第132話

 「――ぐっ」


 ブンと空を切る音が耳元で掠める中、オレは目の前で武具を振るう蘭鬼を見据える。死霊傀儡によって蘇った者は、まるで人形のように無表情で攻め寄ってくる。

 

 「……止めろ蘭鬼、テメェは妄鬼の言いなりになって嬉しいはずがねぇ。目を醒ませ、蘭鬼」

 『……』


 オレの言葉に反応する様子もなく、蘭鬼は無表情のまま薙刀を振るってくる。腹部から血が流れ続ける中、猛攻を捌き切るのは至難の業だろう。

 だがしかし、オレの言葉に反応したのは蘭鬼の背後で笑みを浮かべる妄鬼だった。


 「焔鬼様?私は嬉しく思います。こうして今、死んでしまった蘭鬼と貴方が再び会い、互いの生存本能のままに命を確かめ合っている事を」

 「っ……!」

 『……?』


 蘭鬼の事を峰打ちで薙ぎ払い、奥に居る妄鬼へと攻め入る。懐に届きそうな刀の切っ先は、薙ぎ払ったはずの蘭鬼に遮られてしまう。立ち塞がっている蘭鬼の後ろで、妄鬼はニヤリと笑みを浮かべながら言った。


 「おやおや、焔様は本当にご乱心の様子。何をそんなに怒っているのでしょうか?私はただ、蘭鬼の望みに答えただけですよ」

 「くっ……テメェの欲望の為に蘭鬼を利用しただけだろうがっ」

 「それはどうでしょう?現にこうして蘭鬼は、私が命令する事もないまま行動している。これは蘭鬼の本能がそうさせているだけの事、故に、私に罪は無いですよ」

 「減らず口をっ……勝手に命を弄んでおいて、何が罪は無いだ!テメェだけは必ず殺すっ、魂まで焼き尽くしてやるよ」

 「!?」


 オレの刀が炎に包まれると同時に、蘭鬼の腕を掴んでオレの後ろへと投げる。そのまま前へと駆け出し、妄鬼へと燃える刀を振るう。

 だがしかし、オレの刀は妄鬼に達する前に何かに防がれた。金属音が聞こえ、目の前に居る妄鬼は再びニヤリと笑みを浮かべる。

 

 「……っ!?」

 「焔様、それは駄目ですねぇ。私に武具は通用しないと、ご存知でしょう?」


 そう言う妄鬼の目の前には、宙をうねり動き回る鎖が姿を現す。オレの刀を数回弾き、やがてオレと一緒に地面を抉るように乱舞した。

 

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