12話 VSドラゴン1
次の日、ローレンは誰よりも早く目が覚めた。カーテンを開け、日光の光を取り入れる。次にメガリスが起きた。ピンクのパジャマ姿だ。
「おはようございます」
「おはよう」
寝ぐせたっぷりの眠たそうな、しかし優し気のある表情だった。勇者のこんな姿が見られるなんてレアだ。ルナは寝ている途中だったが、ふとんを揺らして起こした。
「むっ。なんだ朝か。…グ~」
「寝るな。起きろ」
ふとんを取り上げると、丸まっていた体を震えさせ始めた。
「わ、我は寒いのは苦手なんだぞ? もう少し優しく起せないのか?」
「メガリス。今日、防具屋に行くんだよな」
「あ、はい」
「聞いてるのか!」
「ルナの防寒着も一緒に買ってくれないか?」
「むっ。防寒着だと?」
「なにか不満か?」
「あったかくなれるやつか?」
「そうだ」
「…クックック。先ほどの無礼。なしにしてやろう」
「はいはい。とりあえず、どうする? 朝食か?」
「おいっ。レイはまだ寝てるぞ。なんで起こさない?」
まだ爆睡中のレイを指さしながら言った。
「あいつは疲れてるんだ。出発までゆっくりさせておいてやろう」
昨夜、アルルが魔力を吸い過ぎたせいだがな。
「我と扱いが違うぞ! 不公平だ!」
怒るルナ。しかし、それを鎮めるのはたやすいことだった。肉をちらつかせておけばいい。ただ、甘やかすのはよくない。いくら勇者カードがあるからといって、ことあるごとに肉を提供するのは馬鹿げている。なので、別の方法を使った。
「ルナ。レイは役立たずなんだろ?」
「その通りだ」
「だったら寝かせておいてもいいだろう。起きていてもどうせ役に立たないんだから」
「むっ。それは一理あるな…」
「役に立つルナだからこそ、起こしたんだ」
「キャハハ! そういうことかっ! ならいいだろう!」
満面の笑みに変わるルナだった。
ふっ。バカを相手にするのは楽だ。
三人は一緒に防具屋へ行った。そこで軽くて丈夫なドラゴンシールドを買う。ルナのウール素材のコートも買い、さっそく着てみることになった。
「こ、これはいいぞ! ポカポカだ! 人間のくせにいい仕事をする。褒めてやろう!」
鼻息荒く、上機嫌のルナだった。
人間のくせにってなんだ。お前も人間だろうが。
女性店員さんは苦笑いだった。
「こんなことなら、初めからこれを買えばよかったのだ。ローレンはまったくもって使えないやつだな」
「店員さん。このコート買うのなしで」
「なっ! う、嘘だぞ! 今のは嘘だ! ローレンはすごくいいやつだ!」
「よし」
高級そうなコート、ドラゴンシールドがカードだけで支払い可能とはな。国王万歳、勇者カード万歳だ。
部屋に戻ると、レイが起きていた。パジャマからローブへと着替えている。
「あ、防具屋に行ってたんですか?」
「はい」
「今後は書置きしてくれると嬉しいです。誰もいなくてびっくりしたじゃないですか」
「すみません。すぐに戻る予定だったんですけど…。今後はそうします」
「気をつけてくださいね」
低姿勢のメガリスにやや上から目線のレイ。
「やっと起きたか。まぬけめっ」
ムッとするレイ。ルナが着ているコートに目をつける。
「もしかして買ったんですか?」
「ああ。レイもほしいものがあれば言ってくれ」
「欲しいもの…。あると言えばありますが、ここには売ってないです。なので今は大丈夫です」
身支度を整えた四人は宿屋を出た。アルルは胸ポケットに入れておく。こうすることで体力を温存してもらい、いざというときに動いてもらうようにして、北の洞窟へと向かった。
「今日はドラゴン狩りだな?」
「違うぞ。勇者の剣を取りに行くんだ」
「あなたは昨夜、何を聞いていたのです? バカなのですか?」
「なんだと!? 役立たずのくせに」
「それはあなたでしょう?」
「キャハハ! 今日は我が活躍するのだ。お前とは違う!」
「ふんっ。活躍できればいいのですけどね」
大丈夫かな、こいつ。
一番安全なのはルナに取りに行かせることだが、もしミスってドラゴンが起きたとき、ドラゴンの炎に耐えられる力をルナが持っているのかどうか謎だった。レイは無理だという。普通に考えればそうだが、本人はやる気まんまんだ。熱に強いというのは風呂でも実感している。う~ん。どうしよう。
「どうしましたか? ローレン」
メガリスが話しかけてきた。
「ああ。本当にルナに任せてもいいのかと思ってな」
「そうですね…。じゃあドラゴンシールドを持たせたらどうでしょう」
「その持ってるやつか。確かにそれなら防げるはずだな」
「はい。それなら大丈夫かと」
頼れるメガリスからの助言で、少し安心できた。
北の洞窟は一時間ほど歩いた先にあった。山に大きな穴が開いていて、看板が立っている。そこには「ドラゴンがいるので注意!」と赤字で書かれていた。
この奥に、いるのか。
「皆さん、ここからは音を立てずに行きましょう」
三人はうなづいた。ローレンたちは暗闇の中に足を踏み入れる。先頭のメガリスはライトをつけて進んでいった。天井は高く、横幅も広い。家がすっぽり入るくらいの大きさだ。じょじょに緩やかに下っていっているようだ。唸り声などは聞こえず、静かなのが不気味だった。
なぜ、こんな危険なところに勇者の剣があるのか。勇者の剣がこの洞窟にあることも謎だが、ドラゴンが住んでいるのも謎だ。戻ってからメガリスに聞いてみようと思っていたとき、さらに広い空間へと出た。メガリスはライトを消す。辺りは真っ暗になった。
「います」
「ど、どこにいるんだ?」
「この空間のどこかに…」
「まったく見えんぞ」
ルナは不満げに言った。
「ていうか、こんなに暗いとドラゴンどころか、剣がどこにあるのかすらわからんな」
「いえ。近くに大きな魔力源を感じます。おそらくその先に剣があるかと」
「レイ。頼めるか?」
「任してください」
先頭をレイにして歩き出す。しかし、すぐに石につまずいたのか、こけてしまった。
「うげっ」
ビリっという音もしたので、ローブの一部がやぶけたようだ。自力で立ち上がり、ローブについた土を払う。
「大丈夫か?」
「へ、平気です。でも、暗くてこれでは危ないですね」
「ライトをつけると、目を覚ますかもしれません」
「どうするか…」
「しょうがないなあ。私がやるよ」
アルルが胸ポケットから出てきた。小声で彼女に問いかける。
「なにか方法があるのか?」
「淡い光で照らせばいいんだよ」
アルルは自分自身から光を発して、ライトの役割を担った。薄暗いが、これならぎりぎり見えるだろう。
「これは精霊の魔法ですか?」
レイが聞いてきた。
「そうだ」
「不思議な光景ですね」
と、メガリス。彼女たちにはボヤっとした球体の光が、ふわふわと宙を浮いているように見えるので不思議がるのも無理はない。
しばらく進んだ先には大きな穴が開いていた。下を見るとどこまで続いているのかわからないぐらいの闇が広がっている。その先に行けないと思いきや、細い道が続いているところがあった。人ひとりが通れるほどの幅しかなく、まるで橋のようになっている地面、その先には剣の刃が見えた。勇者の剣であろうそれは、地面に深く突き刺さっている。
「あれです」
「ドラゴンはいないようだな」
「今がチャンスですね」
「我が行くぞ」
「私一人で十分ですが」
「愚民は黙っておれ」
ルナはすたすたと前を歩き出す。その前をアルルは歩調を合わせて進んでいくので、自動追尾の照明が地面を移動していた。
「ふんっ。偉そうに。後ろから押してやりましょうか」
それはやめとけ。
「もしかして留守かもしれないな」
「それだといいんですけど…」
不安そうに見つめるメガリス。
ルナは穴の中にある孤島みたいな場所にたどり着いた。そして、剣の柄を持って、上に引っ張る。
「んぎぎぎぎぎ…」
思う通りにいかないようだ。今度は斜めに引っ張るが無理のようだ。
「剣の分際で生意気なっ」
柄の部分を蹴るルナ。
「おい。あんまり音を出すな。ドラゴンがいるかもしれないだろ?」
「んぎぎぎぎ…」
まったく聞いてないようだ。
もしかして勇者しか引き抜けないとかじゃないよな?
「私、ちょっと行ってきましょうか?」
「そうだな。頼む」
アルルを一旦、こっちへ呼び寄せて、メガリスとともに同行した。細い道を慎重に歩いている。
「先ほど、もしかしてドラゴンが留守じゃないかと言ってじゃないですか?」
「あ、ああ。それがなにか?」
「留守ってことは戻って来る可能性もあります、よね?」
「…嫌なこと言うなよ」
「ふふふ…。冗談です」
そういうのをフラグっていうんじゃないか?
などと思っていると、向こうの二人から「いっせーの」という掛け声が聞こえた。そして、「抜けました」とメガリスの声が聞こえる。
ふうっと安堵のため息をもらす。後はここから出るだけだ、そんなことを思った矢先のことだった。後ろから足音が聞こえてきた。洞窟内が揺れ、ドシンドシンとじょじょに近づいてくるそれは巨大な生物、つまりドラゴンの帰宅を意味していた。
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