第133話

 砂埃が舞い、焔の姿が見えなくなった妄鬼。だが気配を感じる中、その気配が通常よりも妖力が高い事に気が付いた。そして砂埃を振り払った焔の姿を見て、妄鬼を含め、蒼鬼も目を見開く。


 「……焔鬼よ、まさか纏いを発動させたのか?」

 

 その呟きを聞いた焔の姿は、炎を纏い、片角から紅い亀裂が顔に表れている。そして灰色となった髪は、焔の背中まで伸びていた。見た目で大きく変化した物は無いが、一番変わったのは瞳と妖力だろう。


 「――お前に武具が通用しないのは知ってるさ。だけどな、そんな事は関係無いんだよ、妄鬼。……お前はオレが殺してやる。オレの力を全て費やして、念入りに殺してやるよ」

 「ククク……素晴らしいっ。焔様の纏いがこれ程の物とはっ!!私はなんとも運が良いのでしょう。この喜びを誰に伝えれば宜しいのだろうか!!――っ!?」

 「――黙れ」


 妄鬼の言葉を遮るようにして、焔は炎に包まれた刀を振るった。色が違う左右の瞳は、紅色と蒼色で輝いている。鋭く輝く双眸は、殺気という空気を纏って妄鬼へと接近する。

 だが、その行動を遮ろうと妄鬼は蘭鬼の事を操る。


 『……』


 だがしかし、妄鬼は異変を感じる事となった。何故ならば、蘭鬼を盾にしようと目論んでいた妄鬼だったのだが、指示を出したはずなのにもかかわらず蘭鬼の動きが止まったのである。

 その蘭鬼は焔の事を見据えたまま、一歩も動けない様子となっていた。


 「……どうした?人形にしてまで言う事を聞かせたかったんだろう?早く指示を出したらどうだ?」

 「っ……(ま、まさか、私の術が破られた?いや、そんなはずがないっ。私の術は完璧だ!ミスなど有り得ない。有り得るとすれば……っ)」


 妄鬼の思考の中で、一つの答えに辿り着いた。そしてそれは、限り無く正解である。死霊傀儡で生み出された蘭鬼の妖力は、妄鬼の持つ妖力のおよそ四割程で戦闘を可能にしている。

 40%の力を削ったとしても、さして影響のない妄鬼であればこのぐらいは考える。だがしかし、纏いを発動した焔の妖力は遙かにそれを上回っているのが原因だ。

 妖力の低い鬼は、強い妖力の者に従う暗黙のルールという物が存在する。それは鬼という本質を忘れていない蘭鬼に適用され、自分よりも遙かに高い力を持つ焔に中てられていると云えるだろう。


 「……覚悟は出来てるかよ、妄鬼」

 「――っ!?」


 だが、一つだけ懸念材料があった。それは戦闘を傍観していた蒼鬼の脳裏に過ぎり、纏いを発動している焔の容態を蒼鬼は知っているのだ。


 「ごふっ!?」

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