第1話 煌く星空の下で 2

「………見られちゃった…………」

 ベットで寝転んでいた女性はタヌキの顔がイラストされたクッションをいたままもだえる。タヌキの顔が萎んだ。

「あああぁぁぁぁ!……………」

 昨日の出来事がフラッシュバックする度に顔を赤らめ、恥ずかしさから奇妙なうめき声を上げる。

 彼女の名前は長村真奈ながむらまな。大学二年生の二十歳であるが、150センチもない身長と幼い顔立ちによって歳を下に見られることが多々あった。

 真奈は大学一年目の時から深夜帯の誰もいない、見晴らしのいい高台にある公園で踊ることが習慣になっていた。一人暮らしという親に拘束こうそくされない環境に浮き足立ち、羽目はめを外した結果だった。

「どうしよう…絶対変な奴だって思われてるに違いない………」

 今まで誰にも見つからずにいたことが奇跡的きせきてきな事だったのだと実感する。もしかしたら今までにも自分の踊る姿を見た人はいたのかもしれないと思い始めると、羞恥心しゅうちしんが限界点に達して手足をバタつかせる。

 しかも急いで逃げ出したせいでシュシュを落としてしまったのだ。友人と一緒にお揃いのものを買って、日頃から使い込んでいたので愛着を持っていた。今朝そのことに気付いて探しに向かったが見つからなかった。

「うぅ……とりあえず二度寝しよう………」

 嫌な事は忘れるに限ると自身に言い聞かせながら目蓋まぶたを閉じる。が、うまく寝付けずに昨晩のことを思い出し身悶みもだえする。

 数分も経つと寝息をたてるようになった。真奈は青空が広がる昼下がりから茜空あかねぞらが夜の訪れを知らせる時までの間、幸せそうな表情を浮かべながら深い眠りに落ち夢の世界へ飛び去った。


「う〜ん、寝過ぎて全然眠くない。どうしようか」

 眠りから覚め、食欲もないままじっと考え込む。日付が変わるまで一時間をきっていた。

「今日も行く?…でも昨日見られたしなぁ…」

 正直寝付けないままベットをゴロゴロするのは苦しい。とは言ったものの、やることもないわけで。

「………行こうか」

 週に二回程度ではあるが、すでに日課となった深夜帯の散歩。運動も兼ねているのでスタイルの維持には欠かせないものに成りつつあった。

 家を出ると真っ直ぐ誰も寄り付かない公園へと向かう。公園には遊具が少なく、すべり台とブランコがあるだけでほとんどが空き地だった。階段を登り、暗闇が訪れた公園を見回す。

「よし!誰もいない」

 そしていつもの外灯の下へと向かう。あそこからだと遠くに見える都内のビル群が作り出すにぶい光を一望いちぼうできる。それに加え公園の外灯が舞台上の主人公を照らすスポットライトのように、目をきつけるものがあったのだ。

「うん?」

 近づいていくと少しずつタバコの臭いがし始めた。疑問に思いつつも外灯へと歩み寄る。すると外灯の先、下り階段の手摺てすりの側でタバコをしている人影があった。

「アワワワ………」

 取り乱していると、どうやら人影はこちらの存在に気付いたようで、近づいてきた。立ちすくんでいると、その人影は話しかけてきた。

「すみません、昨日の夜中にココで踊ってた人について、何か知りませんか?」

 今度は一言もはっせられないほど驚いてしまった。驚嘆同地きょうてんどうちとはこのことか、と内心毒付きながら話しかけてきた人物をじっと見つめた。

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眠れない私達の変奏曲 甘蜘蛛 @HLofCAFL6741

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