14話 いっぽう魔王の城では

 魔王城の玉座には、大きな体をした魔王が座っていた。頭部の両側から出ている立派な角、筋肉の塊のような体には膨大な魔力を秘めている。その前にいたのは四天王の一人、銀髪を揺らす整った顔立ちの男魔族だった。彼も立派な角を持ち、その頭を下げていた。片膝を床につけて、王を前に敬意を表している。

「ミラのその後はどうなった?」

「はい。調査したところによりますと、魔法使いの罠にかかったミラは、森の中へと逃げたみたいです。村人はとどめを刺そうと追いかけたようですが、見つからず。その後の消息は不明です」

「その罠というのはどういうものだ?」

「踏めば魔力を失うというもので、我々の元へ戻ってこれないことを考えると、ミラの魔力が枯渇するほどの強力なものであると考えるのが自然かと」

「森の中に凶悪な魔物は?」

「いえ。ただ、熊が生息しているとの情報があり、運悪く出会ってしまう可能性があります」

「魔力がなくなったミラに、たかが熊でも脅威となりうる、か」

「そうです。それで崖下近くに民家があり、もしやと思い調べましたが、家の中には誰も住んでいませんでした。ただ、廃屋ではなく、人が住んでいた形跡はありました」

「そこにミラがいたという痕跡は?」

「残念ながら…。ただ白く長い髪の毛が落ちていました」

「白色か…」

「引き続き探索を続けます」

「わかった。見つけたらすぐに報告しろ。可能ならば連れてくるのだ」

「はっ」


「ヒッヒッヒ。ミラの奴は見つかってないようだな」

「ああ」

 魔王の玉座から離れ、階段を下りたところに待っていたのは細身の男だった。鼻が大きく、顔の肌にはブツブツがあり、気持ちの悪い顔をしている。黒のローブに身を包んだその男は、四天王の一人だった。

「あんなやつ、放っておけばよくない?」

 少女が言った。傘を持ち、背は低く、どこからどう見ても普通の少女に見えるが、肌は透き通るように白く、死んだ魚のような目が子供っぽくなかった。金色の髪を後ろで結ったポニーテールを揺らす。赤と白のリボンが可愛らしい。彼女は四天王の候補の一人だ。

「それは酷いだろう」

 四天王の一人、鋼鉄の鎧に包まれた大男が言った。背中には大きなブレードソードを背負っている。

「だってさ。あいつ、命令無視して村の連中をなぶり殺すために襲ったんだよ? それで逆に自分がやられるなんて、そんなマヌケ、放っておけばいいんだよ」

「ヒッヒッヒ。手厳しいが…わしも同意見だ」

「俺は違うぞ。ミラは仲間だ。連れて帰るべきだ」

「はっ。仲間、ねえ」

「なんだ? そりゃあお前は、ミラが帰ってこないほうがいいんだろうがな。そうすれば自分が四天王に加わることができる」

「そのとーりだよ。でも、魔王様、どうもミラにこだわってるっていうか、甘やかせてるみたいに見えるのよね。デストさん、どう思う?」

「さあな。俺がどう思おうが、魔王様の命令は絶対だ」

「ふうん。マジメね」

 デストはすぐそばの転移装置がある部屋に入った。鏡があり、そこで男に変身する。銀髪の整った顔はそのままに、頭の角が消えた。服装も一般人が着るような長袖長ズボンに着替える。そして、光の輪の中に立ち、フッと姿を消した。

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