なっなによ」

「君の名前はラナ=ポデュンノだね?」

「っ!」


ラナは急いで距離をとり戦闘態勢を取るが。


「おっと誤解しているようだな」

「?」

「私は君と君の仲間を守るように頼まれたんだ。まぁ君しか見つからなかったのだが」

「たっ頼まれたって誰に?」

「クラトス=ドラレウスにだ」

「っ!!」

「ははは、とにかく一人は発見できてよかったよかった」


男はにこやかに笑って見せる。その姿はラナの荒んだ心に光が灯されたようだった。


「私は無情な森だからこそ温情が大切だと思うのだ」


そういうと白い馬から降りる。


「あっあのお名前は?」

「私の名前はグラデル=トロンダだ、ラナよろしく!」

「え?あっはい」


グラデルはラナに手を出して強く握手する。


「あの、どうしてクラトスさんの事を?」

「そうか、やっぱり気になるか!では話そう!」


クラトスとどうやって出会いそしてなぜラナ達を助けるよう頼まれたのか、

グラデルは腕を組みながら話し始めた。

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