第2話 気付き

 それでも、再び自分が小説を書こうと決意したのは、昨年(2019年)に精神の平衡を崩して病院に入院してしまった時のことである。

 その入院は二ヶ月半にも及び、その間ロクに娯楽も無い環境に置かれた自分は、「自分を見つめ返したい」と真っ白なノートに日記をつけ始めた。

 最初のうち、それは単なる出来事や体調の羅列でしかなかったけれど、書いていくうちに少しずつ詳細な内容が加わるようになり、また自分が興味を持ったこと、持っていたこと等話に肉付をして、あとでもし日記を自分以外の他の人が見たときに、「ああ、この人はこういう人なんだね」ということが伝わるように、他人の目に触れることを意識しながら日記を書くようになっていった。

 実際、自分の病状について語る上で口で話すよりも日記に書いてある内容について話したり、場合によっては日記ごと見せた方が良かったケースもあり、自分の思考をまとめて回復していく上で、この日記の記述が大いに役立ったのは確実であった。



 また、この時毎日欠かさずに日記を書いたことで、自分はもう一度創作の基本に立ち返ることが出来たと思う。

 その物語で何を描き、伝えたいのか。自分が一番書きたいことは何なのか。それを他人に伝えるためには、何が必要なのか。そこを今一度見つめ返すことが出来た。考えてみると、これはとても幸運なことだと思う。入院したこと自体は不幸な事態であったけれど、そこで初めて、自分はなぜ自分が創作をしたいのか、その原点に立ち返ることができたのだ。


 と、同時に気付いたのは、「自分は自分の中に無いものは書けない」という単純な事実であった。

 自分の経験してきたこと、それを踏まえて自分の中で想像できること、それらの前提がない物語を作り出すことなど出来はしないのだ。

 翻って、自分はどうだっただろうか?自分の中で想像がきちんとできないものばかり書こうとしてこなかっただろうか?自分の経験に則さない、上っ面だけの物語ばかり書こうとしてこなかっただろうか?

 そこまで思い至ったとき、自分は初めて自分が書きたい物語というものに気付けたような気がした。他人のモノマネではない、自分だけが書けるであろう物語の姿が見えたのだ。

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