第6話 第1次試験 バラバラ

無情の森 


ラナとアルは隠れながら森を移動していた。


「はぁ......はぁ......」

「さぁ速く!」


ラナはアルに腕を引かれながら、森の中を慎重にすすむ。


「ちょっと待って、何か」

「急いでください――」


その時、木々の上からやせた細った顔の男が飛び降りてきた。


「すみません、すみませんねぇ、会話の邪魔しちゃって」

「くっ!ここは私に任せて早く!」

「そんな......」


アルは男に向かい合うとラナに逃げるよう促す。


「っ!生き延びて!」

「おっと行かせる訳には――」

男はアルを無視し、炎の魔法を放とうとする――

「させるか!」

アルは腰に差していた短剣を出すと男の隙をついて攻撃するが、よけられてしまう。

「どいつもこいつも、邪魔、邪魔ですねぇ」

アルは男の前に立ち構えた。


走り続ける、そばに誰もいない、だけどそれでも、必ず――


生き延びてみせる――




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

腕輪――魔導師や魔物を倒すとPポイントを獲得できるようになる

Pの状況は本人にしか確認できない。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




無情の森


魔導師達各々が様々な考えで動いて行く中。

クラトス達も72時間という時間を稼ぐために隠れながら行動していた。


「みんないるか」

「まぁ今のところは......というところだな」

「私達も大丈夫」

「ゴール地点までのヒントは徐々に与えれていくんだよな」

「そうだ......エルマ殿がどのように考えているかだが」

「まぁまずは様子見か」


クラトスの長い長い試験はまだまだ続く。


◆◇◆◇


無情の森


クラトス達が隠れながら状況の様子見を行っている間。

同様に様子見を図る魔導師もいれば。

Pの獲得を狙う者同士とで戦闘が繰り広げられていた。


「俺はPが0なんだ早く魔物か魔導師を......」


ある男は1次試験の裏に気付かずPを稼ぐことはできていなかった。


「1000P......大体此処にいる魔導師なんてE級の魔物を倒すのがやっとなんだから、魔導師同士潰しあえって言ってるようなものじゃないか」


原則として相手のランクより上であらねば苦戦を強いられる。


「くそ、仮に魔物D級を軽く倒すにはC級相当の力が必要だが.....」


魔導協会ではC級から本格的な戦力として扱われ。討伐のような依頼もC級からが望ましいとされている。


「D級を軽く屠れるやつもいるだろうが......そんなのは――」

「極々一部と君は言いたいのかな」


グサッ


「え」


男は振り向くが何もいない、しかし心臓にはなぜか穴が空いていた。


「私も初動をミスしてね......まぁ君はどうせ勝ち残れないのだからいいじゃないか」

「いっ意図的な殺しは......」

「魔導師なんて基本魔力を扱う全身凶器なんだからこれは防衛行為だよぼ・う・え・い」


そのまま殺した者の姿も見えず男は絶命する。


「私のPは321か......もう少し貯めておきたいかな」


試験内における殺害行為の禁止はもはや死文化している。


◆◇◆◇


「......」

「どれほど待つのか?」

「さぁ?」


クラトス達は大木の近くに座り込みながらじっとして今後の方針を考えていた。


「Pが倒した魔導師に譲渡されるから集めるとリスクになるんだよな」


しかしクラトスはPがどれだけ集まっているのかが本人の腕輪を見なければ確認できない、ならば早々と集めてから隠れているのがいいのではないかと考えているのだ。


「クラトスさん......魔物が全然見当たらないわ」

「......」


無情の森は4年前には魔物がもっといたはずであった。だからこそどうにかできるという考えていたのだが......


「10000人はいるんだ、今回で魔物は狩り尽くされるかもな!ははは」

「もし魔物が見つからなければ我らも魔導師と戦わなければならないな......」


魔物が見当たらなければ必然的に魔導師同士の潰しあいをしてPを獲得していかなければならない。


「だが我らが遅く気づけたのはラッキーであったかもな」

「ガルフ、それはどういう意味だ?」

「魔導師からPは奪えるのだ、魔物からPを少しだけ稼いでおいてあとはスタミナ温存、ギリギリまでやり過ごして最後に魔導師を倒すというのが勝ち筋だと思――」


ガルフが最後まで言おうとしたとき大きな叫び声が聞こえてきた。


「リタイアあぁぁぁ!」

「っ!近く!」


近くで聞こえた男の叫び声にクラトスは何事かと声をの方角へ歩む。


「あっクラトスさん」


ガルフ、ラナ達も一緒にクラトスについて行く



◆◇◆◇


「なんでだ......リタイアって......」


男の体が腐敗し朽ちていく、抗おうにも抗えないもはや絶命の間際にいた。


「ええ、ええ、そうでしょう、そうでしょう。リタイアと言ったのになぜ殺されているのかわからない......といったご様子」


ぶかぶかの袖をばたばたと揺らしながら男をあざ笑うような声で骨のようにやせ細った男が話す。


「理由は簡単、ええ簡単。リタイアが受理されるのは10分後それだけ、ただそれだけ」

「そ......んな......」


体はバラバラに朽ちてゆく、やせ細った男の腕輪は赤く光っていた。


「(っ......)」


クラトスは隙を伺い剣を握るがガルフはそれを抑える。


「(だめだクラトス)」

「(......)」


来た時には既に遅かった。そして今回の試験でクラトスが気にくわないところがリタイア条件であった。4年前ではリタイアは1分ほどで受理されて転移されていたが、今年はなぜか10分間受理に時間がかかる。大声でリタイアと叫べば敵を呼び寄せるようなもの、実質リタイアすら迂闊にできない状態であった。


「(あの赤い腕輪は何だ?俺たちのは白いだけだが)」


赤く光る腕輪を疑問に思ったが長いは無用と立ち去ろうとするが――。


「おおぉ、わざわざそちらから出向いてくれたのか。ありがたやありがたや」


怪しげにクラトスの方を見て近づいてきた。


「ッ!『ドラゴンクロウ』」


クラトスは男に突撃するが容易くかわされてしまう。


「ガルフ!みんなを連れて逃げろ!」


ガルフは既に逃走の準備を始ており、ラナと共に走り去る


「いえいえ、それは困ります、えぇ困ります。」


男の足元から黒い人型の何かが現れクラトスにまとわりつく。


「行かせるかよ!ドラゴンスケイルゥゥゥ!」


赤黒い光をクラトスが身に纏うと人型は消失して男に走り込む。


「時間の無駄、無駄ですねぇ」

「あぁ本当に時間の無駄だなあ!」


クラトスと男はお互い対峙する。クラトスにとって無情の森での初めての戦闘が今始まろうとしていた。



◆◇◆◇


ガルフはクラトスから逃げろと言われラナ達と一緒に逃げていた。


「はぁ......はぁ......クラトスさんは大丈夫かな?」

「クラトスは大丈夫だな、我が保障しよう」


ガルフとクラトスが出会ったのは数十年前、その頃のクラトスは親が帰らなくなっていたこともあってかなり無鉄砲になっていた。ナシアーデはそんなクラトスの手綱を引く役目をよく買っていた。だがそんな無鉄砲さが縁となりガルフはクラトスとナシアーデに出会うことができた。


「とりあえずここまで来れば――わっ?」


走りを止めようとした矢先、地面から土の手が出てガルフの片足を引っ張ってきたためガルフは派手に転んでしまう。


「ガラフさん!大丈夫」


ラナはガルフに近づこうとするが


「お嬢様!危ない!」

「え?」

「『アースバン』!」


アルはラナの体を持ちあげるとヘイブは地面に鋭い岩を突きさして衝撃波を放つ。


「グア!?」


ガルフを捕まえていた手が無くなっていく。


「倒したの......?」


ラナはアルに抱き上げられたまま地面をまじまじと見ている。


「くっ我を転ばせるとは......」

「派手に転んでましたね......」


アルはガルフの方を苦笑いする。


「アル降ろして」

「わわっすみません」


アルはラナを急いで降ろす中ヘイブは考え込む。


「どうかしたのか」

「ああ......いえなんでもありません」

「む!何やら来るぞ気を付けるんだ!」


近づいてくる存在に警戒を強めるガルフとラナ達。


現れたのはオールバックで長髪の黒髪に赤い瞳に黒スーツを着ているという何とも場違いな男であった。


「まずいな、ラナ達は逃げろんだ」

「でも――キャ!」


アルはラナを姫様抱っこする。

「ガルフさん!後で塔に合流しましょう」

「では、ガルフさんまた後で」

アルについて行くようにヘイブも走って行く。


「......判断が早い、逃がしたのは正解だ」

「我を無視して追わないのか?」

「邪魔ものは先に排除する」


男は腕に魔力を強く籠めると腕を魔力で固めた刃が纏う。


「我をなめているな」

「......」


右手を魔力の刃で覆わせているが、左手をポケットに入れている。

ガルフは完全に下に見られていると感じていた。


「うおおおおおお!」


ガルフは相手が手練れであることは瞬時に理解し魔力を集中し全力で挑む。


「来い」


相変わらずの姿勢でガルフを見る。


「『オルトルバスル』」


両手から激しい光線を放つが――

光が放たれ当たる間際で横に移動した、光線も横に移動させようとするが男のスピードについていけない。


「なっ」

「その技、隙だらけだ」


男の刃がガルフの喉元を狙うがガルフは後ろに下がり、魔法を放つ。


「『アイスロック』」

氷の岩を男の周囲に発生させて、身動きを取れなくさせる。畳みかけるようにガルフは魔法を唱え――

「『アイス・レイン』」

男の頭上につららが雨のように降り注ぎさらに逃げることを防ぐ、これで決まったと思ったが。


氷の岩は容易く切られ、降り注ぐつららは魔法の壁で防がれていた。


男は近づいてくる――


右手を刃にして――


◆◇◆◇


無情の森 某所


「たっ助け......」


いまここはまさしく無情の名にふさわしい惨劇が起きていた。女子供も皆殺し、

死体も見るも無残にバラバラで原型をとどめていない者もいる。

緑色、土色の大地は鮮血で赤に染まっている。


ここに立つ者は一人の少女のみ。


「これでよかったのかしら?たたかいってよくわからないわ......」

「助けて......」


一人の女が少女の足元にしがみ付く。


「でも私って結構やさしいのかもしれないわね?だって一瞬で終わらせてあげるのだものね?」


少女は女の頭に手を置く。


「あっ待って......」

「は~い、ぶち☆」


瞬間女の頭は潰されて体のみが倒れ込む。

そして少女は鮮血の後が付いた顔で無邪気に笑う。




「喜んでくれたかしら?」






無情の森に入った魔導師は延べ10000人ほどである。

幾人もの魔導師が第1次試験で命容易く散って逝く。

クラトスとガルフ、そしてラナ、アル、ヘイブの運命は――

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