第7話 第1次試験 追う者追われる者
無情の森
ガルフが発動した魔法、氷の岩は容易く切られ、降り注ぐつららは魔法の壁で防がれていた。男は近づいてくる右手を刃にして。
「(まずい......)」
「......名前は?」
目の前まで男は名前を聞いてきた。ガルフなぜかと不思議に思う。
「なぜ我の名前を聞く?」
「俺のルールだ」
「......ガルフ=アトラ」
「俺の名はヘルダー=アッエス、さらばだガルフという魔導師よ」
「(こんな所で我は死ぬのか.......すまない皆......)」
ヘルダーの手刀がガルフの首に掛かろうとしたとき――
ジリリリリン
「ちっ......」
ヘルダーはポケットからとぐろを巻いた片腕サイズの蛇を出して、その蛇の後頭部のボタンを押す。
「(......電話......か?)」
「なんだ」
『こちら、戦闘は終了、終了ぉ』
「(この声は......まさかクラトスが......?)」
「終了したか......」
『ええ、ええ、しました。ではでは』
「あぁ、わかった」
電話を切るとヘルダーはガルフを背に向けて歩き出す。
「我を見逃すのか?先ほどまでは殺す気であったが」
「俺は無駄には殺さない、さっきお前を無視して行っても良かったが......どうせ邪魔をしていただろう、だから先に殺そうとした......ただそれだけだ」
ヘルダーはそのまま森の奥へと姿を消していく。
「悔しいが......助かったな......」
ガルフは安堵するが先ほどの電話からクラトスの事もあるが先にラナ達の後を追うことにした。
「クラトスは大丈夫だ!今はラナ達に気を遣うべきである!」
まるで自分に言い聞かせるように叫びラナの後を追うのであった。
◆◇◆◇
一方そのころ――
「はぁ......はぁ......」
ラナはアル、ヘイブはともに森を駆けていく。
クラトスとガルフがいなくなった今頼れる仲間はこの二人のみ、元々この二人だけで魔導師試験に挑む予定であったし、ラナもクラトス達と出会う前に此処へ来るまでの短い間に親睦を深め互いの実力を理解していた。
だからこそわかってしまった。
クラトスとガルフがいなければ絶対に勝ち残れないことを――
アルもヘイブもD級魔導師のレベル、それだけでも今までの試験では難しいレベルであったのに今年は最も最難関な試験であった。
「(怖い......)」
ラナは恐れている、死を、魔法の才があるとはいっても所詮10歳ほどの少女。このような戦いに慣れているわけもなかった。
お家の事情でもあったし並外れた魔力を持っていたこともありこんな試験に行く羽目になった。
「(リタイアしたい......)」
今年の試験ではリタイアすら迂闊にできない。仮にできても彼女は家に帰れるのかも疑問である。リタイアなどすれば家の恥であるのだから......。
「お嬢様ここで少し休みましょう」
「あっ......えっええそうね」
「そうですねその方がよろしいかと......」
だけど生き延びる、ここへ来てしまった以上は......。
ラナ達は少しの間休むために木に座り込んだ。
「......」
全員に沈黙が流れる、ラナは従者への話のかけ方にはあまり慣れていない。アルはラナを立てるためラナの前では謙遜する、ヘイブそもそもそこまでしゃべらない。
そして何よりこの切迫している状況が沈黙に走らせていた。
「ねぇ、アル?」
「なっ何でしょうお嬢様」
一体何時間経っただろうか最初に口を開いたのはラナであった。
「アルは......ヘイブもだけどなんで私の仲間として試験に?」
疑問があった、ラナの護衛として選ばれた、非正規の魔導師。偶然であったのか意図的な思惑で仲間に選ばれていたのか知りたかった。
「私は完全にたまたまですね......ポデュンノ家でお仕事をさせていただいて今回の護衛も偶然私が選ばれたまでです」
「非正規だったのはどうして?」
「単純に実力が足りないと考えていたからです。非正規で魔導師をしていた頃にポデュンノ家からお誘いを受けて専属となって様々な依頼を受けていました」
「そうだったの」
「実力つけてきて正規を受けようかという時に護衛の依頼が来ました。護衛になぜ自分が選ばれたのかはわかりませんが」
「そう......ヘイブは?」
「私も気になります、ヘイブさんはどうして?」
ラナとアルはヘイブに目をやる。
「気になりますか?正直面白くないと思いますが......」
「気になるわ!」
「私もです」
ヘイブは口を開く。
「アルと大体同じですよとまぁ私の場合は弟のためというのもありますが......」
「ヘイブは弟がいるの?」
「初耳ですね......」
「あえて言う必要もありませんでしたからね」
「でも弟の為って?」
「弟の医療費が必要なんです、それが今回の依頼を引きうけた一番の理由ですかね」
「そうだったんですか......なおさらお嬢様を守り切りましょう!」
「ええ、そうね......」
ヘイブは自身の腰に差し込んでいる短剣を握りしめる。
そして――
「っ!」
ヘイブの刃をラナは自身の魔法を一瞬で発生させて防ぐ。
「なっ!?ヘイブさん!?」
アルはヘイブが行った行動がまるで信じられなかった。
「ヘイブなんで!?」
「これが依頼なのです、お嬢様......いえ。ラナ=ポデュンノ!」
ヘイブの瞳から殺気が放たれている、アルはラナの前に立つ。
「ヘイブさん......」
「どいてください、私はラナを殺すことが出来ればそれでよいのです」
「なぜですか?」
「理由はさっき言った事ですよ、弟のため......」
「それは今回の報酬を医療費にするのではなかったのですか?」
「足りないですよ、私がラナを殺せば倍は貰えます」
ヘイブは金の為であると語るがラナには一つ疑問が浮かぶ。
「でもヘイブが生き残れる確証はない......私を殺せてもヘイブが死んじゃったらあなたの弟だって助からないわよ!?」
「問題ありません、一応生き残る方法は考えておきました、まぁ仮に死んでも大丈夫ですよ、ラナ、貴方を殺せればですが......」
「わかりました、ヘイブさん......あなたを敵として認識します」
「ヘイブ......どうしても?」
「はい」
「ヘイブ残念よ......でも私だって殺されるわけには行かない!」
アル、そしてラナはヘイブを前にして戦闘態勢を取るのだった。
「『アース・ブレイブ』」
ヘイブはアルとラナの真下の土の刃を出すがそれぞれ避ける。
「『トルネイド・ブラスト』」
アルの片手から竜巻がヘイブに向かって放たれるが――
「『アースシールド』」
ヘイブの壁の魔法によって弾かれる。
壁に覆われてヘイブから見えなくなったところをヘイブの横に移動してラナも魔法を放つ。
「『ダーク・ゴースト』」
黒いゴーストがヘイブに向かって突進していく。
「っ!」
ヘイブは逃げるがゴーストは追尾してくる。
「『ウィング・ショット』」
アルは逃げ回るヘイブの事を狙い打つ。
「ヘイブお願い降参して!こんなことしたくないわ!」
「いえやめないですよ、それに――」
ヘイブは短剣を持つとゴーストに向かって突き進む。
「私には後がない!」
魔力で創造されたゴーストを切るヘイブ、するとその短剣はゴーストを吸収して魔力を帯び始めた。
「ヘブンさんその短剣は私のと似ていますが違いますね?」
「そうです、ラナの魔法は闇属性多いですから、その対策にと......」
「ヘイブそこまで......」
「これは魔道具【
「魔道具......」
「ラナお命いただきます」
そう言うとヘイブは短剣を持ってラナに走る。
「っお嬢様!」
「っ!『ダーク・ショット』」
ラナの指先から闇の玉を出すが短剣によって容易く切られて、魔力が短剣に吸収される。
「させるか!『旋風弾』」
旋風がヘイブにまるでレーザーのように放たれるとヘイブは防御態勢を取るが吹き飛ばされ大木に叩きつけられる。
アルはラナの近くに走り寄る。
「大丈夫ですかお嬢様」
「えっええ何とか......ヘイブは!」
叩きつけられたヘイブはボロボロの状態だが立ち上がる。
「はぁはぁ私はまだ......」
ボロボロなヘイブを前にラナとアルは警戒していると......
「やあ、やあ、やっと見つけました。」
「!」
森の奥でやせ細った男がゆったりといつの間にか歩いてきていた。
「ヘイブ、何をしているのです、そんな状態では困ります、ええ困ります」
「えっ......なんで?クラトスさんは......」
「まさか......」
「ああ腹立たしい、実に腹立たしい、あの男私をボコボコにしおって」
ラナは困惑しているとアルは小さくラナに話しかける。
「(お嬢様、逃げましょう)」
「(っえ?でも)」
「(クラトスさんがいない今あの男に勝てる算段は現状ありません)」
ラナの了承を待たずに手を引いて走るアル。
「はぁ、追いかけっこはめんどくさい、本当にめんどくさいですねぇ」
ラナ達を追ってやせ細った男は追いかける。
「私は逃がさないですよぉ、絶対に逃がさない、絶対。ふっふっふっ」
不敵に笑いながら――
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