3話 ルナは冷たい水に弱い
次の日。
家にいるルナは暇そうにしていたので声をかける。本人は働かずにじっとしていたいようだったが、そうはいかない。畑の草取り、洗濯の仕方などを教えてあげた。
「我は冷たいのは無理だぞ」
洗濯は拒否反応を見せた。その次は魚釣りだ。ミミズを針に刺して釣り竿を投げて待つ。そしてかかると引っ張り、釣り上げた。ルナはバケツの中に魚がピチピチと跳ねているのを上から眺めていた。
「食べていいか?」
「お腹壊すからやめとけ」
彼女は残念そうな顔をした。そして視線を元の魚のほうに戻す。
「やっぱり変わってるね。この子」
顔のそばに浮遊しているアルルが言った。
「そうだな。昨日なんて熱いお湯に浸かっても大丈夫なようだったから、驚いた」
「ほんとにそれ熱かったの? 裸見たい口実作ったんじゃないの?」
「違う」
「ふ~ん。まあいいけどね。あ…」
「ん?」
バシャバシャと川を進んでいく音がした。ルナだ。長ズボンの裾はめくられていないので濡れている。
「おい。ルナ。なにをするつもりだ」
「ふん。見てろよ。ローレン。我の力、特別に見せてやる」
得意げに微笑む彼女。膝までの深さまで進んだあと、ジッと川を眺めた。そして、次の瞬間、バッと川の中に飛び込んだ。少しして川から顔を出すと、両手でつかんでいたのは魚だった。とった魚を持ってきて、バケツの中に入れる。
「やるな」
「ふふん」
大きな胸をボヨンと揺らしながら、自慢げに背筋を伸ばした。
「たくましい子だねえ」
俺が手を貸さなくても、自分の食料分は余裕で確保できそうだな。
「我の力をもってすれば、魚ごときイチコロだ! キャーハッハッハ!」
不快な笑い声が耳に届く。その笑い方、なんとかならんのか。
しかし、その数秒後、彼女の顔は真っ青になっていた。川から上がって石に座り込む。まるで風邪のひき始めのように、ガタガタと肩を震わせている。先ほどの威勢が嘘のようだ。
「どうした?」
「…さ、さささ、寒いぃ」
いかにも弱弱しい声に、これは大変だと色々考えを巡らす。そのとき、昨夜のお風呂が思い出した。
「お風呂、入るか?」
ルナは震えながら、うなづいた。すぐに薪に火をつけ、風呂をわかす。彼女もよろよろと歩き、風呂場に現れた。まるでずぶ濡れのホームレスのような姿だった。手をつけるとまだぬるかったが、我慢できないのか、彼女は脱ぎ始めた。
「うわバカ。まだあったまってないぞ」
「う、ううう…うるさいっ」
どうやら彼女は熱に強く、寒さに弱いようだ。火山のような場所にでも住んでいたのだろうか? しかし、そんな部族の話は聞いたことがなかった。
ていうか、寒がりなくせに川に飛び込むなよ。そんなに自慢したかったのか?
「ふんぬ~! ふんぬ~!」
「なにやってるんだお前…」
濡れた服がなかなか脱げないようで、顔が隠れ、へそが出ている姿の変なやつがそこにいた。
「ぬぬぬぬぬっ!」
服との格闘がしばらく続きそうだったので、仕方なく手伝ってやる。最後の一枚が、やっとのことで脱げたところで、胸を隠しつつ急いでお湯につかる。勢いよく入ったため、お湯が散った。
「うわっ! バカ」
「は、ははは…早くしろ」
まったく、こいつは。
数分後、ルナにとってちょうどいい熱さになった。
「ふ~。これくらいで大丈夫だな」
「見るな!」
「はいはい。出ていくよ」
風呂場を離れ、魚釣りを再開した。
夜になると、夕食の時間だ。彼女は待ちきれないのか、焼いている魚を前にしてよだれを垂らしていた。注意すると、手の甲でそれを拭った。それプラス今日は大根の味噌汁、そしてご飯だ。
「「いただきます」」
二人とも一緒に両手を合わせ、そう言ってからごちそうを口に運んだ。そのあと、風呂までにはまだ時間がある。彼女の過去について聞こうと、向き合った。遭難しているとなると両親が心配している。早く顔を見せて安心させてやりたい。
「ルナ。この近くに村があるが、そこに住んでいたのか?」
「そ、それは違う」
「じゃあどこだよ? 連れていくから教えてくれ」
「大丈夫だ。問題はない」
「いや、問題大ありだろ。ずっとここに住むつもりか?」
「魔力が戻…いや…記憶があいまいなんだ。だから、それが戻るまでここにいる」
「そうか。もしかして滝から落ちたからか?」
「え? あ、そうだ」
「なるほど。そういうことか」
こいつのバカな発言は、もしかしたらそのせいかもしれないな。人間ごとき、とか我とか言ってるのも、子供時代の記憶しか残っていない。そう考えるのが自然だろう。
「じゃあ記憶が戻ったら言ってくれ」
「わかった」
「それと今度、一緒に村に行くぞ。下着やらちゃんとした服がないのは不便だろ?」
「いや大丈夫だ!」
「大丈夫じゃないだろ。とにかく一緒に来てもらう。わかったな?」
「うう…」
村に行きたくない事情でもあるのだろうか? ますます怪しい。村に住んでいないと言っていたが、色々聞いて回ったほうがよさそうだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます